東方三界録   作:肩幅ひろし

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第17話:虚境、“霊夢の悲しみ”をコピーして送り込む

 純怒霊夢を倒した翌日。

霊夢は神社の縁側で、静かに空を見上げていた。

 

「……怒りだけじゃなくて、悲しみまで狙われるのかしらね」

 

魔理沙と麟は、霊夢の横顔を心配そうに見つめる。

 

「霊夢……無理すんなよ」

「霊夢の“感情の揺らぎ”が、虚境の狙いなんだ……」

 

「わかってるわよ……でも――」

 

霊夢が言いかけた瞬間。

 

神社の裏の森から、すすり泣く声が聞こえた。

 

「……え?」

「泣き声……?」

「霊夢の揺らぎと……同じ波形……!」

 

麟が測定器を握りしめる。

 

「同じって言った!?

私、泣いてないわよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆

 

 森の奥にいたのは――霊夢。

 

 ただし、悲しみだけを抽出した“哀哭霊夢”。

 

 肩を震わせ、

目は涙で濡れ、

周囲の空間が“沈んだ波動”で揺れている。

 

「……あれ……私……?」

霊夢が息を呑む。

 

「いや、霊夢……あれは……」

魔理沙が言葉を失う。

 

「霊夢の“悲しみだけ”を抽出して、

虚境が実体化させた存在だ……」

麟が震える声で言う。

 

「悲しみだけって……そんなの……」

 

哀哭霊夢は、涙を流しながら霊夢を見つめた。

 

「……どうして……

どうして……私を……見ないの……?」

 

「見てるわよ!!

私、ちゃんと自分の感情見てるわよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆

 

 哀哭霊夢が手を伸ばすと、

霊夢の胸の奥が“ぎゅっ”と締め付けられた。

 

「っ……!?」

霊夢が膝をつく。

 

「霊夢!!」

魔理沙が駆け寄ろうとするが――

 

哀哭霊夢の涙が地面に落ちた瞬間、

周囲の色が“灰色”に変わった。

 

「なっ……!?

色が……消えていく……!」

魔理沙が後ずさる。

 

「麟!! どうなってんだよ!!」

「哀哭霊夢は……

“悲しみの揺らぎ”で存在を薄くしてる……!

怒りのコピーより厄介だ……!」

 

「厄介すぎるわよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆

 

 哀哭霊夢は、涙を流しながら霊夢に近づく。

 

「……どうして……

どうして……私を……抱きしめてくれなかったの……?」

 

「抱きしめる!?

私、自分の悲しみを抱きしめるの!?」

 

「霊夢!!

悲しみは“受け入れないと”増幅する!!

怒りと同じだよ!!」

麟が叫ぶ。

 

「でも……悲しみなんて……

受け入れたら……立てなくなるじゃない……!」

 

霊夢の声が震える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆

 

 哀哭霊夢は、霊夢の頬に触れた。

「……あなたは……

いつも強がって……

誰にも頼らなくて……

ひとりで全部抱えて……

だから……私が生まれたの……」

 

「やめてよ……

そんなこと言わないでよ……」

 

霊夢の目に涙が浮かぶ。

 

「霊夢!!

泣いていいんだよ!!

悲しみを否定すると……あいつが強くなる!!」

麟が叫ぶ。

 

「霊夢!!

私たちがいるだろ!!

ひとりで抱えんなよ!!」

魔理沙が叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆

 

 霊夢は震える手で胸に触れ、

深く息を吸った。

 

「……悲しいわよ……

怖いし……

不安だし……

全部……全部あるわよ……!」

 

霊夢の涙が一粒、地面に落ちる。

 

その瞬間――

金色の光が、霊夢の涙から溢れた。

 

「……これ……怒りの浄化と……違う……」

麟が息を呑む。

 

「霊夢の“悲しみの受容”だ……!」

 

霊夢は涙を拭い、哀哭霊夢を見つめた。

 

「……あんたは私の悲しみよ。

捨ててない。

ちゃんとここにある。

でも――

私を壊すための悲しみじゃない!!」

 

霊夢の金色の光が哀哭霊夢を包み――

 

哀哭霊夢は、静かに微笑んで消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆

 

 「……はぁ……はぁ……」

霊夢が涙を拭う。

 

「霊夢……大丈夫か……?」

魔理沙がそっと肩に触れる。

 

「うん……

でも……悲しみって……

怒りよりキツいわね……」

 

麟が静かに言う。

「霊夢……

虚境は“君の心の奥”を狙ってる……

次は……もっと深い感情かもしれない……」

 

「もっと深いって……何よ……」

 

「例えば……

“孤独”とか……

“恐れ”とか……」

 

「やめてぇぇぇ!!」

 

――虚境との戦いは、

霊夢の“心の核心”へと迫っていく。

 

 

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