東方三界録   作:肩幅ひろし

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第18話:虚境、霊夢の“核心”へ迫る

 哀哭霊夢が消え、

金色の光が静かに霧散していく。

 

霊夢は縁側に座り込み、

胸に手を当てて深く息を吐いた。

 

「……悲しみって……

怒りよりずっと重いわね……」

 

「霊夢……」

魔理沙がそっと隣に座る。

 

「霊夢、無理しないで……」

麟も反対側に腰を下ろした。

 

三人の間に、しばし静かな時間が流れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆

 

 その静寂を破ったのは――

麟の測定器が発した、聞いたことのない警告音だった。

 

「……っ!?

霊夢!! 魔理沙!!

虚境の揺らぎが……急激に増大してる!!」

 

「増大って……どれくらいよ?」

霊夢が立ち上がる。

 

「今までの比じゃない……

怒りのコピーも、悲しみのコピーも……

“前座”だったんだ……!」

 

「前座って言った!?

あれで前座なら本番どうなるのよ!!」

 

麟は震える声で続ける。

 

「虚境が狙ってるのは……

霊夢の“もっと深い感情”……

怒りでも悲しみでもない……

もっと根源的な……」

 

「根源的って……何よ……」

 

麟は測定器を見つめ、

言葉を絞り出した。

 

「“孤独”だよ……霊夢……」

 

霊夢の表情が固まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆

 

 「……孤独……?」

 

霊夢は思わず胸に手を当てた。

 

怒りでも、悲しみでもない。

もっと静かで、もっと深くて、

誰にも見せたくない感情。

 

「霊夢……」

魔理沙が心配そうに覗き込む。

 

「大丈夫よ……

私は別に……孤独なんて……」

 

言いかけた瞬間、

霊夢の周囲の空気が“ひゅるり”と沈んだ。

 

「霊夢!!

その言葉……“否定”だ!!

孤独を否定すると……虚境に付け込まれる!!」

麟が叫ぶ。

 

「否定してないわよ!!

ただ……その……」

 

霊夢の声が震える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆

 

 空間が裂け、

黒い蝶が無数に舞い降りる。

 

虚境の声が、

霊夢の耳元で囁くように響いた。

 

「……博麗霊夢。

あなたが一番隠している感情……

それは“孤独”よ」

 

「やめなさい……」

霊夢が後ずさる。

 

「怒りも、悲しみも……

あなたは受け入れた。

でも――

“孤独”だけは、ずっと見ないふりをしてきた」

 

「違う!!

私は……私は……!」

 

「あなたは、ずっとひとりだった。

博麗の巫女として。

境界を守る者として。

誰にも頼れず、誰にも甘えられず……

だからこそ――」

 

虚境の声が低く響く。

 

「“孤独の霊夢”を作る価値がある。」

 

「孤独の霊夢って言った!?

やめてよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆

 

 黒い蝶が霊夢の周囲に集まり、

渦を巻き始める。

 

「麟!!

あれ……怒りや悲しみの時より……

ずっとヤバいぞ!!」

魔理沙が叫ぶ。

 

「霊夢の“核心の揺らぎ”が……

虚境に引き抜かれようとしてる……!!

霊夢!!

孤独を否定しないで!!

“ある”って認めて!!」

 

「認めたら……

私……壊れちゃうじゃない……!」

 

「壊れない!!

霊夢は強い!!

でも強いからこそ……

孤独を抱え込んでるんだ!!」

魔理沙が叫ぶ。

 

「霊夢!!

孤独は“弱さ”じゃない!!

君の一部なんだ!!

受け入れれば……力になる!!」

麟が続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆

 

 霊夢は震える手で胸を押さえ、

涙をこぼしながら呟いた。

 

「……そうよ……

私は……ずっとひとりだった……

巫女として……

境界を守るために……

誰にも頼れなくて……

誰にも弱音を吐けなくて……

怖かった……

ずっと……!」

 

その瞬間――

霊夢の胸の奥から、

白金色の光が溢れた。

 

「……これ……」

麟が息を呑む。

 

「霊夢の“孤独の受容”……

怒りや悲しみより……

ずっと深い……!」

 

虚境の声が揺らぐ。

「……馬鹿な……

孤独を……受け入れる……?

そんなこと……できるはずが……!」

 

「できるわよ……

だって――

私はもう、ひとりじゃないもの」

 

霊夢は魔理沙と麟の手を握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆

 

 白金色の光が黒い蝶を弾き飛ばし、

虚境の気配が大きく揺らぐ。

 

「……霊夢……

あなたは……

私の想定を……超えている……」

 

虚境の声が震え、

空間の裂け目が閉じていく。

 

「次に会う時……

あなたの“核心”を……必ず奪う……」

 

虚境の気配が完全に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆

 

 「……霊夢」

魔理沙がそっと肩を抱く。

 

「霊夢……よく頑張ったね……」

麟が優しく言う。

 

「……ありがと。

あんたたちがいなかったら……

私、きっと負けてたわ」

 

霊夢は涙を拭き、

空を見上げた。

 

「虚境……

次は私が行く番よ。

あんたの“空白”を……

私が終わらせる」

 

三人は静かに頷いた。

 

――虚境との最終決戦が、

いよいよ近づいていた。

 

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