個性:『魔神』 作:Dの法則
Side:緑谷出久
「こんにちは!」
「お、緑谷君。今日も来たのかい?」
「はい!だってオールマイトの新しいフィギュアの発売日ですよね!?」
「さすが、オールマイトの強火ファン!どんなことでも知ってるね!」
この日、僕はいつもの日課であるヒーローストアに寄っていた。
地域の子供たちにとってのたまり場で、ここの店主さんもそれを許容しているためここにはいろんな子供たちがヒーローグッズを見たり買いに来たりする場所である。
さらに店主が元ヒーローでもあり、そこそこ知名度ある状態で引退したため、地域でもそこそこ有名なお店である。
僕が小さい時からオールマイトグッズを収集するため、たびたびこの店に寄っており、店主さんとは顔なじみだった。
「おーけー、新しいやつね!昨日入荷して今倉庫にあるからちょっと裏に取りに行ってくるね」
そう言って店主さんはバックヤードに引っ込んだ。
手持ち無沙汰になった僕はふと、レジの横に
『不用品!よかったら好きなの持って行ってください!』
と書かれたワゴンに目につく。
ここには、地域でいらないけど処分に困ってこの店に持ち込まれたものや古いヒーローグッズがおかれており、値段はつかないもののたまに貴重なものが眠っていたりするところだ。
捨てるのも気が引けるし、かといって売るほどでもない。
だから店主さんは、欲しい人がいれば持っていっていい、という形にしているらしい。
僕もたまにオールマイトの古いタイプのグッズ(傷あり)とかあったりすると持ち帰らせてもらったりしている。
暇を持て余してうろうろするのも悪いので、カートの中をあさりだす。
たいていはヒーローのコラボ商品だったり、雑貨だったりするのだけど、その中にひときわ目立つ小瓶が入っていた。
その小瓶は装飾が立派でとてもこのカートに入れられるようなものには見えなかった。
「お待たせー!緑谷君、それきになる?」
「これ、ここにあったんですけど………」
「それかー、いわくつきのものだけど特に害はないはずだよー」
「いわくつきって?」
「たしかね、とあるヴィランの家から押収されたヒーローグッズの中に混ざってたんだ」
「保管期間も過ぎて持ち主不在になってさ。警察も扱いに困ったみたいでね。危険物じゃないし、鑑定しても何も出ない」
「だから、まとめて僕のところに回ってきた中の一つだよ」
店主さんは肩をすくめ、どこか自嘲的に笑った。
「捨てようにもなんだかその気にならなくてね。どうせなら何かに必要としている人に行きつけばいいなってここに入れておいたの」
「じゃあ、これ僕がもらってもいいですか?」
そのとき僕はどうしても小瓶をほっておく気になれなかった。
「いいよいいよー、一緒に袋に入れる?」
「大丈夫です!」
僕はポケットに小瓶をねじりこんだ。
オールマイトのフィギュアを買って家への帰り道。
そのときの僕はどこか浮かれ気分だった。
フィギュアを買って店主とオールマイト談義をしたり、実際に助けてもらった時の話などを聞いたりしてたらすっかり日は沈みかけ、あたりは薄暗くなっていた。
袋の中のオールマイトは相変わらず笑っている。
テレビの中でも、町のポスターでも、フィギュアの中でも変わらない。
その笑顔に僕はいつも救われている。
いつか僕も……なんて、何度考えたかわからない。
―――けど、僕には個性がなくてなれない、ある種現実逃避だったと思う
そんなことを考えながら歩いていると、ふとポケットのふくらみを思い出した。
そういえば、勢いでもらってきちゃったけど……
妙な存在感がその小瓶にはあってなんとなくもらってきてしまった。
空はすっかり夕暮れ色に染まり、街灯がつき始めふと僕は視線を上げる。
その時だった。
「きゃああああ!!!」
最初は風の音かと思ったけど、多分これは誰かの悲鳴だ。
僕は少しの好奇心と恐怖心ともに声のした方へ歩みを進めた。
路地の壁から僕は顔を出す。
そこには座り込んでしまった女性と、今から切り刻もうと鋭い刃をまとったヴィランらしき大男が立っていた。
どうやら腕から刃を出す個性のようで手などは見当たらない。
「げへへへ、ほんとはこどもがよかったけど、きょうはこれでがまんするか」
「」
女性はもはや声にならない悲鳴を上げつつ、後ずさりしていく。
そして恐怖で動けなくなった僕はただ見ているだけだった。
そのとき、僕は女性と目が合う。その目は僕に
『助けて』
そう言っていた。僕は考えるより先に体が動いていた。
こつん
僕は足元にある小石をヴィランに向かって投げた。
「ああん??」
そのヴィランは僕のほうに振り、こちらへゆっくり歩いてくる。
その遠くで女性が走って逃げていくのが見える。
僕は恐ろしくなり、後ずさりし、尻もちをつく。
