貞操逆転世界ならコミュ症でもクール系病弱美少年でいけるらしい 〜あっ!隠してやってた裏垢のエロ自撮りがバレたぁ!?〜   作:しゃふ

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5話

 今日も今日とて保健室だ。

 なんやかんやで学校に通い始めて数日が経った。大抵はベッドでゴロゴロしながら、先生が持ってくるプリントやら教材を解いている。

 

 勉強は嫌いだったはずだけど、やってみると案外良い暇つぶしになっている。もしかすると、僕も成長しているのかもしれない。

 

 嫌なことがあるとしたら、通学と帰宅時間だ。学校の廊下を歩けば妙な視線を受けることが多いし、この前は良く分からない上級生の女子に絡まれたこともあった。

 

 オロオロしながら黙っていると同級生らしき人に回収されていったけど、でもやっぱコミュ症にはつらいものがある。

 

 ――そんな生活だけど、楽しみもある。

 昼休みだ。

 この時間になると、いつも彼女が会いにやってきてくれる。

 

「おはよ! 渚くん」

「……もうこんにちはだよ?」

 

 柏木礼奈さん。

 僕の学校での唯一の友人。

 

「そ、そっか。もう午後だっけ」

「ま、いいけどね」

 

 彼女と会った日から、毎日。こうやって昼休みの時間になると保健室まで来てくれる。

 僕と違って忙しいだろうに、ありがたいことだ。

 

 柏木さんと話している時間は楽しい。波長が合うというんだろうか、まるでずっと前から知り合いだったような、そんな気がしてくるほどだ。

 

「――おはよう。礼奈ちゃん」

 

 彼女の手を軽く両手で握りながら、呟く。気恥ずかしいセリフだけど、彼女はこういうのに弱い。

 熟した果実のように赤く染まった彼女の頬見ると、思わずこちらの頬も緩んでしまう。

 

 ……ダメダメ、気を引き締めなければ。

 クール設定が死に設定にならないように、彼女の前では軽い所作や話し方も気をつけている。

 

 せっかく仲良くなれたのだ、本性がバレないように気を付けないといけない。

 

 そんな風に考えながら、彼女の方へ向き直す。すると、あることに気づいた。

 

「あれ? 今日は荷物多いね」

「……あ、えと、それは

 ――お弁当、一緒に食べようと思って」

 

 ほう、お弁当とな。

 確かに友達ともなれば、一緒にお弁当を食べるのだって普通のことだ。

 まぁ、異性の友達となれば少し意味合いが変わってくるような気がするけど、そこはあまり気にしない方がいいだろう。

 

 そう思って、僕も自分のお弁当箱を取り出そうとカバンをまさぐる、ふふっ、忘れ物が多い僕でも流石にお弁当を忘れることはない。

 今日も朝、ちゃんとカバンに――

 …………カバン?

 

「……かばんわすれた」

 

 ……もしかして、僕は馬鹿なんだろうか。

 

 食べるものがない、ということが発覚した瞬間、急に空腹が僕のお腹に押し寄せてくる、人間の身体というのは不合理的だ。

 

 ……引きこもり生活のときは一日一食、なんなら食べない日もあったというのに、まったくやわな身体になったな。

 

 そんなことを嘆いても、この空腹感がなくなるわけはない。

 徐々に思考が停止してくる頭が、身体を勝手にベッドに向かわせようとした、

そのとき――

 

「あ、あのさ。もしよかったらだけど、

 私のお弁当、食べる?」

 

 僕に差し伸べられたのは救いの手だった。

 

「……いいの?」

「む、むしろ私の方が食べてほしいくらい、私小食だし」

 

 ……神か? この子。

 

「……じゃあ、ちょっとだけ貰おうかな」

 

 あまりがっつくのも良くない。

 それに、病弱設定ということもあって、小食であるべきだし。

 

 ガサゴソとお弁当を取り出した彼女は、中身を僕に向かって見せる。

 

