貞操逆転世界ならコミュ症でもクール系病弱美少年でいけるらしい 〜あっ!隠してやってた裏垢のエロ自撮りがバレたぁ!?〜 作:しゃふ
窓から差す陽光に照らされて、薄く目を開く。
辺りには白い壁とピンクのカーテン。隣には少し散らかっているように見える大きなベッド。
ここは、保健室?
……なんで私、こんなとこにいるんだっけ。
「いたっ」
とりあえず立ち上がろうとしたとき、足に鈍い痛みが走って、思わず声が出た。
……そうだ、私、怪我して……。
それ、で。
渚くんに――
瞬間、頭の中に情報が押し寄せた。
渚くんの顔が、声が、感触が、匂いが――
そして、なにより。
……その、素肌が。
刹那、私はベッドに顔を突っ込み、一目も気にせず、叫んだ。
「あああっ――!??」
なんだっ!??? なんだったんだあれっ!??
聞いてない、聞いてないっ! あんな美少年がこんな学校にいるなんてっ!
そ、それに、き、きがえ、のぞいちゃ――
「違うっ! み、みえた、だけ。わざとじゃ……」
そう、偶然見えただけだ。偶然、たまたま、十秒くらい、見ただけで。
その光景は、頭の中に鮮明に残っていて、離れない。
……廊下で渚くんに見つかったとき、軽蔑されると思った、叫ばれると思った。そういう反応で、当然だ。
でも、彼が言った言葉は私が思っていたどれとも違って――
『――僕と友達になってくれないかな』
ともだち、そんな四文字が頭の中に残って消えなかった。
……幻覚、じゃないみたいだ。
頭を叩いてみても、コンコンと音が響いて痛いだけだし、それになにより膝に貼られた絆創膏が現実であると物語っている。
まるで、出来の悪い少女漫画みたいな展開。
あんな男の子が存在するなんて、クラスの子に話したら笑われるに違いない。
渚くんとの記憶が頭に想起する。
お互いのおでこが触れ合うほど、近い距離。重ね合わされた手と、絡められた指先。
「……ちがう」
ちがうちがうちがうっ! 落ち着け私、変な勘違いすんなっ!
……そう、ともだち。友達だ。
彼が私に求めたのはただの友達であって、あの態度も、その延長線にあるものにしかすぎない、はず。
――それになによりも、だ。
――私には、心に決めた人がいるじゃないか。
そう、だ。
渚くんが何を思ってあんなことを言ったのかは分からないけど、でも一つ確かなことがある。
――私が彼を好きになるなんてことはない。
……並みの女の子なら堕ちてただろう。それはもう、完璧に。
だって、あんな光景。覗いた瞬間、頭がパンクして倒れるのが普通だ。
でも、私は違う。
顔を近づけられたとき、心臓は跳ねて、手は真っ赤に染まっていたけど、でも、彼のことは忘れなかった。
「――日陰、くん」
私の、最愛の人の名前。
そのとき、スマホの通知音がピコんと鳴った。
私はすぐにポケットに手を入れて、覗き込むように、画面に視線を集中させる。
そして、そこに表示されている名前。
『玲衣』
――それが私のもう一つの名前だった。
日陰くん。
本当の名前は知らない、住んでいるところも知らない、歳は知ってるけど、誕生日は知らない。
――でも、彼のことが好きだって気持ちは知っている。
《日陰@__hikage214》
がっこーおわ。
しぬかとおもった。
その投稿には、一つの写真が添えられていた。
どこかの白いベッドの上、脱ぎかけの制服とともに写るのは、素肌の大半をさらけ出した日陰くんの姿。
…………あぁ、これは。
――えっちだ。
……はあぁぁああぁっぁぁぁ!??
今日の日陰くん最高すぎるんだが!? え、まって、これげんじつ???
あぁ、えっちすぎる。細い身体も、白い肌も。制服の日陰くんなんて見られると思わなかったっ!
