純怒霊夢を倒した翌日。
霊夢は神社の縁側で、静かに空を見上げていた。
「……怒りだけじゃなくて、悲しみまで狙われるのかしらね」
魔理沙と麟は、霊夢の横顔を心配そうに見つめる。
「霊夢……無理すんなよ」
「霊夢の“感情の揺らぎ”が、虚境の狙いなんだ……」
「わかってるわよ……でも――」
霊夢が言いかけた瞬間。
神社の裏の森から、すすり泣く声が聞こえた。
「……え?」
「泣き声……?」
「霊夢の揺らぎと……同じ波形……!」
麟が測定器を握りしめる。
「同じって言った!?
私、泣いてないわよ!!」
◆
森の奥にいたのは――霊夢。
ただし、悲しみだけを抽出した“哀哭霊夢”。
肩を震わせ、
目は涙で濡れ、
周囲の空間が“沈んだ波動”で揺れている。
「……あれ……私……?」
霊夢が息を呑む。
「いや、霊夢……あれは……」
魔理沙が言葉を失う。
「霊夢の“悲しみだけ”を抽出して、
虚境が実体化させた存在だ……」
麟が震える声で言う。
「悲しみだけって……そんなの……」
哀哭霊夢は、涙を流しながら霊夢を見つめた。
「……どうして……
どうして……私を……見ないの……?」
「見てるわよ!!
私、ちゃんと自分の感情見てるわよ!!」
◆
哀哭霊夢が手を伸ばすと、
霊夢の胸の奥が“ぎゅっ”と締め付けられた。
「っ……!?」
霊夢が膝をつく。
「霊夢!!」
魔理沙が駆け寄ろうとするが――
哀哭霊夢の涙が地面に落ちた瞬間、
周囲の色が“灰色”に変わった。
「なっ……!?
色が……消えていく……!」
魔理沙が後ずさる。
「麟!! どうなってんだよ!!」
「哀哭霊夢は……
“悲しみの揺らぎ”で存在を薄くしてる……!
怒りのコピーより厄介だ……!」
「厄介すぎるわよ!!」
◆
哀哭霊夢は、涙を流しながら霊夢に近づく。
「……どうして……
どうして……私を……抱きしめてくれなかったの……?」
「抱きしめる!?
私、自分の悲しみを抱きしめるの!?」
「霊夢!!
悲しみは“受け入れないと”増幅する!!
怒りと同じだよ!!」
麟が叫ぶ。
「でも……悲しみなんて……
受け入れたら……立てなくなるじゃない……!」
霊夢の声が震える。
◆
哀哭霊夢は、霊夢の頬に触れた。
「……あなたは……
いつも強がって……
誰にも頼らなくて……
ひとりで全部抱えて……
だから……私が生まれたの……」
「やめてよ……
そんなこと言わないでよ……」
霊夢の目に涙が浮かぶ。
「霊夢!!
泣いていいんだよ!!
悲しみを否定すると……あいつが強くなる!!」
麟が叫ぶ。
「霊夢!!
私たちがいるだろ!!
ひとりで抱えんなよ!!」
魔理沙が叫ぶ。
◆
霊夢は震える手で胸に触れ、
深く息を吸った。
「……悲しいわよ……
怖いし……
不安だし……
全部……全部あるわよ……!」
霊夢の涙が一粒、地面に落ちる。
その瞬間――
金色の光が、霊夢の涙から溢れた。
「……これ……怒りの浄化と……違う……」
麟が息を呑む。
「霊夢の“悲しみの受容”だ……!」
霊夢は涙を拭い、哀哭霊夢を見つめた。
「……あんたは私の悲しみよ。
捨ててない。
ちゃんとここにある。
でも――
私を壊すための悲しみじゃない!!」
霊夢の金色の光が哀哭霊夢を包み――
哀哭霊夢は、静かに微笑んで消えた。
◆
「……はぁ……はぁ……」
霊夢が涙を拭う。
「霊夢……大丈夫か……?」
魔理沙がそっと肩に触れる。
「うん……
でも……悲しみって……
怒りよりキツいわね……」
麟が静かに言う。
「霊夢……
虚境は“君の心の奥”を狙ってる……
次は……もっと深い感情かもしれない……」
「もっと深いって……何よ……」
「例えば……
“孤独”とか……
“恐れ”とか……」
「やめてぇぇぇ!!」
――虚境との戦いは、
霊夢の“心の核心”へと迫っていく。