答えを出せるのはまだまだ先になりますがジャンジャン考察していただけるととっても嬉しいです。
ダンテさんの時計の針で復活するのは嫌いじゃない。
確かに目が覚めてすぐは気持ち悪さだったり殺されたときの感触だったりが残っているのであまり気持ちよくはない。
けれど、目が覚める直前に感じる、深淵から一気に引き上げられる感触が、私にとっては心地よく感じるのだ。
「ん...けほっ、けほっ。」
まだ口の中にたまっていた血痰を吐き出して、あたりを見回す。
ダンテさん、アヤさん、それにユーリさん。どうやら私たち囚人以外はみんな生き残ることができたらしい。
「...目が覚めたんですね。」
「ユーリさん。ガスマスク、大丈夫だったみたいですね。よかったです。」
使えると神様が保証してくれてはいたが、放置されてからそれなりに時間がたっていたし、何より返り血で汚れているように見えたので少し心配だったのだ。
無事に機能したようで何より、と思ったが、どうもユーリさんの元気がないように見える。
確か直前にグレゴールさんと話していた気がする。何かあったのだろうか。
思いつめたようなその表情が気になって、私は口を開く。
「...ユーリさん。話してみませんか。」
「え...?」
「神父様がいつもおっしゃっていたんです。『言葉を聞くことが人を救う一番の近道だ』と。私は神父様のような聞き上手ではないですが...でも、聞くことくらいはできますから。」
私がそういうと、ユーリさんは私と握ったままの手をぎゅっと強く握りながらも言った。
「......もしも自分じゃ消せない罪が自分の後を付きまとってくるとしたら...ラヴクラフトさんだったらどうしますか。」
「...消せない罪、ですか。」
ユーリさんの質問に、昔神父様がくれた本の存在を思い出す。
ある男女が楽園にあった神様によって禁じられた知恵の実を食べてしまうお話。その二人は私たちの先祖であり、だから私たちは先祖の罪を消すために神様から罰を受け続けている。
では、その罰とは何だろうか。人に降りかかる不幸だろうか。でも仮にそれが神様からの罰なのだとしたら、なぜ人によってその大きさが違うのだろうか。
神父様とその本を読んだとき、私はそのことを疑問に思って神父様に聞いたことがある。
すると神父様はこう言った。
『そもそも、神は君たちに罰を与えていないんじゃないかな。この話も結局は人が宗教の存在を確固なものにするために考えたものだろう。だから不幸とは神が与えた罰ではなく、ただ単に運が悪かった。運命がその時だけ味方してくれなかったから起こった事象なのだろう。』
『...でも、罪があるのに罰がないというのは、おかしいのではないでしょうか。』
私がそういうと、神父様は少し考えてからこういった。
『神は実際に存在し、けれど君たちに罰を与えなかった。では、その罪は知らないうちに許されていた、と考えるのはどうかな。何せ神という生き物は、意外と寛容だからね。』
その話は、私と神父様の授業の中でも、印象に残っていたものだった。
「ユーリさん。私は、消せない...永遠に続く罪なんかないと思うんです。...実際に目にしたことがあるから言えるのですが、罪には必ず罰が伴います。でも罰が永遠に続くなんてことはないんです。だから...罪が消せないのは、もうすでにそこに罪がないからなんじゃないでしょうか。」
「罪が無い...ですか。」
私の言葉を聞いてくれたのか、ユーリさんはぎゅっと握っていた私の手を離すと言った。
「...ありがとうございます、ラヴクラフトさん。」
そういって立ち上がったユーリさんの表情は、ほんの少しだけ晴れやかに見えた。
私の言葉は響いたのだろうか。もしそうだとしたら...私は、誰かを救うことができたのだろうか。
ユーリさんが立ち上がったのと同時に、神様が言った。
【罰がないのであれば罪はない、か。...私は、そうは思わないがな。】
「え?そ、そうなのですか?ゆ、ユーリさんに話してしまいました...。」
【...君が言ったことをすべて否定するわけではない。ただ、罪に対する罰がない理由には、罪が存在しないこと以外にもう一つあるだろう。】
「...それは、何でしょうか。」
【......罰を与えるものが存在しないということだ。...全て、焼いてしまったから。】
焼いてしまった、とはどういうことなのだろうか。
私にはわからない、けれど神様が抱えている深い悲しみが、少し読み取れてしまったような気がした。
♢
『そういえば...さっきのあの幻想体が職員を皆殺しにしたのかな。』
奥に進んでいく廊下を歩きながら、ダンテさんが言う。
ふと職員たちの死体を思い出してみるが、彼らの死因の大半はあのリンゴのような幻想体が出していた蔓ではなかった。きっとあの幻想体が殺したわけではないのではないだろうか。
「ッ、前方を注視なさいませ、管理人様。」
ウーティスさんの言葉に従って前を見てみれば、廊下の端に石造の頭を被った何かが、弱弱しく寄りかかって座っているのが見えた。
