貞操逆転世界ならコミュ症でもクール系病弱美少年でいけるらしい 〜あっ!隠してやってた裏垢のエロ自撮りがバレたぁ!?〜   作:しゃふ

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7話

「――ちょっと、志穂ちゃん! まって、まじで違うから待って!?」

 

 彼の声はよく聞こえない。

 保健室のドアにぶつけた額を抑えながら、私はとにかく誰もいない場所へ向かって、走り出していた。

 廊下を走って、階段を駆け下りて、いつの間にか外に出ていたと思っては、引き返して階段を上り、また走る。

 

 そうして辿り着いた場所は図書室。私が学校で最も安心できる場所だった。

 

 昼休みならともかく、授業中の今、図書室に人なんていない。

 電気もついていない薄暗い天井を見上げながら、本棚にもたれかかった私は――

 

 

「――ああああああぁぁぁあ!」

 

 激しく絶叫した。

 

「引かれたっ! ぜったい引かれた!

 とちゅうまでっ、途中までいいキャラ付け出来てたのにぃ!!!」

 

 持っていた本を床に向かって投げつけると、落下の衝撃とともにバサッとページが開かれる。

 そこに描かれているのは長い髪と鋭いジト目、物憂げな態度で微笑む少女。

 ……私が演じた、キャラクターに他ならない。

 

 おそらく気が狂ってたんだろう。

 唐突に現れたとんでも美少年に、頭をぶっ壊されていたんだろう。

 

 まともに男の子と会話ができないからって、こんな非モテ陰キャオタクしか読まないようなハーレム恋愛漫画の無気力系女主人公になり切ろうとするなんて、馬鹿すぎるにもほどがある。

 

「うぅ、くそ陰キャでごめんなさいっ」

 

 本棚に頭をガンガンとぶつけると、分厚い本が上から降ってきて、頭に激突。

 床に転がり回りながら落ちてきた本の表紙を見る。そこには『性欲に左右されず生きる方法』と書かれており、「嫌みかっ!」と投げ捨てることになった。

 

 ……これが、私。宮野志穂の本性である。

 

「うぅ、私はただサボりで保健室にいっただけなのに……」

 

 英語の授業のペアワークが嫌過ぎた私は、体調不良を装って、朝から保健室のベッドで転がっていた。

 

 あそこは先生もあまりいないから、長時間一人で過ごすことができる絶好のサボり場だったのだ。

 

 ――だった、のに。

 

 誰か教えといてくれよぉ! 

 あんながスパダリ美少年来るとか知らないっ!

 

 あ、あれが、オタクに優しいギャルってやつ? いや、ギャルではなかった気もするけど。

 

「せめてっ、せめて、あそこであのまま寝ていればっ!

 私の本性がバレることもなかったのにぃ」

 

 出来るだけ地味でいようといつも着ている黒パーカー、それに加えて夏の日差しのせいで蒸し焼きになっていた私は、日陰を求めて、渚くん側にベッドに行ってしまった。

 

 そこで、足をひっかけて、彼に覆いかぶさって――

 

「わ、わすれろ、おもいだすなわたし」

 

 ……うぅ、途中までは悪くなかったはずだ。

 いい感じに話すことできてたし、なんなら次に会う約束までできた。

 あんな美少年に友達になってって、迫られて、よく耐えられていた方だと思う。

 

 ……でも、あれはない。

 彼と一緒に床に落ちたとき。

 何を考えたのか、目を瞑ってしまって、それで、もれた、心の声が。

 

『――え、えっち』

 

 ……なんであんな性欲丸出しのセリフが口から出るのかなぁ!? 馬鹿なの? 死ねよ!

 

 カバンも置いて行っちゃったし……。

 あぁ、なんで私はすぐに逃げ出さなかったんだ、自分がまともな奴じゃないってことはとっくに分かってるだろう!

 

 ……あ、無理だ。ほんとに死にたい。

 

 どうしようもない希死念慮に襲われた私は、数分放心したあと、ポケットに手を突っ込み、スマホを取り出す。

 

 こういうとき私がすること、それは一つしかない。

 

「……はぁ、可愛い美少年でも眺めて落ち着こ」

 

 現実逃避である。

 

 

 ――宮野志穂はいわゆるオタクだ、

 

 学校では誰とも話さないクソボッチ。

 もし話しかけられてもキョドってまともに会話できずにキモい笑みを浮かべるだけ。

 

 そして家に帰ったら美少年ゲームの男の子に慰めてもらう。 

 それが私の生活の全てだった。

 

 パソコンの中の美少年さえいればいい、リアルの人間なんか興味がないと自分に言い聞かせる毎日。

 三次元なんてクソである。家の中でドン引きしている妹に向かってそう豪語するほど、私の生活は二次元に染まっていた。

 

 ――つい最近までは。

 

 ……それは、ただの気まぐれだった。

 数年前に作って、今はほとんど触っていなかったSNSのアカウント。

 久しぶりにログインしては、当時の痛いツイートに頭を抱えていた私は、ふと一人のアカウントが気になった。

 

《日陰@__hikage214》

 

 その日から、私の生活はひーくんに狂わされることになる。

 

「うへへ、今日もひーくんは可愛いなぁ」

 

 ――現役男子高校生、日陰。

 そっち系の界隈では有名で、今最も注目されていると言える裏垢男子だ。

 

 ……彼は可愛い。

 そしてえっちだ。とても、とても。

 ぎりぎりR18にはなってないが、それでも誰かに見られたら確実に言い訳できないような画像を複数、彼はネットに投稿していた。

 

 二次元以外の男の子なんて興味がない。そう思っていた私は、彼の自撮りを見て、一発で――堕ちた。

 

 だって無理だよっ! 同年代の男の子の裸なんて見たことないもん!

