機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds   作:るろうに2025

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ep.20-1 犠牲

 私だって、白龍だって、本当は戦いたくない。

 

 みんなで仲良く暮らしていたい。敵なんて本当はいらない。

 

 でも、現実はそう簡単にはいかないことを、私はこの数ヶ月で痛いほど思い知った。犠牲だって十分なほど払ってきた。

 

 なのに、私はまた闘いに赴いている。

 

 ――今回も、誰か死ぬのだろうか……?

 

 私は、眼下に流れる東京の街並みを見下ろしながら、ふとそんなことを考えた。

 

 モニターには白龍を含めた4機の進路が表示されている。オートパイロットで飛行しているため、操縦レバーが勝手に動く。

 

「杏子ちゃん!今日も頑張ろうね!」

 

 モニター越しに親指を立てる優月に、私はグーで返す。

 

「ユズこそ、久しぶりなんだから頑張ってね」

「わたしは強いから大丈夫!」

「ほんとぉ?」

「ほんとほんと!」

 

 優月はほんのり笑みを浮かべた。少し無理をしている気がしたのは気のせいだろうか。

 

「それよりも、ラグールさんはどう?」

「どう、と言いますと?」

「メッサを殺しちゃったこと……どう思ってるのかなって」

「……しょうがないですよ」

 

 ラグールは諦めを込めながらそう言った。

 

「メッサは立派な騎士でしたが、許されないことをしました。きっと彼女もそれは理解しているはずです」

「そう……かな」

「それよりも、橘」

 

 智の声が割り込んでくる。

 

「白龍の様子はどうだ?」

「……あんまり普段と変わらないかな」

 

 見る限り、レバーもペダルも普通の機械のように動いている。覚醒とは程遠い状態だ。

 

「でも、どうして?」

「白龍の状態によって戦略が大きく変わるからだ。主軸に据えていいのかどうかを判断する」

「へえ……」

 

 私の口から感心の声が漏れる。神谷くんが戦略家のように思えた。

 

 しばらくすると、東京湾の雄大な海が見えた。敵機はまだ出現していない。

 

 不思議な感覚だ。敵が現れる前はいつもそうだ。空間動は目には見えないのに、計器には数字として表される。

 

 そして、ある瞬間を境に世界が一変する。

 

「各機、警戒を怠るな」

 

 智の冷静な、だけど張り詰めた声が降る。

 

 ――やっぱり、戦わないといけないのだろうか。

 

「杏子」

「ん?なに?ラグールさん」

「もし、敵がまた市街地を、人々を人質に使うようなら」

 

 画面の向こうのラグールが妙に落ち着いた声で言う。

 

「私を……使ってください」

「……どういうこと?」

「私を囮にしてください。黒鉄ならある程度の攻撃まで耐えることができます」

 

 脳が言葉を受け入れることを拒絶した。それは聞きたくない言葉だった。

 

「……そんなこと、言わないでください。全員で、生きて帰るんです」

「全員で……」

「はい。誰ひとり欠かさず、です」

 

 その時だった。スピーカーから中津川さんの叫びが聞こえる。

 

「各機その場で停止してください!空間動の増加が止まりました!」

 

 反響する声がより緊張感を掻き立てる。

 

「1キロ先!10秒後、出現します!」

 

 頭の中でカウントが始まる。悲劇への、冷酷なカウントダウンだ。

 

 10、9、8、7、6、5。

 

 4。

 

 3。

 

 2。

 

 1。

 

「出現します!」

 

 空が割れた。青空に瞬間的に闇が生まれる。光を一切通さない、虚無の空間が網膜を通り抜ける。

 

 そして、中から敵機が出現した。2つの巨躯が海に影を落とす。

 

「2体……」

 

 私の口からぼそっと言葉が漏れる。

 

 1体は桃色の機体色に、2門の巨大な砲門を両肩に乗せた細身のボディを特徴とした機体だ。

 

 その後ろから、黄色の機体が現れる。両腕と両肩に堅牢なシールドを有した重機のような巨体。

 

 2機は正反対のコンセプトを持っているように感じた。

 

「オウラン……コウオ……!」

 

 ラグールが機体の名前らしき単語を呟く。

 

「え?どっちがどっち!?」

「ピンクの機体がオウラン、黄色の機体がコウオです!しかし、あのように改造しているとは……!」

 

 話が勝手に進んでいく。ひたすらに取り残されてばっかだ。

 

「気をつけてください!あの重装備ではどのような攻撃が来るかわかりません!」

「各機、指定した位置に散開!」

 

 青麟から地図が共有される。私は操縦レバーを操作し、白龍を地図上の点の位置に移動させた。コウオの斜め後方、2機を刺せる位置。

 

 しかし。

 

「敵、動こうとしてない……?」

 

 2機は全く微動だにしていない。なにかを構えるでも、砲門を都市に向けるわけでもない。ただ、静止していた。

 

 私にとって、それはひたすらに不気味な光景でもあった。いつ攻撃が飛んでくるか、いつ民間人に刃が向かれるかわからない。

 

 ――なにを企んでいる……?

 

 そう思った時だった。

 

「ハクリュウの操者、聞こえていますか?」

「え?私?」

 

 いきなり名指しされ、私は一瞬たじろいだ。今までにないパターンだ。

 

「私はハレリール。コウオの操者です。そして、こちらが」

「タマナです。オウランの操者です。はじめまして」

 

 敵パイロットから丁寧な名乗りが届く。2機は相変わらず動こうとしていない。

 

「実は、とあることをお伝えしたくてあなた方の世界、アザーズに来ました」

「アザーズ……?」

 

 私は言葉を繰り返した。こちらがフロンティアと呼んでいるのと同じようなものだろうか。

 

「それで、なんの用ですか?」

「単刀直入に言います。私たちは戦うために来たのではありません」

「……え?」

「私たちは、あなた方と和解したいのです」

 

 思わぬ内容に、私の思考が追いつかなかった。

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