念願の異世界ハーレム、メンバーが全員“地雷”だったんだが?   作:ぷるぷるうさぎ

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どうもぷるぷるうさぎです!

さてルナとの初任務……一体どうなるのでしょうか!


やっぱりただのネズミなんだが?

「ちょ、ちょっと待って、ルナ!話が、話が見えないよ!」

 

 

「何を言っている同志ユウキ。これより我々は評議会への反撃の狼煙を上げるのだ。感極まる気持ちは分かるが、まずは落ち着け」

 

 

「落ち着けるわけないだろ!というか同志って言うな!」

 

 

 僕の悲痛な叫びは、リンドブルムの街の喧騒に虚しく吸い込まれていく。

 

 

 ルナは僕の手を固く握ったまま、ぐいぐいと先を歩いていく。その小さな身体のどこにこんな力があるというのか。

 

 

 僕が訳も分からぬまま連れてこられたのは、ギルドのクエストボードの前だった。

 

 

 ルナは数ある依頼書の中から、一枚の羊皮紙を慣れた手つきでひょいと剥がし取るとカウンターへと持っていく。

 

 

「この依頼(ミッション)を受注する」

 

 

「はい、『地下水道のジャイアントラット討伐』ですね。危険度E、推奨ランクF。お二人で受けられますか?」

 

 

 ギルドの職員さんが、事務的に問いかける。

 

 

(ジャイアントラット討伐…?推奨ランクF……ってことは普通の初心者向けクエストじゃないか…)

 

 

 僕は少しだけ安堵した。

 

 

 彼女の言う「評議会」だの「工作員」だのいうのは、きっと彼女なりのロールプレイか、何かの比喩表現なんだ。そうに違いない。

 

 

「そうだ。この我が新たなる同志、ユウキと共に評議会の魔の手からこの街の水道(ライフライン)を守ってみせる」

 

 

「は、はぁ…」

 

 

 職員さんは明らかに困惑した表情で、僕とルナを交互に見た。きっと、彼女はギルド内でも有名な変人なのだろう。その視線が痛い。

 

 

「ユウキ、これが我々の初陣だ。気負うことはない。君は君の使命を果たすだけでいい」

 

 

「いや、だから僕の使命って一体なんなのさ!僕はただ、パーティーを組みたかっただけで…」

 

 

「ふっ…」

 

 

 僕が抗議の声を上げると、ルナは三角帽子の下でふっと笑みを漏らした。

 

 

 それは、まるで出来の悪い弟を見る姉のような、慈愛に満ちた(ように見えなくもない)微笑みだった。

 

 

「まだそんなことを言うかユウキ。君はあまりにも謙虚すぎる。その力、その覚悟、その瞳の奥に宿る光。それは決してFランクの初心者が持ちうるものではない。もうその仮面を被り続ける必要はないのだ。少なくとも、私の前ではな」

 

 

(ダメだこの子、話が全く通じない…!)

 

 

 僕の心の叫びは、彼女には届かない。彼女の中では、僕はもう「一族の無念を背負い、正体を隠して戦う最後の英雄」として、完全にキャラクター設定が固まってしまっているらしい。何を言っても、それは「英雄の謙遜」か「正体を隠すための演技」と解釈されてしまうのだ。

 

 

 もはや抵抗は無意味。僕は諦めの境地で、彼女に引きずられるように街の地下へと続く、暗く、湿った入り口へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リンドブルムの地下水道は、カビと汚泥の匂いが立ち込める陰鬱な場所だった。

 

 

 壁からは絶えず水が滴り落ち、僕たちの足音だけが不気味に反響している。

 

 

「いいか、ユウキ。奴らはただのネズミではない。評議会によって特殊な訓練と、おそらくは簡易的な生体改造を施された恐るべき工作員だ。油断すれば我々の情報は瞬く間に評議会本部に伝達され、この作戦は失敗に終わる」

 

 

 ルナは一本の古びた杖を構え、真剣な表情で僕に注意を促す。

 

 

「は、はぁ…」

 

 

(もう、好きに言ってくれ…)

 

 

