囚人No.14 ラヴクラフト   作:黒プー

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お待たせいたしました。
ヴァルプルギスがもう間もなくやってきましたね。ばぁんばぁん、めっちゃ好きです。
あとなんですかあのショットガンは。やっぱムルソーは何でもできるんやな。
シンクレア君もギター弾くの楽しそうでかわいいね。でも歌う機械、てめーはだめだ。ロボトミーの恨みを忘れたとは言わせねぇ。


2章 愛することのできない
9話


バスの揺れをうっすらと感じて目を覚ます。

悪路を走っているからか、バスの揺れはそれなりに大きく、それは私の朝の目覚ましになっている。1日中揺れているから決していい目覚ましというわけではないけれど、それでも目が覚めやすいという点でいえば一級品なのではないだろうか。夜眠るときに困るという点を除けばだが。

 

ベッドから起き上がって軽く体をほぐす。リンバス・カンパニーが用意してくれた(おそらくだが)ベッドは寝心地がとてもよく、こうして体を動かさなければいつまでたっても眠いままなのだ。

顔を洗い、歯を磨き、解いていた髪を軽く結ってから服を着替える。

制服は私の身長にぴったりで動きやすい。ここにくる以前まで来ていたものとは大違いだ。

一通り準備を整えて、ようやく部屋を出る。廊下を進んでいき、普段私たちが過ごす客席とでも呼ぶべき場所へと向かう。

ようやく慣れてきた、大人数での朝の時間を過ごすため、客席へとつながる扉を開く。

 

「...おはようございま......す?」

 

ドアを開けてみると、そこにはいつも通りの面々がそろっていた。だけど...私に対する視線がなんだか違うような気がした。

 

「......。」

「ほぁぁぁあ....!」

 

特にヴェルギリウスさんの冷たい視線と、ドンキホーテさんの妙な視線が突き刺さる。それに周りの人たちの視線もいつもと違うような気がする。

そんな視線に私が困惑していると、ドンキホーテさんが何やら興奮を抑えきれない様子でずんずんと近づいてくると、何かを懐から出しながら言った。

 

「こ、こっこここここに!さ、サインをくれぬか!「怪物狩り」殿!!!!」

「は、はい......?」

 

よくわからない言葉に思わず聞き返すと、ドンキホーテさんは私にまくしたてるようにして言葉を続ける。

 

「そ、そなたはあの「怪物狩り」殿なのだろう!!「怪物狩り」殿といえば外郭を拠点に都市に侵入せんとする怪物たちをたった一人で打倒してきた伝説の1級フィクサー!その実力は特色にも肩を並べると聞く!そんな有名な「怪物狩り」殿がこんなところにおられるとは!正義のフィクサーを目指し追うものとしてこんな機会を逃すわけにはいかぬ!ささ!サインを!!!」

 

そういってドンキホーテさんはいろんなフィクサーのトレードマークのシールが貼られている小さな手帳を私に向けて差し出す。そういえばドンキホーテさんはフィクサーが大好きだと言っていた気がする。この手帳もそのためのものなのだろうけど......

 

「え、えっと...その、申し訳ないんですけど...人違いなのではないでしょうか、私はその「怪物狩り」という方ではありませんし、そもそもフィクサーでもないですから...。」

「ほぇ?い、いやいや、しかし先日そなたがここにきて確かに...もが!?」

 

ドンキホーテさんが何かを言いかけた時、ドンキホーテさんの口をロージャさんが突然ふさぐ。

 

「お、おちびちゃーん?フィクサーについてラヴちゃんに話すにしたってその話はなしだって昨日あれだけ言ったよねぇ?」

「も、もがーーー!むぐむぐーーーー!」

「ぜーったいだめだからね!はい、この話はおしまい!...あんなヴェルより怖いラヴちゃんとかもう見たくないから!

