「では、午前の実習はここまでだ。午後は今日使った訓練機の整備を行うので、各人格納庫で班別に集合すること。専用機持ちは訓練機と自機の両方を見るように。では解散!」
あの後、鏡ナギ達を筆頭に
のんびりしている余裕はない。格納庫へISを移した班からグラウンドへ全力疾走しなければ。
何故かって? 前半、女子達がふざけていたせいで時間がギリギリまで押していたからだ。
時門を使えばいいじゃんって思ったやつ、使った瞬間バレるっつうの。
突然居なくなるとか普通に考えて怪しすぎるだろ。
そんなこんなでアホみたいに疲れた俺達に、織斑千冬は連絡事項を伝えると山田先生とさっさと引き上げていく。
いつかギャフンと言わせてやる。
「あー……。あんなに重いとは……」
「想像以上だったな」
何が重いって訓練機を運ぶカートだよ。しかもこのカートには補助動力なんてない。故に手押しである。
普段ISに乗っているときはPIC等パワーアシストのおかげで全くどうということではないが、補助がなければでかい金属の塊だ。人に運ばせるなんてどうかしている。
黒桜を使えば良かったと気づいたのは運び終わってからだった。
まあバレたら地獄の補習が待っているからやっていなかったとは思うが……バレなきゃいいんだよな?
「まあいいや。シャルル、着替えに行こうぜ。俺たちはアリーナの更衣室まで行かないといけないしよ」
「え、ええっと……僕はちょっと機体の微調整をしてから行くから、先に言って着替えてよ。時間かかるかも知れないから、待ってなくていいからね」
俺が誘われないのは俺がすでに制服だからだ。
初日は結構しつこく誘われたけどな。早着替えの方法を教えろとかで。
「ん? 別に待ってても平気だぞ? 俺は待つのには慣れてるしな」
「い、いいから! 僕が平気じゃないの! ね? 先に教室に戻っててね?」
「お、おう。わかった」
一夏が必死なのもデュノアが必死なのも
一夏はホモにしか見えないし、デュノアは何をそんなに隠したがるのか、秘密があるようにしか見えない。
もしも一夏がホモだったらと考えるとゾッとする。同室で生活しているのだ、何かあってからでは遅い。
……山田先生に反応(意味深)してるからないとは思うが、寮管に相談してみようか。実の弟がホモかも知れないなんて、非常に酷な話だが。
◇
「はい、炒飯」
「今日も美味しそうですね」
「美味しそうじゃなくて美味しい、でしょ」
「そうでした」
昼休み、俺は食堂にいた……やっぱり一人で。
一夏や篠ノ之といったいつもの面々は屋上でお食事会だとさ。
別に悔しくも悲しくもない、ましてや羨ましくもない。
屋上に向かったメンバーの中にセシリアも居るのだ。……あとは何も言わなくてもわかるな?
そういうわけなので、いつも通り食堂に来ているのである。
「隣、いいか?」
いつもの場所に座って、さあ食べようかという時に邪魔が入る。
転校生の存在をひと目見ようと押しかけている女子とは明らかに違う雰囲気を持つ少女。
赤い瞳でこちらの様子を伺っている彼女はラウラ・ボーデヴィッヒだ。
「構わないよ、どうぞ」
「すまない」
特に断る理由などない。……無くはないか。炒飯が不味くなるとか。
いや、ラウラみたいな美少女と食べれるなら、いつもより美味しいだろう。美少女と言うだけなら殆どの生徒が当てはまるが。
他にも、近寄りがたいオーラが人よけに使えるとか。
まあなんにせよ断る理由はない。
「ラウラも炒飯食べるんだ」
「種類が多くてな。……真由が持ってたのを見て美味しそうだと思ったのだ」
「わかってるじゃん」
炒飯はうまい。麺類もいいが、やはり米は美徳だろう。
オムライス等に比べてネチョつかないのもいい。いや、ネチョつくオムライスもそれはそれで珍しいか。味は言うまでもない。
俺は炒飯をオカズに白米を食べれるほどの上級者だが。……いや、意味わからん。
とにかく炒飯は美味しい。それが伝わればそれでいいか。
「……目が怖いぞ」
「最初の一口は譲ってあげる。さあ、食べなよ」
寛大なる心を持ってルーキーを迎える俺はやはり炒飯ニストの
「……」
「レンゲで食べると食べやすいよ?」
箸で食べようと苦戦している彼女にレンゲの存在を教えてあげる。
レンゲをただのスプーンと侮るなかれ。汁物とセットで食べる時には炒飯を汁に浸して食べたり、ラーメンの時は麺を冷ますときに上に置いたりと非常に優秀な食器だ。
「……いただきます」
「ジー……」
「凝視されると食べにくいのだが……」
「あ……ごめん」
誰かに食べられる炒飯を眺めるのもまたオツな物である。
そして、炒飯を食べる美少女もまたオツな物である。
・・・。
「変態か俺はっ!!」
「――ッ! けほけほ……どうしたというんだ急に」
「なんでもない。なんでもない……」
「ならいいが……」
また黙々と食べ始めるラウラをチラチラ見ながら俺も炒飯に手を付ける。
やはり美味い。口でパラパラと崩れて、香りがいっぱいに広がる。一夏に教えてもらったがこの香ばしさに使われている食材はニンニクというらしい。
臭いの元にもなるから食べるときは牛乳とか緑茶を飲むことをオススメする。あまり好きじゃないが俺だって我慢して緑茶飲んでる。……流石に炒飯に牛乳は合わない。
食後はブレスケアを推奨する。ガムとかでもいいけど。どっちも使うっていう手もある。
あとは
それにしても、なんで俺なんだ?
