囚人No.14 ラヴクラフト   作:黒プー

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お待たせいたしました。そこそこリアルが忙しかったので執筆時間が全然取れませんでしたが、やっとかけたので。評価等は相変わらず眺めてはいたのですが、今まで見たことがないくらいの高評価をいただけているようでとてもうれしいです。感想等にもきっちり目を通させていただいています。ありがとうございます。


5話

目を開く。

私の目の前には、長い廊下が続いている。曲がりくねって先すら見えない。

後ろを振り返る。私が進んできた道は、今や炎で包まれていた。

 

『銀の扉にたどり着きなさい』

 

神父様の言葉がよみがえる。

ふと手元を見てみれば、銀色のカギが握られていた。これはきっと扉の鍵だ。これがあれば、扉が開かれるのだろう。

そうだ、扉を開けなければいけない。そのために進まなければならないんだ。

そう、一歩を踏み出そうとした時、突然腕をつかまれる。

 

『行くな。行ってはいけない。』

 

振り返ってみれば、私と姿かたちが全く一緒の、でも私ではない人が立っていた。

その私と全く同じ姿をした人は続けて言う。

 

『知っているはずだ。その先には何があったのか。私たちがなぜその扉を閉めたのか。覚えているはずだ。』

 

だから、行くな。

 

その言葉は、私の耳に強く焼き付いた。

 

 

 

「う、んん...?」

 

目を覚ます。どうやら私は眠ってしまっていたらしい。

何をしていたか寝ぼけた頭で思い出す。...そうだ、確かあの木のようなリンゴのような幻想体と戦うために人格を被ったのだ。そして被った瞬間私の意識がなくなって...。

 

「か、神様!神様が...!」

【...落ち着きなさい。ここにいるだろう。】

「よ、よかったぁ...」

 

神様の声が聞こえる。

寝ている間でも、夢の中でも、私はいつも神様がいる感触を感じられていた。だけどさっき、人格を被った時だけは、その感触さえも感じられなかったのだ。

神様の声を聴き、確かに神様がここにいることを感じた私は、ようやく安心することができた。

 

【...それより、周りを気にしたほうがいいとおもうが。】

「へ?」

 

神様にそう言われて後ろを向けば、何やら額を抑えているアヤさんと、その姿を心配そうに見ているユーリさん、それから何やら笑っている良秀さんがいた。

アヤさんは私の視線に気づいたのか、たははと笑いながら言った。

 

「お、おはよ~...まったく、元気な寝起きだねぇ~。」

「ほ、本当に大丈夫ですか、アヤさん...すごい音でしたけど...。」

「う、うーん...なんだか世界が回ってる気がするよ~、ユーリちゃん...。」

 

...そういえば私の額も何やら痛みを発している気がする。何があったんだろうか。

そう首をかしげてみれば、神様があきれたように言った。

 

【...彼女が君に膝枕をしてやっていたんだが、顔を覗き込んだタイミングで君が急に飛び起きたんだ。まったく、タイミングがいいんだか悪いんだか。】

「そ、そうなのですか...?その、ごめんなさい...?」

 

何と書く謝るべきな気がしてアヤさんに謝る。

アヤさんは気にしないでと言っていたが、まだ痛むらしくしばらくの間額を抑え続けていた。

 

 

 

私が目覚めたことで休憩が終わり、皆がまた移動を再開しようとしたとき。

私も遅れないように武器の点検を済ませたのだが、ふと眠っていた時に見た夢のことを思い出す。あの長い道の途中の夢は、やけに鮮明でやけに印象的だったのだ。

 

「あの、神様。さっき眠っていた時、なんだか変な夢を見たんです。」

【変な夢?】

 

私が夢の内容を説明すると、いつもであれば何かしらの返事をしてくれる神様が、何も言わず、ただ静かに私の話を聞いただけだった。

その様子が気になって、私は神様に聞く。

 

「...あの、何か良くない夢だったのでしょうか?」

【......ああ。その夢は君が見るべきではない夢だ。忘れなさい。】

「え、でも、すごく鮮明だったんです。だから忘れられそうにも...」

【...ならば考えるのをやめなさい。何も言わず、聞かず、考えず、ただ記憶の奥底にとどめておきなさい。...いいね?】

「あ...はい。」

 

