鑑定スキル特化TS女子は異世界でもオタクを満喫する 作:アナライザー
オタクっていうのは、一つのことにのめり込んだら止まらない生き物だ。
私の前世において、それは収集癖という形で発露した。
セットで売っているアイテムはすべて集めたくて仕方がないし、集めたアイテムはずらって飾って悦に入りたい。
そんな人生を送ってきたものだから、異世界に転生してもそれは変わらなかった。
異世界でオタ活って難しいんじゃないの? と思う人もいるかもしれない。
けど、異世界でもオタ活はできる。
すくなくとも私は、異世界でも存分に収集癖を発揮していた。
なぜなら私には、鑑定という心強いオタ活の味方が宿っていたから。
それ以外の才能はこれっぽっちも宿っていなかったけど、鑑定スキルの才能だけは人並み外れたものを持っていたのだ。
しかもそんな鑑定で初めて手に入れた魔道具は非常に強力なもので、ちょっと大変だった私の人生をいい感じに救ってくれた。
これはもう、推さなければオタクの面目が保てない。
かくして、気がつけば私は異世界で魔道具を集めるオタクになっていた。
それ以外のことにはあまり興味もない。
無双とか成り上がりとか、疲れるだけだし。
魔道具を集めて、並べて、使って、悦に入る。
そんな生活を送れれば私は十分なのだ。
だから私は、異世界でもオタクを満喫したい。
女の子に転生してしまったというハプニングはあったけど、それだけは前世も今も変わらないのだ。
+
「”鑑定”」
――自分の内側に宿る魔力を活性化させる。
視界に一瞬熱が宿ったかと思うと、それまでカラーだった視界が青く染まった。
森の中の一画で、私は鑑定スキルを起動させている。
鑑定するのは地面に突き刺さった剣の魔道具。
それは、無骨な石を削って作った、赤黒い色の剣だ。
一見すればちょっと雑な剣にしか見えないそれも、私の鑑定スキルにかかれば何もかもが詳らかになる。
視界にステータスウィンドウのようなものが出現し、私にその剣の正体を教えてくれた。
『血染めのハイゴブリン・ソード』
ゴブリンの上位種、ハイゴブリンが使い込んだ剣。
ゴブリン自身の特殊な魔力が、自身と殺した獲物の魔力を剣に注ぎ込んだ。
結果、剣はどこか赤黒く変質している。
この剣に切られると魔力を吸われ、衰弱していく。
「やっぱり! 魔物が長い間使ってた石が、変質して魔剣になってる! うわうわうわ、魔物が作った天然の魔道具なんて、そうそうお目にかかれないよ? まぁ、あんまり使い勝手がいいわけじゃないから高く売れるわけでもないんだけど、コレクションには最適!」
すごい、天然物の魔道具だ!
ダンジョンから回収されたものでも、人間が作ったものでもない。
魔物の特異体質が形成する魔道具なんて、私でもそうそう見かけたことがない代物である。
残念ながらこれの価値は希少性以外には存在せず、そこまで高価な買取は期待できないけど。
ほ、欲しい……
「は、はわわ、”サーチャ”さんっ!」
「はうっ!」
し、しまった。
夢中になりすぎて、この魔道具の本来の持ち主の存在を忘れていた。
サーチャというのは私の名前だ。
鑑定スキル特化なのに
まぁ、私の鑑定スキルの効果を考えたらあながち間違いではないんだけど。
流石に、名前をつけた父さんはそこまで考えてはいなかっただろう。
あと、驚いて「はうっ」って言葉が出る辺り、私も女としての生活に慣れたなぁ……とか思わなくもない。
ともあれ。
「リシェアちゃん、ありがとうね。鑑定させてくれて」
「はわわ、こ、こちらこそ……あ、あたしもこの魔道具が呪われてたらってびくびくしてたから……サーチャさんが通りかかってくれて、よかったですぅ!」
リシェアちゃんは私と同業の冒険者。
クソデカ魔法使い帽子と魔女っ子ローブがトレードマークの、まぁ見ての通りの魔術師。
ぺこぺこと、何度も頭を下げる小動物感が男どもの間では人気。
まぁ仮に手を出そうものなら、魔術で黒焦げにされても文句は言えないけどね。
「安心して、呪いはなかったから。切りつけた相手の魔力を吸う特性があるから、扱いには注意したほうがいいけど……」
「あうあう……やっぱりちょっと特殊な魔道具なんですぅ?」
――私がここを通りかかったのは今から少し前のこと。
こんな森の奥で、リシェアちゃんが一人でわたわたとこの剣の前に立っていた。
なんでも、対呪系の装備を忘れてきてしまい、うっかりこれを触って呪われたらどうしようかと悩んでいたらしい。
