囚人No.14 ラヴクラフト   作:黒プー

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リアン実装早くないかい?


7話

湧き上がる歓声にむせかえるような血の香り。剣の舞う音が聞こえ、それに切られ倒れる音も聞こえる。

人と人とが大したわけもなく殺し合う醜い場所。その景色が私の目の前に広がっていた。

 

「こ、これは、夢?悪夢?な、なんでまた...」

「なんで戦争の真っただ中にいるんだよ!罠にでもはめられたんじゃねえか!?」

「いいえ。正しい方向へと進めたようですね。遠くない場所に私たちの探していた技術の精髄があります。」

「...黄金の枝ですか。」

 

ヒースクリフさんの叫び声にファウストさんがそう返すと、それを聞いた神様が言う。

 

【実際に触り、体験することができるほどの幻影を投影する技術の精髄、か。誰だか知らないが、ずいぶんなものを生み出してくれたようだな。】

「こんなものまで作れてしまうなんて...恐ろしいです。」

 

ずっと町の中で過ごしていたのもあって、都市の技術にはあまり詳しくはなかった。

神父様が言うには宇宙(そら)にさえも届きうるほど発展していると言っていたけれど...確かに、これほど進んだ技術があるのなら、それさえも可能なのかもしれない。

 

「皆さん、ここがいつなのかはわかりますか?」

「目さえあるなら一目でわかるだろう。所属を誇示するかのような色とりどりのダサい旗がはためいているのを見るに、煙戦争が勃発してから少なくとも70日後だ。」

 

ウーティスさんがそう言い切った時、突然誰かが切羽詰まったように服を引っ張ってきた。

 

「気でも狂ったのか!?早く避難するんだ、あの爆弾にさらされると急激に老化が進むぞ!隣の守衛所じゃ職員たちは杖なしじゃ歩けなくなってるんだ!」

「ああ!?てめえ、自分を何様だと思って...!」

 

ヒースクリフさんの服をひっつかんだその人は、グレゴールさんを見つけたかと思うと怒り狂うヒースクリフさんを放っておいてぴしっとした姿勢で敬礼をした。

 

「お前...は。」

「私のことはご存じないでしょうね...生体管理チーム、トーマです!...先発隊列にいらっしゃると思ったんですが、後方にいらっしゃるとは思いませんでした。合流するべきなら私が手伝いましょうか?」

 

ジャンプ力なら自信があるんです、と誇らしげにその変形した足を晒して見せるトーマさんに、ロージャさんが「うえー、気持ち悪い...」というと、トーマさんは訝しげな眼でそちらを見る。

 

「あなた、さっき何と...」

「と、トーマ代理...いや、社員か?子、こっちのはまだ施術されたばかりの職員だから...精神錯乱の副作用がまだ解決してないんだ。俺のほうでよく言い聞かせておくよ。」

 

そう言ったグレゴールさんはほぼ押しのけるようにして男と距離を置き、ファウストさんのほうへ向かって言った。

 

「どうなってるんだ、ファウストさん、これは...俺の記憶じゃないか。」

【...機械も通さずに記憶を再現するとは。どういう技術なんだ、本当に。】

「正確には自我心道です。あなたの心の中にある道、つまり...私たちが、あなたの心に侵入したということです。」

 

 

 

 

グレゴールさんの心の中は凄惨なものだった。

ずっと繰り返される景色の中を奥に進んでいけばいくほど、幾度となく現れるトーマさんや戦っている職員たちが醜い姿へと変わっていく。まるで、戦い続けているうちに荒んでいき、何もわからなくなる心情を表しているかのようだ。

そしてその景色を眺めるグレゴールさんの姿は、いつかの私を眺めているようだった。ずっと閉じ込められ、押し付けられ、(虫の腕)を振るい続ける。けれど私と違って、望んでいない中だったのだろう。その苦しい心情は、私には推し量れないものだ。

でも、きっと彼女は違うのだろう。

グレゴールさんをじっと見つめるユーリさんに、私は声をかける。

 

「同じ、ですか?」

「っ...。」

 

どこか苦しそうな表情をするユーリさんに、私は続けていう。

 

