「実験はうまくいっているか?」
「ええ、今のところは順調です」
目を覚ましたところはどこか見知らぬ研究施設か。
視界がはっきりしないが、緑色に
二人の男がよくわからない機械の前で会話をしていた。
「ん、お目覚めかね?」
「ほぉ……こいつらに既に意識があるというのか」
「生まれたての赤子同然ですがね。まあ、一応シャットアウトしておきますが」
何を言っているんだ? 男が機械に触ってから話が頭に入ってこない。
「――期待していますよ」
………………
…………
……
「あれ、寝てるし。おーい……お前昨日そんなに疲れたのか」
「ん、おはよ……」
目を開けたら一夏の顔がそこにあるという罠。まあ罠もなにも、席が前だから仕方ないっちゃ仕方ないけどさ。
こらそこ!
それにしても、教室で寝るとは思わなかった。いや、気づいたら教室にいたんだけど。昨日初めて学園の外に出て疲れていたとは言え、寝ながら移動してたのか俺は。
「なに? 眠いんだけど…」
「いや、そういえばお前ってISスーツ使ってなかったよなーって」
「え、そうなんだ……ってことは、水着でISに乗ってるの!?」
一夏と話していたと思われる女子――名前は知らん、すまんな――が、かなり驚いた様子で会話に入ってきた。
まさかとは思うが、水着って女子用じゃないだろうな……俺は男だぞ?
「普通にシャツだよ」
「うわっ…流石専用機持ち…」
ISスーツじゃないとダメとかなんかルールあったっけ?
「ISスーツは肌表面の微弱な電位差を検知することによって、操縦者の動きをダイレクトに各部位へと伝達、ISはそこで必要な動きを行います。また、このスーツは耐久性にも優れ、一般的な小口径拳銃の銃弾程度なら 完全に受け止めることができます。あ、衝撃は消えませんのであしからず」
完璧に狙ったであろうタイミングでペラペラと説明しながら(ドヤ顔で)現れたのは山田先生だった。
緑色に腐っていても先生といった所か。……髪色は自毛なのだろうか、すごく気になる。今度ドヤ顔したら聞いてやろうか。
「山ぴー見直した!」
「今日から皆さんのISスーツの申し込みが開始ですからね。ちゃんと予習してあるんです。えへん……って、山ぴー?」
ここへ来て約二ヶ月、山田先生のあだ名は二桁へと突入していた。山ちゃんとか、だーやまとか。やまやっていうと怒るけど。
はたしてこれを仲がいいとプラスに取るか、舐められているとマイナスに取るか、……圧倒的後者だと勝手に予想しておく。
「あの……教師をあだ名で呼ぶのはちょっと……」
「えー、いいじゃんいいじゃん!」
お前、ブリュンヒルデにも同じこと言えんの? 俺は無理だね、うん。
あだ名についてワイワイやっているのを横目に再び眠りにつこうとしたとき、織斑千冬が現れた。……寝かせろ。
「諸君、おはよう」
「お、おはようございます!」
おーおー、先ほどのざわめきは何処へやら……敬礼をせんとばかりの勢いで皆一斉に挨拶をする。だいぶ躾けられてるなぁ。流石、立てば軍人、座れば侍、歩く姿は走行戦車。あ、一夏の軽口だから俺に攻撃しないで!
まあ、誰が来ようと俺は構わず寝てるけど。
「本日から本格的なISでの実践訓練を開始する。訓練機ではあるが各人、気を抜かないように。まさかISスーツを忘れた者はいないだろうが、もし忘れていたら学校指定の水着で出てもらう。それすら持っていなかったら……まあ、下着で構わんだろう」
……構うだろ。俺はともかく一夏が。
まあ、ISスーツも水着もそんな変わらんからな、見た目は。下着? 廊下歩いてたら
「では山田先生、ホームルームを」
「は、はいっ」
連絡事項を言い終えるとすぐに山田先生にバトンタッチし後ろへ下がる。毎日これだから、どっちが担任なのかそろそろわからなくなりそうだ。
ほら、山田先生も突然ふられて拭いてた眼鏡を落としそうになってるし。……今回は話長かったから油断するのも無理ない。
「ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します!」
ほう。この時期に転校生とは変だな、まあ二組の転校生も相当早期に転校だったけど。
中国の代表候補生だったし、何か事情があったのだろうか。まあ、事情もなく転校を許可してたら一般受験の意味がなくなるし、なにかしらあったんだろう。
「しかも二名です!」
なんでやねーん。普通に考えて一人だろ、人数が偏るじゃんか。一、二組の合同実習は他の合同実習より三人も多いのか…。訓練機が足りなくなりそうだ。
「えええええぇぇぇぇ!!!」
一夏の様子を見るに、相当うるさいのだろう。耳を押さえて震えてる。俺はこんなこともあろうかと耳栓を昨日買っていたから、多少はうるさいが平気だ。こんなに早く使うことになるとは思わなかったけど。
「失礼します」
「……ふんっ」
入ってきた転校生を見てクラスが凍りつく。まあ、片方男子だから仕方ないっちゃ仕方ない。……ISって女子しか動かせないんじゃないんですかねぇ?
「シャルル・デュノアです。フランスからきました。この国では不慣れなことも多いかと重いますが、皆さんよろしくお願いします」
礼儀正しい立ち振る舞い、中性的だが所謂
これはたぶん来るな……耳ふさいどこ。
「きゃあああああああ――っ!!!」
耳栓と掌の二重装甲を貫通してくるだとっ!?