 僕はただ、早くこのクエストを終わらせて、宿屋のベッドで寝たい、という気持ちでいっぱいだった。

 

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 通路の奥の暗闇から複数の赤い光がこちらを向いた。

 

 

「キィィィィッ!」

 

 

 甲高い鳴き声と共に暗闇から飛び出してきたのは、子犬ほどもある巨大なネズミの群れだった。鋭い牙を剥き出しにし、血走った目で僕たちを敵と認識している。

 

 

 あれが、ジャイアントラット。

 

 

 

「来たか…評議会の走狗め…!」

 

 

 ルナの纏う空気が、一変した。

 

 

 さっきまでのただの妄想好きな少女ではない。紛れもない、手練れの魔道士の顔つきだ。

 

 

「ユウキ!君は私の背後へ!何があっても私を守り抜け!それが君の使命だ!」

 

 

「え、あ、うん!」

 

 

 言われるがまま、僕はルナの背後に回る。

 

 

 正直、めちゃくちゃ怖い。前世ではベッドの上から動けなかった僕が今、牙を剥く魔物の前に立っている。足がガクガクと震える。

 

 

 だが、不思議と逃げ出したいとは思わなかった。僕の後ろにはか弱い(?)女の子がいる。

 

 

 僕が、彼女を守るんだ。

 僕の、新しい力で!

 

 

(守る!僕がルナを絶対に守るんだ!)

 

 

 僕が心の中で強く念じた瞬間、僕の身体から淡い光が溢れ出し、僕とルナを包み込むように半透明の障壁が展開された。

 

 

 これが、【絶対的庇護欲(エンジェル・プロテクション)】

 

 

 ほぼ同時に、数匹のジャイアントラットが僕に飛びかかってきた。

 

 

「危ない!」

 

 

 僕は思わず目を瞑る。

 

 

 ガッ!ガギンッ!

 

 

 しかし、僕の身体に衝撃は一切ない。目を開けると、僕の目の前でジャイアントラットたちが見えない壁に激突し、弾き飛ばされていた。

 

 

「な…すごい…」

 

 

 これが、僕の力。本当に仲間を守れる力なんだ…!

 

 

 僕が自らの力に感動していると、ルナの冷静な声が響いた。

 

 

「完璧な結界だ、ユウキ…。やはり君は本物だったか。ならば私も全力で応えよう!」

 

 

 ルナが、その古びた杖を前方に突き出す。

 

 

 そして、僕が今まで聞いたこともないような、複雑で、流麗な詠唱を高速で紡ぎ始めた。

 

 

「――闇の衣を纏いし、小さき僕(しもべ)よ。我が呼び声に応え、その鋭き爪牙を、愚かなる光の偽善者共に突き立てよ!」

 

 

 詠唱と共に、ルナの足元の影がまるで生き物のように蠢き、数本の鋭い槍となって前方へと射出された。

 

 

「影の槍(シャドウ・ランス)!」

 

 

 影の槍は僕の結界をすり抜け、ジャイアントラットの群れへと突き刺さる。

 

 

 悲鳴を上げる間もなく、槍に貫かれたネズミたちは黒い煙となって消滅していった。

 

 

「す…すげぇ…」

 

 

 あまりの威力に、僕は呆然とする。彼女は本当にとんでもない実力を持った魔道士だったのだ。

 

 

「まだだ!これで終わりと思うなよ、評議会!」

 

 

 ルナは、次々と魔法を放っていく。

 

 

 地面から無数の影の手が伸びて敵を拘束する【束縛の影(シャドウ・バインド)】

 影で作った刃が、高速で敵を切り刻む【闇の刃(ダーク・ブレード)】

 

 

 僕の絶対的な防御と、ルナの圧倒的な攻撃魔法。それは、我ながら完璧なコンビネーションだった。あれだけいたジャイアントラットの群れは、わずか数分でそのほとんどが掃討されていた。

 

 

 僕たちは、やれる。このコンビなら、もっと上のランクを目指せる!

