カンピオーネ!~Another Tales~   作:緑葉 青

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第九話

「――――加速、100倍速!!」

 

 自分の真横から稲妻の束が押し寄せてくるのと、内部時間制御が発動するのはほぼ同時だった。

 100倍まで自分の主観的時間を速めたのは久しぶりだったが権能の行使に支障はない。

 脇腹の痛みを抱えながら幾条もの雷撃を避け、狼達の囲みを突破する。そしてそのまま自分の周りを飛んでいたクロたち十数羽をヴォバン侯爵に向かわせた。

 

(――――加速、10倍速×13!)

 

 飛行速度が跳ね上がったクロたちは編隊を組み、そのままヴォバン侯爵を討ち滅ぼさんと突撃していく。

 

(―――――ッ!)

 

 クロたちが襲い掛かる直前、新が目にしたのは不敵な笑顔をしてこちらを見つめる侯爵の顔だった。

 侯爵がおもむろに右手を振り上げたその瞬間、彼の周りの大気が揺らぎ始める。その数瞬後、揺らいでいた風は縮小された竜巻へと変貌した。

 その竜巻は、その大きさこそ小さいが、感じられるエネルギーは大型のそれと遜色ない。おそらく、災害を引き起こすほどの規模の竜巻を無理やりあの小ささにまで圧縮しているのだ。

 

(あの風の壁じゃあ、突撃していったクロ達は皆撃ち落されるな……)

 

 新は状況を一目で把握する。

 このままでは自分の発した攻撃は一切届かないと分かっていても、彼の口元は笑みを浮かべていた。

 

(―――――今だ!!)

 

 クロ達の先頭が正に竜巻へ接触しようとしたその刹那、拳を握って新は命令を発した。

 

「何!!」

 

 竜巻に衝突したクロが、突如として輝いたかと思うと黒の光を放ちながら爆発したのだ。

 爆心点を中心とし、ヴォバン侯爵を守っていた風の層が大きく揺らぐ。

 そしてその爆発はそれだけでは終わらない。その数瞬後、立て続けにクロたちが竜巻に激突して爆発していく。

 

「ぐ――おのれっ――!」

 

 爆発の衝撃に侯爵が顔を歪ませるが、今から対処したとしてももう遅い。新は成功を確信した。

 

「暁の焔よ!天上より舞い降りて、我がために光り輝け!」

 

 クロの攻撃力を高める為の聖句を唱える。

 およそ10体目と思われるクロの爆発と竜巻に風穴が開かれるのはほぼ同時だった。風の壁を突破した3体のクロが黒の焔を身に纏い、侯爵へ殺到していく。

 

 黒色の焔が煌めいた。

 

 「ぐっ…………!」

 

 腕を顔の前に出し、熱風から身を守る。

 強風が吹き荒れ、大粒の雨が自分の身を容赦なく叩き続ける現在であっても黒色の爆風によって生じた衝撃波はその威力を大きく減じたにせよ、ここまで届いてきた。自分の体に届く炎の熱さは、呼吸がその時出来ない程だ。

 新は爆発の中心点を見据える。

 対艦ミサイルが直撃したような爆発の結果だろう、そこには小さなクレーターができてしまっている様だった。

 この攻撃をまともに食らえば、いかに強力な魔術耐性を持つカンピオーネであったとしても無事ではすむまい。

 

 しかし、

 

 新の目は先程とは違い、険しい色を湛えていた。

 

「………………ちっ」

「くくく―――中々に効いたぞ、小僧」

 

 思わず舌打ちをしてしまう。

 煙が去った後、其処には2本の足で大地に立つヴォバン侯爵の姿があった。

 とはいえ、完全に効いていない訳ではない。衣服は焼け落ち、そこかしこに軽度とは思えないような火傷が幾つも見受けられる。

 しかし、新にとってはさっきの攻撃でダウンですら奪うことができなかった事が深刻だった。

 本来なら重傷を負っていたと思われる攻撃でさえも凌ぎ切った原因は明らかだ。侯爵は攻撃を食らう直前自らの右腕を狼の前足に変身させ、それを翳すことで防いだのだ。

 あの変化は即興だった為か、新の攻撃を防ぎきることはできなかったようだがそれでも半分以上の威力は減退させてしまったようだ。

 

(くそ……やっぱりあの狼は太陽の焔に対して強力な耐性を持っているのか?だとしたら、クロにとって相性最悪じゃねーか)