いつもの部屋着も大好きだけどっ! でも、これは、破壊力がっ――
「ひかげくん、ひかげ、くん」
……だめ、だめだめだめ。
流石に学校では駄目だ。そういうことは帰ってから……いやでも今保健室だし行けるか!??
「お、おちつけ、わたし。
だれかにみられたらどうすんだっ!」
時計を見ると現在は正午が少し過ぎたあたり、つまりは昼休みだ。
この時間なら誰が来てもおかしくない。
そもそも保健室なんだから、本来は先生が常駐しているはずだし。
私はそっとスマホの画面に手を戻し、彼の投稿の返信欄を開いてみた。
『制服の日陰くんとか神か???』
『エッッッッッッッッッッ!?』
『ひーくん、可愛い』
……メス犬どもめが。
――私は彼女らのように、彼の投稿に反応することはできない。
当然だ。私と彼はあくまでただの友人。”そういう”下心目的で近づくような輩とは違うから。
だからこそ、こうやって仲良くなれたのだ。
――でもっ! 伝えたいっ! 日陰くんのそういうえっちとこも大好きだよって!
「好きっ、好きだよ、日陰くん」
そんなことをベッドに向かってしばらく叫んでいると、次第に少し、冷静になってくる。
……いや、日陰くんを視姦するのは変わらないけど、ただ徐々に写真の細部が気になってくるのだ。
……これ、どこで撮ってるんだろう。特定防止のためか、いつもより黒塗りが多い。
どこかの部屋の中ってのは確かだと思うけど。
――昨日、学校に行くって言ってたし、それかな。
……正直、日陰くんが学校に行くって聞いたときは良い気分がしなかった。
クラス奴らなんて、いつも下品な話ばっかりしてるし、そういう場所に彼を放り込むなんて考えられない。
日陰くんみたいな優しい子はすぐに食い物にされてしまうだろうから。
でも、彼がそのことを悩んでいたのは知ってたし、だから、「やめといたら」って言う気にはなれなかった。
……まぁ、日陰くんのことだから、すぐに行かなくなるかもしれないけど。
――ふふっ、そういうダメなところも好きだ。
嫌なことがあったときはすぐに私に泣きついてきて、慰めてあげると「やっぱ僕には玲衣しかいないよ」って言ってくれるとこも、全部。
……私も同じ。日陰くんさえいれば、それでいい。
実際に会ったり、そういうのはまだしたことないけど、でも彼と話してるだけで幸せで、いつか、もっと深い関係にだって、なれる。
――そして、なにより。
日陰くんはえっちなのだ!
私はスマホに視線を戻す。
そう、まだ学校だ。そろそろ次の授業も始まる頃だし。長い授業を耐え切るために、ここで日陰くん成分を補充しなければならない。
そう思って隅から隅まで日陰くんを観察していると、ふとあることに気づく。
……ばんそうこう?
太ももとお腹に貼られた絆創膏。いつもの私なら「うへへえっちすぎるよひかげくん」って気持ち悪い叫びを床に漏らすところだけど、今日は違った。
……渚くん。
つい、思い出してしまう。数時間前の彼との記憶を。
――違う! これは、別に浮気とかじゃない。ただ、まとも男の子と会って話したのが初めてだから、記憶に残っているだけだ。
だって、日陰くんと渚くんはぜんぜん違うし。いや、渚くんとはまだほとんど話してないけど、でも雰囲気というか、話し方だって全然違うし!
日陰くんは優しくて、素直で、私がいないとちょっぴり駄目な子で、それで、いつも私のことを考えてくれて――
「だいじょうぶ、だいじょうぶだよ日陰くん。私は日陰くんのことしか考えてないからね、えへへへ」
まるで念じるように、心の中でそう唱え続ける。
渚くんはかっこいいけど、それにえっちで、ともだちになってくれて、手を握ってくれたけど――
「わ、わたしは堕ちない。ぜったいにっ!」
その後、保健室の先生がやってきて、一人でいられなくなった私は泣く泣く教室に帰ることになった。
午後の授業はほとんど頭に入ってこなかった。
黒板の数式を眺めているときも私の頭の中には常に、二人の男の子の裸体だけが残り続け、まともに文字を書くことすら出来なかったから。
……煩悩にまみれてるっ!?
