貞操逆転世界ならコミュ症でもクール系病弱美少年でいけるらしい 〜あっ!隠してやってた裏垢のエロ自撮りがバレたぁ!?〜 作:しゃふ
「……んー、分かんないなぁ」
土曜日。
学校がないこともあって、家でぬくぬくしていた僕は特にやることもなく、スマホとにらめっこをしていた。
……やっぱ、特定されるようなものは投稿してないと思うんだけど。
僕はひとしきり自分のツイートを見返した後、スマホを床に置いた。
かと思えばすぐに持ち直して、今度は写真フォルダを確認し始める。
……完全に中毒だな。
志穂ちゃんにバレてから、自撮りは撮っていない。
何が原因でバレたのかは分からないけど、たまたまツイートが流れてきたって話を信じるとすれば、最近の投稿に原因があるはずだ。
特に自撮りは怪しい。特定につながるようなものが映り込んでいる可能性はなくはないし。
……ツイートするときはちゃんと確認してたんだけどなぁ。
「……まぁでも、いっか」
幸い、志穂ちゃんに関してはなんとかなりそうだし。
もしかしたらまた、"お願い"を聞かせられることはあるかもしれないが、意外とこっち側でコントロール可能だと分かっている。
他の人にバレる可能性も、新しく写真を上げない限りはないだろう。
……そう、新しい写真を上げなければ。
――暇だ。すごく暇だ。
それは、いつもならこの時間、自撮りの撮影準備に勤しんでいたからだ。
暇は嫌いだ。好きじゃない現実と目を合わさせられる気がして他ならない。
学校に通うようになってからも、それは変わってなかった。
……こういうとき、前までは玲衣が連絡してくれてたのに。
《日陰@__hikage214》
さみしい。
いつの間にか、手が勝手に動いていた。
こういうのは病みアピっぽくてあんまりしないけど、でも隙間の空いた心を埋めるためには、こんな方法しか思いつかなかった。
『どした? 日陰くん。なんかあった?」
『私は日陰くんの味方だよ。話聞こうか?』
『ひ、ひーくん。そうなの?』
うへへ、やっぱたのしいこれ。
自分のことを気にしてくれてる人がいるってのはやっぱり嬉しい。
でも、やっぱり言葉だけのツイートじゃ、見てくれる人がいつもより少ないな。
「……今日くらい、いいよね」
どうせ志穂ちゃんにはバレてるんだし、自撮りの一枚や二枚程度なら、上げてもセーフな気もする。
うん、きっとそうだ。
僕はぶかぶかなパジャマを脱ぐため、立ち上がって、お腹に手を突っ込む。
――ちょうどそのとき、部屋の前の廊下から、音がした。
「渚、来週からの学校なんだ――」
「あ」
バタンッ
数秒の静寂の後、ドアが閉まる。
………まったく。
相変わらず、人生というのは都合が悪いことが多いらしい。
なんか、慣れてきたなこれも。
まぁ、今回に限っては言い訳は容易い。
そもそもここは僕の部屋、学校の保健室で目撃されるのとは話が違うのだ。
廊下の前でうずくまっている姉を部屋に蹴りを入れて、乱雑に呟く。
「暑いから着替えてただけ、てかノックしてよ」
「え、あ、その、ご、ごめん」
「次やったら南京錠かけるから」
「あ、あれってドアノブにもつくの?」
知らん。
「で、なんの用なの?」
「えっと、さっき学校から連絡があって、来週からクラスの方にも行ったらどうかって」
「……え?」
クラスの方、つまり保健室じゃなくて教室の方に通うってことか?
