貞操逆転世界ならコミュ症でもクール系病弱美少年でいけるらしい 〜あっ!隠してやってた裏垢のエロ自撮りがバレたぁ!?〜   作:しゃふ

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10話

「あれ、志穂ちゃん?」

 

 いつものようにベッドで寝転がっていると、保健室のドアがスーッと開く音がした。

 見ると、そこにいるのは志穂ちゃん。数日ぶりに会った彼女だが、相も変わらず暑そうな黒パーカーに身を包んでいた。

 

「――おはよう。渚」

 

 ……あ、キャラ戻ってる。

 もしかすると土日の間に考え直したのだろうか。

 

 それにしても、当たり前のようにここに来てる彼女だけど、今の時刻は10時が少し過ぎたくらい。

 つまりは授業中ということになる。

 

「……えっと、なんでここに? 授業中じゃないの?」

「――渚に、会いに来た」

「それなら昼休みに来てくれたら良いのに。

 高校生なんだから授業はちゃんと出ないとダメだよ?」

 

 ……どの面下げて言ってんだ、僕は。

 

 そう思った瞬間、昨日の教室の空気が頭によぎる。が、すぐに記憶に蓋をして忘れることにした。

 ……まぁうん、何週間もすればリベンジしてやってもいいだろう。

 

「ひ、昼休みは、ちょっと」

 

 僕の返答を聞いた志穂ちゃんの表情はなぜか少し曇っている。いや、怯えているというのが近いか。

 昼休みという言葉に反応したようだが原因は不明だ。どうしたんだろう。

 

「――そ、それより。ついてきて」

「え?」

 

 疑問に思った僕が尋ねようとした瞬間、志穂ちゃんに手を握られた。

 小さい手のひらが僕の指を包み込むと同時、ベッドから引っ張られた僕は強制的にドアの前まで歩かされることになる。

 

「な、なに? 急に」

「い、いいから」

 

 いや良くないちゃんと説明を――

 そんな言葉を発する間もなく、廊下へと駆けだした彼女に腕が引っ張られる。

 そうして、僕は保健室を後にすることになった。

 

 

 

「ここ、図書室?」

 

 そして現在。志穂ちゃんに連れられて来たのは、うす暗い図書室であった。

 電気もついておらず、人の姿は欠片もないその場所は、最近立て直されたばかりのこの高校には実に似つかない。

 

「……ここなら、誰も来ないから」

 

 ほう、誰もいないと。

 ……ん、つまりアレか。人に見られるとまずいことでもするつもりなのか。

 

「え、乱暴でもされる感じ?」

「し、しないっ! そんなこと」

 

 まぁ、そんな度胸はなさそうだ。

 もうキャラが崩れてきてるし。

 

「……じゃあ何でここに?」

「そ、それ、は」

 

 僕が疑問を発すると。

 志穂ちゃんは何故かモジモジとしながら、恥ずかしがっているように、目をそらし始めた。

 

 そのまま数分時が過ぎる。

 未だにモジモジしながら床にうずくまっている彼女を見て、もう帰ろうかなって思い始めたとき。

 

 ようやく志穂ちゃんが話し出す。

 

「一緒に、遊ぼう」

 

 ……あそぶ?

 それはここ、図書室でってことか?

 

「えっと、なんで?」

「その、さみしいって、言ってたから」

 

 ……志穂ちゃんにそんなこと言ったっけ? 

