5歩前に進んで相手の懐に潜り込み、そのまま剣を右に切り払って右側からの攻撃を防ぎ、姿勢を低くして後ろから振るわれる警棒を避ける。
「クソ、なんだこいつ、攻撃が当たらん!」
「はぁっ!」
相手がひるんだ隙に剣を構えて突進する。その剣は相手の胸に突き刺さる。
神様の力なのか、いつの間にか私にも見えるようになった未来を覗くことで相手の動きを読み、適切なカウンターを差し込んでいく。
【ある程度の基本的な身体機能は戻ってきたようだな。契約したときに失われた時はどうなることかと思ったが。】
「ッ、はい、以前と比べてっ、体が軽くなったように、感じます!」
カジノの警備員たちとほかの囚人たちとの混戦状態の中、必死に向かってくる相手をさばいていく。
さっき戦ったぽんぽん派とは違い、警備員という立場もあってかこの人たちはなかなかに強い。
「複数人でかかれ!いくらすばしっこいとはいえ数ではこちらが勝る!」
「っ、本当に何人いるのでしょうか!」
何人も切っているつもりだが、本拠地なのもあるのだろう、警備員の人数が全く減らない。
いくら未来が覗けても体が追い付かなければ...。
そう考えながら相手の打撃を受け流し、回避しているとき。
「つっ...!?」
目の奥に痛みが走る。頭痛とは少し違う、まるで明るい太陽をまっすぐ直視してしまった時のような鈍い痛み。
その
【...チッ、覗きすぎだ。】
「あぐっ...!?」
そしてその神様のつぶやきが聞こえた瞬間、まるで脳が揺れたような感覚に陥る。そして同時に、後頭部を強く打たれた感覚。
前後左右の間隔も一瞬なくなる。そしてそのあとに、何かにぶつかったような感覚。気が付けば私は地面に倒れこんでいた。
「ハッ、さすがによけきれなかったかっ!」
ようやく感覚が戻ったころには目の前の敵がすでに棍棒を振り下ろそうとしているときであり。脳内に死の一文字がよぎる。
しかしその瞬間、足が突然つかまれたかと思えば、思いっきり後ろに引き寄せられる。そのおかげで私の脳が地面に飛び散る事態は避けられた。
「おい、無事か。」
「す、みません...ありがとうございます、良秀さん。」
「ハァ......お前、その刀をよこせ。」
良秀さんは私に何も言わず、近くで戦っていたイサンさんに向かっていった。
「......常しえに返さずともよろし。刃物が私を離るて、終始虚空を漂うが同じくはよき。」
「...すみません、武器がなくなるのはよくないんじゃ...。」
「感謝。...よく見ておけ、これが芸術だ。」
そう言って良秀さんが投げたイサンさんのナイフは、シャンデリアの固定位置を貫き、すぐ危うそうに揺れ始めた。
その場で戦っていた全員の視線はグラグラと揺れる巨大なシャンデリアに向かい、その視線に耐えられなかったシャンデリアは結局落下する。
「んん?」
「...よ、避けろ!」
しかしそれが落ちるまでの時間はそれなりにあったため、シャンデリアの下にはすでにだれもおらず。
「...あの、何がしたかったんですか、良秀さん...?」
「.........................パフォーマンスだ。」
「......そう、ですか。」
【......まあ、派手だったな?】
良秀さんが何をしたかったのかはよくわからなかったけど...幸いにしてシャンデリアが相手を分断してくれた。
警備員の数も段々と減っているように見える。
「さっきみたいなヘマはもうしません!行きましょう、良秀さん!」
「......ああ。」
期待していた結果とは違った良秀さんを連れて、再び私はカジノの警備員たちに剣を振るう。
♢
そんな戦いの最中、ヒースクリフさんが警備員たちに向けて叫ぶ。
「やいお前ら!情けなくねえのか!あっちにいる金髪野郎は嘴の黄色いひよっこで、そこの時計は記憶がぽっくり行っちまってまともに武器もつかめねえ!しかもそこの大剣のチビは正真正銘のガキだ!そんな俺らを相手にゼエゼエ言ってるだなんてな!お前が持ってるその棒きれはお飾りか!」
「くっ、あの野郎...!」
「ちょっとヒースクリフさん!子供で何が悪いんですか!って、あぶない!?」
私が思わずそう叫んだと同時に、警備員が投げ、ヒースクリフさんが避けたメイスが私のすぐ真横を通り抜け、後ろのルーレットを木っ端みじんに破壊する。
「ちょっと、危ないじゃないですか!何も言わずに避けないでください!というか子供で何が悪いんですか!」
「おいうっせぇ!ちょっと黙ってろ!......おいお前ら、俺らとドンパチしてこれぶっ壊したって報告して、全員ギッタンバッタンにされたいか?それとも安直に俺たちのせいにして、そのまま二階に通してくれるか?」
ヒースクリフさんにそう言われた警備員が言う。
「クッ......二階に行っても、お前らは無事でいられるかな...。」
「こ、これ、コツコツ1ヶ月くらい集めた運なのに...」
「ああ、無事じゃなかった記憶のほうが多いからな問題ねぇよ。わざわざ忠告ありがとうよ。...何見てんだ?さっさと直せよ。」
「...決めました、今日からこの人たちの前では計画の「け」の字も出しません。」