 

 

 そう僕が確信した、その時だった。

 

 

 通路の一番奥。ひときわ大きな影が、ゆっくりと姿を現した。他のネズミの倍はあろうかという巨体。その毛皮は不気味なまだら模様で、目からは知性すら感じさせる、狡猾な光が放たれている。

 

 

「キシャァァァァァッ!」

 

 

 ボスだ。ジャイアントラットの群れのボスに違いない。

 

 

 僕がゴクリと喉を鳴らすと、隣でルナがかつてないほど真剣な声で、呟いた。

 

 

「…間違いない。あれが、この部隊の隊長格…『リザードマン評議会』、極東方面軍第7師団所属、コードネーム…」

 

 

 彼女は、一度言葉を切ると、憎々しげにその名を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――“まだらの紐”だ…!」

 

 

 

 

 

「誰だよそれ!!!」

 

 

 僕の渾身のツッコミが、薄暗い地下水道に虚しく木霊した。

 

 

「まだらの紐…!まさか、こんな下級工作員の部隊に奴ほどの指揮官が紛れているとは…!評議会め、この街を本気で潰しに来ているのか…!」

 

 

 ルナはギリッと歯噛みしながら、憎しみのこもった目で巨大なまだら模様のネズミ――コードネーム“まだらの紐”――を睨みつけている。

 

 

(いや、どう見てもただデカくて汚いネズミだって!)

 

 

 僕の心のツッコミは、もはや声にすらならない。

 

 

 しかし、あのボスネズミがこれまでの雑魚とは明らかに違うオーラを放っているのもまた事実だった。その狡猾な瞳は、ただの獣のものではない。

 

 

「ユウキ!奴は私が仕留める!君は何があってもこの結界を解くな!一瞬の油断が我々の死に繋がるぞ!」

 

 

「わ、分かった!」

 

 

 ルナは、杖を構え直すと、その先端に、小さな闇の塊を瞬時に生成し、矢継ぎ早に放ち始めた。

 

 

「闇の弾丸(ダーク・バレット)!」

 

 

 パン!パン!パン!

 

 

 威力の低い、無詠唱の牽制魔法らしい。

 

 

 しかし、まだらの紐はその小柄な巨体に似合わぬ俊敏な動きで、闇の弾丸をひらりひらりと躱していく。その動きには、明らかな余裕が感じられた。

 

 

「クッ…!小賢しい…!」

 

 

 ルナは舌打ちをしながらも、攻撃の手を緩めない。

 

 

 だが、僕には分かった。彼女の狙いはあの牽制魔法でダメージを与えることじゃない。彼女は左手で杖を操りながら、右手では僕にも見えないようにローブの影で複雑な印を結び始めている。

 

 

(あれは!きっと大規模な魔法の準備だ…!)

 

 

 あの「闇の槍」ですら、あれだけの威力だったのだ。彼女がこれほど時間をかけて準備している魔法は、きっとこの通路ごと吹き飛ばすようなとんでもない一撃に違いない。

 

 

 だが、まだらの紐もまた、長年の戦闘経験でルナの意図を正確に読み取っていた。ただの獣ではない。こいつは、生き抜くための「知恵」を持っている。

 

 

「キシャァァァッ!」

 

 

 まだらの紐が、甲高い咆哮を上げた。

 

 

 すると、その口元に冷気が渦を巻き始める。地下水道の湿った空気が急速に凍りついていくのが肌で感じられた。

 

 

(嘘だろ…!?)

 

 

 次の瞬間、まだらの紐の口から鋭い氷の礫がマシンガンのように僕たちに向かって射出された。

 

 

「氷の礫(アイス・ジャベリン)!」

 

 

 ダダダダダダッ!