……え、やだ。
そんな態度が察されたのだろうか、姉はぺちゃくちゃと早口で言葉を発しだす。
「あ、べつに絶対ってわけじゃないから。
うんうん、そうだね。女の子の集団に渚を突っ込むなんてお姉ちゃんがどうかしてたよ。
すぐに断るべきだったよね、ごめんね変なこと聞いて、じゃあさっさと電話かけてく――」
とりあえず思考の邪魔な姉は無視して、言われた言葉を飲み込み始める。
……んー、どうしようか。教室、かぁ。
正直、保健室の雰囲気は好きだ。
先生は優しいし、柏木さんは良い子だし、志穂ちゃんは……まぁ、面白い子だ、可愛いし、うん。
……でも、もしかすると。
今なら教室だっていけるんじゃないだろうか。
僕の対人経験値だってかなり溜まってきている。引きこもってたときと比べるとかなりの成長だ。
「じゃあ、月曜とりあえず行ってみる。無理そうだったら帰ればいいや」
「……え、まじで? 私が言っておいてなんだけど、だいじょうぶ?」
「ん、たぶん大丈夫でしょ」
案外行ってみれば馴染めるかもしれない。暗黒の中学時代の記憶だって、だいぶ薄れてきているしね。
あと、僕クール系清楚病弱美少年だし。話しかけるのを躊躇する儚さもまとってるし。
……そう、思ってたんだけど。
月曜日、教室の扉を開けた僕はその考えを激しく後悔することになった。
「おはよう。僕は日浦渚。
渚って呼んで――」
「ねえねえ、日浦くんっ! 私の隣の席空いてるからこっちで話そ!」
「ちょっと、抜け駆けすんなって! 日浦君、そんな子ほっといて私と――」
「……みんな。落ち着いてよ、困ってるよこの子」
「あ、あ、あの、そんないっぱい」
大量のクラスメイトに囲まれ、鼓膜をつんざくような激しい言葉の嵐が僕の身体を襲う。
「こっち、こっちきて。ね。なにもしないからさ」
「ぜったいやましい気持ちで言ってるでしょ、アンタ」
むり、これむりだ。
人が多すぎ、近すぎ、喋り過ぎ。
ナチュラルに肩とか、手を掴んでくるし。なんか目がすごく怖いし。
やっぱり早かったみたいだ僕には。
よくよく考えると、今まで学校で仲良くなった子は、圧倒的良い子の柏木さんと珍獣志穂ちゃんの一人と一匹。
対人経験値を集めるには相手が弱すぎた、ド〇クエで言うところのスライムとももんじゃだ。
キンキンと声が響く頭がパンクしそうになったそのとき、ふと僕の隣を一人の少女が通った。
その顔を見たとき、僕の膨れ上がった心臓は急に静寂を取り戻して、呼吸を始める。
「れなちゃんっ!」
そこにいたのは柏木さんだった。
聞いていなかったけど、どうやら同じクラスだったらしい。
「――なぎさ、くん?」
「た、たすけて、れなちゃん」
僕は彼女の背中に張り付くように重なる。情けないが、仕方ない。
あのまま揉みくちゃにされていると、もっと酷い目に遭う。そんな予感がしたからだ。
「なんで、ここに?」
「そ、そんなのいいから。匿って!」
そう言って、彼女の裏からクラスメイトの顔を観察してみると、何故か全員、怯えたような瞳でこちらを見ていた。
……ん? どうしたんだろう。
「……えっと、柏木さん、その子と知り合い?」
「大丈夫だよ。渚くん、私がどうにかしてくるから」
クラスメイトの言葉も露知らず、柏木さんは僕に対して、優しくそう語りかけた。
……彼女のことだ、上手いこと場を収めてくれるに違いない。
そう期待した僕の目に次に飛び込んできたのは、制服の袖を捲って、自らの腕を露わにする柏木さんであった。
瞬間、近くにいたクラスメイトの身体が浮いた。
「……え、そんな暴力的な解決法なのっ!?
ちょ、ストップ! 首は駄目だって礼奈ちゃん!」
「だいじょうぶ、ここなら運が良ければ死なないし」
「悪かったら死ぬのっ!?」
だ、ダメだこの子。このままでは暴力沙汰……というかもう半分そうなってる!