 

いまだ暴れるドンキホーテさんを片手に、ロージャさんは「き、気にしないでいいからね!おちびちゃんのいつもの発作が出ちゃっただけだから!」と言いながら前のほうに去っていった。

私にできることはそんな二人を困惑しながら見送ることだけだった。

 

「な、なんだったのでしょうか...?」

【はぁ......彼女が言っていた「怪物狩り」...それは私だ。】

 

突然、最近あまり聞いていなかった声が響く。

まぎれもなくその声は神様のものだった。

 

「か、神様!...よかった、最近あまりお声を聴いていなかったので、心配していました。」

【ああ...すまない、神父の件で少し考え事をな。】

「そう、でしたか。」

 

神父様という言葉を聞いて、またユーリさんのことを思い出す。...いけない、助けられなかった人のことを後悔する資格なんて私にはないのに。

神様はそんな私をよそに言葉を続ける。

 

【「怪物狩り」は私がまだ人だったころに神父の依頼を受けて外郭で暴れていたころのあだ名だ。薬指と小指の連中がそう呼んでいたから知ってはいたが、まさかそこまで有名になっていたとは思いもしなかったが。】

「そうだったのですか...あ、ではサインを書いて差し上げたほうがよかったのでは?」

【......まあ、君がしたいというなら代わりにあのノートにしてやってもいいと思うが。私は正直どうでもいい。】

「わかりました。」

 

席を立って、前のほうにいるであろうドンキホーテさんのほうに向かって歩く。

どうもロージャさんにたっぷり絞られていたようで、その姿はずいぶんしょぼくれているように見えた。

 

「あの、ドンキホーテさん。」

「うむ...?」

「えっと、その「怪物狩り」さんのことなのですが...神様が以前そう名乗っていらっしゃったみたいなのです。...ですから、よろしければですが、神様に代わって私がサインしましょうか?」

 

そう私が言うと、しょぼくれていたその顔がぱっと喜びに満ちる。

 

「ほ、ほんとうか!で、ではここに...こ、こここれで書いてくれ!」

「...はい、これでよろしいでしょうか?」

 

神様の声に従いながら以前使っていたとおっしゃっていたサインを手帳にしてあげれば、ドンキホーテさんはずいぶん嬉しそうに舞いながら言った。

 

「おおおおおおお!これがかの有名な「怪物狩り」殿の!ありがとう、ラヴクラフト君!!!」

「いえ、ドンキホーテさんが嬉しそうでよかったです。」

 

そういってとてもうれしそうなドンキホーテさんの姿に、イシュメールさんがため息をつきながら言う。

 

「はぁ...あんなことがあった後なのに騒げるなんて。...というか案内人さん、そろそろ次がどこなのかくらいは教えてくれてもいいんじゃないですか?」

「...ああ。いろいろあったせいで忘れていたよ。...まあ、お前たちに任務を説明する価値があるのかという疑問もあったから、ちょうどよかったかもしれないがな。...後生なんだが、今回だけは恥をかかせないでくれ。烏合の衆を連れて遠足へ行く先生には、見られたくないからな。」

 

そういったヴェルギリウスさんの視線が、ロージャさんに向けて動く。

 

「特にうちのロジオンにはとても期待しているよ、今回は優秀なガイドになってくれるかもしれないからな。」

「うん?私がすごいってことは知っているけど、知らない場所までガイドするのは...」

「心配するな。慣れた道というより、なじみ深い場所だろうからな。...金に溺れることも、干からびて死ぬこともできる歓楽の巣、"J社"。それが今回の目的地だ。」

 

J社。私は周りの人たちよりも世間知らずだという自覚がある。それもあって、周りの人たちとは違い、J社がどんなところなのかあまりピンと来ていない。

 

「神様、J社とはどのような場所なのでしょうか?」

【J社......あれの言った通りギャンブルと金であふれる歓楽街であるということくらいしか私も知らないな。...何せあそこには私もほとんど行ったことがない。】

「そうなのですか...」

 

ギャンブル。言葉で聞いたことはある、確かギャンブル依存症の息子を治すためにずいぶんと身なりのよさそうな方が町までやってきていた気がする。神父様もその方を見て「...ああなってはいけないよ」とおっしゃっていたっけ。

神父様がおっしゃるくらいだし、とても怖いものなのだろうか。

そんなことを考えていると、ヒースクリフさんが言った。

 

