カンピオーネ!~Another Tales~   作:緑葉 青

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久しぶりの更新です。遅れてしまって申し訳ありません。

白澤の資料が少ない……!
神話での登場が黄帝とのエピソードしかないんですよね。
設定の自由度が高いと言ったらそうなんですが。


第十七話

 それは、委員会本部からとの会合を乗り切った後のこと。クーラーの効いた部屋でアイスコーヒーを啜っていた時の事だった。

 突然の轟音、そして爆発音。

 

「―――なあっ!?」

 

 小休憩と称し、会議室を1人占領して携帯電話のメール整理をしていた橘京花は会議室全体を揺らすようなビリビリとした衝撃に驚愕する。天井に吊るされていた電灯がゆらゆらと揺れ、チカチカと人工的な光が瞬く。

 橘はその直後、彼は状況確認のために部屋を飛び出し十数名の同僚が労働に勤しんでいるはずのオフィスに駆け込む。ハイヒールを身に着けている場合走ることは推奨されないが、そんな事は言っていられない。

 

「―――橘さん!」

「ちょっと!一体何があったっていうの!?あの衝撃は!?」

 

 橘がオフィスに駆け込むと、そこはパニックになっていた。日が射す窓から見える黒い噴煙を見て呆然とする者、状況を確認しようと各所に連絡を取ろうとする者。

 彼らが混乱しているのは市街地の真ん中で大規模な爆発が起こったという事象そのものだけではない。その爆発を起こした原因が問題だった。

 

「まさか―――南条君――!?」

 

 口から零れ落ちた呟きに、応答する者は誰もいない。

 しかし、その呟きは爆発の原因を正確に表していた。すなわちカンピオーネ、南条新によるものだと。

 ある程度魔術を嗜んでいる人なら明確に探知できるだろう、あの爆発の黒炎から迸る、暴風の様な呪力の迸りに。

 

(ちょっと……あんな街中で何してるのよ……!)

 

 橘の驚愕は最もな物だ。

 結社にしろ、委員会にしろ、血族にしろ、個人にしろ、魔術を生業としている人々はその全てが世間への隠密性が求められている。その原則は世界共通のもので、その人々の仕事の半分は魔術の隠蔽に充てられていると言っても過言ではない。

 勿論、人間の社会に対してほぼ関心を払う事のないまつろわぬ神はそんな事を考えることはしないし、魔術師の王カンピオーネの中にも、それを考慮に入れない者も存在する。

 しかし、彼女は南条新がそんな事をするような人間ではないと結論付けていた。

 なぜなら、最初の接触は躓いてしまったものの、朱東坂七瀬や沙耶宮馨の尽力によって委員会と彼との関係は大幅に改善されるようになったからだ。その結果、南条新が委員会とおおよそ友好的な関係を取ってくれるくらいには話の分かる人物であり、不用意に自身の権能を人前で使うことは無いと思われていた。

 

(何があった………彼がこんな昼間からあんな爆発を起こしてしまうくらいの非常事態…?)

 

 あの炎と煙の下で、一体何が起こっているか今は分からない。

 しかし、あそこの状況がどうなっているとしても、橘たち委員会のやることは変わらない。

 若干落ち着いてきた委員会員が橘の方を注目しているのを確認し、柏手を打ちながら声を張り上げる。

 

「総員!非常事態タイムだよ!岩戸と蜜岩の班は現場に向かって情報収集と民間人救助!私の班はここへ残って情報収集と中央への連絡!円野崎の班は現場周辺での情報操作!――――皆、気合上げていこう!」

「「「「はい!!」」」」

 

 橘の指令に、フロアの全員が直立不動の体勢で答えてくれた。

 その直後、バタバタと同僚が走っていく音を聞きながら、彼女は自分に充てられたデスクへ滑り込む。

 

(室長はまだ学校だからな………まあこんな事態じゃ何かが起こっているってのは分かってると思うし、連絡から入れようかな)