 

 頭の中で渋い顔をするが、その理由を考える時間も余裕も自分にはありはしない。

 顔を喜悦に歪ませる侯爵がおもむろに手を前に翳すと、突如として巨大な雷が掌に集まり始めた。

 もしもこの規模の雷をまともに食らえば、呪力耐性を万全にしていたとしても大ダメージを免れることはできないだろう。

 

(くそっ……)

 

 一時的に体内の呪力を大量に使ってしまった新は臍を噛んだ。

 今の自分の消耗を考えると、張ってきた稲妻を避けられるだけの内部時間加速は行使できない。故に今は、耐久力を高める為に体に呪力を張り巡らせるしかない。

 以上の事を分析して新は衝撃に備え、身を固くしたが、

 

「―――――――ぬうッ!!?」

 

 今まさに稲妻を放とうとしたヴォバン侯爵がその場から飛びのき、その一瞬後侯爵が立っていた場所に銀色の閃光が走り抜ける。まず間違いなく、少しでも避けるのが遅ければ侯爵の体は2つに分断されていたはずだ。

 

「この攻撃は………」

 

 口からこぼれた呟きは、驚きと安堵が混ざり合ったものだった。

 そして銀の閃光の発射元を見る。そこには傷だらけになりながらも、いまだ闘志の衰える気配のないサルバトーレ・ドニが佇んでいた。

 

「全く、少しは僕の事も気に留めてほしいものだけどね、爺さん?」

 

 衣服が焼け焦げ、切り裂かれていながらも彼のその顔には狂気を纏った笑顔を湛えている。傍目から見るだけでも幾つもの外傷を負っているのが見えるが、銀に輝く右腕も今もなお眩しいほどの光を放っていた。

 

「来て欲しくない時に此処まで進んできたものだな……、まあ、それでこそ私の獲物足り得るのだろうが」

 

 侯爵は苦笑する。

 その言葉通り、クロ達の援護もあったとはいえ数百頭の狼と暴風、そして稲妻の包囲を突破するのは並大抵の事ではない。サルバトーレを抑えつけていた戦力を考えれば、いかに彼がクロスレンジでの戦闘に特化しているとはいえあの程度の時間で突破することは驚異的と言っていい。

 

「やあ、新!君の鳥たちにはとても助けられたよ!でも、もう少し僕も電撃を斬ってみたかったかな?あの鳥たちさ、あまり僕に回してくれないんだもんなあ」

「………そりゃどうも。ついでに言っとけば俺はアイツらをクロと呼んでる。呼び方は好きにしてくれて別に構わん」

「へえ、じゃあ僕もクロって呼ぼうかな。いい子たちじゃないか」

 

 新はサルバトーレと言葉を交わしながら、クロ達の優秀さに驚愕していた。

 いつの間にか、雷撃に対して自分たちで対処法を編み出していたらしい。生き残ったクロ達に対して聞いて見ると、何度も食らっているうちに雷が発せられる兆候に気付き、そのタイミングに合わせられるように周囲の状況を分析し続けたとのことだった。

 

(なんつーか、俺よりも賢いんじゃないかこいつ等………)

 

 決して長い付き合いという訳では無いものの、クロ達の頭の良さについては、まさかここまでとは思っていなかった。

 もしも、地球上のすべての烏の頭の良さががクロたちレベルだったなら、人類との生存戦争が起こっていたかもしれないなと、新は想像した。

 その後、その想像をひとまず止めて新の頭の中で誇らしそうに自分たちの成果を発表してくるクロに賞賛の言葉を贈る。その言葉に嬉しそうな声を上げるクロたちの声を耳に入れながら、新はヴォバン侯爵に鋭い目線を送る。

 

「いくらアンタが強者でも、1対2じゃ分が悪いんじゃないのか?」

 

 言葉だけは気安く、新はそう侯爵に話しかける。

 

「ふん、生憎私はこの程度の逆境には飽き飽きするほど出会っているのでね。たかだか我が身よりも強い敵と戦うことを、私がこれまでしていないと思うか?ましてや、君たち単独では私の力にはまず届かんだろうに」

 

 新の言葉に対して侯爵は事も無げに言い放った。その言葉とこちらを射抜いて来る目には動揺や狼狽えが全く感じられない。虚勢を張っているわけでもなさそうだった。

 新はそれを見て、急に自然と背筋が寒くなるのを感じる。

 

(凄いな…………主張云々はともかく、アイツからは確固たる自信が感じられる。相対しているのが普通の人間だったらあれだけで腰が抜けてるんじゃないか?)