それなら私の鑑定が役に立つ。
最悪、私は対呪用魔道具を複数所有してるから、それを貸してもいいわけだし。
というわけで鑑定したのが、今。
呪いがなくてよかったねぇ、と安堵しているわけだけど。
そんな時、私の鑑定に複数の魔物の接近が引っかかった。
鑑定は、近くにある魔物や魔道具、人間といった様々なものを鑑定できる。
効果を起動していれば、私の優秀な鑑定スキルなら、探知すらも可能というわけ。
リシェアちゃんは気付いていない。
声をかけてもいいけど、襲撃はさっさと片付けてしまうのが私のポリシーだ。
「リシェアちゃん、ちょっとじっとしててね?」
「はわ? え、あ――」
私が声をかけたところで、リシェアちゃんも気付いたらしい。
だけどそれよりも早く、私は腰のちょっと古ぼけた短剣を抜き放ち、”それ”を口にした。
「”守護宝剣エイギス”」
魔道具の中には、真名を口にしなければ効果を発揮しない魔道具が存在する。
宝級と呼ばれる魔道具に属するそれらは、普通の鑑定では名前を知ることはできない。
私の鑑定だけが、その名を教えてくれる。
私だけが推せる、究極の魔道具。
それが、一瞬にして起動モードに入った。
剣は即座に光を帯び、ぼろぼろの刀身は美しい白銀のものへと変わる。
そして直後、その刀身が複数に別れた。
一つ一つが小さな破片となって、私の周囲を旋回する。
そのうち二つが、私の背中に周り――光の翼を展開した。
ふわり、と私の体が浮き上がる。
「は、はわわ……サーチャさんキレイですぅ……」
端から見れば、結構映えるような姿をしているのが、今の私。
元々私は容姿が結構整っていて、顔がいい。
眺めの白髪をクソデカリボンで纏めて、でかいマフラーで顔の半分を覆い、下はコートという夏場だったら場違いに見える格好。
ただ、これらは私が魔道具で装備を固めた結果、こうなっただけだ。
そこに光の翼も相まって、ちょっと残忍な天使にみえると評判である。
でもそれはそれとして、こうも思う。
――
ああ、これぞ推し活の本懐。
推しを纏うことができるという興奮。
私は――その興奮のままに、展開した刀身を迫りくる敵へと振るう。
それは光を発し、その光は敵を断つ。
結果、森の中から飛び出してきた無数のゴブリンが、私の斬撃によって一瞬にして両断された。
おそらく、リシェアちゃんの倒したゴブリンは”囮”だったのだろう。
敵を倒し、油断したところに更に魔道具という餌をぶら下げて。
一気に刈り取るつもりだった。
ゴブリンにしては、頭のいい戦術だ。
けど、私の前ではそれも無意味。
私が操るのは守護宝剣エイギス。
宝級の魔道具にして、仮に私が鑑定で彼らの接近に気付かなくても、自動防御で迎撃してくれる守護の剣なのだから。
そんな宝剣の一撃を、私は内心テンションマックスで見守っていた。
良すぎる、かっこいい、美しい、惚れ惚れしてしまう。
こんな剣を私が所有しているなんて、なんて素敵なことなのだろう。
マフラーの奥で、むふっと笑みを浮かべてしまうのを、私は抑えられなかった。
「こんなものかな」
戦闘を終えて、着地。
鑑定スキルに私たち以外の反応はない。
宝剣が、元の古びた刀身へと戻っていく。
「お、お疲れ様ですぅ! サーチャさん!」
「んお!」
そんな私に、ぽふっとリシェアちゃんが突っ込んでくる。
そのままぐりぐりと頭を擦り付けられて、なんだかくすぐったい。
しばらくそうしているとリシェアちゃんは顔を上げて――
「さすがは、”
「え、えーっと……その呼び方は恥ずかしいから、できれば避けてもらえると」
「はわわ! すっごく素敵だと思いますぅ!」
なんて言って、目をかがかせる。
ううん、こ、断りにくい。
私、サーチャはこの世界で二級冒険者をしている。
冒険者としては一流だけど、そこまで有名ではない、くらいの塩梅。
だけど私の見た目がいいことと、魔道具の収集癖から、蒐集姫なんて二つ名がまことしやかに囁かれているのだ。
目立つことを好まないので、あまり世間には知られていないけれど。
まぁどっちにしても、私が魔道具をコレクションしたいと思っているのは変わらない。
集めて、並べて、使って、悦に入る。
それが私の生き方で、この世界でも変えるつもりはないからだ。
これはそんな冒険者にしてい収集オタクのサーチャが、魔道具を集めたり適当に日常を送ったりする話である。
概ねタイトル通りです。