囚人No.14 ラヴクラフト   作:黒プー

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リンバスの楽しみ方ってやっぱりメインストーリーだけじゃなくて人格ごとのサブストーリーを読むことにもあると思うんですよね。


R社第4群 カラスチーム ラヴクラフト

カラスは、ただの生き物だ。

多くの物語でカラスは不吉な象徴として描かれている。そういった物語のせいなのかは知らないが、都市の人々の間でも、カラスというのは不吉な生き物だと認識されている。

だが私はそうとは思わない。私にとって、カラスという生き物は私に翼を与えてくれた生き物だったからだ。

町を守りながら暮らしていた時にやってきたR社の指揮官の顔を、私は今でも覚えている。

どうやら私の名前は都市でもそれなりに有名だったらしく、彼らは危険な場所に出向いてまでわざわざスカウトにやってきたのだ。

神父や町の住民たちは私を町にとどめようとしてきた。彼らが何を思って私を必死にとどめようとしてきたのかはもう知る由もないが、私はそうして町に縛られ続けることがなんだか嫌になって、スカウトに応じた。今になって思えば、神父の教えにがんじがらめにされていたあの町が、私は嫌いだったのかもしれない。

 

そうして私がR社に入り、多くの戦いを経験し、カラスチームの一員となった時だった。

都市に光が満ちた。ああそうだ、かの有名な白夜というやつだ。

白夜の原因となったらしいL社の没落のニュースは瞬く間に私たちカラスチームの間に広がった。それと同時に、ある嫌なうわさも広がった。

 

カラスチームの処分が検討されている。

 

少しの頭痛と引き換えに()の様子を見てみれば、確かにそれは事実だった。

腕を買われてやってきたというのに自分を複製されて殺し合いをさせられ、別の翼が倒れたと思えばそれに巻き込まれて殺処分。我慢のならない話だった。

企業の歯車としてであれば、この場でおとなしく殺されておくべきだったのだろう。だが私はそれが嫌だった。

同僚に先んじて私はR社からひそかに抜け出した。私の目で確認しつつ気づかれないルートを通るだけでいい、脱出は案外簡単だった。

1週間以上クローンが存在してしまうと爪が殺しに来るという話を聞いたことがあるが...まあR社も馬鹿じゃない、私が逃げ出した状態でクローンを生産するなんて愚行を犯すはずはない。

この瞬間だけ、私は自由だった。

この自由な翼でどこに行こうかと悩んでいると、ふと父と母の顔を思い出した。そういえば私が町から出て以降、父と母に会っていなかった。

会いに行ってみよう。そう思い、私はWarp特急に乗り込んだ。

 

 

 

 

町は、その形を保てていなかった。

何かにつぶされたように家屋は崩壊し、道には時間がたって腐臭を放つ肉塊だけが転がっていた。

私の記憶にあった何もかもが、何か巨大なものにつぶされたようにして破壊されつくしていた。

呆然とその姿を見ていた私の耳に、ふと声が聞こえた。

そちらを見てみれば、死に体の見覚えのある人物...私の家の近所に住んでいた人だ...が倒壊した家屋に押しつぶされていた。

彼はぶつぶつと何かをつぶやいていた。そしてふと私のほうを見ると、突然叫んだ。

 

「お前のせいだ!お前が逃げ出したからこうなった!」

「...どういう、ことだ?」

「お前が逃げたから神が怒り狂ったんだ!お前がこの町にまた戻ってきさえすれば間に合っていたかもしれないのに!今更帰ってきたところでもう遅い!お前のせいだ!お前の、お前の、お前の!」

 

そう喚き散らして、体力が尽きたように彼はこと切れた。

その死体は、まるで数百年放置され肉が削げ落ちた骨のようだった。

 

神。

 

男の言っていたその言葉を思い出して、町の中心部にあった教会に目を向ける。

私は驚いた。なぜなら周りの建物が崩壊している中、その教会だけはその姿かたちを完璧に残していたのだから。

教会に近づき、中に入る扉を開ける。

そこは本来、礼拝堂だった。奥には十字架が飾られ、その十字架の下で神父は私たちに祈りの言葉を授ける。

しかし今はまるで墓場であった。この町に住んでいたであろう多くの人々が、首がないままに椅子に座り、祈りをささげている。そして神の象徴だった十字架には、神父が掲げられていた。手足を釘によって十字架に固定され、そして何より、頭の上半分が何かに食われたように消えた神父が。

 

「ああ...ようやく、戻ってきてくれたのですね、ラヴクラフト。」

「...何が、あったんですか。」

 

神父は私の質問に答えることなく、なぜ笑えているのかもおかしいその状態で、大きな声で笑いながら続ける。

 

「けれど、けれどもう何もかもが遅い。かの神の眷属は私たちにもう罰を与え、去っていった。だからもうあなたは不要なのだ。あなたがあなたらしくもなく求めた自由は、もうあなたのものです。」

「...。」

「ああそうだ、あなたが自由を求めてしまったから失敗したのですよ。あなたがそれを求めなければ、ここに敬虔な信徒としてずっといてくれていれば...。」

「......。」

「けれどもう遅いのです。実に...残念だ。」

 

神父はどこか恍惚とした口調でさらに言葉を続ける。

 

「眷属はあなたに伝言を残された。『可能性の先にいる君に伝えよう、少し時間がたったら、君を迎えに行く。』...よく覚えておきなさい。」

 

神父はそういうと、初めからそうであったかのように、物言わぬ躯と化した。

ふと最前列を見てみれば、ほかの死体と同じようにして祈りを捧げる、父と母の死体があった。

 

私は、教会を出た。

 

 

 

 

どこに行くでもなく、教会の前で座っていると、私の目の前に影が落ちる。

顔をあげれば、そこには第4群の指揮官、それからウサギチームの隊長がいた。

 

「へぇ、最後のカラスっていうからどんな奴なのかと思ったけど、ずいぶんしょぼくれてるじゃん。ガキだし。」

「...お前は黙っていろ。」

 

指揮官は隊長をたしなめると、私のほうに目を向ける。

 

「カラスチームの中でもお前は特に優秀だった。故に上からはお前がまだ使えるのであれば脱走兵としての扱いを取り下げるそうだ。」

 

どうする、と指揮官は言外に私に尋ねてきた。

故郷もつぶされ、金もなく、行く当てもなかった私は言った。

 

「戻ります。...(故郷)は死んだし、行く当てもありませんから。」

 

結局私は都市の歯車に戻り、鳥かごの中にまた押し込められた。でも、きっとこの選択は正しかったんだろう。

だから私は今日も剣をふるう。何も考えず、ただ無心で。




この人格のラヴクラフトちゃんは囚人と違ってめっちゃ目が死んでます。多分死に具合で言ったらG社グレッグと同じくらい。
感想をいくつかいただけたおかげで筆が乗りました、本当にありがとうございます。
また新しい人格を出す機会があったらこんな風に人格ストーリーを描こうと思いますのでよろしくお願いします。
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