IS 〈レプリカでも人生楽しみたいじゃん?〉   作:紅露雨

3 / 18
第二話――カチューシャ時々木刀

 S(ショート)H(ホーム)R(ルーム)が終わり休み時間になると同時に目の前の席の男子――織斑一夏は俺の方に向かってきた。

 

「肩身の狭い男同士仲良くやろうぜ」

「それは構わない。構わないが……」

 

 最前列左端の少女が織斑一夏をこれでもかとガン見している。なぜコイツは気づかないのか。

 

「なんだ?」

 

 とりあえずそのことは置いておいて、俺はもっとも気になった言葉を織斑一夏に投げかける。

 

「いや、一つ聞きたい……ISってなんだ?」

「えっ?」

 

 これは失敗だった。絶対にダメなやつだ。何故かって? 周りの女子やいつの間にか廊下に溜まっていた別のクラスの女子が、「何言ってんのコイツは」といった表情になったからだ。

 

「突っ込めよ! 渾身のボケだぞ? ……頼む教えてくれ本当にわからんのだ」

 

 これは先ほどの芸人の件を引っ張るしかない――それはそれであれだけど。そう判断した俺は少しわざとらしく声を大きくし、すぐに目の前の男にだけ伝わる声で教えてもらえるように頼んだ。

 

「あ、ああ……すまん」

 

 周りの表情は元の珍しいものを見る目にもどったが、織斑一夏の俺に対する目がすごく可哀想な人を見る目に変わった――と思ったがすぐに同士を見る目に変わる。

 そして小声で、「俺も詳しくは知らねぇ……」と呟いていた。

 

 ……うん。もうね、誰でもいいからこの状態を助けて欲しいと願った。そう願うしかなかった。

 

「ちょっといいか?」

 

 さっきのガン見乙女(仮称)が声をかけてきた。……織斑一夏に。

 

「借りるぞ」

「お、おう。どうぞ」

「すまんな」

 

 少し厳しい表情をしているガン見乙女が織斑一夏を連れて行く。

 ん? いやいやまって、俺一人じゃん!?

 

 そのことに気づいたときにはすでに遅かった。

 織斑一夏とガン見乙女は俺の視界から消えていて、代わりに先程よりは数が減ったが俺の周りに女子が集まっていた。

 

「まゆゆん~質問いい~?」

「……順番で頼む」

 

 

 ◇

 

 

 

 あれから一限開始のチャイムが鳴るまでの間、ひたすら――といっても、まとめると五つほどだが――質問に答えていた。

 幸いなことにIS関係の質問は一切出ず、「好きな食べ物は?」とか「どんなタイプの女子が好きか」とかその程度だった。

 好物は記憶にある料理で無難そうな、カレーと答えておいた。

 ちなみに、授業中に考えに没頭できるのは絶賛現実逃避中――知らん単語がいっぱい出てきた。ISがどんなんなのかはわかったからまあ良かったか――だからである。

 織斑一夏も俺と同じく固まっていた。

 

「織斑君と火神君、何か分からないところはありますか?」

 

 こういう時はわかったふりをしておくのが最善だと思う。

 

「あぅ、えっと……」

「質問があったら聞いてくださいね? なにせ私は先生ですから!」

 

 うろたえる織斑一夏とやたら先生という単語を強めて言う、包容力のある微笑みをみせる緑色。

 

「先生……」

 

 織斑一夏が右手を小さく上げた――上げるなバカ野郎!

 

「はい! 織斑君!」

「ほとんど全然わかりましぇん」

「えぇ!?」

 

 言った。この男は臆さずに、自ら痴態を晒しに行った。ここは俺も乗っておくべきだろう。

 わかったふり? そんなことする人間じゃないですよ? あ、人間じゃないか。

 

「俺もさっぱりです」

 

 言ってやったぞコノヤロウ。緑の眉が八の字になってるけど気にしない。

 

「火神君もですか!? ええっと、今の段階でわからないっていう人はどのくらいいますか?」

 

 緑が生徒たちに問いかける。もちろん手が挙がるはずなどない。

 知ってたよそれくらい。うん、しってる……グスン。

 

「織斑、火神、入学前の参考書は読んだか?」

 

 参考書とか見たこともないです。本当に(ry)

 

「ふぇ? え~……あ、あの分厚いやつですか?」

 

 ふぇ? とか言うな気持ち悪い

 

「そうだ、必読と書いてあっただろう?」

 

「いやぁ、まちがえてすてまブタンッ!」

 

 あ、詰んだ。これ詰んだやつだ。

 デュクシッと謎の擬音とともに織斑一夏の頭が出席簿の餌食となった。

 

「火神は……」

 

 避けられない……か。ならもういっそのこと清々しく散ってやろう。

 

「まちがえバウアッ」

 

 捨てた。というところまで言わせてももらえずにぶたれる。つうか角が刺さる。

 

「はぁ……再発行してやるから一週間で覚えろ、いいな?」

 

 問いかけなのに問いかけられてない。イエスと答えることを強要されている。だが俺はこんなことに屈するわけない。

 

「ふざ……yes boss」

 

 はい屈しましたー。ふざけんなと言いたかったけど心臓を握られているような恐怖におそわれるあの瞳。あれに囚われて逆らえるやつはいないだろ。という訳でうん、俺は悪くない!

 

「一週間であの厚さはちょっと……」

 

「何か文k「ないです」よろしい」

 

 織斑一夏……情けない奴。俺? 俺はいいんだよ、何も知らなかったんだし。

 

「はい、では授業を続けます。テキストの12ページを開いてください」

 

 

 ◇

 

 

「なぁ、授業わかったか?」

「全く全然これっぽっちも」

 

 授業内容は理解できなかった。……したくもなかった。が、ここがISの専門学校――いや、高等学校だが――である以上、ISについて学ばねばならん運命なのだ。

 

「だよなー……はぁ……」

 

 まあ、なんだかんだで友人を一名確保したらしい。やったねタエちゃん友達増えるね!