 

 

 無数の氷の礫が僕の【絶対的庇護欲】の結界に、激しく打ち付けられる。

 

 

 ガギン!ガギン!と、ガラスが割れるよう、嫌な音が連続して響き渡った。

 

 

「くっ…!」

 

 

 結界はなんとか持ち堪えている。

 

 

 だが、問題はそこではなかった。

 

 

「詠唱が…乱される…!」

 

 

 前でルナが苦悶の声を漏らす。彼女の足元が氷の礫の余波で薄っすらと凍りついている。集中を要する大規模魔法の詠唱が、この連続攻撃と足元から伝わる冷気によって妨害されているのだ。

 

 

「まずい…!このままじゃ、ルナの魔法が完成する前にこっちがジリ貧になる!」

 

 

 まだらの紐は、狡猾だった。僕の防御が絶対的なものだと知ると、僕を直接攻撃することをやめ、僕ごとルナの詠唱を妨害するという、最も効果的な戦術に切り替えてきたのだ。

 

 

「ユウキ!なんとか、奴の動きを止められないか!あと、三十秒…いや、二十秒あれば…!」

 

 

 ルナの額に脂汗が浮かぶ。

 

 

(僕に、何ができる…?)

 

 

 僕の能力は、あくまでも「防御」。攻撃手段は何一つ持っていない。この結界を解いて、前に出る?

 

 

 いや、ダメだ。そんなことをすれば僕が一瞬でやられる。そうなればルナも終わりだ。

 

 

 何か…何か、方法はないのか。僕の力で、この状況を打開できる、何かが…!

 

 

 僕は、必死に頭を働かせる。僕の能力は【絶対的庇護欲】。対象を「守る」力。その本質は、なんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――あらゆる攻撃を防ぐ、絶対的な防御結界。

 

 

 

 

 

 

 

 そうだ。

 

 

「あらゆる攻撃」を防ぐんだ。それは物理攻撃だけじゃない。魔法だってこうして防いでいる。

 

 

 なら、この使い方なら、どうだ…!?

 

 

「ルナ!僕が一瞬だけ奴の動きを止める!その隙に、魔法を完成させてくれ!」

 

 

「なっ…!?無茶だ、ユウキ!君に攻撃手段はないはず…!」

 

 

「いいから、信じて!」

 

 

 僕はルナの返事を待たず行動に移した。僕は結界を維持したまま、ゆっくりとまだらの紐に向かって一歩、踏み出した。

 

 

「キィ?」

 

 

 まだらの紐は僕の意図が分からず、怪訝な鳴き声を上げる。僕はさらに一歩、また一歩と前進する。

 

 

 そして意識を僕自身ではなく、僕の「前」にある何もない空間に集中させた。

 

 

(守る!)

 

 

 僕が守るのは、ルナだけじゃない。

 

 

 僕が今、この瞬間に「守りたい」と願うもの。

 

 

 

 

 

 それは――

 

 

 

 

 

(僕とまだらの紐との間にあるこの「空間」を、守る!)

 

 

 僕の無茶苦茶な願いに応えて、【絶対的庇護欲】がその形を変えた。

 

 

 僕とルナを包んでいた球形の結界が、僕の前方数メートルの空間に一枚の「壁」となって再構築されたのだ。

 

 

「キシャァァァッ!」

 

 

 まだらの紐は僕の奇妙な行動に、ようやく危機感を覚えたらしい。再び、口から氷の礫を今度は先ほどよりも遥かに強力な一撃を放ってきた。

 

 

 しかし、その氷塊は僕に届くずっと手前。何もないはずの空間で、まるで透明な壁に激突したかのように粉々に砕け散った。

 

 

「な…!?結界を分離させて、前方に固定しただと…!?」

 

 

 前からルナの驚愕の声が聞こえる。

 

 

「キィィィ!?」

 

 

 まだらの紐も混乱している。自分の攻撃がなぜ届かないのか、理解できていない。

 

 

 今だ!

 

 

 この、ほんの数秒の混乱が、命運を分ける!

