囚人No.14 ラヴクラフト   作:黒プー

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16話

ソーニャさんとの邂逅の後、黄金の光が見える氷の城に私たちは入った。

氷のせいか吹く冷たい風が私たちを歓迎するかのように、扉もなく閉ざされていない入り口に入ってみれば、巨大な城の内装を見ることができた。

様々なものが凍り付くその場所は、凍り付いて変わらないこの都市を指示しているようで嫌な感じだ。

そして、そんな凍り付いた様々なもののうちのいくつか...何人かが動き出す。

 

「......ほんとに見覚えのある顔。あいつの言ったとおりだったんだ。」

 

ロージャさんがそうつぶやく。

私たちの目の前に立つその人たち。足は凍り付いた一本足の異形だったが、その顔はどこにでもいそうな雰囲気の人々だった。ソーニャさんが言ったように、彼らはきっとロージャさんが守りたかった人たちなんだろう。

けれど、ロージャさんの表情は()()()()()()どこか吹っ切れた様子だった。握りしめた斧を大切な人たちに向け、そして言う。

 

「皆ごめん。すぐにそっちには行けない。...もう少し、この吹雪の中を歩いてみたいから......。」

 

 

すべてを払い戻すことはできないけれど...

 

 

服装が変わったロージャさんが、凍り付いた手斧を彼らに向けて投げる。

その小さな斧は大きさからは考えられないほどの威力をもって、隣人たちに衝突する。その一撃は先頭に立っていた隣人を一撃で戦闘不能にするほどのものだった。

 

『みんな、行って!』

 

その一撃を皮切りに、囚人たちも一斉に飛び出す。

私もそれに倣おうとして、ふと思い出す。ロージャさんのあの表情を見たとき、一瞬何かを思い出した気がする。ずっと忘れていた、大切にすべきだった何かを。

赤い炎が包む、その景色を。私は思い出そうとして。

 

【それ以上は、思い出さなくていい。】

「......神様?」

【見覚えのない記憶なんだろう。ならそれよりも今のことを考えなさい。...ほら、おいていかれるぞ。】

「わ、かりました。」

 

神様の言う通り、その記憶は私のものじゃないような感覚だった。

...それに今は戦闘中だ。思考を鈍らせてはいけない。

つるはしで殴り掛かってくる隣人たちを切り伏せながら、私は戦場を駆け抜ける。

 

 

 

 

そうして城の中にいる隣人たちをあらかた倒したころ。

突然、ズカン!という音とともに地面が揺れ始める。そしてそれを皮切りに、あちこちから瓦礫が落ち始める。

 

『な、なんだ!?』

「っ、地面が、揺れて...!?」

【これは...城自体が揺れているような感覚だ。ともかく、この城から出たほうがいいだろう。】

 

揺れでしりもちをついているダンテさんを助けて、ほかの皆さんと一緒に外へ出る。

そして振り返ってみれば、確かに神様の言ったことは間違っていなかった。

 

「み、見間違いじゃないですよね、これ...まるで、生き物みたいに...」

「ええ。確かに起き上がっていますね。」

「後ろを見るな!ただ走れ!」

 

グレゴールさんの叫び声を合図に、皆一斉に走り出す。

幸いだろうか、出口の方角には黄金の光を放つ枝が不格好に刺さっていた。

 

『あ、あれ...黄金の枝が...!』

「あの位置なら回収自体はできそうですね...!」

 

イシュメールさんがそう言ったちょうどその時。どこからやってきたのか、左右から隣人たちが再び現れる。

どうも黄金の枝を守るために現れたように見える。

 

「チッ、面倒だな...ムルソー、対象との距離は!」

「対象の歩幅で約6歩。...時間にして34分15秒ほど。」

「それだけあればあの者たちの殲滅は容易いだろう...各員、戦闘準備!」

 

ウーティスさんの号令で戦闘が始まる。巨大な生き物に踏みつぶされないように迅速に倒さなければいけないのはなかなか難しい。

それに隣人たちの数も城の中で戦った時とは比べ物にならないほど多かった。一人一人はそこまで強くはないが、数が多ければそれだけ時間がかかる。

彼らの数がそれなりに減ってきたと思ったころには、既に後ろの巨大な生物は私たちのもとに迫ってきていた。

 

「くそっ、しつけえな!」

『抜け出すならあいつらの気を他のところに逸らさないと...』

「......ナシだな。」

「良秀さん、今何か変なことを考えましたか...?」

 

良秀さんのつぶやきに思わずそういうと、彼女は何も言わず、棒つきキャンディーを転がしながら私の頭を撫でた。

...何か悪いことを考えたのは気のせいじゃなかったみたいだ。

 