 

 ――あ、思い出した。確か似たようなことを裏垢で呟いた気がする。

 志穂ちゃんはあのアカウントのことを知ってるし、それで心配でもしてくれたのだろうか。

 

「……てか、見てるんだやっぱ」

「…………あ、いやっ、それは――」

 

 まぁ、僕も同級生の女の子の裏垢とか見つけたら滅茶苦茶見るだろうし、そこはいいか。

 わざわざ本人の前で話題に出すことはしないだろうけど。

 

 でも、そうか。

 心配してくれたのか。

 

 ……僕は僕のことを考えてくれる人が好きだ。

 どういう結果であれ、僕のことを思ってこういう行動をしてくれたのなら、素直に嬉しい。

 

「……ふふっ、そうだね。

 実際暇してたし。一緒に遊ぼっか。志穂ちゃん」

 

 僕は志穂ちゃんの手を両手で握る。

 「ひゃっ」と気の抜けた声を上げる姿はまるでちっちゃな小動物のようで可愛らしい。

 

 それに志穂ちゃんは僕の裏垢のことを知っている。アレを知られている以上、僕は彼女の前では素の自分でいられる。

 ある意味、最も気を使わないで良い存在でもあるのだ。

 

「何かおもしろい本ある?」

 

 そう言って僕は、本棚へと歩き出す。せっかく図書室に来たんだし、二人でゆっくり本でも読むのがいいだろう。

 

「……あ、えと、そこのやつ、とか」

 

 志穂ちゃんが指差したのは、一冊の薄い小説。

 

 表紙から察するに恋愛小説だろうか。

 この世界のことだから、一瞬BLかと思って警戒したが、見たところ前の世界にもありそうなやつだった。

 いわゆるシンデレラストーリーってやつだ。主人公の女の子がイケメンに気に入られて……みたいなアレ。

 

 僕はペラペラとページを捲ってみる。意外と挿絵も多くて、読みやすそう。

 何か若干エロいけど。

 

「この主人公の子、志穂ちゃんに似てない?」

「……そ、そうかな?」

「うん、初めて会ったときの志穂ちゃんそっくり」

 

 えらい偶然もあるもんだ……と思ったけど、実際は、彼女も僕と同じで、こういうのを真似て話していたんだろう。

 

 ……意外と似ているのかもしれない、僕たちは。

 

 そんな風に思っていると、ふいに志穂ちゃんが喋り出した。

 

「ざ、雑談をしよう」

 

 どうしたんだろう、急に。まだ本を読み始めてすぐなのに。

 まぁ、別に読みながらでもできるか。僕は目だけページを追いながら彼女の言葉に耳を傾ける。

 

「な、なぎさって、彼女いるの?」

 

 すると、意外にも飛んできたのは恋バナ。それもなんの捻りもないやつ。

 恋愛小説繋がりなんだろうか。

 

「いると思う?」

「……うん」

 

 自虐のつもりで言ってみたけど、どうやら本気に捉えられたらしく、

 「うん」という返事にはやけに重みがあった。

 

「いないよ」

「ほ、ほんとに?」

「いないいない。なんなら生まれてから一度も」

 

「じゃ、じゃあ。あの、保健室に入ってった子は?」

「……保健室に?」

 

 ここ数日、保健室に来たのは志穂ちゃんと柏木さん。それと一応先生もだが、流石にそれだったら気づくだろう。

 となると。

 

「柏木さんのこと?」

「た、たぶん、その子」

 

 必然的に候補は一人に縛られる。柏木さんだ。

 

 彼女は最初に会ってからというもの毎日欠かさず、昼休みに保健室に来ている。

 この前、志穂ちゃんが帰ったのもそのくらいの時間だし、すれ違ったりしててもおかしくないか。

 

 ……それにしても、こんな質問。前もされたな。

 そんなに人の交友関係が気になるものなのだろうか。

 

「ただの友達だけど」

「……あ、アレと?」

 

 アレとはなんだ。柏木さんを侮辱するのはいくら志穂ちゃんでも許さないぞ。

 僕のこの学校初めての友人なんだから。

 

「どうしたの? 柏木さんと何かあった?」

「く、首絞められた」

 

 へー、そうなんだ。

 ……首をね、ふむふむ。

 

「……まじで?」

「ま、まじ。

 あれたぶん同棲したら酒飲んで殴ってくるタイプの女」

 

 ……そんな怖いタイプの女の子いるんだ。

 いや、柏木さんがそうとは限らない……というか、そんなわけないだろう。

 