「私が、作ったんだ。口に合うかは分からないけど」

「……おいしそう」

 

 今すぐにでも、食べたいところだけど、あいにく箸が一つしかない。

 ……ふぅ、仕方ないか。

 

「――食べさせて、くれる?」

「へあっ!?」

 

 その瞬間、柏木さんの溶けたような高い声が保健室に響き渡った。

 

 

「……ふふっ、ただの冗談――」

 

「あ、あーん」

 

 ……あれ、冗談のつもりだったんだけど。

 柏木さんの手にはいつのまにか箸が握られていて、その先には少し大きめの深い黄色に染まった玉子焼きがあった。

 

 その光景に、思わず身体を止めていると、次第に彼女の手がぷるぷると震えだし――

 

 反射的に、僕は彼女の箸先に口を持っていった。

 

「おいひい」

「……よ、よかった。ま、まだまだあるからね」

 

 ……女の子にあーんしてもらえる日が来るとは。

 こんなの数か月前の僕に聞かせれば泣いて羨ましがるに違いないだろう。

 

 そのまま、僕は彼女と一緒にお弁当を食べ続けることになった。

 一つの箸しかないせいで食べるのには時間がかかる。

 でも、彼女と一緒にいると、まるで時間の流れが早くなったみたいに、お弁当は減っていった。

 

やっぱり、波長が合うみたいだ。

 

 

 そんな時間の終わり際、お腹いっぱいと言って、ベッドに横たわった僕に対して、柏木さんが声をかけた。

 

「あ、あのさ」

 

 

「……渚くんってさ、前に私と会ったことある?」

「へ?」

 

 想定外の質問に思わず、変な声が出てしまう。

 ……いや、僕も似たようなことは考えてたけど、でも、実際に会ったりなんてしてるわけない。

 もし会っていたなら、彼女ほど可愛い女の子を忘れることなんてことはないだろうし。

 

「……いやっ、なんかさ。ちょっと既視感というか、渚くんと話すの、初めてじゃない気がして――」

 

 ……いや、待て、そういえば似たような文言を例のゲームで聞いたことがあるぞ。

 

 「キミとあったのは初めてな気がしないな」とかそんな感じのやつ、あれでも、それって確か……。

 

「――口説かれてる?」

「へ?」

 

 そう言った瞬間、彼女は顔を真っ赤にして、顔を押さえつけた。

 それのせいで、食べていたご飯が喉に詰まったのか、激しくむせかえる彼女の姿は思わず目を伏せてしまうほどの惨状だ。

 

「――ゲホッゲホッ! ち、ちがう、く、口説くとかじゃなくて……」

「い、いったん落ち着こうか、柏木さん」

 

 そのまま彼女の背中を撫で続ける。

 数分経ってようやく落ち着いたであろう彼女は、弁当箱に残された最後の米粒を口に入れて、静かに両手を合わせた。

 ……なんだったんだ、今の時間は。

 

「う、変なこと聞いてごめん。

 その、忘れてくれたら、助かります。

 ……あ、そうだ。それなら、別の質問」

 

「――何が一番美味しかった?」

「えっ?」

 

 何が一番美味しい、か。

 

 ……これ大丈夫だよね、正直に言って。

 ここの回答で何か変なフラグとか立っちゃわないよね?

 

「……んー、強いていうなら最初の玉子焼きかな」

 

 少し不安に思いながら、僕は彼女の質問に答える。

 彼女のお弁当は全部非のつけようがないほど美味しかったけど、でもその中でも玉子焼きは格別だった。

 

 それを聞いた彼女の顔は……少し、いやだいぶニヤついていた。

 

「……ふふふ、玉子焼き、得意なんだ。昔からよく作ってたから」

 

 ――ふぅ、どうやら正解だったみたいだ。

 緊張が解けて、胸をなでおろしながら、彼女の話に耳を向ける。

 

