路面電車に揺られ、到着したのは昨日と同じ白い砂浜だった。
しかし、今日は手加減を知らない9人の少年少女と、逃げ場のない「あなた」が揃っていた。
サーフィン対決と「透明な刺客」
太陽が天頂に差し掛かった頃、ギンジと親友に無理やり海へ引きずり出されたのが悲劇の始まりだった。二人の「サーフィン対決」のジャッジ役……という名目の、実態は二人のボードの間にロープで繋がれた「人間引き綱」だった。
「やめろッ! 俺は夜の花火の仕掛けを……ひ、引きちぎれる! 腕が抜けるッ!!」
絶叫を無視して、二人は巨大な波を捉えた。猛スピードで滑走する恐怖。しかし、本当の地獄は水面下で待ち構えていた。ゆらゆらと漂う、あなたがこの世で最も嫌悪する生物――大量のクラゲが、逃げ場のないあなたの手足にまとわりついてきたのだ。
「……ッ!! ぎゃあああああああああああああッ!? いやだぁぁぁッ! 刺された! 離れろぉぉぉッ!!」
恐怖と痛みで脳のリミッターが外れたあなたは、滑走中のボードの上で発狂して暴れ回り、結果として二人を巻き込んで大沈没を喫した。海中で「クラゲェェッ!」と叫びながら、凄まじい速度のクロールで二人を抜き去り、砂浜まで全力で逃げ帰る。
「ハハハ! お前、クラゲに追われてる時の泳ぎ、機体に乗ってる時より速かったぞ!」
「波を乗りこなすどころか、恐怖で海を割ってたな!」
砂浜で笑い転げる二人を、あなたは涙目で睨みつけることしかできなかった。
絆のBBQ:師匠の贈り物と「パーフェクトな6人」
夕暮れ時、ようやく恐怖から生還したあなたも加わり、10人全員でのBBQが始まった。
「ちょっと(あなたの名前)! あんたの家の冷蔵庫からこれ見つけたよ! なんであんな立派な『牡蠣』を隠してたのよ!」
ミサがクーラーボックスから取り出したのは、あなたが昨日、花火師の師匠からこっそり譲り受けていた極上の牡蠣だった。
ここで本領を発揮したのが、アカネ、アオト、ミドリ、ヒカリ、ユカリ、ミサの6人だ。この「完璧な6人」が揃うと、焼き加減から味付けまで一切の妥協がない。
「うまっ! この牡蠣、ミルクみたいだ!」
「サバも皮がパリパリで最高……」
ギンジや親友が子供のように頬張る姿を見て、あなたは「師匠、ごちそうさまです」と心の中で小さく感謝を捧げた。
かき氷の涼風:青い舌のいたずら
宴が盛り上がる中、少し火照った体に最高の差し入れが届いた。ヒカリとユカリの二人が、こっそり海の家まで走り、全員分のかき氷を買ってきてくれたのだ。
「はい、(あなたの名前)くん。熱くなった体にいいよ」
ヒカリが優しく手渡してくれたのは、鮮やかなイチゴ味だった。
「……冷たいよ。……そして美味しい。……みんなで食べると、もっと」
ユカリも少しだけ青くなった舌をいたずらっぽく見せて、小さく微笑んでいた。
10人の小さな火花
空が深い藍色に染まり始めた頃。あなたが「本番」の準備に取り掛かろうと立ち上がると、アカネと親友があなたを呼び止めた。
「待てよ、(あなたの名前)。本番の前に……これ、一緒にやろうぜ」
二人が差し出したのは、市販の手持ち花火セットだった。あなたが一人で職人のように大きな花火を作っているのを見て、二人がこっそり用意していたものだった。
「一人で花火をするより、みんなでやった方が10倍楽しいだろ?」
アカネの言葉に誘われ、10人が輪になって火を分け合った。パチパチとはじける火花。誰が一番長く線香花火を落とさずにいられるか、笑い合う10人の影が砂浜に伸びていく。
「……ああ。本当だな。10倍……いや、もっとだ」
あなたがぽつりと呟くと、親友が力強く肩を組んできた。
5. 10人で創る、一生に一度の夜
「お前が後で打ち上げるやつは、もっと綺麗なんだろ? 楽しみにしてるぜ」
そう言われたあなたは、照れくささを押し殺し、「……折角だからさ、みんなも手伝ってくれないか?」と切り出した。
その瞬間、ビーチが一瞬だけ静まり返った。
一人で黙々と作業をこなす「職人」のあなたが、自分の聖域に仲間を招き入れた。その一言が、9人にはたまらなく嬉しかったのだ。
「……当たり前だろ! 待ってましたってんだ!」
真っ先に叫んだのは親友だった。
「お前の最高の作品に、俺たちの魂も乗せさせてくれよな!」
「仕方ないわね、素人のあんたを私たちが完璧にサポートしてあげる!」
ミサが不敵に笑えば、アカネも表情を輝かせる。
「ほら、言っただろ? 一人でやるより、みんなでやった方が100倍楽しいんだぞ!」
「10倍じゃなかったっけ?」
アカネは一瞬きょとんとした後、いたずらっぽく笑ってあなたの肩を叩いた。
「もう、細かい! 10倍だろうが100倍だろうが、今が最高に楽しいってことに変わりないだろ!」
そこからの10人の動きは、まるでもう一つの戦場のような、最高に熱い「共同作業」となった。
重労働担当(ギンジ・親友): 「おらぁ、重い筒は任せろ!」と、砂浜に深く、真っ直ぐに発射筒を埋設する。
精密・電子担当(アオト・ユカリ): 「……点火回路、正常」「……同期タイミング、誤差0.01秒以内」。精密機械のような正確さで配線をチェックする。
ロジ・演出サポート(ヒカリ・ミドリ・サキ): サキが驚異的なスピードで火薬玉を運び、ヒカリとミドリが「ここから見たら一番綺麗だよ」と、観覧場所を整える。
一人の力では成し得なかった、10人の絆が一本の導火線に集約されていく感覚。あなたは、師匠に教わった「誰かを照らすための光」が、すでに自分のすぐ隣で輝いていることに気づいていた。
6. 打ち上がったのは、僕らの「証」
「よし……準備完了だ。……行くぞ!」
あなたの合図で、アオトとユカリが点火スイッチを入れた。
シュルルルル……と闇を裂いて空へ昇っていく、一筋の光。
――ドォォォォンッ!!
夜空が、見たこともないような鮮やかな黄金色と白銀に染まった。
昨日の牡蠣のように濃厚で、今日のクラゲの恐怖も、サバの脂の輝きも、すべてを飲み込んで祝福するような、圧倒的な希望の光。
「すっげぇ……!」
「……綺麗」
「これ、私たちが手伝ったやつなんだよね!」
見上げる9人の横顔が、色とりどりに輝いていた。その時、親友があなたの隣で静かに言った。
「な? 一人でやるより、ずっといいだろ」
あの夜、空を見上げた時の首の痛み。火薬の匂い。
みんなが差し出してくれた手を、あなたが力強く握った感触。
あなたが差し出した手を、みんなが力強く握ってくれた感触。
思い出という名の火薬は、あの時、あなたの胸の中で爆発的なエネルギーに変わったのだ。