そういった神様の言葉は、なんだかいつもよりも重いような気がした。

私は神様の言うとおり、それについて考えるのをやめることにした。

 

 

『ところで、幻想体の死体はどこへ行った?さっき死んだ気がするけど...。』

「おそらく息の根は止まっています、管理人様の卓越した指揮のおかげです。」

『天に昇ったわけじゃないだろうし。』

「さすが管理人様です、その可能性も排除することはできませんね!」

 

ウーティスさんの扱いを覚えてきたらしいダンテさんがそういうと、ユーリさんが言った。

 

「こっちを見てください。」

 

ユーリさんのほうを見れば、そこには卵らしき物体が落ちていた。...どことなく、さっきの幻想体と同じように見える模様が入っている。

 

『...卵?』

「幻想体の核ですね。適切に制圧した場合、このような核の形態で還元されます。」

 

ファウストさんがそういうと、ユーリさんはうなずく。

 

「はい。そしてこの状態で一定時間たつと孵化するんです。」

 

そのユーリさんの言葉に、イシュメールさんが驚いたように言う。

 

「ってことはこいつら、死なないってことですか?」

「幻想体は死にません。L社のエネルギー生産量が途轍もなかったのはこれが原因だったのでしょう。」

「この状態の核を隔離室に持っていくことが私のやることだったんです。...今や逆みたいですね。」

 

「...この卵、放っておいたらまずいですよね。」

 

イシュメールさんがそういうが、ファウストさんは首を横に振る。

 

「リンバスカンパニーにはこのような幻想体を担当する部署が別途で存在します。彼らが回収していくはずです。

「じゃあもたもたしてないで早く呼んだら?」

 

ロージャさんがそういうが、ファウストさんはまた首を横に振る。

 

「連絡はメフィストフェレスから可能です。」

「...そりゃそうだよなぁ。」

「そこまで心配する必要はありません。黄金の枝さえ見つかれば、いやでも帰ることになりますから。」

「...ここから帰るのが嫌な人って、そうそういないんじゃないでしょうか...?」

 

思わずそうつぶやきつつ、私たちはどんどん支部の中を進んでいく。

 

 

 

階段を下りてみても、その先の建物ががらりと変わる...なんてことは起こらなかった。

相も変わらず何の液体かも知れないものが壁に飛び散る、薄暗い廊下がそこにはあった。

 

「...ここにまた来ることになるとは思いませんでした。」

「通常、ロボトミー支部はいくつかの階層で構成されています。そして、それぞれの階層ごとに、主となる幻想体が存在するでしょう。」

「...そんな情報、どこから聞いてるんだ?」

「ファウストはすべてを知っていますから。」

 

グレゴールさんがそういうと、ファウストさんはそういった。

 

【...ファウスト、か。】

「?何かありましたか、神様?」

【......いや、少し彼女のいうファウストが気になってな。...まあ、私たちとは関係ないだろう。それよりも大事なことがある。】

 

ガスマスクだ、という神様の声に従って壁を見れば、確かにそこにはガスマスクがあった。最もその大半は壊れていて使い物にならないように見える。

 

「...使えるガスマスクは一つしかないように見えます。」

【ああ。一つで十分だ。持っていきなさい、あとは君がどう使うか考えればいい。】

「わかりました。」

 

神様の声に従って、ガスマスクを手に取る。

どこでこれを使うのかは全くわからないが、少なくとも必要になる時が来るのだろう。なぜなら神様がそういったからだ。

 

 

 

ガスマスクを手に入れ、道中でG社の部長だった人を倒し。戦闘は多々あれど、そこまで苦戦することなく私たちは進んでいた。

 

そうして奥に向かっていくが、ふと周りにさっきまでたくさん転がっていたG社の元兵士たちの死体がほどんどなくなったように見えた。

 

「...ここからは敗残兵たちがとどまっていた痕跡すら見当たりませんね。」

「これ以上前に進むなとさっきの人が警告してましたね...。」

 

イシュメールさんのその言葉に、シンクレアさんが言う。

そして廊下には、G社の兵士たちの代わりに、死んでからずいぶん経ったように見える死体が転がり始めていた。

ユーリさんがそれを見て驚いたように言う。

 

「これは私た、...いえ、L社職員の死体です。」

「鈍器で打擲せらる痕跡よ。全員が然ななり。」

「管理記録書...これは、幻想体の管理方法を書いておく文書です。...普通管理任務に指定されたらうんざりするくらい暗記してはいるから、こんなのは必要ないはずなのに...。」