他に一緒に食べる人が居ないのは自業自得だが、俺に話しかけてきたのはやはり理解できない。
一人で食べればいいものを、わざわざ端の方に来てまで話しかけてくるのは何故なんだ。
……まさか俺にもモテ期が? いや、ないな。常識的に考えて。jkjk。常考でも可。
ドイツ軍所属ということは男性搭乗者のデータでも取りに来たのだろう。
まあ、炒飯の良さがわかる女子となら付き合ってもいいか。
――なんで炒飯が俺の中心にあるんだよ馬鹿たれ!
「――時に真由よ聞きたいことがある」
「どうした?」
いつの間にか食べ終わっていたラウラが口を開く。
ブレスケア持ってないのかな?
「ブレスケア持ってないのか?」
「? 持ってないが」
「ほら、飲んどいたほうがいいよ。意外と上がってくる」
「む、すまない。で、聞きたいことがあるのだが」
どうやらブレスケアは関係なかったらしい。
ふーむ……林檎が欲しいのだろうか。
「林檎食べる?」
「有難く頂こう」
デザートの林檎を一切れ渡す。
もきゅもきゅ食べるラウラは見ていて飽きない。
「でだ、聞きたいことがあるのだが」
林檎も違うようだ。
「なに?」
「昔のことを覚えているか?」
唐突にどうしたのだろうか。いや、本当に。
覚えているもなにも一年も生きてない俺に昔のことなんてない。……まあ、ラウラがそのことを知ってたら怖いけど。誰にも言ってないし。言ったところでただの電波だけど。
「記憶にないね。どうして?」
「いや、覚えていないならいいんだ」
事実を伝えると悲しそうな顔になるラウラ。
いや、ついこの間まで俺はこの世界にいないんだが。
話題がなくなったからか気まずくなったからか……まあ多分後者だろうが、ラウラはさっさと行ってしまった。
俺はまだ食べ終わってないので炒飯様と戯れていると、今度は音羽先輩がこっちに向かってきた。
いや、静かに食わせろ。つうか早く食わな午後の実習に遅れるんだが。
まあ、そんなこと思ってても通じるはずもなく、当たり前のように隣に座ってくる。
無言で座るのはやめてください怖いです。
「……なんですか?」
「空いてる席に座っちゃダメ?」
俺の周りが特に空いているというだけで、まだ空いてる席はある。
まあ広いところの方がいいというのはわからんでもないからいいか。
相席なんて普通だしな。
「もう食べ終わりますんで」
「いやいやいやいや。世間話の一つくらいしてもいいじゃない」
時間が……ぬかこぽ。
「あからさまに嫌がらない」
「はぁ……デュノアがいないから代わりの相手でも探してましたか?」
「まあそんなところかな?」
……転校生と会話したあとは決まってこの人と会う気がする。
「デュノアなら屋上で一夏達と食事中ですよ」
「うん、知ってる」
何故来たし。というか、他の女子の方が反応してるよ。
あ、大量にいた女子が一斉に出てった……ご愁傷様だな。
「まあいいです」
「でさ、さっきの子って彼女?」
「ブッ!! ……なんでそうなるんですか」
話がいきなり飛びすぎて訳が分からない。
確かに可愛いし? そうだったとしたらまあ楽しいんだろうけどさ。
今日会ったばっかでそれはないだろ。それこそ常識的に考えてってやつだ。
「だって彼女、君にだけ距離近いしさ。それに君もマジマジ見てたし?」
「そんなに見てました?」
「知り合いじゃなかったら通報してるくらいには」
「まじっすか」
俺、変態でした。
いや、俺が見ていたのはラウラではなくラウラに食されていた炒飯だった可能性も……どっちにしても変態ですね。分かりたくありません。
「まじまじ。まあ、彼女のことはどうでもいいか」
彼女のことは、ということは他の人に用があるのだろうか。
「デュノア君ってなんか隠してると思わない?」
「それについては同感ですが……どこで見てるんですか」
「それはお姉さんの秘密かなー?」
「さいですか」
あの時居た生徒には上級生なんていなかったし、教室から見てたとしても声までは聞こえないだろう。
一夏に聞こうにも接触する機会がない。強いて言うなら屋上に行くまでの間だが……まあ、篠ノ之やチビに阻まれるだろうな。少なくともここには来てないだろう。
本当、どこから情報を入手しているのだろうか。
「でさ、デュノア君の秘密なんだけど……知りたい?」
まさかの答え知ってるパターンだった。それなら秘密があることを知ってるのも納得いく。……いや、いかねぇよ。
それに人の秘密はペラペラ喋っちゃダメだろ。プライバシーの侵害とかいうやつだ。
「流石にダメでしょ」
「だよねー。すぐにバレることだとしてもダメだよねー」
すぐにわかるなら教える必要もないじゃん。よって聞く必要もない。Q.E.D.
「話はそれだけですか? 時間ないんですけど」
「そうだけど?」
「じゃあもう行きますね」
食器を片付けるために席を立つ。整備だから特に着替える必要はないとはいえ、格納庫まで若干距離がある。できることなら早く向かいたい。
「――――」
席を離れた俺は何も聞いていない。聞こえたとしても幻聴だろう。
転校生が男装女子だったなんて。