「...実は、少し後悔してたんです、私がさっき話した後のユーリさんの表情を見て。きっと、私の言葉じゃユーリさんを救えていなかったんじゃないかな、と。」

「そんなこと...。」

 

ない、とユーリさんが否定することはなかった。やっぱりあの罰がなければ罪はないという言葉は、救いにはならなかったのだろう。...神父様のすごさがよく分かった気がする。

 

「きっと今のグレゴールさんの気持ちがわかるのは、ユーリさんだけだと思います。...だから、そばにいてあげてください。ただお互いを肯定しあうというのはあまりよくないことだと思いますが...必要なこともあると思いますから。」

「...はい。」

 

そう背中を押してみれば、ユーリさんも決心してくれたのか、グレゴールさんのほうへと歩んでいった。...これであの人が少しでも救われてくれればいいのだが。

 

【...あの神父に少し似ているな。...こう見えるのか。】

「?...見える、とは?」

【......忘れてくれ、大した意味じゃない。】

 

そうどこか機嫌が悪そうに神様はつぶやく。以前から思っていたことだが、神様は神父様のことがあまり好きではないらしい。

あんなにも良い方なのに、いったい二人の間で何があったんだろうか。

 

 

 

 

走る、走る、走る。

戦場の中を、つかもうと降りてくる腕を避けながら走り続ける。

突然降ってきたその腕は、所かまわず私たちをつかもうとし、その余波で回りの兵士たちを掴んでいく。

きっとあれにつかまれたら一巻の終わりだろうと予感させてくる、恐ろしい光景だった。

 

「さ、さすがにずっと走っているわけにもいかないんじゃないでしょうか!?」

「んも~!煙戦争の中に飛ばされたと思ったら~、次は腕につぶされそうになるなんて~!すごい経験だよ~!」

「言ってないで走ってください、アヤさん!」

 

そういいながら走っていたアヤさんの横すれすれを腕が踏みつぶしていくと、さすがにのんきにしゃべっていられないと思ったのか少し青くなった表情のまま、アヤさんは無言になる。

とはいえずっと走っていても解決にはならなさそうだ。何か行動しなければ。

私がそう考えると、先頭にいたグレゴールさんが足を止める。

 

「ぐ、グレゴールさん?」

「なんだよ!?なんで急に止まるんだよ!」

「...分かった気がする。ここが俺の世界なら...俺たちは、あの腕をよけちゃダメなんだ。」

 

グレゴールさんのその言葉にヒースクリフさんが叫ぶ。

「ああ!?ついにおつむがいったのか!?」

「...グレゴール、確かなんですか?」

 

ファウストさんがそう静かに言うと、グレゴールさんが言う。

 

「今まで何一つ俺の意思で生きたことはなかった。それなら...抵抗をやめることが答えかもしれない。」

「...本気か、お前ら?」

「ほかによさげな方法もないじゃないですか。」

「それにあの爪...あんな模様のマニキュアはよくあるもんじゃない。掌の主があの人なら、絶対に俺をあきらめないだろう。」

 

腕をよく見てみれば、確かに奇妙な模様のマニキュアが塗られている。

それを恐ろし気に見ているグレゴールさんが言う。

 

「ファウストさん、あんた、これが俺の心の道とか言ってたよな。...それなら、確かだろう。...俺の心の道って、ここから先は行き止まりの予定だからな。...悪夢も道も、その人の統制から逃れられたことは一度もなかったんだ。」

 

その言葉が聞こえたのかはわからないが。私たちの上に巨大な影が下りたかと思うと、振り下ろす直前に、私たちを鷲掴みにした。

目の前が真っ暗になり、空中に浮かぶように、感覚がゆらゆらとした。

そして気づけば、私たちはロボトミー支部の中へと戻ってきていた。

 

【......奇妙な感覚がするな。あの先にあるようだ。】

 

神様の言うとおりだった。向こう側の黄金の光が差し込む方向からは、言葉で説明するのが難しい感覚が、確かにしていた。

きっとあの先にあるのだろう、黄金の枝が。

 

「...グレゴールさん。帰ったら地図の読み方をカロンに教えてもいいですか。」

「ん?ああ!もちろんだ、カロンが喜ぶだろうな。」

「...そんなわけないと思うんですけど...」

 

