2026/2/25 がっつり目に追記。なんか短め過ぎてよくない気がしたので追加で書きました、よろしくお願いします。普段の投稿みたいに皆様に気づいていただけるといいのですがね...。
2026/3/3 終盤を微修正。
気が付けば、私は燃え盛る町の中にいた。
私が招いた怪物たちが、町の人たちを食い荒らす、私が最後に見たはずの景色。どうしてか、私が忘れてしまっていた景色。その中に、私は立っていた。
長い長い道の先には、かつて私が暮らし、そして逃げ出した教会があった。
誰かが耳元でささやく。「戻れ」と。
でも、私は戻りたくなかった。怖い。その理由は忘れてしまったからわからないけど、確かにあの教会の中には私の罪が隠されている。私はそれを直視したくなくて、だから教会から離れようと振り返った。
「どうして逃げるんですか?」
ユーリさんが立っていた。あのリンゴに食われる前の、まだ人の形を保っているユーリさんだ。ユーリさんは私の目をじっと見つめて、そしてあの教会に指を指して言う。
「あなたが向き合っていれば。あの場所から逃げなければ。あなたは私を助けられたかもしれないのに。私が死んでも、まだ逃げようとするんですか?」
ああ、きっとこれは夢だ。ユーリさんがこんなことを言うとは到底思えない。
「あなたが持つ力を使って、すべての人を救う。そう誓ってあの力を手にしたはずなのに、身勝手な理由で逃げて、その力を捨てようとするんですか?」
ああでも、きっとユーリさんの言っていることは正しいんだろう。私があの時逃げたから、ユーリさんを助けられなかった。きっとあそこから逃げていなければ、助けられたかもしれないのに。
「あなたがあそこに戻って、もう一度力を手にすれば、だれかを助けられるかもしれません。だからほら、戻ってください。私のような人を、あなたは助けたいんでしょう?」
いつの間にか首だけになっていたユーリさんがそういった。
その言葉に従って、私は教会に向けて、一歩足を進めた。
♢
意識が浮上する。部屋が若干揺れるたびに何やら唸るエンジンの音が私の意識を覚醒させる。
そうだ、今はもうバスの中にいるんだった。
ふと気持ち悪さを感じて体を見てみれば、汗ばんでおり服が肌に張り付いている。...記憶にはないけれど、何か悪い夢を見たのだろうか。
寝なおす気にもなれず、時計を確認してみれば、まだ起床時間には程遠かった。きっとみんな部屋の中に戻っているはずだ。
立ち上がって、部屋を出る。
普段来ている上着を羽織り、座席のほうに向かってみれば、やはり誰もいなかった。
なんとなくいつも私が座る座席に座ってみれば、静かな暗闇が私を包む。
止まったバスの窓の外を見つめれば、ユーリさんが初めてバスに来た時のことを思い出した。道中でバスの一員になりたいと言っていたことも。
ようやく未来に希望を持てた彼女を、私は見捨てたんだ。助けられたはずなのに、助けなければならなかったはずなのに、神父様の声に従って、殺してしまった。
皆を救う。それこそが、私のすべきことだったはずなのに。
「...あれ?」
皆を救うことこそがすべきこと。私は今そう考えたのだろうか。
...それは、私の考えたことじゃない。私はただの神様の器。神様の考えに従って動き、話し、すべきことをすることが、私のするべきことだ。
じゃあ、いまのは...?