私たちが隣人たちに囲まれて困っていると、出口の方から見覚えのある人がやってくる。

その見覚えのある人...ソーニャさんは私たちと怪物の間に立つと言った。

 

「ここは僕に任せてくれ。」

「ソーニャ!?...どういうつもり?」

「...安心してくれ、ロージャ。君が考えてるみたいに何か裏があっての行動じゃない。...僕にだって君が斧を振り下ろしたときみたいに説明できない偶発的な欲求が生まれることがあるみたいなんだ。」

 

そしてソーニャさんはダンテさんのほうを見て言う。

 

「ダンテ。あなたの組織も結局はより良い世界を作るための場所でしょう?」

『う、うぅん...?』

「......その沈黙は肯定だという風に受け取っておきます。だからこそ...彼もまたすぐにあなたのところに訪れるでしょうから。」

 

そしてソーニャさんは黄金の枝を指し示しながら言う。

 

「...けれど、次会う時にもこんな好意的な行動を起こすと期待することはしないでくれ。多数の豊かさをつかみ取れる明確な道があるなら、僕は躊躇なくほかの道を選ぶから。」

 

そんな言葉を皮切りに、彼の部下であろう人たちがどこからか現れ、怪物と対峙する。

そしてそれを見たロージャさんは......躊躇なく、出口へ向かって駆け出した。ロージャさんらしい行動だ。

それを見て、私たちもあわてて彼女を追いかけて駆け出す。

 

「ロジオン...憂うことあらずや?結果はどうあれ、彼はそなたの輩なり。」

「大丈夫。あいつはすっごい頭がいいから、勝手に生き残る方法を見つけるよ。」

「......げに、理想的な輩なり。」

 

そう言ったイサンさんの表情は、どこかうらやましそうだった。

そうして私たちは、ようやく成果を上げてバスに戻ることができたのだ。

 

 

 

 

J社の裏路地のどこか。メフィストフェレスが去って行った後でも、大カジノが崩壊した後でも、裏路地は何一つ変わらない。

人を飲み込む暗闇を抱え、ただずっとそこにあるのみだ。

そんな裏路地のどこかで、両者は対面していた。

一方はN社の理事として頭角を現わしているヘルマン。

そしてもう一方は、ユロージヴィの首領であるソーニャであった。

 

「素晴らしいね、ユロージヴィ。あれほど多くの敵を一掃しただけでなく、あれだけの金をすべて燃やせるだなんて。」

「あなたもご存じでしょう、ヘルマン。昔から金は僕にとって友人ではないと。」

「ああ、認めよう。多くの夢想家たちと違って、君は口先だけではないようだね。...そうだろう、ナイ神父。」

「......ああ。確かに彼の行動には問題はなかった。...少々の私情は混じっていたようだが、人とはそういうものだ。」

 

ばき、ごき、ぐちゃり。

冒涜的な音を立てながら、ユロージヴィの組織員のうちの一人が姿を変える。

自分たちのうちの一人が全く知らない人物で、自分たちはその人物を違和感なく受け入れていたその事実に、組織員たちは動揺する。

しかしその首領は全く動揺することなく言った。

 

「ああ、やはり君はユロージヴィじゃなかったのか。少し違和感があると思っていたんだ。」

「そうか...気づいていたのか。私に対する注目が多いと思っていたんだよ。...やはり、君はほかの人間とは違うようだ。」

「では、彼を迎え入れることにも賛同してくれるかな?」

 

ヘルマンの言葉に、神父は不承不承といった様子でうなずく。

 

「やはり反対だといいたいところだが...私の変装を見破ったうえであの行動であれば、迎え入れること自体に問題は出ないだろうな。」

「安心するといい。彼が加わったところで、貴方の計画に私たちが影響を及ぼすことはない。貴方は貴方で好きにすればいいだけだ。」

「......ああ、わかっているとも。」

 

そういってそのまま背を向けたヘルマンに、ソーニャは問いかける。

 

「責めないんですか。僕はあなたの依頼を完遂できなかったじゃないですか。」

「責めたところで、枝が床から生えてくるわけじゃないだろう?大丈夫。今枝がどこにあろうと、重要なのは最後にだれが手にしているかだからね。」

 

そう言って去っていくヘルマン、そして神父の後を、苦笑しながらソーニャは追いかける。

そうして彼らの姿は、裏路地の夜の中へと消えていった。




2章、サラジネです。また前回と同じように閑話を挟んで3章に行く予定です。なるべく週1投稿を守っていきたいですが、遅れたら申し訳ない。
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