シンクレアさんの言うとおり、確かにあの危険なドライバーが地図を教えてもらうことを楽しめるとは到底思えなかった。

露骨にいやそうな顔をしているシンクレアさんとは違い、ユーリさんは嬉しそうにしながら言った。

 

「ふふっ、帰る場所があるって、いいことですね。」

 

 

 

 

 

黄金の光が漏れ出る部屋に入ると、そこには一体の幻想体がいた。

黄金の色をしたリンゴに手足が生えた奇妙な姿。きっとあれが黄金の枝が根差した幻想体なのだろう。

 

『グレゴール、ウーティス、ファウスト、ラヴクラフト!人格をかぶせる!』

 

ダンテさんがそういうと、私に仮初めの皮がかぶせられ、それと同時に様々な記憶が流れ込んでくる。

とある事務所に所属したこと、ファウストさんがその事務所にやってきたこと、リンバス・カンパニーという企業に依頼されてL社支部を探索したこと、そして。

 

「う、ぐ...なるほど、この人格、は。」

 

おなかに穴が開き、つたに引きずられ、意識が途切れる瞬間の記憶。これはきっと...アヤさんの立場になった私の人格、ということなのだろう。

人格は可能性の自分を体に降ろす技術だとファウストさんとイサンさんが話しているのを聞いたことがある。こういった私もいた、ということなのだろう。

 

【...聞こえるか。】

「あ...神、様...。」

【.....今度は聞こえるようだな。以前君がカラスチームの人格をかぶっていたときはだめだったようだったが、何か条件があるようだ。...それより大丈夫か?】

「は、い...いやな記憶が頭に流れ込んできたものですから。」

 

いつの間にか手に持っていたアヤさんのものと似ているエネルギー銃を手に立ち上がる。

若干頭痛がするが、特に問題なく戦えるはずだ。

 

「...大丈夫ですか、ラヴクラフト。」

「...うん、問題ないよ、ファウスト。」

 

心配そうに駆け寄ってきた後輩のファウストにそう言って、目の前の標的を見据える。

既にグレゴールさんとウーティスさんが戦っているが、その様子を見る限りでは特別な攻撃手段などは持っていないようだ。ただ腕を振り回したり、時折タックルをしてくる程度。

 

「...うん、たぶんそこまで危ない相手じゃない。ファウスト、援護するから切り込んで。」

「わかりました。」

 

ファウストがピンク色に光る刀を手に切り込む。その姿を見たリンゴが彼女を押しつぶそうと腕を振り下ろす。

その瞬間を狙って、私はその腕に向けて引き金を引く。

 

「隙だらけだよ!」

 

ほんの少しのチャージを挟み、エネルギーによって加速した弾頭がその腕を貫く。

そしてそのすきを見逃さないファウストが、剣をふるう。

 

だがその剣はリンゴの堅い表皮に防がれてしまい、少しの手傷を与えるにとどまった。

 

「っ...堅いですね。私の剣では傷をつけることさえ難しそうです。」

「うーん、そうみたいだ。...ごめんねファウスト、私がみんなを説得できていればもっといい武器を渡してあげられたかもしれないのに。」

「...いいえ、問題ありません。これでも戦えますから。」

 

溜息を吐きつつ、銃を充電しながら私は言う。

 

「...フルチャージで狙撃してみよう。ファウスト、時間稼いでもらえる?」

「了解しました。」

 

ファウストがまたリンゴに向かっていくのを見て、私は銃のチャージを始める。

この銃ははっきり言って安物だ。私はまだ6級なのもあってロジックアトリエ製なんかの高い銃なんか買えない。事務所の所長は私のことが嫌いなのか最近はまともに給料も出してくれないくらいだから。

だからこの銃でフルチャージ射撃なんかを撃とうものなら銃身が焼け付いて交換できなくなる。けれど、それくらいしなきゃあのリンゴの表面を打ち抜くのは難しいだろう。

たっぷり時間をかけてチャージを完了させ、改めてリンゴに向けて構える。

 

「...これで倒れてくれなかったら恨むよ...!」

 