「ま、この機会に一発大きく当てるのも悪くないかもな。おい、ついたらだれか起こせよ。」

 

そう言って目をつむったヒースクリフさんを見て、ヴェルギリウスさんが馬鹿にしたように笑った。

 

「おあいにく様ですが、今回は市部の前までお連れすることはできなくなりました、お客様。...カロン、停車。」

「......停車って、なに。」

「とまれってことだ。」

「止まるのは赤色。カロンにはおいしくない赤色。」

 

その言葉とともに、バスがいきなり止まる。それと同時に何人かの人が座っていた座席から罵声と共に投げ出されていく。

...ヴェルギリウスさんの笑顔で嫌な予感がしたからシートベルトをしておいたけど...しておいてよかったかもしれない。

 

「元気があるのはいいことだ。降りろ。」

「うーん...目的地まではかなり遠いみたいですけど...ああ、タクシーを呼んでくれるんですか?」

 

ホンルさんの言葉にヴェルギリウスさんがあきれたようにため息をつく。

 

「...ファウストさんが詳しく説明してくれると思いますが、今回は前回の任務と違うことがたくさんあります、ダンテ。なぜなら、今回黄金の枝を回収すべき場所は、カジノの地下だからです。」

「まさか、あの路地のど真ん中にあるピカピカしてる建物のことか?」

 

ウーティスさんの言葉の通り、確かに嫌にピカピカ光り輝く建物の屋根がたくさん見えた。

 

「ああ。あれらの中の一つだ。」

「この前侵入したロボトミー支部は長い間放置されてた場所でしたね。」

「じゃあ...あれは特殊なケースだったってことですか?」

「...こうしてみると、頭を使えない職員がいないわけでもないというのに、前の作戦ではどうしてあんな申し分ないくらいに台無しになったんだろうか。」

 

ため息の後、ヴェルギリウスさんが言葉を続ける。

 

「黄金の枝は多くの技術が凝縮された強力なエネルギー源だ。強いエネルギーは自然と金と人を呼び寄せ、そうしてあっという間にそのうえで文明が生まれてしまうんだ。」

「...だからこそ、これ以降訪問する場所もほかの集団たちが陣取っている可能性が高いんです。...また、カジノ以外にもあらゆる場所を訪問する必要があるという意味でもあります。」

「最初の任務は比較的簡単だったという意味でもあるな。ものの見事に失敗したようだが。」

 

ファウストさんとヴェルギリウスさんの言葉に、神様が言う。

 

【強いエネルギーは金と人を呼び寄せる、か。道理ではあるな。人かも怪しい怪物も呼び寄せているみたいだが。】

「怪物...?」

【......神父のことをあまり人だと思うな。あれは人の皮を被った得体のしれない何かだ。】

「......はい。」

 

確かに、あの時見た神父様は私の()()()()()神父様とは何もかもが違うようだった。

...またあの人と会うことになるのだろうか。そう考えると、足がすくんでしまうような感覚がした。

 

【余りあれとはかかわるべきじゃない。......ようやく居場所を手に入れられるかもしれないんだからな。】

「居場所...ですか?」

 

確かにこの会社はいいところだ。同僚の人たちはいい人だし、少し仕事は厳しいけれど、死にかけても完全に死ぬことはないし。居場所としてはいいところではないだろうか。

でも。

 

【...鍵ではなく人として過ごせる場所を、捨てるわけにはいかない...あれを何とかしなければ。】

「神様...。」

 

神様と私の見るこの新しい居場所というものは、何か違うものに縛られているような気がしてならないのだ。

この方の過去に、何があったのだろうか。

 

「お、あ。」

「おあってなんだよ?」

「降りるぞ、阿呆ども。」

「...っ、てめ...!」

 

バスのドアが開き、皆が下りていくそれに合わせて、私もバスから降りる。一抹の不安を抱えながら。




いよいよ2章突入です。...9章部分書きたくて始めたのに9章まで何か月かかるんだろうな...?
それから8話のほうを何度か編集したことを念の為にお知らせします。結構後の展開にかかわる編集だったので読んでない方はお手数ですがいま一度読み直していただけると幸いです。
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