 

 そう思って、備え付けの電話を手に取る。

 このまま何事もなく終わると思われた一日。だがそれは爆音と共に崩れ去り、夕焼け空のような鮮血の色をこの町に降り注がせようとしていた。

 

「はい、はい。皆直ぐに向かってくれましたよ馨さん―――ええ、マニュアル通りにちゃんと遂行できて―――――――――」

 

 遠崎分室室長、沙耶宮馨と話していた橘。しかしその会話はある物を見て唐突に途切れてしまう。電話の向こうからも声が聞こえない事を見るに、どちらも同じものを見て言葉が出ずにいるのだろう。

 

「何、アレ」

 

 それは、空に浮かぶ太陽よりも白く輝いていた。

 先程の爆発をはるかに凌駕する呪力を、あの白い何かは孕んでいた。

 4本足で浮かんでいるのを見るに、何かの獣だろうか?しかし、そんな観察は何の意味をもたらさない気がした。

 

「まさか……まつろわぬ、神………?」

 

 宇志ノ杜公園の事件からおよそ1か月。考えられていた最大規模の遠崎市の危機を脱し、当分は大きな事件はないだろうと思っていた矢先の出来事。危険性で言えば先月を超える様な神の降臨に、橘は思わず遠崎市からの逃走を選択したい気分になった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 神と神殺しの戦いは、上空にあった。

 遠崎市北部を覆う、轟音を上げながら吹き荒ぶその全てが莫大な呪力を湛えた白い光の渦。その渦が押しつぶそうとしているのは、白の光からすればあまりにもちっぽけに見える、黒い焔だった。

 

「加速、10倍速!」

 

 新が見据えるは、こちらに向かってくる純白の光線約30本。イージス艦に搭載されているスタンダードミサイルの如き速度で襲い掛かるそれを背中から生やした黒の翼で回避し続け、躱せないと判断した物は黒の焔を叩き付けることでいなす。

 

(暁の鳥よ、天空を貫く炎槍となりて我が敵を打ち払え!)

 

 幾つか体に掠りながらも何とか光線を全て振り切った新は、右手に凝縮していた炎を解き放つ。

 白で統一されたかのような光の渦の中。その全てを貫かんと、黒の焔が唸りを上げて突き進む。それを防ごうとする白の風は黒の槍を阻むことが出来ずに次々と貫かれていった。まさしく、単騎で敵陣を突き進む騎兵の様に。

 しかし、その攻撃が届くことは無かった。

 

(――ッ!)

 

 黒の槍の進む先の白の光が、大きくなる。

 これまでよりもさらに倍加した呪力の渦が、新の焔を包み込む。渦と対比されれば蟷螂の斧のような焔は即座に押しつぶされた。

 

(くっそ………これで7回目だぞ)

 

 戦闘開始から5分。

 わずかそれだけの間に、新は一人で空中要塞に挑みかかるような真似を行い、7回の反撃を全てあの白い光に防がれてしまっていた。

 

(相手の攻撃を躱すのは難しくない。仮に直撃を食らっても数発くらいなら戦うのに大した支障はないはず。……でも、こっちの攻撃も当たんないんじゃどうしようもねーよな)

 

 距離を取って渦の観察を行う。

 全長は約2~3キロ、上空1000メートル付近を滞空し、ゆっくりと新の方に向かって移動しているのが分かる。まるで創作の中だけに登場するホワイトホールのような感じだ。そしてその中心。膨大な量の白い光を吐きだすそれが、今回自分が戦っているまつろわぬ神「白澤」だ(名前は、神自身が名乗った)。

 

(間違いなく地力はあっちが上だろーな。スケールが違うし。勝つためには何とか中心に入り込むことが不可欠。遠距離戦じゃ勝ち目はない)

 