ファウストが気付いてくれて下がった一瞬をついて狙撃。

その射撃は見事にリンゴに命中し、その表面にひびが入る。

 

「ハッ!」

 

そのすきを見逃さず、ファウストが剣で一撃を入れる。

その一撃で、リンゴの表面はようやく壊れた。

 

 

 

 

「私が言って確認します!」

 

その声が聞こえたのは、私がファウストさんと協力してリンゴの表面を壊し、リンゴの動きが止まった時だった。

パリン、という音がして、突然私と人格の同期が途切れる。

 

【...このまま放っておくのは君にとって良くないと思ったから見せておく。】

 

神様が突然そういうと、脳裏にある景色がよぎる。

ユーリさんが突然リンゴの中から現れた何かに食われ、見えなくなり、溶けて消えてしまうその瞬間。

そして、再びユーリさんの顔が現れた瞬間を。

 

「う、ぐ...!?」

【今ならまだ間に合うだろう。...君が思うようにしろ。】

 

再び前を見る。

確かに脳裏でよぎったあの景色とはちがい、まだリンゴの中から出てきたなにかは見えない。

きっと、間に合うはずだ。

私は立ち上がり、ユーリさんに向かって走ろうとした、その時だった。

 

 

駄目じゃないか、私の鍵。

 

声が、聞こえた。

思わず後ろを振り向く。ダンテさんやほかの囚人たち。その後ろに、その人はいた。

浅黒い肌に、誰もが見とれてしまうほどの美貌を持った、修道服を身に着けたその人。

 

「神父...様...?」

 

なんで、あの人がここに?あの人は確かに私が殺して...殺して?なんで私はあの人を殺した?殺す理由なんてあるはずがない。でも、確かに私は殺した、燃え盛る炎の中で、あの人にこの剣を突き刺して、突き刺して、突き刺した。

あの日にあの人は確かに死んだのに、なんで...?

 

【...くそっ!ラヴクラフト!聞け!あれは確かにあの日私たちがとどめを刺したはずだ!あれは幻影だ!耳を貸すな!】

「...ひどいな、私の鍵。少しくらい耳を貸してくれたっていいだろうに。」

 

その人はダンテさんたちを避けて、私に近づいてくる。

そして私の頬に手をやり、そして言った。

 

「何度も言っただろうに。この世界には、絶対に変えてはいけない運命がある。その見分け方は、もう教えただろう?」

 

もう一度見てみなさい。そのささやき声に言われ、ユーリさんをもう一度見る。

灰色だった。

ほかの囚人の人たちとは違う、灰色。そうだ、なぜ忘れていたんだろう。誰しも運命は決まっている。死や生は神が与える罰などではなく、すべて運命の直線状にある。それが死ぬと定めれば死に、それが生きると定めれば生きる。

私の「鍵」はその運命を変える手段であり、私の「眼」は運命の色を見るために与えられたもの。だから私は先の景色が見えるし、他人を助けられる。

でも、すでに灰色になってしまった人は、助けられない。なぜならその人の運命は、すでに燃え尽きてしまっているから。

 

「思い出したみたいだね。そう、あの少女はもう助けられない。そして君は、その姿を何もせずに見送る。それが初めから定められていた運命なんだ。それを変えることは...今の君では無理だろうね?」

 

あきらめなさい。神父様の声は、そういったかと思うと消えてなくなった。

思わず膝から崩れ落ちる。

 

「!...おい、大丈夫か。」

 

良秀さんが私の体を支えてくれる。だけど、私の視線は釘付けだ。ユーリさんのその姿に。助けられない、その人に。

 

「...めんなさい」

「なんだと?」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい...!」

 

涙を流しながら、その姿を見つめなければならない。目を離してはいけない。助けることも許されない。

ただその姿を、私は見つめていなければならない。

 

救えない。

 

それが、私に課せられる罪だ。力があるにもかかわらず、私は救えない。多くの人を救わなければならないのに、私には救えないのだ。

ユーリさんがそれに飲み込まれ、溶けてなくなった瞬間。

私は限界に達して、意識を失った。

 

 

 

 

