空白界の中心が、
ゆっくりと、しかし確実に“開いていく”。
白でも黒でもない、
“色の概念そのものが欠けた光”が漏れ出し、
霊夢たちの存在を揺らす。
「……なんだよこれ……
空気が……冷たいとかじゃなくて……“ない”……」
魔理沙が震える。
「霊夢……気をつけて……
虚境が……来る……」
麟が測定器を握りしめる。
その瞬間――
空白界の中心から、虚境が姿を現した。
◆
これまでの虚境は、
黒と紫の衣をまとった少女の姿だった。
しかし今、霊夢たちの前に立つ虚境は――
人の形をしているようで、していない。
・輪郭が揺らぎ
・髪は色を持たず
・瞳は“空白”そのもの
・身体の一部が時折“欠けて”見える
・存在しているのに、存在していないような違和感
「……あれ……本当に人間なのか……?」
魔理沙が息を呑む。
「違う……
あれは“虚境という概念”が形をとっただけ……
人の姿は仮のものだったんだ……」
麟が震える声で言う。
虚境はゆっくりと霊夢に視線を向けた。
「……博麗霊夢。
あなたの感情……
怒りも、悲しみも、孤独も……
すべて観測したわ」
「観測すんなぁぁぁ!!」
霊夢が叫ぶ。
◆
「私は……境界の裏側に溜まった“空白”。
存在の隙間に生まれた、
世界の“余白”そのもの」
「余白って言った!?
私、余白に狙われてたの!?」
「霊夢、落ち着け!!
余白って言っても、ただの余白じゃない!!」
魔理沙が慌てる。
麟が説明する。
「虚境は……
境界が長い年月で“削れた部分”に生まれた存在なんだよ。
世界の“欠け”が集まって、
意思を持ってしまった……」
「欠けが……意思を……?」
霊夢が息を呑む。
「だから虚境は、
“完全な空白”を求めてるんだ……
世界を白紙に戻すことで、
自分の存在を“完全な形”にしようとしてる……!」
「白紙にすんなぁぁぁ!!」
◆
虚境は静かに手を伸ばす。
「博麗霊夢。
あなたの感情は……
私にとって“欠けを埋める素材”。
怒りも、悲しみも、孤独も……
あなたの核心は、私を完全にするための“最後の欠片”。」
「欠片って言った!?
私、パズルのピースじゃないわよ!!」
「霊夢!!
虚境は“霊夢の核心”を奪うつもりだ!!
奪われたら……霊夢は霊夢じゃなくなる!!」
麟が叫ぶ。
「奪わせるかよ!!」
魔理沙が前に出る。
◆
虚境が指を鳴らすと――
空白界全体が“波打った”。
霊夢の足元が揺れ、
魔理沙のミニ八卦炉が“透明”になりかけ、
麟の測定器が“音を失う”。
「なっ……!?
私の魔法が……消えて……!」
魔理沙が叫ぶ。
「麟!!
測定器が……反応しない!!」
霊夢が焦る。
「虚境の力だ……
“存在の意味”を奪ってる……!!
この世界では……
虚境が絶対的に有利なんだ……!!」
虚境の声が響く。
「さあ、霊夢。
あなたの核心を……
私に渡しなさい」
「渡すわけないでしょ!!」
◆
霊夢が浄化の光を放とうとするが――
「……あ……
光が……弱い……?」
「霊夢!!
空白界では“感情の密度”が薄まる!!
怒りも悲しみも……
全部、奪われていく!!」
麟が叫ぶ。
「奪われるって言った!?
私の感情返しなさいよ!!」
「返せるかよ!!
ここ虚境のホームだぞ!!」
魔理沙が叫ぶ。
虚境が霊夢に近づく。
「あなたの核心……
“存在の意味”……
それを奪えば……
私は完全になる」
「来るなぁぁぁ!!」
◆
虚境の手が霊夢に触れかけた瞬間――
霊夢の胸の奥が“ズキッ”と痛む。
「……っ……!」
「霊夢!!」
「霊夢!!」
霊夢の視界が白く染まり、
心の奥に“何か”が浮かび上がる。
怒りでも、悲しみでも、孤独でもない。
もっと深い、
もっと大切で、
もっと壊れやすい感情。
虚境が囁く。
「……見せてあげる。
あなたが一番隠してきた“核心”を」
霊夢の心が――
ついに開かれようとしていた。