すべてをあきらめたような表情で時計を回すダンテさんと、それを見ながら怒りでぶるぶると震えるソードさん。...ソードさんが怒っているのは...また何か作戦が台無しになったんだろうか。
【後ろで壊れたルーレットにため込まれた運を使おうと考えてたみたいだな。まあ壊れたわけだが】
「ああ......」
もしかして、私が避けてなかったらまだ運は残っていたんだろうか。...なんだか少し申し訳ない気がする。
とはいえ避けなければ、私は死んでいただろうし...死んでもいいとはいえ、死ぬのは苦しいのでできればいやなのだ。
ソードさんに心の中で謝りながら、先頭に立って二階に上がろうとしているヒースクリフさんに駆け寄りながら言う。
「ヒースクリフさん、さっきの煽り文句なんですか!こどもでなにが悪いんですか!」
「ああ?なんだ、まだ気にしてたのか?事実だろ?」
「で、でも!あの言い方だと子供だから弱いって思われそうじゃないですか!」
「しつけぇな、何をそんなに気にしてるんだよ?別にいいだろ?」
めんどくさそうにそう言われて、これ以上聞いてくれなさそうなヒースクリフさんの態度に、私はしぶしぶ引き下がる。
別に私は弱くないという自負がある。そもそも人を守らなければいけない立場として強くあらなければいけない。だから守られる立場として言われるのはそこそこ不満なのだ。
それをヒースクリフさんに伝えたいけれど...真面目に聞いてもらえなさそうだし、あんまりしつこく言うとまた頭をぶん殴られる。今日はもうぶん殴られたしそれは嫌だ。
「むう...不満です...。」
【...ハッ、まあいいじゃないか。誰かを守るより守られるほうがよほど楽だ。】
「むむむ...でも、力があるんだからそう怠惰であるのはいけないと思います...。」
【君としてはそうだろうな。...ま、私はもう関係ない。好きにすればいいさ。】
「......はい。」
そんなことを話しながら、私たちは二階へと上がった。
♢
階段を上がった先は、一回とは打って変わって明るい雰囲気だった。
そこで賭けに興じている客は下にいた客と比べて上品で純粋に賭けを楽しんでいるように見えた。
「雰囲気が変わりましたね。二階はほかの組織が管轄している区域のようです。」
「下にいる人たちよりはみんな楽しそうですね?」
【少なくとも人生をかけている奴は少ないように見えるな。】
すると私たちに気づいたこの階を取り仕切っているであろう組織の人が言った。
...ぽんぽん派の時も思ったがなんでみんな変な格好をしているんだろうか。
「おいお前ら!なんだよその面は?この階を知らないのか?悲しい面してほっつきまわるなら帽子をかぶって隠すなりしろよ!特にそこの刀のお前とか!」
「......なんで俺のほうを指さして話すんだ、く・へ、するぞ。」
「なんだよくへって!?」
良秀さんが腰から鞘ごと刀を引き抜きながら言う。
「首をへし斬ってやるって意味だ。」
『良秀、いきなりケンカを売るよりかはまず交渉とか...』
そう言って怒っている良秀さんをダンテさんが諌めようとする、が。
「いやまてよ、お前の顔のほうがひどいな?目の役割をしているのは秒針か?それとも分針か?...どっちにしろひどい面だぞ、なんかあったのか?」
『...良秀、準備はいいな?』
「ちゃんと止めてくださいよ...。」
イシュメールさんがあきれながらそう言うが、二人にはもう聞こえていないみたいで。
「あ、あの、さっきよりは交渉の余地があるんじゃ...ああ.......」
すでに戦闘の火ぶたは切って落とされていた。私の声は誰にも届かず、虚空へと消えていった。
♢
「うわああああああああああ!!!!だ、だめだあああああああああ!またかねをうしなっちまったあああああ!」
私たちの乱闘に水を差したのは、そんな叫び声だった。
それを聞いた組織員が言う。
「やあやあ、ちょっとタイム!うちのお客さんのケアをするから!...お客様、規則をお忘れになったわけじゃないですよね?」
「で、でも全財産だったんだ...」
「しかしそう何度も雰囲気を悪くされれば、今度はお客様でパニャータパーティーを開くことになります。」
「...パニャータパーティーってなんだ?」
「確かに。なんでしょう?」
【......良秀が好きそうなやつといえばわかるか。】
「ああー...」
神様にそう言われ、なんとなく察する。中身はよくわからないけどたぶん血みどろになるタイプのイベントなんだろう。
とりあえずまだ横で知りたそうにしているグレゴールさんに向けて首を横に振っておく。
客はその親切な脅迫がよほど恐ろしいものだったのか、すすり泣きながらその場から立ち上がった。
そして組織員が渡したマラカスをもって......その場で踊り始めた。すすり泣きながら。
「えっあれ何でですか?」
【...あれは知らん。なんだあれは。】
「なんだこれ......?」
すると組織員が自慢げに言う。