ユーリの顔がグレゴールを静かに見つめていた。まっすぐな姿勢で。

しかしユーリは、私たちと初めて会った時から曲がった姿勢をしていた。

死んだ仲間たちの重さまでをも背負って立っていることが、生き残った者たちの使命であるかのように。だからこそ、私は彼に言うことができた。

 

『あれはユーリじゃない、グレゴール。』

「...ああ、俺もそう思うよ。」

 

すぐさまグレゴールの腕が長く伸び、ユーリに向かって突進していく。

そして、すぐに止まる。

 

「死にたくなかったです。」

「......」

『切り裂け、グレゴール。』

 

これが管理人がとるべき選択かはわからない。

 

「誰も死ぬことを望んではいなかったんです。」

 

でも今彼が壊れてしまわないようにするためには、私は叫ばなければならなかった。

 

『切り裂け!』

「う、うわああああああああ!」

 

でも、その腕は直前で止まってしまう。

代わりに声が聞こえた。

 

「残念だな。ヘルマンが期待していたから、その程度はできてしまうと思ったんだが。...君ができないなら、私が代わりに"救って"あげよう。」

 

ユーリの首が床に落ちた。グレゴールが切ったものではなかった。

転がった首がうめき声をあげ、ユーリの口が広がったかと思えば、苦しそうに何かを吐き出した。

爛々と輝く黄金の木の枝だった。

 

「これが枝、か。思っていたよりも小さいな。」

「あんたは...?」

 

浅黒い肌の、誰もが惚れてしまいそうな美貌を持ったその男は、少し笑って言った。

 

「こんにちは、グレゴール、そしてダンテ。私はナイ。ナイ神父と呼んでくれ。あの子が世話になっているね。」

 

その男の目線の先には、いつの間にか意識を失っていたラヴクラフトがいた。

 

「君たちの中はあの子にいい影響をもたらしてくれている。...私では冷たさしか与えられなかったからね。君たちの温かさが、あの子の絶望をより深いものにしてくれているんだ。」

「何、を...。」

「これはもらっていくよ。契約なんだ、彼女たちとのね。」

 

彼の視線の先には、何人かの男女がいた。

 

「枝は奪えたようね。ご苦労様、ナイ。」

「神父と呼んでくれないか。あの子の呼び方で、できれば呼ばれたいんだ。」

 

その人は私たちのほうに向きなおるといった。

 

「私はヘルマンよ。これからよく合うことになるでしょう。なぜなら...私たちは枝が必要で、あなたたちは枝を見つけることができて。あなたたちは死なないけれど、私たちはあなたたちを殺すから。...黄金の枝は私たちのほうで安全に回収していくわ。」

 

私の後ろにいたイサンが、ヘルマンの後ろにいる赤い眼鏡の男に向かって言う。

 

「クボ...我が朋。是が其方の選びし道か?」

「ああ。もうそれほど残ってないんだ。」

 

私の隣にいたホンルもまたいう。

 

「...久しぶりだね、哥哥。」

「君の服から汚いにおいがしてるけどわかるか?...ハッ、このざまを家族たちも見るべきだったろうに。」

 

そしてヘルマンが口を開く。

 

「私からの贈り物はちゃんと取っておいてある、坊や?あなたをこんな体たらくにするために渡したわけじゃなかったのだけれど。」

「...願ったことはない。一度も。」

「それでも包み紙は破き切らないと。たったその程度の能力が、私の与えたすべてだとでも?」

 

それをにこやかに眺めていたナイ神父が言う。

 

「さぁ!挨拶はここまでだ。...ではさらばだ、リンバス・カンパニーの諸君。また会える時を楽しみにしているよ。」

 

どうか私の鍵をよろしく。

その言葉と共に彼が指を鳴らすと、私たちの意識は闇に包まれる。

まるで、悪夢を見て飛び起きた夜明けの空のような闇に。

 

 




書きたいところにようやくたどり着けたせいか普段よりも分量がすごくなってしまいました。まあいいですよね。
1章終了です、閑話を挟んでから2章に入れたらいいなと思っております。
しかし改めて見返してみると1章の内容はなかなか面白いですね、伏線がいっぱいだ。
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