一夏は無防備な耳にこの音波攻撃を食らったようで、かなり痛そうに耳を押さえていた。
入室時も思ったが、発生源は何故効いていないのだろうか。いや、自分の毒で中毒死していたら元も子もないのだけど。
「うるさいメス共が」と、無口な方が呟く。聞こえたわけじゃないけど唇の動きから読み取るとこうだ。鼻で笑ったり辛辣だなおい。てか、耳を塞がずによく平気で立っていられますね貴女。
「男子! 三人目の男子!」
「しかもうちのクラス!」
「美形! 守ってあげたくなる系の!」
「地球に生まれてよかった~~!!」
「まるで餌に群がる豚だな」とは無口な方の弁……多分。決して俺の心の声ではないと言っておく。
因みに俺は男らしくないから彼氏としてはNGらしい。むしろ一夏の嫁とまで言われている始末。即チョップしたけど。
「あー、騒ぐな。静かにしろ」
心底面倒臭そうにぼやく織斑千冬。おそらくだが、こういう女子特有のノリが苦手なのだろう。同じ女性なのに。おっと、殺気が。
「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介は終わってませんから!」
久々に教師っぽい――さっきのは流石に大人げないからノーカンで――所を見せた山田先生。いつもしっかりしていれば変なあだ名もつかないと思いますよ。のほほんさんからは諦めましょう。
しかし辛辣少女の外見も相当あれだな。なんていうか痛い。
白髪かと言われれば否、グレーかと言われても否。まさにプラチナのような銀髪を腰までおろしている。まあ、それだけなら「ああ外人か……」で済むのだが、左目にしている眼帯がよろしくない。医療用眼帯なら、吹き出物とかでも女子は着ける娘が居るようなので別になんとも思わない。だが、彼女が付けている眼帯は、オシャレ用黒眼帯。右目が赤色なのも痛々しく思わせる要因の一つだな。なんていうか濃い。
デュノアが愛玩犬なら、この娘は軍用犬だな。女子なのにスカートじゃないし。
しかしまあ、やはりというべきか、男子と女子では身長差があるな。隣に立っていると更に目立つ。
「……挨拶をしろ、ラウラ」
「はい、教官」
こちらを観察していた少女は、いきなり佇まいを直し素直に返事をした。心なしか空気が張り詰めたような気もしなくもない。
にしても、教官ね……。
「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」
「了解しました」
まさか、軍人か? なら、眼帯もありなのか? いや、なしだろ。
てか、織斑千冬は本物の教官だったのか。これまた裏がありそうな……。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
三人目現る。どうせこのあと続く言葉は無いのだろ? もしくは以上だな。
「あ、あの、以上……ですか?」
「以上だ」
ほらな。空気を変えるために玉砕した山田先生には後で、昨日買ってきたお菓子でもあげよう。
……近づいてきた、お菓子欲しいのかな? いや、一夏の隣で止まったから違うか。
「貴様が……貴様が――っ!」
一夏の隣まで移動すると、勢いよく腕を振り上げ――
「――ってぇ!! 何をするだ!」
まるで親の仇を見るかのような目でそれを一夏へと振り下ろし、教室に気味の良い破裂音が響き渡る。
「……貴様を教官の弟と認めたくは無いが、これで許してやる」
「はぁ!?」
殴られた方は堪った物じゃないが、殴った本人はケロッとして戻っていった。が、流石の一夏もカチンときたのか、ボーデヴィッヒの腕を掴んで引っ張り、無理矢理振り向かせた。
「待てよ! ――うわっ!」
「私に触れることを許可した覚えは無いが?」
掴まれた状態からの巴投げ。身長差をものともせず軽々と行った事から察するに、ボーデヴィッヒの格闘能力は相当高いらしい。
背中を打ち付けた痛みに悶える一夏のことを気にも止めず再び歩き出し、今度は誰にも阻害されずに元の位置まで戻っていった。
再びこちらに向き直ったときに目があったが、先程の鬼の形相は何処へやら、優しい微笑みが返って来た。
もしかすると一夏が男だからイラついたわけじゃなく、ISを動かした最初の男だから特に許せなかったのかもしれない。
じゃないと、俺やデュノアが叩かれてない事が説明つかない。
俺のことは女子と勘違いしていて、実はデュノア君はデュノアさんでした! とかじゃない限り。
……まあ、一夏が過去に何かやらかした可能性もなくはないが。いや、一夏とでは寧ろその可能性の方が高いんじゃないか?
「あー……ゴホンゴホン! では、ホームルームを終了する。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」
身内同士の喧嘩には流石の織斑千冬でも気まずいのだろうか。口早に内容を言い終わると手を叩き解散を告げた。
もしかしたら、織斑千冬自身が喧嘩の原因だから二人のことに口出しできないのかもしれない。
お前は一夏の姉だろ。弟のフォローくらいはしてやれよ。
「おい織斑。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう?」
「……真由も男子ですが?」
「ほう? なら、貴様もスーツに着替えずにISに乗るというのか」
一瞬、織斑千冬にまで女子扱いされてるのかと思ったぜ。
たしかに一夏の方が色々と教えるのに適してるからな。……別に男子扱いされることが少ないとかそんなんじゃないんだからね!
「うっ……たしかに」
「君が織斑くん? 始めまして。僕は――」
「シャルルだろ? 取り敢えず今は移動が先だ。早くしないと女子が着替え始めるから」
一夏がデュノアの手(首)を掴み急ぎ足で出て行いった。いや、「織斑君×デュノア君もありかも」じゃないから。
急がないと道塞がれるらしいし、今日はデュノアのせいで特にそうだろう。
「じー……」
……俺も移動しなきゃな。