IS 〈レプリカでも人生楽しみたいじゃん?〉   作:紅露雨

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第一五話――軍用犬VS元猟犬+α

「デュノア、山田先生が使っているISの解説をしてみせろ」

「あっ、はい。山田先生の使用されているISは――」

 

 話が長くなりそうなので意識を上空へと向ける。

 ほんの少ししか目を離していないのにチビは肩で息をしていた。呼吸自体はISのアシストで呼吸は整っているので、それだけフラストレーションが溜まっているのだろう。

 その理由はすぐにわかった。

 

「ちょっとあんた、ちゃんと動きなさいよ!」

「協力しろとは言われていない。なぜ動く必要がある?」

 

 最初からずっとこの感じで、チビしか戦っていないのだろう。

 勿論、山田先生も的を放置する道理はないのでラウラも狙っているが、回避を先読みして撃っても(かわ)されるので、基本的にチビしか狙っていない状況だ。ラウラが攻撃してこないのもその傾向を強くする要因の一つだろう。

 

 遠距離が駄目ならと近づこうとするチビだが、山田先生の的確な射撃に近づくに近づけない。

 衝撃砲を撃っても少し横に動かれるだけで避けられるので、試合は一向に動かない。

 青龍刀ブーメランは先程意味が無いことが証明されている、使うだけ無駄だ。……ラウラが手伝うなら陽動として使えるが、ラウラは(はな)から手伝うつもりなど無い。

 尤も、衝撃砲のチャージがもう少し短ければ使えなくはないのだが……詰まるところ、八方塞がりってやつだ。

 

「90秒……時間切れだ」

「はぁ? 何言って――」

 

 唐突に口を開いたラウラはワイヤーをISから発射した。

 何を思ったのか、それをチビに巻きつけ地面へと叩きつけた。

 

「ここから先は、私が相手になろう」

 

 どうやらラウラにとってのチビは、味方ではなく足手(まと)いでしかないようだ。

 山田先生にいいようにあしらわれ、ラウラには放り投げられ、流石に同情する。

 

 しかし、先程までの戦いと一転して一進一退の激しい攻防が繰り広げられていた。

 山田先生はアサルトライフルで、ラウラは肩のレールカノンで、互いに撃ち合う。

 これでもまだ、小手調べなのだろう。

 チビとは違い、二人共楽しげに戦っている。なんていうか……本当にドンマイだな。

 

「長引かせるわけにもいきませんし、そろそろ本気で行きます!」

「時間の都合とはいえ、教官の元ライバルの本気と(あい)(まみ)えることができるとはな。ドイツからはるばる来た甲斐があったものだ」

 

 先程よりも隙のない精密射撃。その穴を()う様にラウラは山田先生へと(にく)(はく)する。

 ISのアシストがあるとはいえ、炸裂した火薬による反動をものともせず……いや、それすらも次の射撃位置へ導く動力に使う山田先生は流石は元代表候補生……ブリュンヒルデのライバルだ。

 ……流石に山田先生も全力では無いだろうが、いとも簡単に躱して見せるラウラは一体何者なのだろうか。

 余談だが、黒桜なら被弾を無視して突っ込んで即終了だ。エンターテインメントにしてはあまりにも味気無い、非常に残念な結果となる。 

 

 一瞬、一瞬だけ、降り注ぐ薬莢の雨が止んだ。

 ISに搭載されている実弾兵装に絶対にある致命的な欠点。

 ――リロード。

 

「貰った!」

「――っ!」

 

 絶対ではない。撃ちながらマガジンに次弾を展開する方式の武装も勿論存在する。

 だが、山田先生のISは違った。故にできた一瞬の隙。

 武装を再度展開するためのコンマ数秒というわずかな時間。

 

 勿論、チビとの戦いの時からもこの隙は何度か有った。

 今までは意図的に見逃してきたというのか。不意打ちなどせず、正面から向かうために。

 

 隙を捉える為の一撃は一瞬。十から百への急加速。

 俺ですら気を抜けば見逃してしまうスピード。最早それは瞬間移動に等しい。

 だが、流石は教師。山田先生には見えていた。

 

 ――衝突する黒と緑。

 

 驚くべきは、両者これが初の接触ということ。

 遠距離武器など、この戦闘においては意味をなしていない。

 

 ――一瞬の攻防。

 

 ラウラの右手による手刀を左手で受け流す。

 代わりに、弾の入っていないライフルを横に払い返す。

 

 ――皮も斬らせず、骨を断つ。

 

