貞操逆転世界ならコミュ症でもクール系病弱美少年でいけるらしい 〜あっ!隠してやってた裏垢のエロ自撮りがバレたぁ!?〜 作:しゃふ
人生の終わりとはどういうときだろうか。
そんなことを考えてみると、今までの人生というのも案外悪くなかったように思える。
物覚えがつかなかったころに父親が家から出て行ったことも、中学で学校に馴染めず家に引きこもったことも、裏垢に喧嘩売ってきたアカウントとレスバしてたら滅茶苦茶炎上したことも。
当時は人生の終わり、って思うほど落ち込んでただろうけど。
でも、今思えばそのどれもこれもが人生の終わりというにはあまりにも軽すぎるということが分かる。
……じゃあ結局、人生の終わりっていうのは何なのかって言うと。
そんなの、一つしかないに決まってるだろう。
「なんでもするので、ゆるしてください」
――同級生の女の子に裏垢エロ自撮りが見つかったときだ。
……詰んだっ!
え、あ、まじか。
どうすんのこれ、え、てかなんで分かった?
保健室にいるときはそんな素振りなんてまったくなかった。
じゃあ、いなくなってからの数十分の間に……?
やばいやばいやばいっ!
誰かに、それこそ学校とかにバラされたら、絶対停学、下手したら退学じゃないか?
いや、そもそもこれ警察に通報されたら……逮捕?
瞬間、脳裏に浮かぶのは刑務所で屈強な囚人に慰み者にされる僕の姿。
――なんとかしないとっ!
ぐちゃぐちゃになった頭をむりやり前に向けて、僕は喉から声を絞り出す。
「な、なんでそのアカウントを……?」
「……た、たまたま、流れてきただけ。そ、それだけ。みては、ない」
あまりにも歯切れが悪い話し方、間違いない。
嘘ついてるこの子、ぜったい見られてる。
……それにしても、意外とこういうのみるのか。
むっつりスケベ属性も追加とは、属性の渋滞で動けなくなっても知らないぞ。
……いや、今はそんなこと考えている暇はない!
とにかく黙っててもらえるように説得……というより口止めしないといけない。
こんなことで僕の更生計画を邪魔されてたまるかっ!
「……志穂ちゃん。それ、黙ってくれると、嬉しいんだけど」
「う、うん。わ、わかってる、けど」
僕がそういうと、志穂ちゃんはあからさまにモジモジとしだした。耳にかかった髪の毛をちょろちょろと触ってみたり、パーカーのフードを被ったり、脱いだりを繰り返したりして。
この態度――やはりそうか。
「黙ってるのは良いけど、もちろん分かってるよね?」、ってやつだ。
「……じゃあ」
そのとき、志穂ちゃんが意を決したかのように言葉を発する。
――なに言われるんだろう。
やっぱりアレか、カツアゲか。
毎週親の財布から10000円抜いて持ってこいとか言われるんだろうか。
……それなら裏垢で稼いでいるぶんで足りるな。
うん、他の無理難題を押し付けられるくらいならそっちにしてほしい。
そんな現実逃避をしながら彼女の言葉を待つ。
……でも、次に彼女の口から放たれた言葉は僕の想像していたものとはまったく違っていた。
「――あ、あたま、なでて」
――なん、だと。
この僕に、頭を……ん?
「……え、そんだけ?」
――拍子抜け、というのが正直な感想だった。
いや、志穂ちゃんのことはまだあまり知らないけど、でもこの世界の女性ならもっと過激なこと頼んでくると思っていた。
思いっきりグーで殴らせてとか。あ、それは前に裏垢のDMに来たやつか。
僕がぽかんとしていると、まだいける、とでも思ったのか彼女はさらに追加で言葉を紡ぎだす。
「じゃ、じゃあ、撫でながら、いっぱい、ほめて」
……なんだそのちょっと闇を感じるお願い。
え、大丈夫? 撫でようと手出したら背負い投げ喰らったりしない?