 確かにこの前の教室ではだいぶ危ないことをしていたが、アレは僕を守ろうとしてやってくれたことだ。

 

「大丈夫だよ。

 柏木さんは優しい子で、いつも僕を助けてくれてるんだ」

「……ぜったいやばい子だってアレ」

「んー、それ言ったら志穂ちゃんも大概じゃ――」

「わ、わたしは暴力はしない!」

 

「……まぁ、そうだね。志穂ちゃんはえっちなことしか興味ないもんね」

「……いや、それは、その」

 

 まあ、結局のところ、人は色んな面があるということだ。志穂ちゃんがクール系清楚病弱美少女だったり、えっちなことにしか興味がないちっちゃい女の子だったりするように。

 

 それに、志穂ちゃんの言う通り、柏木さんがちょっとアレな子だったとしても、僕が今までに見てきた柏木さんが消えるわけではない。

 まぁ、いきなり首絞めに来たら流石に逃げるけど。

 ……そんなことはないだろう。たぶん。

 

 その後、納得していないような態度の志穂ちゃんを膝枕で黙らせて、僕は読書に戻った。

 

 途中で飽きてからは志穂ちゃんの寝顔を眺める時間になったが、それも意外と楽しくて、かなり満足だ。

 

 

 

「そろそろ帰ろっか。ありがとね、志穂ちゃん」

「う、うん。……もうさみしくない?」

「……んー、どうだろう。あのツイートって結局土日に家にいるときの話だからなぁ」

 

 まぁ、さらに正確に言うとあれ自体は誰かに構ってもらうためのものであんまり意味はないんだけど。

 

「――な、なら。

 今度の、土曜日も遊ぼう」

「……え?」

 

 思わず変な声が出てしまったけど、そうか、言われてみればそうだ。

 別に友達だから、土日にだって会ってもいいのだ。

 ネットの誰かに構ってもらうよりも、現実で志穂ちゃんに構ってもらう方がよっぽど健全だろう。

 

 ただ、問題があるとしたら、僕自身のことか。

 

「僕、外出るのあんまり得意じゃなくて……」

「……な、なら。私の家、来て」

 

「いいの?」

 

 確かに、家の中だったら志穂ちゃんとその家族くらいとしか会わないで済むだろう。

 一応、僕の家って手もあるけど、間違いなく姉がうるさいので却下だ。

 

 ……それになにより、志穂ちゃんと過ごす時間は楽しい。

 それだけで十分、一緒にいる理由になるはずだ。

 

「そうだね。じゃあ週末は志穂ちゃんの家でイチャイチャしようか」

「――す、するっ! いっぱいするっ!」

 

 彼女のむき出しの好意は、僕にとって、とても暖かいものに思える。人の気持ちを察するのは得意じゃないから、こう言う素直な子は好きだ。

 

「……志穂ちゃんって、僕のこと好きなの?」

「……は、はえっ!?」

「答えてくれたら、良いのもあげるからさ」

 

気持ちは言葉にしてほしい。そういう形のあるものじゃないと、心に押し寄せて不安のせいで、何も分かんなくなってしまう。

 

「…………すき」

「そっか」

 

 好きって言われたら、その分だけ返してあげたいって思う。それは、きっと間違っていることじゃないだろう。

 

「志穂ちゃん、ちょっと横向いてみて」

 

 僕の言葉に、志穂ちゃんは少し困惑していたようだけど、でもすぐに顔を右にやって、小さな頬っぺたをこちらに向けた。

 

 ――そして、僕は。

 

 その頬に、そっと口付けをした。

 

「――週末、楽しみにしてるよ! 志穂ちゃん!」

 

 真っ赤に染まっていく頬を見て満足した僕は、逃げ去るように図書室を後にする。

 

 荷物は保健室にある、姉に迎えも頼んでいない。

 ――でも今日はもういいだろう。

 

 僕は、そのまま学校の外へ向かって走り出した。

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