 見事なカウンターだ。本当、いつもの山田先生はどこへ行ってしまったのだろうか。

 それすらも予測していたのか、姿勢を低くしてそれを回避し、左手による裏拳が間髪入れずに襲いかかる。

 地面へと吹っ飛ぶ山田先生。流石にこれには反応できなかったみたいだ。

 

 しかし、グラウンドに響いたのは衝突音ではなく――爆発音。

 

 地面にぶつかるはずだった山田先生は見事な受身を取り、リロードを終えたライフルを構え上空を見つめる。

 視線の先は、黒煙。

 

「あ、危なかった~」

「完敗……か。まさか、あれに合わせて榴弾を設置するとは」

 

 僅かに傷を負ったのは吹っ飛んだ山田先生ではなく、吹っ飛ばしたラウラだった。

 

「最早解説どころではなくなったな……。デュノア、もう一度頼めるか?」

「は、はい! 山田先生の使用されているISは――」

 

 結局、長い話を最後まで聞くことになりましたとさ。

 これで多少は山田先生も生徒に畏怖の感情を抱いてもらえることだろう。

 めでたし、めでたし。

 

 

 ◇

 

 

「さて、これで諸君にもIS学園教員の実力は理解できただろう。以後は敬意を持って接するように」

 

 手を叩き、惚けていた生徒の意識を切り替える。勿論俺もその一人だ。

 つまり、授業は終わってないんです。早く炒飯が食べたいぜ。

 

「専用機持ちは織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、(ファン)だな。では八人のグループを作って実習を開始すること。グループリーダーは専用機持ちがやること。」

「ちょっと待ってください」

「なんだ火神」

「一応、俺も専用機持ちの一人なんですが」

 

 別に構いやしないが、唐突にハブられると来るものがある。

 いや、黒桜って既存のISに無い機能が搭載されてたり、その逆だったりで正直参考にできないのはわかるが……やはり、寂しいものは寂しい。

 

「自分で答えが出ているのに人に問うな馬鹿者」

 

 呆れた様子でこちらをみるが出席簿は飛んでこない。

 時門で避けまくってたらいつの間にか飛んでこなくなった。

 

「他に質問は無いな? では、分かれろ」

 

 分かれの合図に、皆一斉に動き出す。案の定一夏とデュノアの所に集まってくる。俺が女子でもそうするけど。

 一夏達が男だということを除いても、チビはさっきのを見たあとだと頼りないし、ラウラは逆に恐怖を感じてしまう。

 ……セシリア? あいつはいいやつだったよ。

 

 因みに俺は完全に出遅れてポツンと立ち尽くしているのだがそれはまあいいだろう。

 

「織斑君、一緒に頑張ろ!」

「わかんないところおしえて!」

「デュノア君の操縦技術見たいなぁ~」

「ね、ね、私もいいよね? 同じグループに入れて!」

 

 一夏とデュノアは突然の人(だか)りに意識を飲まれ、ただただ立ち尽くすだけ。わいのわいのと騒がしいったらありゃしない。

 逆にそれ以外の専用機持ちは静かだ。

 ラウラの所は先程の戦闘のおかげか、金髪の娘が一人だけだが居る。そして互いに睨み合っている。なんか猫みたいだ。

 セシリアとチビのところには閑古鳥が鳴いている……実際は何も聞こえてないため、ただの(ことわざ)だが。

 強いて言うならばチビの唸り声が聞こえるか。

 

 織斑千冬はこの惨状を見て呆れ返えったのか、はたまた自らの失態と取ったのか。眉間を抑えながら低い声で告げる。

 

「この馬鹿者どもが……。各クラス出席番号順に四人ずつグループに入れ! 順番はさっき言った通りだ。……次にもたつくようなら今日はISを背負ってグラウンド百周させるからな?」

 

 これがカリスマか。今まで騒いでいたのが嘘のように静まり、まるで蜘蛛の子を散らすかのようにそれぞれのグループへと移動した。

 

「始めからそうしろ。馬鹿どもが」

 

 軽くため息をつく(織斑千冬)。その鬼に気づかれないよう、亡者(女子)達はコソコソと会話を始める。

 こうやって書くと地獄みたいだ。織斑千冬が居るというだけでまあ地獄のようなものだが。主に一夏にとってだが。

 

「織斑君と同じ班……もう死んでもいいかも知れない……」

「オルコットさん……か。(ファン)さんじゃないだけいいか」

(ファン)さんか……さっきボロ負けしてたし、大丈夫かなぁ……」

「デュノア君! わからないことがあったらなんでも聞いてね! 因みに子供は三人がいいな!」

 

