東方三界録   作:肩幅ひろし

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第19話:虚境の本拠地“空白界”へ突入する

 霊夢の“孤独の受容”によって虚境の揺らぎが大きく乱れた翌日。

麟の測定器は、これまでにないほど強烈な反応を示していた。

 

「……霊夢、魔理沙。

虚境の本拠地が……“開いた”よ」

 

「開いたって……どこに?」

霊夢が眉をひそめる。

 

「ここだよ」

麟が指差したのは――

博麗神社の真上の空。

 

空間が“音もなく”裂け、

黒と白の境界が渦を巻いている。

 

「……あれが……空白界……?」

魔理沙が息を呑む。

 

「虚境が作った“境界の裏側”。

存在のない世界……

色も音も、意味もない……

ただの“無”の領域だよ」

麟が震える声で言う。

 

「無って言った!?

そんなとこ行きたくないんだけど!!」

 

「霊夢、行くしかないぜ。

あいつを止められるのは……お前だけだ」

魔理沙が肩を叩く。

 

「……わかってるわよ」

 

霊夢は深呼吸し、

空に開いた裂け目を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆

 

 「行くよ、霊夢」

「行こう、霊夢」

二人の声が重なる。

 

「……ありがとう。

あんたたちがいるなら……大丈夫よ」

 

三人は同時に跳び上がり、

空間の裂け目へと飛び込んだ。

 

――瞬間。

 

世界が“無音”になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆

 

 霊夢たちが足を踏み入れたのは、

白でも黒でもない、

“色の概念そのものが欠けた空間”。

 

地面はあるようでなく、

空はあるようでない。

 

魔理沙が声を出す。

 

「……おい、霊夢……麟……

声、聞こえるか……?」

 

声は確かに出ているのに、

音として届くまでに“遅れ”がある。

 

「……ここ……

存在の密度が薄いんだ……」

麟が測定器を見ながら呟く。

 

「薄いって何よ……」

霊夢が眉をひそめる。

 

「僕たちの“存在”そのものが……

この世界に馴染めてないんだよ……

長くいると……消える……」

 

「消えるって言った!?

帰るわよ!!」

 

「霊夢、落ち着け!!

虚境を倒さないと帰れない!!」

 

「倒すわよ!!

今すぐ倒すわよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆

 

 その時――

空間の奥から、

黒い蝶がゆっくりと舞い降りてきた。

 

「……また蝶かよ……」

魔理沙が構える。

 

「違う……

これは……虚境の“分身”だ……!」

麟が叫ぶ。

 

蝶が集まり、

人の形を作り始める。

 

現れたのは――

虚境に似ているが、

顔のない少女。

 

「……なにあれ……」

霊夢が息を呑む。

 

「虚境の“空白の守護者”……

存在のない存在……

名前も、感情も、意味もない……」

麟が震える声で言う。

 

「名前もないって……

かわいそうじゃない……」

霊夢が呟く。

 

その瞬間、

顔のない少女が霊夢に向かって手を伸ばした。

 

空気が“ズルッ”と沈む。

 

「霊夢!!

触れたら存在が削られる!!」

麟が叫ぶ。

 

「削られるって言った!?

絶対触れないわよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆

 

 霊夢が浄化の光を放つが――

 

「……え……?」

光が“薄い”。

 

「霊夢!!

ここでは“感情の密度”が下がる!!

怒りも悲しみも……

全部、薄まっていく!!」

 

「薄まるって何よ!!

私の感情返しなさいよ!!」

 

「返せるかよ!!

ここ空白界だぞ!!」

魔理沙が叫ぶ。

 

顔のない少女が再び手を伸ばす。

 

「霊夢!!

怒りを……悲しみを……

“思い出して”!!

ここでは感情が奪われる!!

奪われたら……霊夢が霊夢じゃなくなる!!」

麟が叫ぶ。

 

「思い出すって……

そんな簡単に……!」

 

霊夢の胸の奥が、

“すうっ”と冷たくなる。

 

「……あ……

私……なんで戦ってるんだっけ……?」

 

「霊夢!!

ダメだ!!

空白界に飲まれてる!!」

魔理沙が叫ぶ。

 

「霊夢!!

僕たちを見て!!

霊夢は……ひとりじゃない!!

怒りも悲しみも……

全部、僕たちが支える!!」

麟が手を伸ばす。

 

霊夢は震える声で呟いた。

 

「……魔理沙……麟……

あんたたち……

ここに……いるの……?」

 

「いるに決まってるだろ!!」

「霊夢を置いていくわけないよ!!」

 

霊夢の胸に、

白金色の光が再び灯った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆

 

 霊夢の光が広がり、

顔のない少女が後退する。

 

「……霊夢の“核心の光”……

空白界でも……消えない……!」

麟が驚く。

 

「当然よ!!

私の感情は……

空白なんかに負けない!!」

 

霊夢が叫ぶと、

空白界の奥から――

 

虚境の声が響いた。

 

「……来たのね、博麗霊夢。

あなたの“核心”……

ここで奪わせてもらうわ」

 

空白界の中心が、

ゆっくりと開き始める。

 

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