 ……そういえば玲衣もよく言っていた、玉子焼きなら私に任せて、と。

 女の子というのは玉子焼きを極める運命にあるのかもしれない。

 

 

 ――玲衣。

 

「――渚くん、顔色悪くない? 大丈夫?」

「……なんでもないよ」

 

 ……しまった、顔に出てたか。

 

 玲衣とは、数日話していなかった。

 

 あの日、彼女から一方的に電話を切られてからはチャットも反応がないし、通話だって繋がらない。

 ……これは、喧嘩、なんだろうか。

 

 ――駄目だ、ここは学校だし、それに柏木さんもいる。

 僕は沈んでいく心に蓋をするため、笑みを作ろうとした。

 ――そのとき。

 

「……え、えっと、その。悩みとかあるなら、聞けると、思う。

 あ、話したくないなら全然大丈夫、だけど」

 

 柏木さんが、そう言った。

 

 ……人に話してみたら、何か、分かるかもしれない。

 

「――仲良かった女の子がいたんだけどさ」

「……え」

「ん、どうかした?」

 

「――あ、うん、なんでも、ないよ。

 ……うん、うんうん。そりゃあ、そうだよね」

 

 なんだろ、もしかして柏木さん以外に友達がいないとでも思われてたのだろうか。

 ……あり得るな。

 

 僕は彼女の微妙な表情が気になりつつも、話を進める。

 

「で、その子と何日か前から、えっと、喧嘩、みたいな感じになっちゃって」

「……そうなんだ」

 

「――多分、僕が原因なんだけど。

 ……その、心当たりがなくて、何回聞いてみても教えてくれなくて。

 それで、どうしようかなって」

 

 ……玲衣が何で怒っているのか、僕には分からない。

 話してくれないし、何度考えても原因が思いつかない。

 

 ――なんで、教えてくれないんだろう。

 

 

「――やめときなよ、そんな子」

「えっ?」

 

 そのとき、まるで僕の言葉を突き刺すような鋭い声が、僕の耳に反響した。

 

「絶対その子面倒くさい子だよっ!

 だって、何が嫌だったとかも教えてくれてないんでしょ? それなのに怒って口も聞いてくれないとか勝手だよ!」

 

「……いや、それはそうだけど」

 

「いわゆる地雷ってやつだって、仲良くなったら束縛とかしてくるタイプの! 渚くんは、そんな子にはもったいなすぎるよっ!」

 

 地雷、か。

 ……いや、地雷なのは僕の方なんじゃないか。世間一般の常識から考えると。

 

 玲衣は、ちょっと僕のことを気にしすぎることもあるけど、でも優しい良い子だ。

 

「別に悪い子じゃないんだ。それに、そういうところも良いっていうか。……えっと前にも一度喧嘩したんだけど。

 そのときは僕が謝ったらすぐに、「私もごめんね」って言ってくれて、そのあといっぱい褒めてくれてね――」

 

「それDVだよ!? 飴と鞭を使い分けてくるタイプの悪質なDVだよっ!?」

 

 ……そうなの? 

 

「今すぐその子と連絡取るのやめた方がいいって。そういう子は一度自分を客観視しないとダメなの。

 ……それに、渚くんのためにもならないよ」

 

 僕のためにはならないのは、そうかもしれない。

 いつまでも玲衣に頼っていては駄目なのは分かっている。

 

「……んー、まぁ考えてみる。

 ありがとね、相談乗ってくれて」

 

 正直玲衣との関係を変える気はないけど。でも、一度人に話してみたらすっきりしたのは事実だ。

 

 ……一度だけ、距離を置いてみるとかならいいのかな。

 

 

 

 

 

 

「――なんでぇ、そんな子絶対駄目だって」

 

 

 ……渚くんがDV彼女に堕ちていた。

 うぅ、ぜったい渚くんは騙されてる。酷い女の子に捕まっちゃってるんだ。

 

「私が、助けないと」

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