 最初のやつ大袈裟すぎだろ! いや、俺のすぐ隣だけど。

 あとデュノアのところのはさらっと凄いこと言ってんな、おい。

 

 それぞれの班では簡単にだが自己紹介が始まっていた。デュノアの所は何かお見合いみたいな感じだが。

 

「………………」

 

 唯一会話のかの字も無いのがラウラの所だ。はっきりと侮蔑の色を表している瞳に、話しかけんなと言いたいのか、腕を組んで仁王立ちしている。彼女の前で(のん)気に会話ができるならそいつは大物かよっぽどの馬鹿だ。

 その空気に気圧(けお)されて俯き気味な班員ばかりだ。心中察します。

 まあ、負けじと腕を組んで仁王立ちしている少女もいるが。そっちは侮蔑というより挑発の色が濃い。先程から居る金髪の少女だ。

 彼女も口は固く閉ざされてないな……口角は少し上がっている。

 

「ええといいですかー皆さん。これから訓練機を一班一体取りに来てください。数は打鉄(うちがね)が三機、リヴァイブが二機です。好きな方を班で決めてください。あ、早い者勝ちですのであしからず」

 

 山田先生がいつもより三倍……いや、五十三万倍しっかりしている。先の戦いですっかり自信を取り戻したのだろうか。

 勿論先程のあれを見せられて茶化す生徒も居ない。それも凛とした態度を取れている理由の一つか。

 ……しかしいつもよりも覇気がある。

 

 両手を上で振っている山田先生を遠目に、意見を交換するため班へ向き直る。

 班員は相川(あいかわ)清香(きよか)岸原(きしはら)理子(りこ)(かがみ)ナギ、俺、四十院(しじゅういん)神楽(かぐら)、篠ノ之、二組の人、グループリーダーの一夏で八人だ。

 この中で俺から話しかける女子は一人も居ないため、非常に気まずい空気が俺の中に漂っていた。

 二組の娘も同じく顔が引き攣っている。二組の出席簿が見てみたいぜ。

 

 そんなことを考えていたら一夏が篠ノ之に踵で思いっきり踏まれていた。

 大方山田先生の胸部装甲でも凝視していたのだろう。……俺は別に特に全然興味ないからな。全くないかと言われれば答えはノーだが。

 とまあ、脱線していては話が進まないので本題に入るとしよう。

 本来はグループリーダーの一夏の役目だが、本人は篠ノ之に……まあいいだろう。

 

「どっちがいいか、多数決でいい?」

「あ、ああいいぜ。皆もそれでいいよな?」

「私は構わないが……」

「私も!」

 

 時間が惜しいか、他の案を出すのが面倒なのか、はたまた自分も多数決を……と考えていたのか。

 何を考えているのかわからないが、やはり争いなく物事が進むのは気持ちいい。

 

「ラファールがいい人ー」

 

 ……二人。

 

「打鉄がいい人ー」

 

 ……六人。

 

 結果は打鉄の圧勝である。

 

 ちなみに俺はラファールがよかった。いや、特に理由はないけど。

 外国産ってだけでちょっと興味でますじゃんね?

 

 

 ◇

 

 

「織斑君、ISの操縦教えて~」

「ああーん、このIS重ーい。私、(はし)より重いもの持ったことなーい」

「実践訓練の基本はツーマンセル。じゃあ織斑君、組みましょう」

「ねえねえ専用機ってやっぱりいい感じ? いいなー、羨ましいなー」

 

 篠ノ之に声を掛けようとした一夏だが、素早い動きで同じ班の女子に囲まれてしまった。

 声を掛けようと上げた右手はあてもなく宙を彷徨うだけ。

 可愛そうだが、班長なのだから自力で何とかしてもらいたいところだ。篠ノ之には頑張れとしか言いようがない。

 

「君は行かないの?」

 

 ――四十院神楽。

 彼女だけが(正確には篠ノ之もだが)、一夏へとよっていなかった。

 大和撫子とでも言うのだろうか。篠ノ之とは違った形、日本を体現する彼女。

 他の生徒とは一線を画する彼女。

 

「あら、気にかけてくださるのですね」

「一応班員だからね」

「それは残念です」

 

 二言ずつの短い会話。微笑む彼女に俺も笑みを返す。

 お互いに瞳は笑っていない。ただの社交辞令だ。

 

 その微笑みの下にはどのような感情を抱いているのだろうか。

 化けの皮とまでは言わないが、本心を聞いてみたくはある。

 

