機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds   作:るろうに2025

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ep.21-2 向こう側

「あ、あの……どこまで行くんですか?」

 

 足が棒になり始めた頃、私は長髪の男の人に問いただした。かれこれ40分近くは森の中を一直線に歩いている。

 

「もうすぐです、エレーナ姫」

「は……はあ」

 

 微妙な返事を返す。未だにエレーナと呼ばれるとムズムズする。ただ、おかげでここがどういった世界なのかはなんとなくわかった。

 

 ――ここが、フロンティアかあ。

 

 夢の中で見たフロンティアは灰色の荒れた世界だったが、いまいる場所は普通に自然豊かだ。

 

「着きました」

 

 男はとある場所を指差した。見ると、崖に黒い洞窟が開いている。

 

「ここ……?」

「はい、ここが私たちのアジトです」

「アジト?」

 

 言葉回しに違和感を感じた。アジトとはどういうことだろうか。

 

「ささ、どうぞ」

 

 言われるがままに洞窟に入る。中は入口に反してかなり広く、青白い光が所々に埋め込まれていた。

 

「結構……広いんですね」

「はい。人が増えるにつれて掘り広げましたから」

 

 男の言葉通り、木製のテーブルの横には8、9人ほどの人だかりがあった。年齢も性別も様々だ。

 

「みんな!ちょっと手を止めてくれ」

 

 私の小さい肩に男の大きな手が乗せられる。

 

「こちらの方はタチバナ・キョウコ。エレーナ姫の生まれ変わりだ」

「よ、よろしくお願いします……」

 

 すると、テーブルに集まっていた人がそっくりそのまま私の周りに群がってきた。

 

「このお方が姫様か!」

「確かに姫様の面影があるな」

「私と同じくらいの歳かしら?」

 

 私は戸惑いながら、洞窟の中をじっくり見回した。地図が何枚も壁にかけられ、複雑に書き込まれている。

 

「あの、ここは……?」

「ああ、紹介が遅れました。ここは、エルハ王国軍残党の支部の一つです」

「エルハ?残党?」

 

 私は舌で言葉をじっくりと舐めた。エルハといえば、エレーナ姫が治めていた国。ならば、その残党なら。

 

「つまり、コルテーグへの反乱軍……ってことですか?」

「流石姫様、飲み込みが早い。まあ正確には国軍の騎士・兵士だけでなく、コルテーグの侵攻で身内を亡くした一般の方もいます」

 

 長髪の男は胸元に手を当てた。

 

「私はここの支部長を務めている、ナフタと言います。そして、こっちが」

「ワタシはレートです。さっきはあなたの機体に銃を向けてごめんなさい」

「いえいえ、私こそありがとうございました。熊から助けてくれて……」

 

 深々と頭を下げ髪が垂れるレートに私は声をかけた。横でナフタが微笑する。

 

「熊?ああ、あれは熊じゃなくてクベアマと言います。まあ、それは置いときましょう」

「そ……そうですか」

 

 私の頭の中は疑問符でパンクしそうだった。ここがフロンティアなのはわかった。でも、どうして『橘杏子』の名前だけで自分がエレーナ姫の生まれ変わりだとわかったのだろう。そもそも、どうしてここに来てしまったのだろう。

 

「いろいろと聞きたいことがあるんですが……」

「もちろん、なんなりとお聞きください」

「なんで、私がエレーナ姫の生まれ変わりだと……」

 

 そう口にしようとした時、洞窟の奥からある人物の姿が見えた。茶髪のショートヘア、整った輪郭の顔、しかし疲れの滲んだ表情。

 

 誰かはわからなかった。だけど、声を聞いた瞬間、私の中に憎悪の感情が湧いた。

 

「それは、私が教えたから。あなたがエレーナ姫の生まれ変わりだと」

「あなた……あなたは!」

 

 それは東京タワーで戦い、虐殺の限りを尽くした人の声だった。

 

「私はカナン。あなたに、タチバナ・キョウコに助けてほしい。エルハの国を。民を」

「……なんで、私があなたの言うことを聞かないといけないの?」

 

 私はカナンを指差した。怒りで微かに指が震える。

 

「私、あなたが東京タワーで人を殺した時、やめてって言ったよね。何度も頼んだ。泣きながら頼んだ。あなたが人を殺さないように、街を壊さないように」

「……」

「でも、あなたはやめなかった。目の前で人を踏み潰して、ビルを焼いて、私の友達を殺そうとした」

「それは」

「なにが『それは』よ!」

 

 私の声が荒くなる。頂点を知らない怒りが心を埋めていく。

 

「あなた、自分の意思で殺したんじゃないの?私の感情を、人の命を弄んだんじゃないの!?」

「……私は。私たちは、レブリンに騙されていた。あいつには、私たちに伝えていない目的があった」

「……聞いたよ。オウランとコウオのパイロットから」

「ならば、わかってほしい。私たちは、もうあなたの世界との戦いを望んでいない」

 

 私は手を下ろした。拳に力が込められる。押さえつけないと、いまにも殴りかかってしまいそうだった。

 

「……さっき、ラグールが死んだよ」

「……ラグールが?」

「オウランのパイロットが殺した。あなたと同じことを言って、攻撃しないとか言って。なのに、実際は違った。街を燃やして、人を殺した。それで、ラグールは私を守ろうとしたんだ。破壊された白龍を庇ってくれたんだ。なのに」

「違う!タマナはそんなことしない、なにか理由が……」

「嘘をつくな!彼女は私の目の前でラグールを殺した!殺す必要なんてどこにもなかったのに!!」

 

 怒りはすっかりピークに達していた。酸素が足りなくなるほどに。意識が飛びそうなほどに。

 

「あなたの言うことなんて、もう信じられないよ……」

「エレーナ……」

「私の名前を呼ばないで!!呼ばないでよ……」

 

 私はその場に崩れ落ちた。膝を抱え、顔を俯き、現実から逃げようとした。

 

「白龍。私、もう帰りたいよ……」

 

 その時だった。レートの叫び声が壁に反射した。

 

「B部隊から連絡!ハーケンドールの編隊がこちらに向かって飛行中!」

 

 私の背筋を緊張が走り抜けた。

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