……いや、よく分かんないけど、やるしかない。
少なくとも、彼女の言っている言葉の通りならやることは簡単、むしろ僕の方からやりたいくらいのことだ。
「えっと、僕の前来れる?」
「は、はい」
彼女の気が変わってしまう前に。
僕は志穂ちゃんを手招きしてベッドの前まで誘いこむ。
「膝の間座れる? ちょっと狭いけど。
それで、座ったらパーカーを外してもらって……」
「ぬ、ぬがせて」
「……え、服を?」
「――ち、ちが。
あ、あたまのやつっ!」
被っているフードを取ってみると、志穂ちゃんはまるで猫のように背中を丸めて、僕に頭を差し出す。
……これを、撫でろと? それも褒めながら。
いや、やるしかないけど。同級生の女の子にすることか? これが。
「えーと、その、志穂ちゃんは、凄いね」
褒め言葉といわれても大して語彙力のない僕には月並みなことしか言えない。
志穂ちゃんの長い髪がさらさらと僕の指の間を泳ぐ。
ずぼらそうな性格からすると、意外だが、髪はしっかりと手入れが行き届いていて、触っているとなんだか癖になりそうな心地良さがあった。
「も、もっと、ほめて」
むしろ僕の方が夢中になって、ナデナデとしていると、志穂ちゃんの声がする。
懇願するように語る彼女の声はつい先ほどまでとはまったく異なり、砂糖が溶けたような甘い声だった。
……その声を聞いた僕は意を決して、彼女の耳元で囁く。
「――うんうん、志穂ちゃんは偉いよ。いつも頑張っててほんとに偉いね。
志穂ちゃんのこと僕はずっと見てたからね。
……そうだね、今日のことはもう忘れちゃって、僕と一緒に遊んじゃおっか」
……ほんとに、こんなので満足するんだろうか。
僕は少し不安に思って、彼女の横顔を覗いてみる。
「えへ、えへっえへへ」
滅茶苦茶笑ってるっ!?
え、なにやっぱこの子病んでるの?
彼女の態度に思わず手を止めてしまう。
すると、志穂ちゃんは「……おわりなの?」と小さく言葉を零した。
慌てて再開すると、すぐに先ほどまでと同じ、えへへ、という少し不安に感じる笑い声が聞こえだす。
もしかすると。
僕にはこういう才能があるのかもしれない。ASMRだか、催眠音声だかの。
……今度FA〇ZAで覗いてみようかな。
そのまましばらく彼女の頭を撫でたり、ポンポンしたりしていると、次第に誉め言葉の方に限界が来る。
そもそも今日初めて会った子を褒めるなんて、極々普通な高校生に過ぎない僕には難しい。
僕は褒めるより、褒められる方が得意なのだ。
「じゃあ、このままおねんねしよっか。ほら、僕のひざの上つかって」
「……うん」
ということで眠らせにかかる。今の志穂ちゃんなら、僕の言うことも多少は聞いてくれそうだし。
僕の言葉に誘われるかのように、彼女の頭が膝の上に乗って、髪の毛がベッドに広がる。
「おやすみ、志穂ちゃん」
そう言って、彼女の唇にそっと指をつける。
すると、ぶるりと肩が揺れた後、横を向いた志穂ちゃんは僕のお腹に顔をうずめたまま、寝息を立てだした。
……果たして、なんとかなっているんだろうか。これ。
そんなことを思いながら、志穂ちゃんと一緒に保健室で過ごす。
幸い、人が来ることはなかった。
チャイムが鳴る。
――そうか、もう昼休みか。
そろそろ終わりにしないとまずいな。
「志穂ちゃん、もう起きないと、先生来ちゃうかも」
「……ぐ、ぐー」
……起きてるなこの子。
丸くて可愛い顔だけど、狸寝入りはあまり得意じゃないみたいだ。
んー、どうしようか、流石にこのままってわけにはいかない。
昼休みとなれば人が来るのは時間の問題だし。
あ、そうだ。
志穂ちゃん、脅迫しちゃおう。
僕は眠っている志穂ちゃんの頭をふとももに押し付けながら、こっそりと制服のボタンを緩める。
そしてそのまま制服を脱ぎ捨て、志穂ちゃんの顔ごと下から撮影する。
そうして、パシャリと撮った写真には半裸の僕とその膝の上で眠る志穂ちゃん。
――完璧だ。
僕は志穂ちゃんを起こすため、体を揺する。
「志穂ちゃん。起きて。早く目開けないとえっちなことしちゃうよ」
「え、えっちっ!?」
「あ、起きた。えっちなことはなしね」
よし、後はこの写真で……。
って、思ったけどあれ?