 

 

「ルナァァァッ!」

 

 

「言われるまでもない!」

 

 

 僕の叫びと同時に、ルナの詠唱がクライマックスに達した。

 

 

 彼女の身体から膨大な魔力が奔流となって溢れ出す。地下水道の空気がビリビリと震える。

 

 

「――集え、嘆きの亡者たちよ。その無限の渇望を、一筋の絶望へと変え、我が敵を、無間の闇へと誘え!」

 

 

 ルナの杖の先端に闇が極限まで圧縮された、小さな、小さな黒い球体が生まれる。

 

 

 それは、まるでブラックホールのように周囲の光さえも吸い込んでいく。

 

 

「喰らえ評議会の犬!これが我らの怒りの一撃だ!」

 

 

「深淵の一瞥(アビス・ゲイズ)!!」

 

 

 放たれたのは、一筋の黒い光線。

 

 

 それは音もなく、空間を切り裂き、まだらの紐へと、吸い込まれるように着弾した。

 

 

「……キ?」

 

 

 まだらの紐は何が起こったのか分からない、といった顔で自分の身体を見下ろす。着弾したはずの腹には傷一つない。

 

 

 

 

 しかし、次の瞬間。

 

 

 

 

 まだらの紐の巨体が、まるで風化した砂の像のようにその輪郭からサラサラと黒い粒子となって崩れ始めた。

 

 

「キ…キィ…」

 

 

 断末魔の悲鳴すら上げることは許されない。存在そのものを根源から「消滅」させられたまだらの紐は、数秒後には跡形もなく完全に消え去っていた。

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

 

 ルナが魔力を使い果たしたのか、その場にへなへなと座り込む。

 

 

 僕も極度の緊張から解放され、腰が抜けたようにその場にへたり込んだ。こうして僕の記念すべき初クエストは、終わった。

 

 

 僕がただのネズミ退治だと思っていたそれは、結果的に僕の潜在能力の一端を開花させ、そして僕とルナとの間に奇妙で、しかし確かな「共犯関係」のような絆を生み出すことになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだらの紐が消え去った後、地下水道には気まずい沈黙だけが残された。僕とルナはしばらくの間、魔力と気力を使い果たし、汚れた地面にへたり込んだまま動けなかった。

 

 

 先に口を開いたのは、ルナだった。

 

 

「…やるじゃないか、ユウキ」

 

 

 彼女はまだ息を切らしながらも、その瞳に確かな賞賛の色を浮かべていた。

 

 

「まさか、【絶対的庇護欲】にあのような応用方法があったとはな。結界を対象から分離させ、任意の空間に『壁』として固定する…。それはもはや防御の範疇を超えている。空間そのものを支配する、絶対領域(サンクチュアリ)の入り口だ」

 

 

「は、はぁ…」

 

 

(自分でもなんで出来たのか、よく分かってないんだけど…)

 

 

 火事場の馬鹿力、というやつだろうか。

 

 

「君は、やはりただ者ではなかった。私の目に狂いはなかったようだ」

 

 

 ルナ、満足げに頷くと、よろりと立ち上がった。

 

 

「さあ、帰還するぞ、同志ユウキ。ギルドに我々の勝利を報告しなくてはな」

 

 

「う、うん…」

 

 

 僕もまだ震える足でなんとか立ち上がる。

 

 

 こうして、僕の初クエストはなんとかかんとか、終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰り道。

 

 

 すっかり僕のことを「運命の同志」だと認め、完全に心を開いたルナはそれはもう饒舌だった。

 

 

「それにしても、評議会の奴ら本気だな。まさかあんな辺境の地下水道にまだらの紐クラスの指揮官を配置してくるとは。奴の任務は十中八九、このリンドブルムの水道に特殊な毒物を混入させ、市民を無気力化させることだったに違いない」

 

 

「そ、そうなんだ…」

 

 

「ああ。そして、市民が抵抗する気力を失ったところで奴らは本隊を投入し、この街を極東方面における新たな拠点とするつもりだったのだろう。我々はそれを水際で防いだのだ。これは、歴史的な勝利と言っても過言ではない」

 

 

「は、はぁ…」

 

 

 僕の相槌などお構いなしに、ルナの陰謀論は留まることを知らない。

 

 

「考えてもみろ、ユウキ。なぜこの街のパンは妙に甘い香りがする?あれは市民の味覚を麻痺させ、思考を鈍らせるための巧妙な罠だ」

 

 

(いや、普通に砂糖とバターを使ってるからじゃないかな…)

 

 

