東方三界録   作:肩幅ひろし

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第13話:霊夢、力を奪われかける

 虚境が霧散して消えたはずの森に、

再び黒い蝶が一匹だけ舞い戻ってきた。

 

「……また来たわよ」

霊夢が眉をひそめる。

 

「いや、さっきの残りカスかもしれねぇぜ?」

魔理沙が軽口を叩く。

 

「残りカスがこんな不穏な気配出すわけないでしょ!!」

霊夢が叫んだ瞬間――

 

蝶が霊夢の胸元へ“スッ”と吸い込まれた。

 

「っ……!?」

 

「霊夢!!」

麟と魔理沙が同時に駆け寄る。

 

だが霊夢の身体が、

黒い光に包まれて動けなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆

 

 「……やっぱり、あなたの中は美しいわね」

 

声は外からではなく、

霊夢の胸の奥から響いていた。

 

「虚境……!?

あんた、私の中に……!」

 

「ええ。

あなたの“浄化の力”は、内側から奪うのが一番早いのよ」

 

霊夢の身体が震え、

金色の光が黒に染まり始める。

 

「やめなさいよ……!

私の力は……私のものよ……!」

 

「違うわ。

あなたの力は“境界そのもの”のもの。

あなたが持つには、強すぎる」

 

「強すぎるって……何よそれ……!」

 

「だから私が使うの。

あなたの代わりに、世界を“白紙”に戻すために」

 

「戻すなぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆

 

 虚境の黒い蝶が霊夢の胸から広がり、

金色の光を“吸い上げる”ように揺らめく。

 

「麟!! 霊夢の光が吸われてる!!」

魔理沙が叫ぶ。

 

「わかってる!!

霊夢の“境界浄化エネルギー”が……

虚境に引き抜かれてるんだ!!」

 

「つまりどういうことだよ!!」

「このままだと霊夢は“空白の巫女”にされる!!」

 

「されるなぁぁぁ!!」

 

魔理沙が霊夢に手を伸ばすが――

 

黒い空白が“バチッ”と弾いた。

 

「うわっ!?」

 

「魔理沙、触っちゃダメ!!

虚境の空白は“存在を薄くする”……

触れたら魔理沙まで消える!!」

 

「消えるなぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆

 

 「……っ……」

霊夢の膝が崩れかける。

 

「霊夢!! しっかりしろ!!」

魔理沙が叫ぶ。

 

「……私……

怒りも……浄化も……

全部……吸われて……」

 

霊夢の声が震える。

 

「霊夢!!

あんたの力は……あんたが選んで掴んだんだろ!!

奪われていいわけねぇだろ!!」

 

「魔理沙……」

 

麟も叫ぶ。

 

「霊夢!!

怒りを抑えようとしないで!!

“怒りを受け入れて”!!

怒りは悪じゃない!!

君の力の源なんだ!!」

 

「怒りを……受け入れる……?」

 

霊夢の胸の奥で、

黒い蝶がさらに光を吸い上げる。

 

「そうよ、霊夢」

虚境の声が甘く響く。

 

「怒りなんて、手放してしまいなさい。

あなたには重すぎるわ。

私が代わりに――」

 

「黙りなさいよ……」

 

霊夢の声が震えた。

 

「……え?」

虚境が一瞬だけ戸惑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆

 

 「怒りは……重くなんかない……

私の中にある……大事な感情よ……!」

 

霊夢の胸の奥で、

金色の光が再び灯った。

 

「なっ……!?」

虚境の声が揺らぐ。

 

「怒りも……苛立ちも……

全部、私の力になる……

あんたなんかに……渡すわけないでしょ!!」

 

霊夢の身体から、

金色と赤の混ざった光が爆発した。

 

「霊夢!!」

「霊夢!!」

 

麟と魔理沙が叫ぶ。

 

黒い蝶が弾け飛び、

虚境の声が遠ざかる。

 

「……覚えておきなさい、博麗霊夢。

あなたの力は……必ず奪うわ」

 

虚境の気配が完全に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆

 

 「……はぁ……はぁ……」

霊夢が膝をつく。

 

「霊夢!!」

魔理沙が支える。

 

「大丈夫……? 霊夢……」

麟が心配そうに覗き込む。

 

「……大丈夫よ……

でも……危なかったわね……」

 

霊夢は苦笑しながら、

胸に手を当てた。

 

「……あいつ……本気で私の力を狙ってる……」

 

「霊夢、守るからな」

「霊夢、僕も絶対に支えるよ」

 

「……ありがと」

 

霊夢は二人に支えられながら立ち上がった。

 

――虚境との戦いは、まだ始まったばかりだった。

 

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