……何か見られてるな。
それも顔じゃない。顔よりもちょっと下を……。
「――ふ、ふくっ!」
あ、着るの忘れてた。
……ま、別に変わんないか。
あのアカウントにアクセスされた時点でもっとエグイの見られてるし。
僕は顔を真っ赤にしてガン見している志穂ちゃんはよそにスマホを取り出す。
そして、先ほど撮った写真を見せながら、
「もし志穂ちゃんが裏垢のこと黙っててくれなかったら、……この写真、ネットに上げちゃうからね」
静かに、言葉を発した。
……もちろん、実際に上げる気はないけど。でも、こう言っておけば多少の脅しにはなるはずだ。
「――あ、あの」
……そう、思ったんだけど。
「…………そ、それ、ほしい」
……全然意味なさそうだな、これ。
僕はため息を吐きながら、彼女の頭を軽く撫でて、
「……じゃあ、それあげるから黙っててね」
そう、小さく呟いた。
「そ、それじゃ、じゃあね。ひーくん」
「あ、うん。さ、さよなら。えと、また来るの?」
「くる」
そうか、来ちゃうか。
できれば今度来るときはクール系清楚病弱美少女として来てくれたら助かる。
今日のことは忘れるからさ。
――こうして僕はようやく、人生の終わりを乗り越えることに成功したのだ。
来世に祈りをささげる羽目にならなかったのは幸いだが、でもやはりショックだ。
裏垢がバレたことと、志穂ちゃんがすごく残念そうな子だということが。
でも、ここまで知られちゃったならむしろ仲良くなれる気もする。
友達のはずだし、一応。
……友達?
そのとき、僕の頭にもう一人の友達の顔が浮かんだ。
……あれ。柏木さん来るの遅くない?
あああああああああああっ!
なんであそこで日和ったんだ私は!
もっと、すごいことお願いするつもりだったのにぃ!
しかも絶妙にキモいしっ!
あ、頭撫でろって、しかもほ、褒めてもらいながらなんて。
ひ、ひーくん。すごく良い匂いした。膝枕も柔らかくて、あったかくて。
……あんなにくっついた状態で、寝られるわけがないよぉ。
それになにより、これだ!
私はスマホに保存された一枚の写真をタップする。
「うへへ、わたしとひーくんが、いっしょにうつってる」
し、しかもひーくんは裸だ。わたしの顔が間抜けすぎるのが欠点だけど、そんなのを差し置いてもこんな写真、お宝すぎる。
家宝にしよう。そうしよう
気味の悪い笑みを浮かべながら、そう心の中で呟いたときだった。
「ねぇ、キミ」
「ひゃ、ひゃい」
急に後ろから声をかけられて、慌ててスマホを隠す。
声の主を確かめようと顔を上にあげてみると、そこにいたのは知らない女の子だった。たぶん、同い年の。
……う、この人、ちょっと怖い。
派手な感じではないけど、なんか、気に入らないことがあったら無言で詰めてきそうな雰囲気がある。
苦手なタイプだ。
「な、なにか、用?」
「ちょっと来てよ。こっち」
腕を強引に引っ張られて、階段裏の陰まで連行される。
抵抗しようと足をばたつかせても、私の小さい手足じゃ、まるで奇妙なダンスでも踊ってるように見えるだけで効果はない。
「や、やめへぇ」
ふ、不良なのか!? カツアゲされるのか!?
……うぅ、痛いのはいやだ。こんな目に合わないために地味な恰好してきたのに。
――せ、せんせい呼ばないと。
「――なんで保健室から出てきたのかな?」
「……え?」
私がビクビクとうずくまっていると、唐突にそんなことを聞かれる。
……ほけん、しつ?
もしかして、ひーくんの関係者?
先ほどまでの記憶が鮮明に頭の中を流れだす。
ま、まずい、気がする。
この人がひーくんの何かは知らないけど、とにかく逃げないとまずい気がしてならない。
「か、かえります。ごめんなさい」
「待ってよ」
く、首掴んできたこのひとっ!?
え、腕とかじゃなくて、首なの?
不良だ。
絶対そうだ間違いない。
手冷たすぎるし、三人くらい、たぶんころしてるし。
――に、にげないとっ。
命の危機を感じた私はなりふり構わず暴れ出す、そして、どうにか拘束を解いた私はとにかく人がいるところを向かって走り出した。
走って、走って、後ろを確認する暇もなく、とにかく走り続けた。
教室まで辿り着いたとき、女はもういなかった。
そう、私は生き残ったのだ。
……うぅ、こわかったよぉ。
やば女だ。あいつ、ぜったい。
「宮野さん、だっけな。逃げられちゃった。
……あんな顔する子じゃなかったと思うけど。
――渚くんに、聞かないとな」