――静寂は、僕にとって何よりの味方だ。
けれど、その静寂が破られる瞬間ほど、世界が面白く見えることもない。
薄曇りの空の下、
金髪を後ろで束ね、袖の長い
「……やっぱり、反応してる。境界の揺らぎはここから始まってるんだ」
羅針盤の針は北を指さない。
代わりに、まるで意志を持つように震え、神社の奥――結界の中心へと吸い寄せられていた。
石段の上から、のんびりした声が降ってくる。
「また妙なモノ持ってきたわね。今度は何を調べに来たの、麟?」
その隣では、
「お、なんだそれ。新しいオモチャか? 光ってるぜ」
「オモチャじゃないよ。僕が作った
「……また難しいこと言ってるわね」
霊夢がため息をつく。
麟は肩をすくめ、淡々と続けた。
「簡単に言うと――幻想郷がちょっと危ないってこと。
このまま放っておくと、外の世界と混線して、境界が崩れる可能性がある」
「は? それ、結構ヤバい話じゃないのか?」
「うん。だから僕が来たんだよ。
……二人だけじゃ、対処しきれないでしょ?」
霊夢と魔理沙が顔を見合わせる。
麟は静かに息を吸い、結界の奥へと視線を向けた。
羅針盤の針が、鋭く一点を指し示す。
そこから吹き出すように、薄紫の光が空へと立ち昇った。
「境界異変――始まったみたいだ。
行こう、霊夢、魔理沙。僕が解析して、君たちが突破する。
……三人なら、きっと間に合う」
風が吹き、三人の影が揺れる。
幻想郷の新たな物語が、静かに幕を開けた。
境内に吹き込む風が、三人の衣を揺らした。
霊夢は腕を組んだまま、じっと麟を見つめる。
「で? その“境界偏位なんとか”が示してるのは、どれくらい危ないのよ」
霊夢の声は落ち着いているが、どこか面倒くさそうだ。
麟は淡々と、しかし正確に答える。
「数値化すると、通常の揺らぎの……約十二倍。
このまま放置すると、幻想郷の外側と内側の境界が混線して、
“どっちがどっちか”わからなくなる可能性がある」
「十二倍って……なんかすげぇな! 爆発したりすんのか?」
魔理沙が目を輝かせて身を乗り出す。
麟は少しだけ眉をひそめた。
「爆発はしないよ。境界はエネルギーじゃなくて概念だから。
……というか、なんで危機にワクワクしてるの?」
「だって面白そうじゃん。未知の現象だぜ? 調べがいがあるだろ」
「調べるのは僕の役目だよ。魔理沙は突っ込むだけでしょ」
「おいおい、突っ込むだけって言うなよ。
私は“突破する専門家”なんだぜ?」
霊夢がため息をつく。
「はいはい、二人とも落ち着きなさい。
で、麟。結局どうすればいいの?」
麟は羅針盤を軽く振り、針の震えを確認する。
「まずは揺らぎの発生源を特定する。
僕が解析して、霊夢が結界を調整して、魔理沙が道を切り開く。
……三人で役割分担すれば、最短で解決できるはず」
「理屈っぽいわねぇ……まあ、合理的ではあるけど」
「だろ? 私はもう行くぜ。先に飛んで偵察してくる!」
「ちょっと魔理沙、勝手に行かないで!」
麟が慌てて手を伸ばすが、魔理沙はもう空へ飛び立っていた。
霊夢は額を押さえ、呆れたように麟を見る。
「……あんた、魔理沙と相性悪くない?」
「悪くはないよ。ただ……テンポが違いすぎるだけ」
「まあ、あんたは考えてから動くタイプだものね」
「うん。魔理沙は“動きながら考える”タイプ。
霊夢は“考える前に勘で当てる”タイプ」
「……なんか私だけ雑じゃない?」
「事実だよ」
霊夢がむっとした顔をする。
麟は気づかないふりをして、羅針盤を再び覗き込んだ。
「とにかく、急ごう。
魔理沙が先走ると、解析前に現象を壊しかねない」
「それは否定できないわね……行くわよ、麟」
「了解。僕が後方からデータを取る。
霊夢は前衛で結界の歪みを感じ取って」
「任せなさい。勘は鋭いんだから」
霊夢がふわりと飛び上がる。
麟も静かに後を追った。
――三人のテンポはバラバラ。
けれど、その不揃いこそが、幻想郷を守る力になる。