「...こんにちは、君たちも...くじ引きを、しに来たのかい...。社員証を...全部、集めて渡すと...当選者が選ばれるんだ...」
そう言ったその人の手には、自分自身のものであろう社員証がついた紐だけが、かろうじて握られていた。
「...アレックス。」
ユーリさんの表情が固まる。...さっきの話の罪は、この人たちのことだったのだろうか。
「こいつ正気か?当選者当選者しつけえな。」
「...ここにいた幻想体たちの管理方法には、定期的な犠牲物を決めて捧げろと書かれていました。...きっと、人身御供したんだ。そうなんでしょ?」
アレックスはユーリさんの言葉に答えず、ユーリさんを指さす。
「...君が引く、番だ...。」
その様子を見ていたイシュメールさんが尋ねる。
「人身御供をしないとどうなるんですか?」
「それは...わかりません、管理方法はいつも徹底的に守られてたんです。」
「脱走して、手当たり次第職員を殺してたってことですか。」
イシュメールさんの言葉に、死体を観察していたヒースクリフさんが笑う。
「ハッ、そうだとしたらその幻想体ってやつ、ずいぶん汚いんだな。出会い頭に後頭部をかち割ってるみたいだしな。」
「...どういうことですか?」
「目でも狂ってんのか?こいつは人間がつけた傷だ、お互いもう一発ぶちかまそうと躍起になってたみてぇだな。この間抜けどもは、お互いボコスカやっててくたばったんだよ。」
ヒースクリフさんのその言葉に、ユーリさんが驚いたように言う。
「ど、どうしてそんなことに!?」
「フツーにわかるだろ。...支部が崩壊してしばらくは何とか生き残ろうとしてたんだろうな。定期的に人間をささげさえすれば、いつか救助されるかもしれねえだろうし。くじ引きで何か月は耐えたんだろ。とりあえず一人だけ死ねば少しは生き残れるからな。...で、それを犠牲者がすんなり受け入れると思うか?」
ヒースクリフさんのその言葉で、この場所で起こった光景がありありと目に浮かぶ。
きっとここでは...とても凄惨なことが起こったんだろう。
「そうして最後まで生き残って...彼らと同じ石像をかぶってれば、人身御供を回避できると思ったんでしょうね。」
「...そんなわけないです、アレックスは自分が生き残るために他人を殺すような職員じゃないです、絶対に...」
「どうやってお前にそれがわかるんだ。あの野郎が本物のアレックスかもわかんねえだろ。」
ヒースクリフさんの言葉に、ユーリさんは押し黙る。その様子を見ていたウーティスさんが言う。
「...この辺にして進もう、このものは時期に息絶えるだろう。」
その言葉に従って、ヒースクリフさんたちが先に進んでいく。
私もそれに従って前に進む。
ふと気になって後ろを振り返ってみると、ユーリさんだけが足取りを止めたまま、石像の頭のその人を見下ろしていた。
【...彼女にとっての罪は、まだ残っていたようだな。】
「......やっぱり、私では神父様のようにうまくやれないみたいです。」
あの時行ったことは間違っていたのかもしれない、という後悔とともに、私たちは前に進んでいく。
♢
廊下を先へ先へと進んでいた時。前のほうを進んでいたグレゴールさんがふと立ち止まる。
「...みんな、さっきから何か聞こえないか?」
「音ならずっと聞こえてたじゃないですか。...ローじゃさん、この状況でもおなか空くんですね。」
「そ、そういうのは聞かなかったふりするもんだよ~、ね?」
だがグレゴールさんはそんな話を聞いておらず、何かに吸い込まれるようにある扉へと向かっていく。
そして、何かにとりつかれたようにしてその扉を開けた。
ユーリさんが叫ぶ。
「待って、そこは幻想体隔離室です!」
すでにその扉は開かれていた。
そこからあふれんばかりの黄金の光を、グレゴールさんだけは魅了されたかのように眺めていた。
ふらふらと入っていくグレゴールさんの後を追って私たちも中に入ると、その景色はただの隔離室ではなかった。
「...私たち、タイムトラベルでもしたんですか?」
「タイムトラベルはいいと思うんだけど~、私でも知ってるヤバいところに飛ばすのはどうかと思うんだ~...。」
白くかすんだ空が見える。
遠くからは悲鳴と歓声がひねり合わさったかのような音が聞こえてくる。
そして一つに交じって聞こえる砲撃音と歓声は、煙たく空間を埋めていく。
「...見ればわかるだろう。ここは...戦争の、真っ只中だ。」
ウーティスさんの言葉通りだ。神父様が教えてくれた都市の歴史。繰り返される戦争の中でも、特に熾烈だった戦争。
「...煙戦争の中、ですか。」
【...奇妙なことだ。】
私たちは、そんな戦争の中に迷い込んでいた。
煙戦争の中に飛ばされるシーンがあることをすっかり忘れていてもうそろそろ1章も終わりかぁなんてことを考えていた時期が私にもありました。頑張って書きます。