「推測なれど、幻想体が脱走せどいづれも管理方法をしらざりけん。」

「まだ隔離室に運搬してない卵なら...そうかもしれませんね。」

 

そう二人が話をしているのをしり目に、私は何となく気になり、死体の状態を見る。

それはたくさん転がるL社社員の死体の上に転がる、G社職員の死体だった。

 

「...この死体、ほかのものと比べて外傷が少ないように見えます。」

【...L社職員の死体を見るに、この階層の主は物理的な手段で暴れる個体だろう。そうなると、この死体の原因は...。】

 

その時、イシュメールさんが言う。

 

「...待ってください、この匂いは...?」

 

気づけば私たちの周囲を奇妙なにおいが取り囲んでいた。そしてそれと同時に、いやに目立つシューシューという音があたりに響き渡る。

するとずっと静かだったホプキンスさんがしゃべりだす。

 

「...この前、事務所で一番高い装備を一つ新調したんですよ。特定の階層から毒物検出率が高くなるって、そんなうわさが流れ始めていたから。長い間にさらされると、体から持続的に出血を引き起こすらしいです。」

 

鼻から何かが垂れたような気がして触れてみれば、それは血だった。...どうやら目の前のこの人が言う話は本当らしい。

 

「これ...以前補給された、幻想体制圧用の毒ガス弾です...死体の間で...げほっ、爆発でもしたみたいです...。」

「...ハッ、確かに、この付近では毒気がかなり濃くなってますね。」

 

そういったホプキンスさんの口元には、いつの間にかガスマスクがつけられていた。

 

「...ねぇ、私たちにもああいうのないの?」

「...提供された補給品にはありませんでした。」

 

するとその言葉を聞いたアヤさんが驚いたように言う。

 

「じょ、冗談だよね~?ホプキンスも言ってたけど、毒ガスが流れてるって噂は結構前から広まってたよ~、それなのに何も対策がないだなんて~...?」

「...残念ながら、冗談ではありません。少なくとも私たちには必要ないという上の判断なのでしょう。」

 

あながち間違った判断ではありませんが、というファウストさんの言葉は、慌てているアヤさんには聞こえなかったらしい。

そしてそんな様子を見ているホプキンスさんは、ただこちらを馬鹿にしたように笑っているだけだった。

 

「この野郎、お前は最初から...!ッぐ!?」

 

ヒースクリフさんがバットを振り回そうとするが、すぐにバットを手放し、その場にうずくまる。

 

「興奮すると血流がより速くなります。毒がすぐに回るということです。その場でなるべく暴れずに、できる限りゆっくりと呼吸してください。」

「ホプキンスさん...けほっ...どうして、先に言ってくれなかったんですか...」

 

そのユーリさんの言葉に、ホプキンスさんはあきれたように言った

 

「俺からも聞こうか、ユーリ。そんな期待もせずに雇ったお荷物みたいなやつに、ただでさえ高いものを使うことになるって、どうして知らせる必要があるんだ?」

「あ......」

 

その言葉に、ガスマスクを同じようにつけたアヤさんが言った。

 

「...ちょっと、ホプキンス。まさかユーリちゃんにガスマスクをわざと渡さなかったなんて言わないよね~?

私、確かにユーリちゃんにも同じのを渡すように伝えたと思うんだけど。」

「はぁ...アヤ。俺は君があいつを大切にしようとしてる意味が分からないよ。身内以外の人間なんて使い捨てればいいのに、どうして身内に加えようとするんだ?都市ならそれが普通だろ?」

「っ......。」

 

黙ってしまったアヤさんに、ホプキンスさんは私たちに見せつけるようにしながら深くため息をついた。

その様子を見たヒースクリフさんが言う。

 

「卑怯者が...そこまでして生きたいのかよ...!」

「フィクサーに卑怯だなんて、何を言ってるんだ?赤い視線様が引き連れている奴らがどんなもんかと思ったら、まともな情報や道具もなしにここへ忍び込もうとする馬鹿だったなんてな。」

 

そういったホプキンスさんは、ヒースクリフさんの殺気を感じたのか素早く入口へ向かって後ずさりした。

 