 ふと気が付けば、光線がこちらに近づいているのが目についた。約100本単位の光の束が幾つもこっちに向かってくる。それを見るや否や、新は背中に呪力を溜めて飛翔した。自身を八咫烏と見立てての飛行はぶっつけ本番だったから操作はぎこちないが、戦闘に堪えられないほどでは無い。やれると思ったからできた、という感じだ。

 何とか光線を振り切りながら、新は考える。

 

(あの光はクロ達を消したものとほぼ同一。おそらく、デフォルトで着いている力を増幅させて操っているんだ)

 

 白澤の光は八咫烏をいとも簡単に消滅させた。

 その力は新自身が振るう炎を消滅させないところからアンチ太陽的な力ではないことは予測できるが、だからと言ってあの光をどうこう出来る手段が自分にはない。新は白澤という神について全くと言っていいほど知識を持っておらず、対策を構築できないからだ。

 

(だけどま、いくつかの予測は立つか?

 あの神は、自分は秩序を守る神と言った。という事は、何処かの守り神として崇められてきたのか?アテナみたいな。………だとしたら堅そうだな。アイギスみたいな楯持ってないといいけど―――――ッ!加速、20倍速!)

 

 真上から来た光線を、内部時間制御能力を駆使して回避する。少し髪にかすった。

 

(―――と、言う事はだ。あの神が守り神的存在であるなら、クロは何で消された…………もしかして、八咫烏が災害の一つにでも認定されたのか。それなら―――)

 

 視界の隅に、幾つもの光が瞬く。

 だが、距離を取れば光線の弾幕は近くで戦うよりもずっと薄くて済む。

 現状新が白澤に対してアドバンテージを持っている数少ない点の一つである速度を生かし、必要最低限の迎撃で攻撃を防いでいく。

 

(いぶきは頼んだぞ、カティ)

 

 今も尚白澤はこちらへ殺気をぶつけてくる。

 あの神の言動からするに、敵意を持っているのは新自身のみ。ほかの人間には興味は示さないはず。

 携帯で殆ど呼びつける形でいぶきの保護を頼んだ友人の事を思いながら新は、白澤を撃破するための戦術を頭の中で組み立てていった。 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 焼ける様に熱せられたアスファルトの上を、疾風の様に駆け抜ける。

 身体強化の魔術を使用しながら、ようやく通う事に慣れてきた清海高校の制服を身に纏った少女は、彼女が向かう先―――身震いがするほどの呪力が湛えられた白い渦、そしてその周りを飛び回る黒い光を見つめていた。

 

(まさか………本当にまつろわぬ神がこの町に―――――)

 

 今日の遠崎市の天気予報では夕方でも気温は30度を超えているはずだったが、街を駆け抜ける少女、カティ・ルフタサーリは冷や汗が止まらなかった。

 

(新、いぶき――――――)

 

 

 

『カティ!今すぐこっち来い!いぶきとテロリストを一緒に寝かせておいたから主にいぶきを頼む!』

 

 時間にしてわずか6秒の通話だった。会話が成立する前に電話を切られた。

 

 

 カティが新による呪力の爆発を感じ取ったのは、図書館に向かっている最中の事だった。

 誰が原因でそれが起こったのかは、考える余地はなかった。というか、あそこまでの呪力の波動を人為的に起こすことのできる人間なんてこの町に一人しか存在しない。

 爆発音にカティの周辺を歩いていた人々も、空を見上げていた。境目がどこかわからない程の、真っ黒な炎と煙を。

 それから数秒、ざわざわと周りの人々が声を出し始めたり、携帯電話を炎に向け始めた頃、さっきを遥かに凌ぐほどの爆発音と共に今度は先程を完全に上回る、呪力の迸りを感じ取った。

 思わず背筋が凍り、体が震える。

 その様子はここから見えなかったせいか、周りの通行人がそれに対して反応をすることは無い。しかし、何かとんでもないことが起こっていることはひしひしと感じられた。

 そして現場に駆け出そうとした直後、突然なり始めた携帯で、新が連絡をしてきたと言う訳だ。

 