「各班長は訓練機の装着を手伝ってあげてください。全員にやってもらうので、設定でフィッティングとパーソナライズは切ってあります。とりあえず午前中は動かすところまでやってくださいね」

 

 山田先生からの指示が入ったため、思考を中断させる。

 まあ、班長でも何でもない俺は関係なかったが。

 しかし、俺がISに乗って動くのか? 不安は積もる一方だ。

 

「それじゃあ出席番号順にISの装着と起動、その後歩行までやろう。一番目は――」

「はいはいはーいっ!」

 

 俺とは逆に希望に満ち満ちた声。出席番号一番、相川清香。

 一組で特に一夏へのアタックが強い少女だ。

 

「出席番号一番! 相川清香! ハンドボール部! 趣味はスポーツ観戦とジョギングだよ!」

「お、おう。ていうかなぜ自己紹介を……」

「よろしくお願いします!」

 

 腰を折って深く礼をすると、そのまま右手を差し出す。

 織斑千冬への礼より深いそれは……あれだ、付き合ってくださいの図だ。多分。

 

「ああっ、ずるい!」

「私も!」

「第一印象から決めてました!」

 

 相川清香に続き、岸原理子、鏡ナギ、名も知らぬ二組の娘が一列に並び、同じようにお辞儀をして右手を突き出す。

 

「「「お願いしますっ!」」」

 

 デュノアの所も全く同じ状況だった。

 いや、向こうは七人全員なだけこちらより酷いだろう。

 一夏もデュノアも、困惑が表情を支配していた。

 

「「「いったあぁっ!!」」」

 

 鬼によって救いの手が振り下ろされたため事態は収束へと向か――

 

「やる気があるのは何よりだ。どれ、私が直々に見てやろう。最初は誰だ?」

 

 ――わなかった。

 

「あ、いえ、その」

「わ、私達はデュノア君でいいかな~……なんて」

「せ、先生のお手を煩わせるわけには……」

 

 七人が七人とも頭には団子が乗っていた。団子を作った本人をみて、みるみる顔が青くなっていく。

 自業自得だが、同情する。

 

「なに、遠慮はいい。将来有望なやつらには相応のレベルの訓練が必要だろう。……ああ、出席番号順ではじめるか」

 

 恐らく、出席番号が一番若い娘が小さく悲鳴を漏らす。

 死ぬことはないだろうが、間違いなくぶっ倒れることにはなるだろう。

 

 それを見てからの行動は早い。列を作っていた女子はいつの間にか解散しており、今は相川清香がISの外部コンソールを開いてステータスの確認をしていた。

 

「じゃあ、まあ、はじめよう。相川さん、ISに何回かは乗ったよな?」

「授業でだけだけどね」

「じゃあ大丈夫かな。取り敢えず装着して起動まではやろう。時間をはみ出すと放課後居残りだし」

「そ、それはまずいわね! よし、真面目にやろう!」

 

 じゃあ今までは真面目じゃなかったのか。真面目じゃなかったんだろうなぁ……。

 逆にあれを見て真面目だと思ったやつは頭がイカれてるか、目がイカれてるね。どっちにしてもまともじゃない。

 

 装着、起動、歩行と順調に進んでいく。二人目もと続こうとしたが、まあ初心者あるあるがここで起きる。

 (かが)まずにISから降りたため、コックピットが高い位置で固定された。

 当然次の生徒は乗れないので困ったことになる。時間が惜しいので、ここは乗れる人が乗るべきだろう。

 

「来い、桜花」

 

 一夏が山田先生を呼んでいるうちに黒桜を腕だけ部分展開。桜花を展開して桜花に捕まりコックピットまで飛んでいく。

 PICで飛べればいいのだが、あれの制御機構は背面についてるため、展開したら打鉄に乗れない。

 まあ、結果的に装着出来たのでよしとしよう。

 

 打鉄を装着して思う。黒桜と明らかに情報量が違うのだ。

 確かにこれなら感覚派でも動かしやすいな。

 

 反応は黒桜より鈍いが、開放感は黒桜とは比べ物にならない。まあ、完全に覆われていないから当然か。

 これで飛べたら文句なしだが、あくまでも実習。歩行だけで止めておく。

 全身装甲(フルスキン)が廃れた理由がわかった気がする。女子だと胸もあるしな。

 

「ちゃんとしゃがめよー?」

 

 一夏から釘が刺される。言われなくてもわかっているさ。

 いや、言ってくれてありがとうございます。山田先生から何を聞いたのかは分からんが女子の視線が怖いです。

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