 

 ……ということで、私はひーくんのファンなのだ。少々邪な気持ちで推しているかもしれないが、彼のことを応援しているのは本当だ。

 

 そして今、すり減った心を癒すため。

 私は彼の自撮り画像を見ようと、アカウントにアクセスしたところだ。

 

 うへへ、今日はどのひーくんで――

 

「――ん、これ今投稿されてる」

 

 そう思ったとき、ふと彼のツイートが目に入った。

 

《日陰@__hikage214》

 ぼくがわるいんですか。

 

 ……なんだろこのツイート。病んでるのかな? 

 そういえば最近のひーくん、元気のなさそうだった気もするし……。

 

 いやいや、それは困る。ひーくんは元気であってくれないと。

 

 もし病んでアカウントごと消しちゃったりしたら大変だ。もうひーくんじゃないと満足できない身体になってしまった私はその日のうちにぶっ倒れて死ぬだろう。

 

 《✝︎死穂✝︎陰の者@__deathxxx》

 ひーくんは偉いよ。なんか嫌なことでもあったの?

 

 ……どうせ、返信はこないけど。でも少しは心の支えになれるかもしれない。

 そう思ってリプライを返す。お昼前ということもあって、彼のツイートに反応する人はほとんどいない。

 

 ――これなら、私の返信も見てくれるかな。

 そう、思ったときだった。

 

 「――え、返信来た」

 

 日陰くんが返信をくれるなんて初めてだ。

 彼が返信する相手は、ずっと前からの知り合いくらいなのに。

 

 私はぷるぷると震える手で通知欄をタップする。

 

 《日陰@__hikage214》

 おんなのこににげられました

 

 ……へ、なにそれ?

 

「お、おんなのこ。ひ、ひーくんに」

 

 ……彼女とか、いたんだ。

 いや、そりゃいるか。むしろ、なにまじになってんだ私。

 こんなネット上の繋がりだけでガチ恋とか、そんなのキモすぎる。会ったこともないし、顔もしらない相手に、なんて。

 

 ……それにほら、逃げられてるし。つまりは今はフリーってことだし。

 私、それなりに古参だし? まだフォロワー3桁のときに見つけたし?

 

 ――べつに気にするようなことじゃないし。

 

「……にしても、逃げられた、かぁ」

 

 まったく、ひーくんから逃げるなんて、その女はよっぽど脳みそ空っぽの馬鹿女なんだろう。

 もし会ったら思いっきりぶん殴ってやりたいくらいだ。

 

 ……もしかすると、その子のせいで最近のひーくんは病みツイが多いんだろうか。

 

 ――うー、変な女の子に嵌ってたら嫌だなぁ。

 

《✝︎死穂✝︎陰の者@__deathxxx》

大丈夫だよ、ひーくん。

 酷いことがあっても、私がついてるから。

 

《日陰@__hikage214》

 えへへ、そうですか

 いつもおうえんありがとうございます

 

 私の返信に対して、返ってきた言葉、それは私の身体を飛び上がらせた。

 

「わ、わたし、認知されてる!??」

 

 やばい、まじか。ひーくんが私のことを知っていたなんて。

 ……え、じゃあもしかして今までした返信も全部見られてたの?

 

「だ、だいじょうぶだよね? セクハラとか、してないよね?」

 

 ……一応確認しておこう。

 そう思って過去ツイを遡ろうとしたとき、ピコンという通知音が図書室に響いた。

 

 「DM?」

 

 こんなときに誰だろう。特にやり取りする相手なんていないのに――

 スパムかと思ったけど、何か胸騒ぎがした私は確認しようとDM欄へと飛ぶ。

 

 ……そこには、一つの写真とメッセージがあった。

 

『がっこうで撮りました。ほかの子にはないしょですよ?』

 

 ひーくんの自撮りだった。

 今まで、見たことがない自撮り。

 おそらく、今撮ったばかりの。

 

 

 ……いつもの私なら、興奮して、床を転がり回って、写真を何重にも保存していた。

 ひーくんから、私だけにメッセージなんて、まるで夢のようだけど。

 

 でも、この写真が意味することは、そんなことよりも、もっと大きなことだった。

 

 

「ここ、うちの保健室じゃ――」

 

 

 何が何だか、分からない。

 でも、やることは一つしかない。

 

 ――気が付けば私は、図書室から飛び出して、保健室へと走り出していた。

 

 

 

「あっ! 志穂ちゃん。

 ……良かった、嫌われちゃったと思ったから」

 

「このアカウント、キミなの?」

 

 確信が、あった。

 だって、あの写真に写っていた猫耳がついたカバン。あれは、妹が昔私に作ってくれたものだ。見間違えるわけがない。

 

 私のカバンが、日陰くんの撮った写真に写っている。それが示すことは一つしかない。

 

 

 渚くんは黙っている。

 いや、正確には……固まっている?

 

 私は彼の顔を見ようと、ぷるぷると震える手を、顔の前からずらす。

 

 渚くんの顔は、まるで身体中の血が抜かれたかのように、真っ青に染まっていて、

 

「――なんでもするので、ゆるしてください」

 

 ぽつり、と渚くんが私に向かって呟いた。

 

 それは、私の推測が正解していたことを示す。

 ――ひーくんの正体は、渚くんだったのだ。

 

 

 ……え?

 

 

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