「うちの派が管轄している階には必ず守るべき規則があります。賭博とはただ楽しむためだけの行為、それゆえ悲しみも痛みもすべてダンスに昇華させなければなりません。」
「む!ダンスなら私が見せて進ぜよう!」
ドンキホーテさんが名乗りを上げる、しかし組織員たちは冷静にドンキホーテさんを観察し、そして言った。
「この人はだめだな。」
「動作に心がこもってないな。ダンスは心を映す窓。心が透明でないときに踊るダンスほど、無意味なものはない。」
「う、うぬら...あんまりではないか...」
思っていたよりも自信があったのかドンキホーテさんが崩れ落ちる。
それを見ていたいシュメールさんが溜息を吐きながら言った。
「私も話してて馬鹿らしく思うんですが、私たちが二階を速やかに抜けるには、彼らの心を動かせる強烈なダンスが必要みたいですね。」
『知っての通りだけど私は記憶喪失だからダンスが何なのかもわからないな。...ホンル、ダンスとかいうものを習ったことはある?』
「変面を習ったんですが、教師は少なかったですね。3人だけでした。それに持ち物が必要なんです。仮面と扇と化粧品と...」
『今からどこで確保するつもりなんだ、次。』
突然始まったダンテさんのダンス面接は、ヒースクリフさんから始まった。
「...まあ、舞踏会で上品ぶっててむかつくやつらの足は結構踏んだな。」
『次!』
「...私の心が恐ろしというなり。」
『次!』
「...いや、無理ですよ!?私は半生を船で過ごしたんですから...」
『次!』
「踊りならむぐ!?むぐぐぐぐ!!!」
『......次!』
「...悪くない、久しぶりに全部爆ぜさせてやる。」
『絶対ダメ!次!』
「...リズムなんて点呼体操の時以外は合わせたことがないですが...管理人がお望みであれば今からでも...」
『...ごめん、次!』
「う、うーん...ごめん!大抵のことはいけるんだけど、ダンスはちょっと...恥ずかしくって...あはは!」
『...次!』
「腕が興奮しすぎて観客の顔に向かって突っ込んでいくってことを除けば大丈夫かな?」
『......次!』
「....................申し訳ありませんが、辞退させていただきます。」
『...........つぎ。』
「ファウストは概してダンスを楽しむほうではありませんが、作戦のためなら試みることはできます。しかし彼らが望むのは完璧さではありません。むしろ不安定で、カットされていない原石のようなものでしょう。」
『.............』
「え、と......ご、ごめんなさい...」
【...まあ、私たちには踊る機会なんてなかったからな。】
そして最後に全員の視線が集中したのは...シンクレアさんだった。
「はい!?」
「...もしかしなくても小さいときにダンス習ったことあるよね?」
「な、習ってって...学校の教養の時間に、マラカス基礎を習ったことはありましたけど...」
『君も金持ちのボンボンだったのか!ロージャ、なんでわかったんだ?』
「歩き方とか見てれば大体わかるもんだよ。逆にそういう学がない人は...ね?」
そう言いながらロージャさんはシンクレアさんの肩をぎゅっと抱きしめる。
「さあ~シンクレアくぅん、今からほんっとに、ほんっっっっっとうに大事な任務をこなしてもらうよぉ?」
「え?え?ロージャさん!?ど、どこに連れて...!?」
しばらくして、シンクレアさんとロージャさんが帰ってくると、その表情は、覚悟が決まっていた。
そしてその動きも。
「手首のスナップ、心酔した表情、適切なリズム...完璧だ!」
「落ち着いていて、しかしその落ち着きがかえって心を揺さぶる...この少年、何かを読んでいるのか?」
「昇華だ。内面の抑圧された暗さと痛みを、体の動きで克服しようとしているのだ...!」
「君、うちの組織に入らないか!?君の芽はもっと大きくなるはずだ!」
「ああ、その人はうちの社員です。ですから許可のない人材の引き抜きは深刻な違法行為です。」
ソードさんの言葉を聞き残念そうにしながらも、どこか恍惚とした表情でシンクレアさんのダンスを見ていた組織員が言った。
「いい演奏だった...お前たち、最上階に行きたいんだな?」
「上っていけ...そうする資格は、十分にある!」
そしてダンスを終えたシンクレアさんは、以前よりもすっきりとした表情をしながら言った。
「僕の中から湧き出そうとしたもの...それが、まさにこういうものだったんですね。...なんだか、心が一段と楽になった感じがします。」
あのヘンテコな組織の人が感動するほどの何か...シンクレアさんが持っていたものとは何だったのだろうか。
【...よくわからなかったが、先に進めたようでよかったんじゃないか?】
「ま、まあ...そうですね。」
変なことの連続で何となくキツネにつままれたような気分のまま、私たちは二階へと上がっていく。
このあたりは小説として書き直すには難しいなぁと書きながら感じております、いかんせん毎回戦闘が挟まってストーリーが進行するので...。
戦闘シーンを持ったうまく描写できたらいいんですけどね。