境界本体の残滓が浄化され、
森に静けさが戻った――はずだった。
「……終わった、のよね?」
霊夢が胸に手を当てる。
「うん。境界の揺らぎは完全に収束したよ」
麟が測定器を確認しながら頷く。
「よっしゃ! これで異変解決だな!」
魔理沙が笑う。
――その瞬間。
空気が“ひゅるり”と逆流した。
「……え?」
霊夢が振り返る。
森の奥、空間の一点が“黒く沈んで”いた。
「麟……あれ、何?」
「わからない……でも、境界の揺らぎじゃない……
これは……“浄化されたはずのエネルギーが、逆流してる”……?」
「逆流って言った!?」
霊夢が叫ぶ。
◆
黒い点はゆっくりと広がり、
周囲の色や音を“吸い込む”ように消していく。
「おいおい……なんだよこれ……」
魔理沙が一歩後ずさる。
「境界が……“癒やされた”ことで、
逆に“何もない領域”が露出したんだ……」
麟が青ざめながら呟く。
「何もないって……どういう……」
「境界の“裏側”だよ。
本来は誰も触れられない、完全な空白……
霊夢の浄化が強すぎて、そこが表に出てきたんだ……!」
「私のせいなの!?」
「半分はね」
「半分なのねぇぇぇ!!」
◆
空白域が“じわり”と広がり、
木々の影が吸い込まれていく。
「やばいぞ霊夢! このままじゃ森が消える!」
「どうすればいいのよ!!」
麟が測定器を見て、息を呑む。
「霊夢……空白域は“霊夢の浄化エネルギー”にだけ反応してる……!」
「反応って……どういう……」
「霊夢の力だけが、空白域を“閉じる鍵”になるんだよ!!」
「鍵って言った!?」
「霊夢が怒りを浄化したからこそ、
“空白を埋める力”を持ってるんだ!!」
「埋めるって……私、そんな便利機能ついてた!?」
「ついたんだよ!!」
◆
空白域がさらに広がり、
森の音がひとつ、またひとつ消えていく。
「霊夢!! 早く!!」
魔理沙が叫ぶ。
「わ、わかったわよ!!」
霊夢は深呼吸し、
胸の奥に残る“金色の光”を呼び起こす。
「怒りを……浄化して……
その力で……空白を埋める……」
霊夢が手を伸ばすと、
金色の光が指先から溢れ――
空白域に触れた瞬間、世界が震えた。
「っ……!!」
霊夢の足元が揺れ、
空白域が“抵抗するように”波打つ。
「霊夢!!」
「大丈夫よ……!
これは……怒りじゃない……
“私の中の、全部の感情”……!」
霊夢の光が強まり、
空白域がゆっくりと“色”を取り戻していく。
「……すげぇ……」
魔理沙が呟く。
「霊夢の力……境界を癒やすだけじゃなくて……
“存在の空白”すら埋めてる……!」
麟が震える声で言う。
「つまりどういうことだよ!!」
「霊夢がいないと次の異変は解決できない!!」
「最初からそうでしょ!!」
◆
空白域が完全に閉じ、
森に色と音が戻った。
「……ふぅ……」
霊夢が膝に手をつく。
「霊夢、すげぇよ……」
「霊夢、ほんとに“鍵”だったんだね……」
「鍵って言うなぁぁぁ!!
……でも、まぁ……
私にしかできないなら……やるしかないわね」
霊夢は少し照れながら笑った。
――こうして、霊夢の新能力は
“次の異変”を解く唯一の鍵となった。