 

 新は自分の敵の底知れ無さに顔が強張るのを感じるが、戦うことをやめるわけにはいかない。体の呪力を練り、攻撃態勢に入る。

 

(いくぞ!!!)

 

 拳を握った瞬間、3人の頭上を飛び交っていたクロたちの姿が歪んでいく。

 形が定まらなくなり、黒色の魔力の塊になったクロたちは流れながらヴォバン侯爵の真上に集まり始める。

 

「うん?何をしようとしているかは分から――――」

 

 侯爵がそう呟いた瞬間、大地を蹴ったサルバトーレが一直線に斬りかかる。一瞬不意を突かれた侯爵は、自分の立っている場所から飛び退いた。

 

(まさか、あれは私の目を引き付けるための陽動だったとはな。それ以外に意味は無いという事は考えにくいが、己の最大火力をその為に使うのか)

 

 ヴォバン侯爵は頭上の黒い魔力の塊を横目に見る。もしあの球体が制御されていなかったとしたら、その瞬間に今も尚凝集し続けている黒色の焔が周囲の動植物や建造物を舐めつくし、焼き尽くすだろう。

 最も、既にこの周辺には破壊されるような目ぼしいものは既に砕け散り、燃やし尽くされてしまっているが。

 

(あれに下手に手を出せばいかに私といえどしばらくの間動けなくなる。ここは監視にとどめ、目の前の標的を狩るのが先決か)

 

 そう結論付けたヴォバン侯爵は、上空から雷を呼び寄せて自分に向かってくるサルバトーレに叩き付ける。

金色の光がサルバトーレを焼き尽くさんとするが、彼の銀色の腕によって振り抜かれた一閃によって両断された。

 

(………ふむ、やはりそうか)

 

 たとえそれが非常に硬質なものや、質量を殆ど持たないものであっても例外なく断ち切ってしまう彼の剣は、ヴォバン侯爵本人にも十分な脅威として認識される。

 しかし、

 

「なっ!!」

 

 サルバトーレから驚きの声が出る。

 さっきまでは例外なく一刀両断にできていた雷光が、断ち切った後も変わらずに彼の眼前に迫ってきていた。

 

(このままじゃ当た―――――!!?)

 

 サルバトーレは反射的に剣を目の前に翳し、攻撃に備える。

 しかし、彼自身の権能は攻撃にのみ完全に特化したものであり、しかも本来は何の変哲もない剣が落雷の衝撃に耐えられるかどうかは分からなかった。

 彼のとっさの判断は、間違いなく失敗だったといえるだろう。

 が、

 雷光が彼の体を焼き尽くさんと迫るその刹那、雷の動きが遅くなる。それはまるで、早送りにしていた映像を突然スロー再生にしたような光景だった。明確な殺意をもって自分の身に迫らんとする稲光の線一本一本が弾け、曲がりくねっている様がはっきり視認できるようになってしまう程の。

 

(これは、新の力――――!?)

 

 サルバトーレはこの城に来る前に、南条新が自分の保有している2つの権能について話していたのを思い出した。1つは、神獣である八咫烏を召喚して使役する権能。そしてもう1つは小難しい話だったからよく覚えていないが、時間を操る権能だった筈。

 だとすれば、稲妻が急減速しているこの現象にも説明がつく。

 

(よし!)

 

 考えるよりも体が先に動く。

 本能的に、サルバトーレは雷を避けてヴォバン侯爵に攻撃するという選択肢を取らなかった。おそらく、これから放つ攻撃は侯爵を倒すための数少ない大きなチャンスになるだろうことを彼が直感したからだ。

 異なる時間が流れる稲妻の奔流を見据え、渾身の力でもって振り下ろす。

 

 一閃。

 

 今眼前に迫っているモノだけではなく、自分のいる周辺の稲妻総てを切り裂かんと発せられた銀色の閃光は、斬ろうとした対象だけではなくその周りの大気、もしくは空間自体も両断したような景色を見せた。

 金色の雷が切り裂かれ、弾け飛ぶ。

 銀色の腕から伸びた巨大な閃光によって、周りの風景が“ずれた”。

 それは単なる見間違いだったのかもしれない。もしくは、光の悪戯による屈折だったのかもしれない。

 しかし、いずれにしても彼の眼前にまで押し寄せてきた雷全てが消し飛ばされたことは事実だった。彼に迫っていた、“剣の一閃で全て切り裂かれないために幾層にも重ねられていた”稲妻の束が、だ。