僕は柏木さんの腕を背中から抑えつけ、どうにか掴まれている少女から引き離す。
「――こ、ここは僕に任せて。
それじゃあ、さよならっ!」
そう言い残した後、柏木さんを教室から連れだした僕は、保健室へと急ぐのだった。
「えっと、授業行かなくていいの?」
「……体調悪いから。休む」
え、ほんとに? さっき関節技決めてなかった?
そんな突っ込みを入れようとしたけど、どっと押し寄せてきた疲れに負けて、身体が勝手にベッドへ倒れ伏せていた。
そのままベッドで考える。
……そういえば僕、クール系清楚病弱美少年だったな。
クラスでは失態を見せてしまったけど、柏木さんの前では素の自分を見せるわけにはいかないのだ。
「――ありがと、礼奈ちゃん」
僕は彼女の手にそっと触れながら、小さく言葉をつぶやく。
「……そんなこと言わなくていいよ、渚くんには私がついてるから」
「……ん、あ、そうなんだ」
意外と、彼女の方からも大事に思われてるのかな。
……いや、そうでもないとあの教室での態度はないか。
「一個、聞いていい?」
「……え、なに?」
そう思ったとき、唐突に柏木さんの声が低く、尖ったものへと変化した。
「宮野さんとは、知り合いなの?」
……宮野、え、誰?
――あ、志穂ちゃんのことか。
あんまり苗字のイメージがなかったから忘れてた。
「えっと、知り合いというか、知られ過ぎてたというか……。
んー、強いて言うならともだ――」
……いや、待て。
確か玲衣と最後に話したときもこんな感じのことを話していた。
柏木さんはちょっとだけ玲衣と似た雰囲気なとこもあるし、この話題はちょっと危険かもしれない。下手するとあのクラスメイトと同じ目に――
冗談じゃない。僕は首絞めプレイは趣味じゃないのだ。
「……宮野さんとはなんにもないよ。僕の友達は礼奈ちゃんだけだから」
こんな素直な子に嘘をつくのも気がひけるけど、でも玲衣みたいに喧嘩しちゃうのはもっと嫌だ。
「――良かった。ごめんね、変なこと聞いて」
僕の答えを聞いて満足したのか、柏木さんの声は先ほどまでとは打って変わって穏やかなものに変化していた。
その声を聞いて安心した僕は、ふと数日前に考えていたことが頭によぎった。
「あ、そうだ。一つ試したいことがあるんだった」
「礼奈ちゃん、ちょっとここで寝てみてくれない?」
「……へ?」
僕は自らの膝をぽんぽんと叩きながら、彼女に語りかける。
「いや、こういう才能あるのかなって思って。
嫌だったら別にいいけど……」
「い、嫌なわけ、ない」
そういうと、彼女は僕の膝にゆっくりと頭を下ろした。
志穂ちゃんと違って、僕と同じくらいの背だから少し窮屈ではあるけど、でもこれはこれで良い。
彼女の頭を軽く撫でてみると、お腹のあたりの制服がぎゅっと引っ張られ、それに伴い、僕の身体も前に寄る。
「ほら、体調悪い子は寝ちゃおうね」
「……やだ、もっと、こうしてたい」
「わがまま言いません」
いつもと違って、甘えるように声を上げる柏木さん。
思わず、心音が高まるのを感じた僕は身体を少し後ろに倒す。
そのまま、彼女の頭をぽんぽんしていると、ほんとうに体調が悪かったのだろうか、すぐに眠ってしまった。
そんな姿に満足した僕は彼女の身体を隣のベッドまで運んだ。
そして、いつもの定位置へと戻ろうとした、そのとき。
「……寝言?」
ふと、眠っている彼女から声が聞こえた。
人の寝言を聞くなんて、縁起が悪くて嫌だけど、でもそのときは何故だか気になり、彼女の枕元まで歩いて耳を立てた。
「……日陰、くん」
「え? 今なんて――」
よく、聞き取れなかったけど、
でも、なにか凄い怖いことが聞こえたような気がした僕は――
そのまま耳を塞いでベッドにもぐりこんだ。
……うん、人の寝言なんて聞かない方がいいだろう。