「ッ......?」
脳裏に知らない記憶がよぎる。教会の中の暗い部屋で、銀色の鍵のような剣が私に突き刺され、それが捻られ、私の中の何かが開き、そして...。
これは、誰の記憶なんだ?まるで、私の中にいるはずのないもう一人私がいるような気がする。そういえば、私は教会で暮らし始めてからファウストさんにであうまでの記憶が抜け落ちている。まるで誰かが持って行ってしまったように。
「う...ぐ......ッ」
怖くなって、記憶をどうにか思い出そうとするが、ひどく頭痛がする。
少し気持ち悪くなって、窓に預けていた体重を反対側に倒して寝ころんだ時だった。
「...大丈夫か。」
「あ....良秀...さん...?」
気が付くと、良秀さんが私を上から見下ろしていた。
慌てて体を起こそうとする、が、うまく体を起こせなくて、また倒れこむ。
すると良秀さんは私のおでこに手を当て、また自分のおでこにも手を当てる。
「熱いな。...風邪か?」
「...わかり、ません...でも、頭が、痛いです」
良秀さんにそう伝えると、彼女は少し笑って「風邪だな」と言いながら私を抱え上げるいわゆるお姫様抱っこというやつだ。
頭痛が響き続ける頭の中での突然の浮遊感に、私は怖くなって良秀さんの体にギュッと捕まる。
そんな私を機にかけてか、少しゆったりと歩きながら良秀さんが口を開く。
「なんであそこに?」
「...少し暑くて、涼みたくなったんです。」
「ハッ、今が何月か忘れたのか?...風邪だな、やっぱ。」
良秀さんにそう言われて思い出す。今は一月だ、当然夜はとても冷え込んでいる。それなのに熱いだなんて確かにおかしな話だった。
少し恥ずかしくなって、良秀さんの胸元に顔を寄せ、顔を見られないようにする。
「開けろ。」
バスの後ろのドアについた時、良秀さんがそういった。
このドアは不思議なもので、一つしかないのに開ける人によってドアがつながる先が違う。なので私の部屋に行くには、私がドアを触る必要がある。
私がドアを捻って扉を開けば、良秀さんはそっとベッドに私の体を下す。
「牛乳は?」
「...大丈夫、です。」
隣に座る良秀さんを見てみれば、コップの中に入っている液体を混ぜていた。
混ぜ終わったのか私に渡してきたので、中を確認してみると、茶色い液体が入っていた。
「ココアだ。風なら体を温めるのが一番いい。」
「ありがとう、ございます。」
なんだかずいぶん手馴れている良秀さんを横目に、ココアを飲む。
なんだか少し体が温まったような気がした瞬間、同時に眠気が襲ってくる。
「眠いか。なら寝ろ、明日に響く。」
「う......あ......」
コップを私から取り上げ、私に布団をかけてそのまま出ていこうとする良秀さんを服の裾を、思わずつかむ。
「...どうした。」
「......そばに、いて...。」
そういった後、私は眠ってしまったからよくわからない。けれど、ずっと私の隣に誰かがいてくれたような気がして、私は安心して眠れたような気がした。
おぼえてはいないけど、きっと悪い夢はみていないだろう。
♢
バスの空気はそう明るくはなかった。ロージャのくだらない話、あるいはヒースクリフがほかの誰かに意味のない言いがかりをつけるような声だとか、ライターの油を使い切った良秀の声だとか。大小さまざまな騒ぎの中で、少なくともグレゴールは空気を入れ替えようとする意志を持つ唯一の囚人だったが...
「......」
今では、私たちの中で一番静かな囚人になっている。何かを沈思黙考しているかのように、ただ窓の外を穴が開くほどにらみつけてばかりいる。
一つ確かなのは、バスの空気ををこのザマにした犯人はヴェルギリウスだということだ。
私たちがあの黄金の枝のもとへ行くためにどれほど苦労したか、ヴェルギリウスは全く理解しようとしなかった。そんな様子だから、囚人の不満がバスの中を埋め尽くしてしまうのも、当然っちゃ当然だろう。
『はぁ......。』
ヒースクリフとドンキホーテがお互いの武器を振り上げ、それを必死に止めるシンクレアの姿をぼんやりと眺めていると、ふとそこにいつもであればいるはずの小さな影がないことに気づく。
『そういえば、風邪で寝込んでるって言ってたっけ』
いつもであれば囚人同士の喧嘩を真っ先に仲裁しているラヴクラフトの姿はそこにない。
良秀によれば、風邪をひいて部屋で寝込んでいるらしい。彼女はあの一件の後かなり落ち込んでいるように見えたから心配だったが、そこに風邪まで重なってしまうとは。