「なんだがき?いせいのいいことしてきたわりにはぷるぷるふるえてるじゃねえか」
ヴィランが腕を振りかぶる。
カランコロン……
僕のポッケから小瓶が転げ落ち、僕の手にあたる。
「たす……け…て―――
急に辺りが静かになり僕は目を開く。
世界は灰色になっており、ヴィランは動いていないようだ。
「もしかして、僕の個性……?」
『違う』
「え!?!?!?」
僕は唐突に頭に響いた声に驚く。
『願いを言え』
「だれ?」
『お前の手にいる』
僕は右手に目をやり
「もしかしてオールマイト……?」
『違う、反対側の手だ。まて、オールマイト、だと……?』
僕は反対の手を見ると小瓶がそばにあった。
「もしかして小瓶の妖精さんですか……?」
『ハハハハハハハハハハハハッ』
『おいお前。俺をお前の右目に住まわせろ』
『その代わりに、この状況を打開する術を与えてやる』
頭に低く、なぜか少し楽しそうな声が響く。
「え、まってください!詳しい説明は――」
『くどい』
その一言で、喉が詰まった。
『了承しないなら、このまま終わりだ。刃はもう振り下ろされている』
視線が勝手に、灰色の世界に固定されたヴィランの腕を見る。
あの刃が、数秒後には自分のいた場所を切り裂く。
逃げ場はない。
考える時間も、選択肢もない。
「……なんで、右目なんですか」
声が震えるのが、自分でも分かった。
『理由を知る必要はない』
『答えろ。受け入れるか、ここで死ぬかだ』
息が浅くなる。
胸の奥で、心臓がうるさく鳴っていた。
助けを呼ぶ暇もない。
ヒーローは来ない。
「……わかりました」
考えた末の答えじゃない。
ただ、生きたいという衝動だけが、口を動かした。
「いったん、受け入れます。その代わり……後で、ちゃんと説明してください」
『よし』
その声に、わずかな愉悦が混じった気がした。
『その願い、叶えてやろう』
小瓶の人がそういうと小瓶から何かが僕の右目に吸い込まれていく。
一瞬、熱さを覚えたがすぐになくなり、世界の色がだんだん元に戻っていく。
視界がぼやけ、右目にだけ自分のいる場所に刃が振り下ろされる光景が映る。
とっさに僕は右に転がりかわす。
「あーまっぷたつに……あれぇ?」
僕は頭痛に苛まれながら今の状況を考える。
止まったら殺される、死んでしまう!
そう思うと恐ろしくて考えることが止められない。
右目だけ視界がぶれる。
「まてぇええええ!!」
横に刃が通り過ぎる光景が右目に見える。
僕は直感でその場に転がる。
ブオオオン!!!
ドオオオン!!!
「くそ、ぬけねえ!!」
どうやらヴィランの大きな刃はコンクリートの壁に食い込んだらしく、追いかけてこない。
この近くにヒーロー事務所はないけど、店主さんの店なら何とかしてくれるはず!
そう考えた僕は急いでヒーローショップへ向かった。
店のドアを勢いよく開ける。
「た、たすけ――」
そこまで言って、膝から力が抜けた。
「おい、どうした緑谷君!」
店主さんがすぐに駆け寄ってくる。
息がうまく整わず、言葉が途切れ途切れになる。
「路地で……ヴィランが……」
それだけで十分だったらしい。
「分かった。ここにいなさい」
店主さんはそう言うと、迷いなく奥へ向かい、通報用の端末を操作し始めた。
その背中は、さっきまでオールマイト談義をしていた人とは別人みたいだった。
僕はその光景を見ながら気が抜けて気を失ってしまった。
警察とヒーローが来るまで、そう時間はかからなかったらしい。
僕が目覚めてしたことは簡単な事情聴取のみで、僕が答えたのは見たままのことだけだ。
後になってニュースで見たのだが、ヴィランは確保され、女性も無事だったらしい。
それで、この事件は終わった。
少なくとも世間的には。
次の日も、世界は何事もなかったかのように動いていた。
テレビではいつも通りヒーローの活躍が流れ、街では人が行き交っている。
僕も、いつも通り家を出て、いつも通り学校へ向かった。
……はずだった。
歩いていると、なぜか分かる。
角を曲がった先で、自転車が飛び出してくる気がして、自然と立ち止まる。
次の瞬間、本当に自転車が現れて、心臓が跳ねた。
教室でノートを取っているときも先生が描く前に黒板の文字が僕の目に映り、その通りに先生が板書をしていく。
僕の日常は致命的に変わってしまった。
そしてたびたび片頭痛のようなものに襲われるようになった。
心の中で気のせいと言い聞かせていると、
『気のせい、か』
僕はドキッとして少し飛び上がる。
隣りのクラスメイトに変な視線で見られ、呆れたような顔をして黒板に視線を戻した。
tips:
魔神は願いを叶える代わりに対価を求めます。
魔神が納得すれば、どのようなものでも対価として成立します。