虚境の手が霊夢の胸元へ伸びる。
空白界の空気が震え、
霊夢の視界が白く染まっていく。
「……っ……!」
「霊夢!!」
「霊夢!!」
魔理沙と麟の声が遠ざかる。
霊夢の意識は、深い深い“内側”へと沈んでいった。
◆
霊夢は、白い空間に立っていた。
怒りも、悲しみも、孤独も――
すべてが薄れていく。
「……ここ……どこ……?」
その時、
霊夢の前に“もう一人の霊夢”が現れた。
怒りの霊夢でも、悲しみの霊夢でもない。
ただ静かに微笑む、
“本当の霊夢”。
「……あなた……誰?」
「私はあなた。
あなたがずっと隠してきた“核心の感情”。」
「核心……?」
霊夢は息を呑む。
◆
「あなたはずっと……
怒りを力に変えてきた。
悲しみを受け入れてきた。
孤独を抱え込んできた。
でも――」
もう一人の霊夢は、
霊夢の胸にそっと触れた。
「一番隠してきたのは……
“誰かに必要とされたい”という気持ち。」
「……っ……!」
霊夢の目が大きく見開かれる。
「違う……私は……
そんな弱いこと……」
「弱くなんてない。
むしろ一番強い感情。
あなたはずっと……
“誰かに必要とされる巫女”でいたかった。
でもそれを言えば、
巫女としての自分が崩れる気がして……
ずっと隠してきた。」
霊夢の胸が痛む。
「……私は……
誰かに……必要とされたい……?」
「そう。
怒りも悲しみも孤独も……
全部その裏返し。
“必要とされない自分”が怖かったから。」
霊夢の膝が震える。
◆
現実世界。
虚境が霊夢の胸に触れようとしていた。
「……見えたわ、霊夢。
あなたの核心……
“必要とされたい”という感情。
それを奪えば……
あなたは空白になる。」
「やめろぉぉぉ!!」
魔理沙が叫ぶ。
「霊夢!!
その感情を否定しないで!!
“必要とされたい”って気持ちは……
君の力なんだ!!」
麟が必死に叫ぶ。
◆
霊夢は胸に手を当て、
震える声で呟いた。
「……そうよ……
私は……
誰かに必要とされたい……
ずっと……ずっと……
そう思ってた……!」
その瞬間――
白金色の光が霊夢の胸から爆発した。
「……っ!?
この光……何……!?」
虚境が後退する。
「霊夢の“核心の受容”だ……!!
怒りよりも、悲しみよりも、孤独よりも……
ずっと深い……
霊夢の本当の力……!!」
麟が叫ぶ。
◆
霊夢の光は、
虚境の空白を押し返し、
空白界そのものを震わせた。
「私は……
誰かに必要とされたい。
でもそれは弱さじゃない。
私が“誰かを守りたい”と思う力の源よ!!」
霊夢の光が虚境を包む。
「……霊夢……
あなたは……
私の想定を……完全に超えた……」
虚境の身体が揺らぎ、
空白界が大きく軋む。
◆
「虚境……
あんたの空白なんかに……
私の“心”は奪わせない!!」
霊夢が叫ぶと、
空白界の中心が大きく崩れ始めた。
「霊夢!!
空白界が不安定になってる!!
虚境を倒すなら……今しかない!!」
麟が叫ぶ。
「行くぞ霊夢!!
ぶっ飛ばして帰るぜ!!」
魔理沙がミニ八卦炉を構える。
霊夢は二人を見て、
静かに微笑んだ。
「……ありがとう。
あんたたちが必要としてくれるなら……
私は何度だって立ち上がるわ。」
三人は虚境へ向かって走り出した。
――最終決戦が、ついに始まる。
次回、最終話です。