 

「なっ!!?」

 

 ヴォバン侯爵が驚きの声を上げる。

 彼にとっても、あの包囲が一撃で薙ぎ払われることは予想外だったようだ。更にその間にも、ヴォバン侯爵ごと斬り払わんとする銀の閃光が押し寄せてくる。

 

 侯爵自身にも、この一撃を防ぐ手段は思い浮かばなかった。この光には、自分の敵を必ず一刀両断するという意志が強烈に込められている。自分までの距離を考えても、何を盾にしようと自分まで対して威力を減ぜずに届くだろうことが分かってしまった。そしてその一撃を食らえば、間違いなく死が自分を捕えてしまうであろう事も。

 ならば、成功する可能性がある手段は回避だけだ。死から逃れる奥の手が彼にはあったが、大きく呪力を使う上にそれを頼りにする戦術は使うべきではない。

 

(―――――――くっ!)

 

 自分の体を足を中心に狼に変え、走力と瞬発力を底上げする。今この時点で、銀の閃光との距離を考えればギリギリ回避することができると目算できた。

 だが、そしていざ避けようとしたその瞬間、

 

「―――ぐはあっ!!」

 

 侯爵自身の体を何かが衝突してきたと思われる衝撃が襲った。

 それ自身のダメージは少なかったものの、それよりも遥かに銀の閃光を避けるための時間を失ってしまったことが致命的だった。

 一体何が起こったのか。そう思って侯爵は反射的に衝撃の発信元を見る。

 

(――――――なっ!?)

 

 其処に居たのは、体長30㎝ほどしかない黒の焔を纏う、1匹の烏だった。

 その光景は彼の想像の外だった。侯爵はサルバトーレと対峙するにあたって、もう1人の「王」にも勿論気を配っていた。彼の神獣を使役する権能や指定した対象の時間を操作する権能については戦いの中で大体の事は把握していたが、その2つの権能の組み合わせでは自分に致命傷を与えることは難しいだろうとも思っていた。

 更に彼のできる時間短縮力のおおよその限界も把握できていたつもりだったし、その事を頭に入れてサルバトーレと対峙していた。

 

(まさか、今までは全く本気でなかったという事か?)

 

 ヴォバン侯爵は心の中で歯噛みした。

 その推測が正しければ、自分の思っていた東洋人の「王」の限界は本来よりも数倍上回っていたという事になる。自分の推測の甘さを呪った。

 

(まさか、こやつ等に奥の手を使うことになるとはな……)

 

 そう思ったその刹那、彼の体を銀色の光の奔流が襲う。

 銀の閃光が激突した所は固体、液体、気体すべて消滅して切り裂かれ、侯爵の周りの暴風でさえも斬り散らされた。唯でさえ瓦礫で埋まっていた地面も衝撃波によってむき出しになるどころか深く抉り取られ、クレバスのような割れ目が出現する程だった。

 それほどまでに“斬”の意思をサルバトーレの出来得る限り極限にまで高めたその一撃は、ヴォバン侯爵の命を奪い取り去るに十二分な威力を持っていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「はあ、はあ、はあ………」

 

 南条新は息を荒らげながら、巨大な銀の閃光に飲み込まれるヴォバン侯爵の姿を注視していた。

 侯爵も流石に自分が300倍にまで加速ができるとは思っていなかっただろう。サルバトーレの一撃から逃れようとするヴォバン侯爵に対する奇襲は思っていたよりも上手く行った。いくら何でも、あれで軽傷なんてことは考えられない。確実に致命傷を食らう程の一撃だった。

 

(さあて、どうかな?死んだかな?)

 

 光が収まるのを見ていた新だったが、そこで目を見開いた。

 侯爵が消し飛ばされた地点に何故か積もっていた塵が巻き上がり、人の形を作ったかと思うとそこにヴォバン侯爵が現れたのだ。

 流石、数百年を生きるカンピオーネともなると死者蘇生の手段まで保有しているという事か。侯爵の抜け目の無さに、新は思わず感心した。

 しかし、死者蘇生には多くの呪力が必要になるのだろう。先程までよりもずっと感じられる呪力が目減りし、疲労困憊といった風に息を荒らげている。

 

(逃がすか……!)