「なぜギルドの職員の制服は、胸元が少し開いている?あれは冒険者の視線を胸に集め、重要な情報(クエストの詳細)から意識を逸らさせるための視線誘導(サブリミナル)効果を狙ったものだ」

 

 

(それは、一部の男性冒険者が喜ぶだけだと思うけど…)

 

 

「なぜ、空には雲が浮かんでいる?」

 

 

「え、それは水蒸気が…」

 

 

「違う!あれは評議会が我々の行動を監視するために上空に配備した、巨大な情報収集魔法だ!気象を操り、時には雷を落として評議会に逆らう者を天罰に見せかけて抹殺するのだ!」

 

 

「そ、そうなんだー…」

 

 

 もはや僕にできることは乾いた笑いを浮かべながら、気の抜けた相槌を打つことだけだった。ツッコミを入れる気力すらもう残ってはいない。

 

 

 僕はこの時、心の底から理解した。彼女の隣にいる、ということはこういうことなのだ。この荒唐無稽で、しかし彼女の中では絶対の真実である「陰謀論」を永遠に聞き続けるということなのだ。

 

 

(ハーレムへの道はなんて険しいんだ…)

 

 

 僕が遠い目をしながら故郷(前世の病室)を思い出していると、ルナがふと僕の顔を覗き込んできた。

 

 

「どうした、ユウキ。浮かない顔をして。初陣の勝利だというのに。…そうか、分かっている。君はまだ、仲間を失った悲しみを引きずっているのだな」

 

 

「え?」

 

 

「君の一族…『光の血族』のことだ。評議会の卑劣な罠によって君以外の仲間は皆殺された。君がその無念を忘れるはずがない」

 

 

 ルナはどこか悲しげな目で、僕を見つめた。

 

 

「だが忘れるな、ユウキ。君はもう一人ではない。この私がいる。私が君の剣となり、盾となり、そして……家族となる。だから…」

 

 

 彼女は少しだけ照れたように、視線を逸らした。

 

 

「…だから、あまり一人で抱え込むな。これからは私にも君の荷物を半分背負わせてくれ」

 

 

 その言葉は、きっと彼女なりの最大限の優しさと信頼の証だったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕の正体を盛大に勘違いしていることを除けば。

 

 

 僕はその時、なんだかおかしくなってしまって、思わず吹き出してしまった。

 

 

「ぷっ…あははは!」

 

 

「な、なんだ、ユウキ!何がおかしい!」

 

 

「いや、ごめんごめん!なんでもないんだ!」

 

 

 僕は笑いながら、首を振った。

 

 

 そっか。家族、か。

 

 

 まあ、こんなちょっと(かなり)変わった妹ができたと思えば、このくらいの苦労は安いもの、なのかもしれないな。

 

 

 僕の異世界ハーレム計画は、開始初日にし、早くも暗礁に乗り上げつつある。

 

 

 でも、まあ一人ぼっちで絶望していた数時間前に比べればずっと、ずっと、マシな状況だ。僕は隣で「何がおかしいのだ!」と、顔を赤くして怒っている小さな天才魔道士の頭をぽん、と軽く撫でた。

 

 

「よし、ギルドに帰って美味いものでも食べよう!もちろんルナの奢りでね!」

 

 

「なっ…!なぜそうなるのだ!今回の勝利は五分と五分…フィフティ・フィフティだろうが!」

 

 

「えー、でも、敵を倒したのは全部ルナじゃないか。僕はただ立ってただけだし?」

 

 

「そ、それはそうだが…!しかし、君の結界がなければ私は魔法を詠唱できなかった!やはりこれは共同作業(ジョイント・ワーク)だ!報酬はきっちり折半(ワリカン)にすべきだろう!」

 

 

「ちぇー、ケチんぼ」

 

 

「ケチとはなんだ、ケチとは!」

 

 

 ぎゃあぎゃあと騒ぎながら、僕たちは地上へと続く明るい光が差し込む出口へと歩いていった。

 

 

 僕の胃痛は、まだ、始まったばかりだ。




お読みいただきありがとうございました!

正式に彼女はユウキ君のパーティメンバーになりましたね!

それにしてもこの子…頭大丈夫でしょうか……


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