(全く、こんなに早くまつろわぬ神と戦うことになるなんて―――流石カンピオーネなのかな)

 

 思わず出てしまった溜息は、あっという間に後ろに流れていく。

 まあ元々カティは新の手助けをするために、スティーナと一緒に遠崎市へやって来たのだから、ここで新の指示に従うことに関して彼女自身は何の異論もない。むしろ、ここで活躍する事こそが本来の役割なのだ。

 最も、こんなに早く事が起こるとは思っていなかったが。

 

(新はテロリストって言ったよね………まさか新を狙った?それとも他を狙ったか、もしくは無差別テロなのか。……日本で無差別テロなんてそうそう起こる事じゃないと思うけど、その可能性も無きにしも非ずって感じかな?)

 

 カティはこれまでまつろわぬ神に遭遇したことは無い。それ自体そうそう現実世界に現れる物ではないし、よほどの事がない限り人間が自主的に接触することは推奨されないからだろう。最もそれに近いのが、ハルシュタットでのカンピオーネ同士の戦いだろうか。

 しかしそれでも、わざわざ戦いのど真ん中に飛び込むなんて自殺的行為はしなかった。

 それなのに、その時の恩人に戦場の真下へ行けと言われるとはなかなか皮肉が聴いている。実際には戦場は向かう先の上空だが、それでも流れ弾が降ってくる可能性は否定できない。

 

「それでも、私は私にできることをしなきゃね………」

 

 マンションの屋上に設置された貯水タンクを甲高い音と共に踏み抜いて加速する。

 自分に課せられた使命は簡単ではないが、自分の友達が空でさらに馬鹿みたいなことに挑んでいるのだ。これで失敗なんかしたらフィンランドの騎士の面目丸つぶれである。

 

「―――我は極光をたなびかせ、空を駆ける。疾く駆け、遠く飛び、乙女は白鳥の如く空を舞わん」

 

 そうカティが呟いた直後、足元に七色の光が浮かび上がり彼女のスピードは更に増加する。視界に映る外の世界がさらに霞んで見え、通常なら迂回しなければならないほどの大きさの敷地を持つ運動場を一足で飛び越えることに成功した。

 

「よっし!!」

 

 カティは見事、路面電車を敷設してある石畳の上に着地した。その衝撃で表面が埃と共に削れていってしまったが、それが問題にならないほどに到着地は凄惨な光景が広がっていた。

 赤黒く変色した血液、黒く焼け焦げた衣服、バチバチと音を鳴らしながら紫電を撒き散らす寸断された電線。そして未だ燃え盛る路面電車。

 その光景にカティは思わず眉を顰める。これまでも同じような現場に居合わせたことがあるが、嘔吐しなかっただけあの時よりも自分は成長したのだろうか?

 

「―――――――!いぶきっ!」

 

 息を落ち着かせ、周りを見渡せば倒れ込んでいるいぶきはすぐに見つかった。新が使っているショルダーバックを枕にして、木陰に横になっている。命に別条はないようで、規則的に呼吸を繰り返しているのが胸の動きから見てとることが出来た。

 そして、もう一人。

 

「この子が、テロリスト…………?」

 

 いぶきの隣で倒れ込んでいる少年。

 日本人の顔ではない。おそらく顔立ちから判断するに東欧の人間だろうその少年は、真上の街路樹に留まっている新の眷属たる八咫烏に監視を受けながら気絶し、意識を失っているようだった。

 

「……………」

 

 カティは何か彼に声をかけようかと思ったが、止めておく。今すぐ何かしそうな状態でもないし、今はそれよりもいぶきの体調の方が最優先だからだ。

 そう思ったカティはいぶきの傍らに両膝を付く。体内の呪力を引き出して行使するは回復魔術。これまで何百回と行ってきた魔術だった。

 両手をいぶきの胸に翳し回復魔術をいぶきにかけていると、異変に気付く。

 

(特に目立った怪我はないな―――――――――ッ!これ………呪力……!?)