学校が終わって家に帰ってからも、私の頭は何も考えることが出来なかった。
……一度、寝よう。保健室で寝てきたばっかで眠気なんてどこにもないけど、こんな状態で他のことに手をつけるなんて出来そうにないし。
でもそんなとき、スマホの通知音が鳴った。私のスマホの音がなるとき、それは一つしかない。
『玲衣! 今日さ、学校ちゃんと行けたよ!』
日陰くんからの、メッセージ。
……前言撤回、眠るわけにはいかない。日陰くんからの連絡よりも優先すべきことなんてこの世に存在してはいけないからだ。
『そうなんだ! 良かった。今日ずっと心配してたよ!』
『うん、全部玲衣のおかげ! まだ授業は出れてないけど、そのうちちゃんと受けれると思う。あ、そうだ! 今度勉強教えてよ!』
……やっぱ、私には日陰くんしかいない。彼だけが、私のことを一番に考えて、大事にしてくれて、頼ってくれる。
日陰くんだって、同じ気持ちのはずだ。私以外の子にはリプライだって返さないし、フォローしている子も、私以外、もう関わりのない子だけだ。
『もちろん、いつでも頼ってくれていいから』
……もう、渚くんとは会わないでおこう。
また会おうって、約束、しちゃったけど。でもそんなの日陰くんに対して酷いことだ。
そう、心に誓ったとき――
『あとさ!』
日陰くんの方から、新たに二通、メッセージが飛んできた。
……なんだろ、まだ何かあったのかな?
そう思って、チャットに目を移すと――
『友達もできたんだ!』
まるで、当たり前のことを語るみたいな軽い口調で、そう書いてあった。
……え?
変な胸騒ぎがして、心臓が激しく跳ね出す。
反射的に、私は通話ボタンを押していた。
「あれ、どうしたの? 玲衣。話したかった?」
ただ、今は彼の言った言葉の意味を確かめたい、それだけの理由で、初めて自分から通話をかけた。
「……その、友達って男の子だよね?」
「え、違うけど」
…………は?
「大丈夫、心配しないで良いよ。話した感じ滅茶苦茶良い子だったから!
それに、玲衣にちょっと似た雰囲気の子でさ。たぶん、話したら仲良くなれるんじゃないかな」
…………私と似た子?
「もう下の名前で呼べるくらい仲良くなれたんだ。
……ほんと、玲衣のおかげだよ」
…………下の名前?
彼の言っていることが、よく分からない。
……でも、一つだけ、はっきりしていることが、あるとすれば。
――それは、駄目だよ、日陰くん。
「ん、玲衣? どうし――」
日陰くんの言葉を最後まで聞く前に、私は通話を切っていた。
こんなこと今までしたことがない。通話を始めるのも、終わるのも、そういうのは全部、日陰くんに合わせてきた。
スマホはさっきから、ピコピコと鳴っている。でも、その画面を見る気にはなれない。
「……なんで」
駄目だよ、日陰くん。
だって、日陰くんには私しかいないんでしょ?
私は、そうだよ。
日陰くんがいない世界なんて意味ないし、日陰さえいてくれたら、どんな世界だって受け入れられるよ。
「なんで、分かってくれないの?」
なんで、なんであんな当たり前みたいに、そういうことを言えるの?
――何で、何で、何で。
――あぁ、そうか。
私も、同じことすればいいんだ。
……日陰くんも、同じ気持ちにしてあげる。私が他の男の子と仲良くしてたら、日陰くんだって、悲しいもんね。
それで、私の気持ちが分かってくれたら――
もう、酷いことしないよね。