 

「おい馬鹿やめろ」

「すまん」

 

 軽々しくあれをネタにするもんじゃないな。てか本当なんでそういうことは記憶にあるんだか……

 

「ちょっとよろしくて?」

 

 でた、こういうのには絶対高圧的なお嬢様キャラってのがいるもんなんだよ。

 

「んぇ?」

 

 一夏が反応すると「まぁ!」とオーバーリアクションする金髪碧眼の青いカチューシャ。

 

「なんですのそのお返事! わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのだから、それ相応の態度というものがあるものではないのかしら?」

 

 光栄らしい。

 

「悪いな。俺、君が誰だか知らないし」

 

 織斑一夏はどうか知らないが、俺は自己紹介とか聞いてないから知らん。

 

「そういう事。だから光栄に思いたくても何が光栄なのか……ねぇ?」

 

 まあ大方ISの適正が高かったとかそう言うだけだろう?

 

「わたくしを知らない!? セシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして入試主席のこのわたくしを!?」

「そう喚くな……うるさくてたまらん」

「キーー! もう怒りましたわよ!」

 

 そうヒステリック起こさなくてもいいじゃんよ。つうかそれがうるさいっつってんのに……

 

「あ、質問いいか?」

「下々の者の要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ?」

 

 男 織斑一夏、この女のヒステリック攻撃を意に介さず質問する。

 だがこのカチューシャもすぐに冷静を装うとはなかなかやるな。

 

「……代表候補生って……なに?」

 

 その言葉にクラスの女子はまたずっこけていた。

 こいつ、俺に可哀想な人を見る目したくせにこいつが可哀想な人だったか。

 

「流石に俺でもそれくらい予想つくぞ? ISかなんかのイギリス代表の候補生なんだろ?」

 

 あくまでも予想でしかないから断言はできないが、まあ十中八九そうだろう。

 

「そう、国家代表のIS操縦者の、その候補生として選出されるエリートのことですわ単語からでも予想がつきましてよ?」

 

 だから予想ついてるっつってんだろ……あいや、言ってないけど。

 てか候補生でもエリートなのか? まあ国家代表レベルならエリートなのか……?

 

「はーそっか……そう言われればそうだな……」

 

 織斑一夏……素で気付かなかったのか……

 

「そう、エリートなのですわ! 本来、私のような選ばれた人間とクラスを同じくするだけでも奇跡にして幸運。有り得ない事でしてよ? その現実をもう少し理解していただける?」

 

 はいはいワロスワロス。別になりたくてなったわけでもないし、自己紹介の時の反応からしてこんなカチューシャよりも、織斑千冬先生と同じクラスになったことのほうがよっぽど幸運で奇跡なのだろうな、他の女生徒にとってはだが。

 

「そうか、それはラッキーだ」

「……馬鹿にしていますの」

 

 織斑一夏――彼は素で相手の感情を逆撫でするのが得意らしい。

 カチューシャは手をプルプルさせて怒りを表している。……そのうち髪の毛が逆立ちそうだな。金髪だし。

 

「お前が幸運だって言ったんじゃないか……」

 

「だ、い、た、い! 何も知らないくせによくこの学校に入れましたわね」

 

「それに関しては俺も同感だななんでこいつは入れたんだか」

 

「貴方にも同じことが言えましてよ!」

 

 俺はそういう設定だからとしか言えないんだが?

 まあ言ったところで変人扱いされるのはわかってるから特に何も言わないが。

 

「世界でも、ISを起動させた男性は二名。それが貴方(あなた)(がた)だとは聞いていましたけれど、期待はずれですわね」

 

 俺もISを動かせるのか……

 じゃなきゃ、この学校にいないわな。うん、つうか世界で二人って……

 

「俺に何かを期待されてもな……」

「それについても同感だな」

「ふん、まあでも? 私は優秀ですから、貴方(あなた)(がた)のような人間にも優しくして差し上げますの。わからないことがあれば……まあ、泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ? なにせわたくし、入試で唯一――教官を倒したエリート中のエリートですから!」

 

 めんどくさ……この手のタイプはやっぱりめんどくさい。

 

「いえ、結構です」

「あ、俺も倒したぞ? 教官」

「まじで!?」

 

 織斑一夏――男でありながらISを動かし、さらに教員を倒す……すごくね?

 

「はぁ!?」

 

 カチューシャがすごい形相で織斑一夏を睨む

 

「倒したっていうより避けたら自爆したってだけだけど……」

 

 いやそれ、倒してないじゃん。すごいと思ったあの一瞬を返してくれ。

 

「わ、わたくしだけと聞きましたが」

「女子ではってオチじゃないのか?」

 

 男子含めてだろ。お前は戦ってないよなそれ。

 

「貴方! 貴方も教官を倒したって言うの?」

 

「どこをどう聞いたら……そういうふうに言ってるかこの男は。つうかいい加減落ち着けカチューシャ」

「カチューシャって……わたくしにはセシリア・オルコットという名前がありましてよ! じゃない! これが落ち着いていられ――」

 

 ――キーンコーンカーンコーン

 始業のチャイムがざわざわする教室に響く。

 

「……話の続きはまた改めて、よろしいですわね!」

 

 そう言い残して織斑一夏――となぜか俺にまで指をさして――自分の席に戻っていった。

 ……にしても、性格を良くすれば優等生なんだけどな……。メリハリがあるというか、オンとオフが分けれてるというか。

 

 いや、水を差されただけか……。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。