 

 いぶきの体内に流し込んでいた呪力が干渉を受けた。

 それ自体は珍しいことではない。魔術師など、ある一定以上の呪力保有者に魔術をかける場合においては、体内に循環している呪力による掛けた呪力への抵抗や干渉と言った現象が起こるのは魔術について学んだことがある人々にとっては一般的な知識として知られている。カンピオーネが一切の魔術を通さない体質なのは、体内の呪力があまりにも大きく抵抗値が桁外れに大きいためである。

 だが、

 

(どうして………こんな呪力保有量、わたしなんかよりずっと大きいのに今まで気付けなかったなんて――――!)

 

 勿論、体内に呪力を持っていれば魔術に対する抵抗を持つわけではない。そうなるには一般的な魔術師のそれを凌駕する呪力を体内に溜め込んでいなければならないのだ。それが無意識下であるなら尚更そうであり、技術としての体内の呪力を引き出すことによっての魔術への抵抗に使用される呪力よりも、遥かに大きな呪力が必要になってくるのだ。

 

(この保有量……ママよりも大きい―――まさか、聖騎士級の呪力保有量―――!?)

 

 抵抗を受けながら回復魔術を施すのと同時にいぶきの保有呪力について調べていたカティはその大きさに驚愕した。

 聖騎士と言えば、言わずもがな欧州における人類最高峰の強さを持つ騎士の称号である。単独で神獣と相対しうる戦闘力を持ち、その称号を得た者は誰も魔術師の歴史に載るほどの人々なのだ。勿論呪力保有量も巨大なものがあり、数十年の研鑽の末に到達する力の一端を示している。

 それを、目の前の少女が保有しているのだ。魔術とは何の関わりのない、ただカンピオーネの友人という立ち位置でしかないと思われていた彼女が。

 

「―――――ぅ――――――――あ―――――――らた――――」

「いぶきっ!?」

 

 回復魔術の影響か、いぶきが朧気ながら意識が戻って来たようだった。そしてそのまま、空に向かって手を伸ばそうとゆっくり腕を上げようとする。

 

「大丈夫!?無理しないでいぶきっ!!」

 

 カティは思わずいぶきの上げた手を両手で包み込んだ。

 いぶきの体内を巡る呪力の流れに反し、彼女自身の力はとても弱々しい。それは、魔女の修行によって疲れ果てたスティーナとまるで同じようだったと、カティは思った。

 

「ダメ――――――そ―――のまま――――――――――――-じゃ」

「………いぶき?」

 

 新へ、いぶきが何かを呼びかけようとしているのは分かった。

 彼女の弱々しい目線の先には白い渦の中心が見える。

 そしてカティは、そこに向かう凄まじい速度で奔っていく一筋の黒い閃光を見てとった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 一撃必殺。そう新は結論を下した。

 遠距離からの打ち合いによる消耗戦は論外。どう考えてもあちらの方が地力は上だと分かる。だとすれば、接近してでのゼロ距離から渾身の一撃を叩きこむ方がずっと勝率は高いはず。

 幸い、これまで白澤の攻撃や防御に関して自分が対処しきれないものは無かった。数百発単位の、ミサイルに匹敵する超音速の誘導弾の飽和攻撃が連続で可能であるため、たとえ相対するのが米第七艦隊であろうとも壊滅の憂き目は避けられないであろうが、自分なら問題ない。

 何か隠し玉を持っていたとしても、それごと燃やして貫いてしまえばいい話だ。

 

「夜を遍く照らす、淡き光よ。我が道を示す標となれ―――――」

 

 聖句を唱えながら渦の中心部、まつろわぬ神が鎮座する辺りに遷移する。

 そこから見えるのは、衛星写真でよく見られる台風とよく似ていたがそこから迸るエネルギー量、こちらに向けられる殺気、神の気配などなど様々な差異が存在した。まあ、これから消し飛ばすものなのだから、必要ない観察だろう。