「おかげさまでエンケファリンは結構手に入ったよ。恥ずかしいだろうし、窒息死じゃなくて行方不明で報告しておいてやる。」

「...私がまだいるのに、そんなこと言ってもいいの?」

 

アヤさんがそういうが、ホプキンスさんはその言葉を馬鹿にしたように鼻で笑い飛ばしてから言った。

 

「エンケファリンを持って帰ってきたやつと、高級品を無駄にして帰ってきたやつのどっちの言葉を周りは信じると思ってるんだ?自分の信用をわざわざ落としたいならそうすればいいんじゃないか?じゃあな。」

 

そういうとホプキンスさんは私たちを置いて去っていった。

その様子を見たユーリさんは、言い返すこともなく、鼻血を受け止めながらへたり込んだ。

...周りの人も、いつの間にか倒れている、私ももう持たないのかもしれない。

 

「...神様は、こうなることが分かっていたのですか。」

【...正確にわかっていたんじゃない。ただ君が死にかけるという未来と、ガスマスクがあれば少しだけそれが変わるということが見えただけだ。】

「...その未来で、ユーリさんは...生きていたのですか。」

【......君が知る必要はないだろう。】

 

その言葉で、私はわかってしまった。確かに私がガスマスクを使えば、ここで死なずに済むだろう。

私は眠ったり、意識を失ったりして、暗闇の中に落ちるのが嫌いだった。そのたびに何かが私をつかんで、引き釣りこもうとしているような気がしたから。

そして死ぬこともそれらと同じだった。あの黒い森で初めて殺された時も、同じように感じたから。

きっと神様もそれを知っているんだろう。だからガスマスクのことを教えてくれた。たとえ私が死んでも時計で復活できるから大して変わらないのに。

まだ死ぬことは怖い。でも、死んだからってあの暗闇の中を永遠にさまようわけじゃない。金の鎖がきっと引き上げてくれるから。

 

「...ごめんなさい、神様。私はあなたの意から外れます。」

 

懐からしまっておいたガスマスクを取り出し、ユーリさんに手渡す。

 

「これって...」

「ここで使われていたであろうガスマスクです。ボロボロですが...ないよりはましだと思います。」

 

それを見たグレゴールさんは驚いたように言う。

 

「嬢ちゃん...なんでそんなもの拾ってたんだ?」

「神様が必要になるだろうからと教えてくれたんです。」

「...ハッ。神なんていないと思ってたが...意外といるのかもしれないな?」

 

ユーリさんが私からそれを受け取って、血の混じった咳をしながらそれをつける。

これで私はここで生き残れないだろう。

 

【...よかったのか。】

 

神様は私が言うことに従わなかったにもかかわらず、怒るわけでもなく、私にそう言った。

 

「...暗闇はまだ怖いですが...でも、復活できない誰かが死ぬよりは、後悔しないと、思いますから。」

【...そうか。】

「それよりも、神様こそ、よかったんですか?私は...けほっ、神様の言うことに従わなかったんですよ?」

 

すると神様は笑いながら言った。

 

【私は本来の神よりも全能ではないし、彼らのように傲慢でもない。ただ君が後悔するかどうかが判断の基準だ。だから君が後悔していないのであれば、私はそれでいい。】

「...そう、ですか。」

 

毒が回ってきたのか、体がうまく動かなくなってくる。きっと私もそろそろ死んでしまうのだろう。

何となくグレゴールさんと話しているユーリさんに話しかける。

 

「ユーリさん。...手を、握ってくれませんか。大丈夫だとわかっていても、怖い、ので。」

「...私なんかで、よかったら。」

 

そう言ったユーリさんは私の手をぎゅっと握ってくれた。その手のぬくもりは、だんだんと冷えていく私の手を温めてくれているようだった

 

「...少し、寝ます。また、起こしてください。」

 

 

ユーリさんが何と言ったのか、私には聞こえなかった。

ただその時に見た暗闇は、いつも見ていたものよりは明るかったような気がした。

 

 

 

 

 

 




アヤさんを軽率に生かしてしまったせいでガスマスクどうするかずっと悩んでいたりしてました。
でもまあ毒ガス弾なんて作るんだったら廊下にガスマスクの一つや二つは置いてるだろと考えてこんな感じにしました。

結局人間みんな死ぬのが怖いですからね。ガンギマリロリでもそれは一緒なのだ。多分。
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