そんな風に私がラヴクラフトについて考えていると、バスの後ろのドアが開いた音がする。
囚人たちのほとんどはここにいるし、今ドアのほうからやってくる人物といえばラヴクラフトだけだろう。
ドアのほうを見れば、そこにはやはり彼女が立っていた。風邪が治ったのだろうか、ふらつく様子もなく、彼女はまっすぐとバスの前のほうへと歩いていく。
そして前のほうに座っていたファウストの横で立ち止まった。
『?』
彼女の定位置はあった時から変わらず一番後ろの座席だった。
彼女いわく、神様と話しているときに周りの人に迷惑をかけないためであり、実際バスが動いているときの大半を彼女はあの場所で過ごしていた。
珍しいこともあるものだ、と眺めていると。
「......」
「ッ、!?」
彼女は椅子に座っていたファウストの首をつかむと、その姿からは考えられないほどの力でそのまま宙に持ち上げた。
『ら、ラヴクラフト!?』
「静かにしろ、時計頭。私は今それなりに怒ってるんだ、巻き込まれたくないなら座っていろ。」
普段の姿からは考えられないその剣幕とその金色の瞳に、私は思わず立ち上がってしまった腰を下ろす。
おとなしく座った私を見た彼女は、再びファウストに目を向ける。
「ファウスト。私たちと君たちの契約の内容はまだ覚えているな。」
「当然...です。」
「伝えたはずだ。囚人として加わる代わりにあの町のすべてを処理しろと。ではなぜあの男が生きている!」
あの男。そのラヴクラフトの言葉に、あの浅黒い肌の神父の姿を思い出す。彼とラヴクラフトの間には少なからず因縁があったようにあの時は見えた。きっと彼女の言うあの男とは神父のことなのだろう。
「ファウスト...にも、その原因は...わかり、ません。あの町のすべては...契約に基づいて、概念焼却機で...焼却、されました。」
「...その証拠は。」
「私が立ち会った、といえば、信じてもらえるでしょうか。」
ラヴクラフトの後ろには、燃えるような短剣を手にしたヴェルギリウスがいつの間にか立っていた。
ヴェルギリウスが続けて言う。
「武器を収めていただきたい、「怪物狩り」。あなたがその力を振るうことは私と同様に制限されていたはずだ。あなたがそれを振るえば私もこれを振るわなければならなくなる。私を巻き込んで契約を終わらせてしまうのは...勘弁願いたい。」
「私としては構わないがね、「赤い視線」。君と違って不利益しかないように見える契約に従うつもりはない。」
「利益ならあったはずでしょう。あなたの身代わりにはこうして居場所が与えられているのですから。...それに、あの町の特異性はあなたが最も理解していたはずだ。あれは都市の技術で焼却できるようなものではなかっただろう。」
「......」
ヴェルギリウスの言葉に、ラヴクラフトはファウストの首をつかんでいた手を放す。
よくわからないけど、どうやら納得してくれたようだ。
だがラヴクラフトはその視線を未だ咳き込んでいるファウストに向けたままいった。
「...お前たちの契約違反ではないならば、今回は見逃そう。だが覚えておけ、もし同じことを繰り返したら、私を知っているお前たち全員を殺し、この馬鹿馬鹿しい旅を今すぐつぶしてやる。...ディアスにもそう伝えておけ。」
そう言い放ったラヴクラフトは続いてヴェルギリウスに言う。
「いつまで私にそれを向けておくつもりだ、ヴェルギリウス。首元が熱くて...たまらないのだが。」
彼女はそう言いながら赤熱するその剣を素手で握りしめる。
その握りしめた腕には金の輪のようなものが一重光っていた。
それを見たヴェルギリウスが笑って言う。
「...これは失礼。今のあなたであればまだ殺せそうだと、少しばかり考えていたまでです。」
「ハッ...事実なのが残念だな。」
彼女はヴェルギリウスの剣から手を離すと、私の座る席のほうまで歩いてくる。
彼女が私の横を通るとき、彼女は何も言わなかった。けれど横目でにらみつけてきたその目線には、何やら言いたいことがたくさん詰められていたような気がする。
しかし彼女は何も言わず、そのままバスの後ろのほうまで歩いて行ってしまった。
その後ろ姿がドアの先へと消えた時、バスの恐ろしい空気が抜けていく。
それと同時にヴェルギリウスが言った。
「...まったく、面倒な奴め。」
追記したついでに。
どこのタイミングで書くかはわかりませんが、アヤさん人格のストーリーも書こうと思います。
感想ありがとうございますとも言っておきます。