逃げようとした麟と魔理沙の肩に、
ふわりと白い袖が触れた。
「……捕まえた」
霊夢の声は、優しい。
優しいのに、背筋が凍る。
「ひっ……」
「霊夢、あの……これは誤解で……」
「誤解じゃないわよ?」
霊夢は二人を森の切り株の前に座らせる。
まるで“反省会の椅子”のように見える。
「じゃあ、始めましょうか」
「な、何を……?」
麟が震える声で聞く。
「説教よ?」
霊夢はにっこり微笑む。
その瞬間、森の空気が“ピシッ”と凍りついた。
◆
「まず魔理沙。
なんで光るキノコを踏んだの?」
「いや、あれは……反射的に……」
「反射的に危険物踏む人がどこにいるのよ?」
「ここに……」
「自覚あるなら直しなさい」
「はい……」
魔理沙がしゅんと肩を落とす。
麟は横で震えている。
◆
「次、麟」
「ひっ……はい……」
「なんで私の怒りを“周波数”とか“波動”とか言ったの?」
「そ、それは……科学的興味で……」
「人の怒りを研究対象にするんじゃないわよ」
「す、すみません……」
「あと、怒りの強度を数値化しようとしたわよね?」
「……はい」
「やめなさい」
「はい……」
麟は完全にしおれている。
魔理沙が小声で囁く。
「麟、お前……霊夢の怒りを数値化しようとしたのかよ……」
「だって……興味深かったから……」
「興味深くてじゃない!!」
霊夢のツッコミが炸裂し、
森の木々が“ビクッ”と揺れた。
◆
「で、二人とも」
「「はい……」」
「なんで異変調査中に私を怒らせるの?」
「いや、それは……」
「不可抗力で……」
「不可抗力じゃないわよ。
魔理沙は突っ走るし、麟は分析しすぎるし……」
霊夢は深いため息をつく。
「……私、異変解決しに来たのよ?
なんで“怒りで境界を閉じる巫女”になってるのよ?」
「霊夢の怒り、すごかったぜ……」
「境界が怯えてたよ……」
「褒めてないわよね?」
「「褒めてます!!」」
二人が即答する。
霊夢はしばらく無言で二人を見つめ――
「……まあ、反省してるならいいわ」
「「してます!!」」
「じゃあ、次はちゃんと協力してね?」
「「はい!!」」
霊夢がようやく微笑むと、
森の空気がふっと軽くなった。
◆
「……で、麟」
「はい……?」
「さっきの“怒りの周波数”の続き、聞かせて?」
「えっ、聞きたいの!?」
「怒ってない時なら聞いてあげるわよ?」
「じゃあ喜んで……!」
「おい麟、また怒らせる気かよ……」
魔理沙が呆れた声を出すが、
霊夢はもう怒っていなかった。
――こうして、博麗霊夢の“静かに怖い説教タイム”は幕を閉じた。