 

 ここでヴォバン侯爵に休み時間を1秒でも与える訳にはいかない。

 新はちらりと、上空を見上げる。其処には、今まで戦ってきたクロたちで形作られた呪力の巨大な塊が浮遊していた。その威力は、その塊がここに解き放たれれば周囲一帯を破壊する程だろう。

 そして、それが新にとっての切り札だった。あれを侯爵が単なる陽動として受け取ってくれるなら良いが、くれなくてもあれの危険性はヴォバン侯爵も承知するだろう。それならそれでもいい。

 自分の体内の呪力を練り上げ、可能な限り増幅させる。今から出現させるのは自分の力の100%の力を込めたクロだ。今の呪力を大きく減らした侯爵なら狼を使って防いでも致命傷は避けられない筈だ。新はこれで侯爵を必ず仕留めると心に決めた。

 

「暁の鳥よ!その翼は数多の悪を焼き滅ぼし、天の光を世に知らしめよ!空より降り注ぎし炎は黄金の輝きを纏い、我が力を示し光り輝け!」

 

 新が言霊を纏った聖句を解き放ったその瞬間、新が作った上空の魔力の塊に変化が生じていった。

 球体の色が変質していく。それと同時に、それまで唯集まっているだけだった魔力の流れが外に向かって解き放たれるようになった。

 そして魔力は周囲を煌々と照らしながら徐々に、鳥の形を形作っていく。3本の足を持つ、巨大な鳥の姿を。

 更にその鳥は黄金の焔を纏い、周囲の空気を揺らめかせていく。その姿は正に、神の使いと呼んでいいほどの神々しさに満ちていた。

 

「加速、350倍速―――――――ッ!!!」

 

 体のリミッターを外し、今の新にできる最大限の内部時間加速をかけて黄金色に輝く100%のクロをヴォバン侯爵に向けて突撃させる。

 

 瞬間。

 

 先程まで侯爵の立っていた地点を中心に、黄金の焔が燃え広がった。

 その直前に侯爵が浮かべていた表情は何だったのだろうか?驚愕か、それとも憤怒だったのだろうか?

 サルバトーレの一閃によってあらゆるものが斬り、薙ぎ払われたそこでは、今度は金色の炎による灼熱によって残った僅かなものでさえも焼き払われることになった。その炎に呑み込まれてしまった者は、何人であっても生き残ることはできないと思われた。

 が、しかし。

 新は眼前の光景に思わず目を見開く。

 そこには、いまだ地面に足をつけ、目に力を宿しながら仁王立ちをするヴォバン侯爵の姿があった。

 彼が致命傷と言っていいほどのダメージを受けてしまっているのはほぼ間違いはない。現に、侯爵は大きな傷を負い、服も焼け爛れてしまっているのをはっきりとここからでも見て取れる。しかし、それでも立ち続けていられることに新は愕然とした。

 

(マジかよ………)

 

 が、ヴォバン侯爵のタフさに新が呆れ返ったその時、侯爵に人影が迫った。

 その人影の固有名詞は、サルバトーレ・ドニ。

 直撃とは言えないまでも100%クロの焔に当たったのだろうか、所々に火傷の跡が見え、目に見えて消耗していることが分かる。だがしかし、彼の右腕は今も尚銀色に光り輝き目は爛々と輝いている。戦うことに、支障はなさそうだった。

 そして、今の侯爵にはたとえ現在のサルバトーレの剣であっても避けることは不可能だ。

 

(やった………)

 

 新が勝利を確信するのと、自分の視界が急に狭まってくるのはほぼ同時だった。

 地面が自分に向かって近づいて行っていると気づく。それは自分が倒れているのだと、判断するには今の新は消耗しすぎていた。

 倒れる時に痛みは感じなかった。自分の意識が沼に沈んでいくように、眠りに落ちていくのが実感できる。

 小さな音を立てて倒れこんだ新が意識を失う前に最後に見た風景は、銀色の剣を持った剣士に、老侯爵が刺し貫かれるその瞬間だった。




新「ゴッド・フェニックス!」

ヴォバン侯爵が弱く見えてしまっているのは作者の力不足です。ごめんなさい。
新が気絶してしまったのは本当に全力をクロに注ぎ込み切ったからです。主人公なのにあまり活躍してないとか思わないであげてください。作者のせいですので。

次回の第十話で第一章はおしまいです。
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