東方三界録   作:肩幅ひろし

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第18話:虚境、霊夢の“核心”へ迫る

 哀哭霊夢が消え、

金色の光が静かに霧散していく。

 

霊夢は縁側に座り込み、

胸に手を当てて深く息を吐いた。

 

「……悲しみって……

怒りよりずっと重いわね……」

 

「霊夢……」

魔理沙がそっと隣に座る。

 

「霊夢、無理しないで……」

麟も反対側に腰を下ろした。

 

三人の間に、しばし静かな時間が流れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その静寂を破ったのは――

麟の測定器が発した、聞いたことのない警告音だった。

 

「……っ!?

霊夢!! 魔理沙!!

虚境の揺らぎが……急激に増大してる!!」

 

「増大って……どれくらいよ?」

霊夢が立ち上がる。

 

「今までの比じゃない……

怒りのコピーも、悲しみのコピーも……

“前座”だったんだ……!」

 

「前座って言った!?

あれで前座なら本番どうなるのよ!!」

 

麟は震える声で続ける。

 

「虚境が狙ってるのは……

霊夢の“もっと深い感情”……

怒りでも悲しみでもない……

もっと根源的な……」

 

「根源的って……何よ……」

 

麟は測定器を見つめ、

言葉を絞り出した。

 

「“孤独”だよ……霊夢……」

 

霊夢の表情が固まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……孤独……?」

 

霊夢は思わず胸に手を当てた。

 

怒りでも、悲しみでもない。

もっと静かで、もっと深くて、

誰にも見せたくない感情。

 

「霊夢……」

魔理沙が心配そうに覗き込む。

 

「大丈夫よ……

私は別に……孤独なんて……」

 

言いかけた瞬間、

霊夢の周囲の空気が“ひゅるり”と沈んだ。

 

「霊夢!!

その言葉……“否定”だ!!

孤独を否定すると……虚境に付け込まれる!!」

麟が叫ぶ。

 

「否定してないわよ!!

ただ……その……」

 

霊夢の声が震える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空間が裂け、

黒い蝶が無数に舞い降りる。

 

虚境の声が、

霊夢の耳元で囁くように響いた。

 

「……博麗霊夢。

あなたが一番隠している感情……

それは“孤独”よ」

 

「やめなさい……」

霊夢が後ずさる。

 

「怒りも、悲しみも……

あなたは受け入れた。

でも――

“孤独”だけは、ずっと見ないふりをしてきた」

 

「違う!!

私は……私は……!」

 

「あなたは、ずっとひとりだった。

博麗の巫女として。

境界を守る者として。

誰にも頼れず、誰にも甘えられず……

だからこそ――」

 

虚境の声が低く響く。

 

「“孤独の霊夢”を作る価値がある。」

 

「孤独の霊夢って言った!?

やめてよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒い蝶が霊夢の周囲に集まり、

渦を巻き始める。

 

「麟!!

あれ……怒りや悲しみの時より……

ずっとヤバいぞ!!」

魔理沙が叫ぶ。

 

「霊夢の“核心の揺らぎ”が……

虚境に引き抜かれようとしてる……!!

霊夢!!

孤独を否定しないで!!

“ある”って認めて!!」

 

「認めたら……

私……壊れちゃうじゃない……!」

 

「壊れない!!

霊夢は強い!!

でも強いからこそ……

孤独を抱え込んでるんだ!!」

魔理沙が叫ぶ。

 

「霊夢!!

孤独は“弱さ”じゃない!!

君の一部なんだ!!

受け入れれば……力になる!!」

麟が続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霊夢は震える手で胸を押さえ、

涙をこぼしながら呟いた。

 

「……そうよ……

私は……ずっとひとりだった……

巫女として……

境界を守るために……

誰にも頼れなくて……

誰にも弱音を吐けなくて……

怖かった……

ずっと……!」

 

その瞬間――

霊夢の胸の奥から、

白金色の光が溢れた。

 

「……これ……」

麟が息を呑む。

 

「霊夢の“孤独の受容”……

怒りや悲しみより……

ずっと深い……!」

 

虚境の声が揺らぐ。

「……馬鹿な……

孤独を……受け入れる……?

そんなこと……できるはずが……!」

 

「できるわよ……

だって――

私はもう、ひとりじゃないもの」

 

霊夢は魔理沙と麟の手を握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白金色の光が黒い蝶を弾き飛ばし、

虚境の気配が大きく揺らぐ。

 

「……霊夢……

あなたは……

私の想定を……超えている……」

 

虚境の声が震え、

空間の裂け目が閉じていく。

 

「次に会う時……

あなたの“核心”を……必ず奪う……」

 

虚境の気配が完全に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……霊夢」

魔理沙がそっと肩を抱く。

 

「霊夢……よく頑張ったね……」

麟が優しく言う。

 

「……ありがと。

あんたたちがいなかったら……

私、きっと負けてたわ」

 

霊夢は涙を拭き、

空を見上げた。

 

「虚境……

次は私が行く番よ。

あんたの“空白”を……

私が終わらせる」

 

三人は静かに頷いた。

 

――虚境との最終決戦が、

いよいよ近づいていた。

 

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