 

「加速、150倍速!」

 

 瞬間、空間が止まったように見えた。

 我が身に迫っていた光線は一般人が走る速さほどにまで減速し、粒子の一つ一つが見えるほどにまでになった。

 そんな世界を、新は全速力で駆け抜ける。

 新の主観では数十秒かかっていたことでも、外の世界から見れば一瞬のこと。正に、黒の閃光が敵を葬らんと一閃を繰り出したように見えた。

 

「暁の鳥よ!その翼は数多の悪を焼き滅ぼし、天の光を世に知らしめよ!空より降り注ぎし炎は黄金の輝きを纏い、我が敵を焼き滅ぼせ!」

 

 新の右手が黄金に光り輝く。

 第二の権能「天より降り立つ黒鴉」の力を100%引き出した時のみ発生する光。その力は相対するあらゆる敵を焼き滅ぼす天の焔。

 そして、今この時点においても相対する白澤は何かしらのアクションを起こしてはいなかった。精々、こちらに目を合わせてきただけ。こちらに対して何の有効打も取れていないのが直感できた。

 勝てる。

 

(加速、300倍速!)

 

 右手の焔が解き放たれるその瞬間、それに渾身の時間加速を行使する。それによって神速をもってしても避けることが困難なほどの速さを持つ、黄金の槍が解き放たれた。

 

『―――――――――!!』

 

 白澤が息を呑む音が聞こえた気がした。

 それに新が何か反応をする暇もなく、彼の視界を黄金の光が覆う。熱を感じることが無い代わりに、白い光と天の焔、2つのエネルギーが荒れ狂う様を感じながら白澤がいた空間を突き抜けていく。

 

(…………よし)

 

 光が撒き散らされた瞬間、新は白澤の眉間へと黄金の槍が突き刺さったのを確かに見た。手ごたえもあり、致命傷を負わせることに成功したのはほぼ間違いないと思った。

 新は深く息を吐きながら、自分にかかっていた内部時間加速を解除する。100倍速単位での連続使用は短時間でも脳と身体に大きな負担がかかるためだ。

 

「いぶき、大丈夫かね………」

 

 ポツリ、と思っていたことが口に出る。

 吹き飛ばされた白の光が四方八方に拡散していっているのが見えた。暗殺を仕掛けてきた身元不明のテロリストはまだいるものの、クロに監視を任せていることだし一先ずこれで事件はひと段落になる。

 新は安心し、深呼吸をしようと――――――

 

 

『新、ダメ―――――――――――!!!!』

 

 

 どこからか突然声が聞こえた。

 それが一体どこから来たのか、それが馴染みのある声であることに気づく前に新は無意識に体を捻り、今いる場所から全速で離れようとした。カンピオーネとしての危機管理能力が全力で警鐘を鳴らしたからだ。

 

「―――――――――ッ!!」

 

 振り向けば、そこには白の光が自分に向かって迫っている所だった。これまでの攻撃よりも太く、収束され、鋭く、そして遥かに速かった。

 避ける暇すら与えられなかったほどに。

 

 新はその光を強かに浴びた。

 背中の黒の翼が一瞬でかき消され、高い呪力耐性を持つはずの彼自身の体も大きなダメージを受けて意識を大きく揺さぶられる。

 

(ばっ――――あれを食らって、無傷でいられるはずが――――――)

 

 一撃で体が動かない程の傷を受けた。

 翼を失い、今にも意識が刈り取られ切られようとした新には、自由落下という選択肢しか残されていない。

 

 意識が暗転する間際に新の見ていた景色には、

 収束する白の光によって体が再構成されていく白澤の姿と、その周りをキラキラと煌めき宙に漂う無数の何かの破片が映っていた。




新被撃墜です。
そう簡単にまつろわぬ神は倒せませんね。

いぶきの媛巫女としての資質が鰻登りになってきてます。その理由が明かされるのはいつになるのか(汗)。
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