東方三界録   作:肩幅ひろし

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第5話:霊夢、怒りの臨界点を超えて“静かになる”

 境界の跡地が霊夢の怒りで消滅したあと。

森には、しばしの沈黙が訪れた。

 

「……霊夢、その……大丈夫?」

麟が恐る恐る声をかける。

 

しかし霊夢は返事をしない。

ただ、ゆっくりと深呼吸をして――

 

静かに微笑んだ。

 

「……ねぇ、麟。魔理沙。」

 

その声は、さっきまで怒鳴っていたとは思えないほど穏やかだった。

 

「ひっ」

魔理沙が一歩下がる。

 

「霊夢、怒りの波動が……ゼロになった……?」

麟が計測器を見ると、針が“ピタッ”と止まっていた。

 

「うん。怒ってないわよ?」

霊夢はにこりと笑う。

 

――その瞬間、森の空気が“ギチッ”と音を立てて歪んだ。

 

「麟、これ……怒りゼロじゃなくて……逆にヤバいんじゃないか?」

「うん。怒りの波動が“静止”してる。

これは……“臨界点突破後の静寂”だよ……」

 

「つまりどういうことだ?」

「簡単に言うと……

霊夢が怒りすぎて、怒りの次元を超えた状態」

 

「次元超えんなよ!!」

 

魔理沙が叫ぶが、霊夢は静かに微笑んだままだ。

 

「ねぇ、二人とも。

さっきから私の怒りを数値化したり、

境界に干渉したり、

キノコ踏みつけたり……」

 

「霊夢、それは魔理沙が――」

「麟もよ?」

 

「僕も!?」

 

霊夢は一歩、二人に近づく。

そのたびに、森の木々が“ミシッ”と揺れた。

 

「……私ね。怒鳴るより、静かに怒ってる方が怖いって言われるの」

 

「言われるっていうか……今まさに……」

麟が震える声で呟く。

 

「霊夢、落ち着けよ。ほら、異変も解決したし――」

 

「してないわよ?」

 

霊夢の声が、氷のように冷たく響く。

 

「えっ、裂け目閉じたじゃん」

「閉じたのは“私の怒り”のせいでしょ?

本来の原因、まだわかってないのよ?」

 

「……あ」

麟の顔が青ざめる。

 

「つまり、あんたたちのせいで調査が進まなかったのよね?」

 

「霊夢、それは誤解で――」

「誤解じゃないわよ?」

 

霊夢がにっこり笑う。

 

――その瞬間、境界の跡地が“ズズッ”と沈み込んだ。

 

「麟、逃げるぞ!!」

「うん、これはもう無理!!」

 

二人が全力で逃げ出すと、霊夢は静かに呟いた。

 

「……逃がすと思ってるの?」

 

その声は、怒号よりも遥かに恐ろしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 森の奥へ全力で逃げる麟と魔理沙。

しかし、背後からは――

 

足音がしない。

 

「なぁ麟……霊夢、追ってきてるよな?」

「うん……気配がする……でも音がしない……」

 

「音がしないってどういうことだよ!!」

「知らないよ!! 僕だって怖いよ!!」

 

二人が振り返ると――

 

霊夢が“すぐ後ろ”に立っていた。

 

「ひっっっ!!」

「なんでワープしてくんだよ!!」

 

霊夢は微笑んだまま、静かに言う。

 

「逃げるの、やめてくれない?」

 

その声は優しい。

優しいのに、背筋が凍る。

 

「麟、どうする!?」

「どうするって……どうしようもないよ!!」

 

霊夢が一歩近づく。

その瞬間、森の木々が“ギギッ”と音を立てて傾いた。

 

「麟、逃げるぞ!!」

「うん、全力で!!」

 

二人は再び走り出す。

しかし――

 

霊夢は歩いているだけなのに、距離が縮まっていく。

 

「なんで歩いてるのに追いついてくるの!?」

「霊夢の“静かな怒り”が空間を歪めてるんだよ!!」

 

「怒りで空間歪めんなよ!!」

 

魔理沙が叫ぶが、霊夢は無言で微笑むだけ。

 

「ねぇ、麟。

さっきの“怒りの周波数”の話……」

 

「えっ、あれ!? あれはその……学術的興味で……」

 

「続き、聞かせて?」

 

「聞きたくないでしょ!?」

 

霊夢がまた一歩近づく。

森の影が“スッ”と霊夢の足元に吸い込まれる。

 

「麟、霊夢の周りだけ重力おかしくなってないか?」

「うん……怒りが重力に干渉してる……」

 

「怒りで重力歪めんなよ!!」

 

魔理沙が叫ぶが、霊夢は静かに微笑む。

 

「ねぇ、二人とも。

逃げてもいいけど……」

 

霊夢の声が、森全体に響く。

 

「追いつくわよ?」

 

「麟、もう無理だ!!」

「僕も無理だよ!!」

 

二人は泣きそうになりながら全力疾走する。

しかし――

 

霊夢は、いつの間にか前方に立っていた。

 

「なんで前にいるのぉぉぉ!!」

「空間ごとショートカットしてるんだよ!!」

 

霊夢はにこりと笑う。

 

「さ、話し合いましょう?」

 

「話し合いって言いながら逃げ道全部塞いでるじゃん!!」

 

麟と魔理沙は同時に叫んだ。

 

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