念願の異世界ハーレム、メンバーが全員“地雷”だったんだが?   作:ぷるぷるうさぎ

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どうもぷるぷるうさぎです!

今回はもう一人のヒロイン候補が…?!
是非続きをお楽しみください!

あと、もし良ければ感想や評価もお願いします!



物凄く美女なんだが?

あれから数週間が過ぎた。僕とルナは、二人だけのパーティーとして地道にクエストをこなしていた。

 

 

ゴブリンの巣穴討伐(ルナ曰く「評議会が組織したゲリラ部隊の前線基地の破壊工作」)。

 

 

森の薬草採取(ルナ曰く「評議会が散布した毒素を中和する、解毒剤の材料確保」)。

 

 

迷子の猫探し(ルナ曰く「評議会に誘拐された要人のペットを救出し、恩を売るための極秘任務」)。

 

 

僕の胃痛は日に日に悪化していく一方だったが、不思議とパーティーを解散しようとは思わなかった。ルナの妄想は常軌を逸しているけれど、彼女の魔道士としての実力は本物だった。そして僕の【絶対的庇護欲】との相性は我ながら完璧だった。

 

 

僕が敵の攻撃を全て防ぎ、その間に、ルナが強力な魔法で敵を一掃する。この戦術で僕たちは格上のクエストすら危なげなくクリアできるまでになっていた。

 

 

ギルド内での僕たちの評価も、少しずつ変わり始めていた。

 

 

「あのヤバい魔女と、物好きな新人のコンビ」

 

 

そんな風に遠巻きに囁かれている。少なくとも、もうFランクだからとあからさまに馬鹿にされることはなくなった。

 

 

その日も僕たちはオークの討伐依頼を終え、ギルドの酒場でささやかな祝杯をあげていた。

 

 

この世界では15歳から成人扱いで、元の体の持ち主はどうやら16歳なので僕は大人扱いだ。

 

 

なので注文するのはエール、ルナは未成年なのでリンゴのジュースだ。

 

 

「それにしても今日のオークの隊長、妙に統率が取れていたな。あれは間違いなく評議会から派遣された専門の教官による訓練を受けている。奴らの侵略計画は我々が思っている以上に根深いぞ、ユウキ」

 

 

「そ、そうだねー…」

 

 

いつも通りの会話。

いつも通りの、気の抜けた僕の相槌。

 

 

でも、その時、僕の胸に、ふと、ずっと気になっていた疑問が、浮かび上がってきた。

 

 

「ねえ、ルナ」

 

 

「なんだ?」

 

 

「ルナってさ、すごく強いじゃないか。僕が言うのもなんだけど、その実力はとてもじゃないけどFランクの冒険者が持つものじゃないと思うんだ」

 

 

「ふん。当然だ。この私をそこらの雑兵と一緒にするな」

 

 

ルナは、得意げに胸を張る。

 

 

「でも、それならなんで…?」

 

 

僕は少しだけ、言葉を選ぶ。

 

 

「なんで、僕が声をかけるまでずっと一人だったんだ?君ほどの実力があれば引く手あまただったはずだろ?もっといい条件のパーティーにだって入れたはずなのに」

 

 

それは少し、踏み込みすぎた質問だったかもしれない。彼女のプライベートに土足で踏み込むようなデリケートな問いだ。

 

 

でも、僕は知りたかった。僕と出会う前の彼女のことを。僕たちはもうただの即席パーティーじゃない。共に死線を潜り抜けてきた「同志」なのだから。

 

 

僕の問いに、ルナは何も答えなかった。ただジュースの入ったグラスを小さな手で弄びながら、じっとテーブルの木目を見つめている。

 

 

ギルドの喧騒が、急に遠くに聞こえた。

 

 

(まずったかな…)

 

 

僕が慌てて「ごめん、変なこと聞いて」と謝ろうとしたその時だった。ルナが静かに口を開いた。

 

 

「…私は、生まれつき魔力に恵まれていた」

 

 

それは、いつもの彼女の尊大な口調とは違う。どこか、遠い過去を懐かしむような穏やかな声だった。

 

 

「私の家は代々、優秀な魔道士を輩出してきたそれなりに名の知れた一族でな。その中でも、私の魔力量と魔法理論への理解度は突出していたらしい。一族の誰もが私の将来を期待していた。『この子は、いずれ、国一番の大魔道士になる』…と」

 

 

彼女は一度、言葉を切った。その横顔は僕が今まで見たことのない寂しげな色を帯びていた。

 

 

「だが、私は気づいてしまったのだ」

 

 

「え…?」

 

 

「この世界の欺瞞に。偽りの平和に。そして、その裏で静かに……しかし、確実に世界を蝕む巨大な『悪』の存在に」

 

 

ルナの瞳にいつもの狂気と隣り合わせの鋭い光が戻ってくる。

 

 

「私は、訴えた。一族の長老たちに。王宮の魔道士たちに。このままでは、世界は、奴ら――『蜥蜴人評議会』によって、滅ぼされる、と。だが、誰も、私の言葉を信じようとはしなかった」

 

 

彼女は自嘲するようにふっと笑った。

 

 

「彼らは私を『才能に溺れた哀れな妄想狂』と呼んだ。私の訴えを、幼い子供の馬鹿げた戯言だと笑った。そして、私を一族の恥として家の奥にある書庫に閉じ込めたのだ。『少しは頭を冷やせ』とな」

 

 

僕は、言葉を失った。彼女がなぜあれほど膨大な知識を持っているのか。

なぜあれほど世間に対して斜に構えているのか。

 

 

その理由が少しだけ、分かった気がした。

 

 

「私は裏切られたのだ。信じていた家族に。尊敬していた大人たちに。彼らは目の前にある『真実』から目を背けた。自らの地位と安穏な暮らしを守るために私という『異物』を排除したのだ。だから、私は家を飛び出した。たった一人で奴らと戦うために。誰にも理解されずともこの世界を守るために。…だから驚いたのだ、ユウキ」

 

 

ルナは、そこで初めて僕の目をまっすぐに見た。

 

 

「君が私に声をかけてきた時。君が私の言葉を疑いもせず信じてくれた時」

 

 

彼女の瞳が少しだけ潤んでいるように見えたのは、きっと、ギルドのランプの光が揺らめいたせいだ。

 

 

「君は、私が生まれて初めて出会った…『理解者』なのだ」

 

 

その言葉は、僕の胸にずしりと重く響いた。

 

 

(違うんだ、ルナ…僕は君を理解なんてこれっぽっちも…)

 

 

ただ、可愛い女の子とパーティーが組みたいっていう不純な動機だったんだ。

君の言う評議会なんて、今でも君の妄想だと思ってる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも。

 

 

そんな残酷な真実を、どうして彼女に告げられるだろうか。たった一人で世界中の全てを敵に回し、孤独な戦いを続けてきた、この小さな天才魔道士に。

 

 

僕は、何も言えなかった。ただ目の前にあるエールのジョッキを、ぐいっと、一気に煽った。ぬるくなったエールが、やけに苦く感じた。

 

 

「…そっか」

 

 

僕は空になったジョッキを、ドン…とテーブルに置き、努めて明るい声で言った。

 

 

「じゃあ、なおさらだね」

 

 

「なにがだ?」

 

 

「僕が君の最初の『理解者』なら、その僕が君を一人にしちゃダメだろ?」

 

 

僕はニッと笑って、彼女の頭をわしわしと少し乱暴に撫でた。

 

 

「なっ…!や、やめろ、ユウキ!子供扱いはするなとあれほど…!」

 

 

顔を真っ赤にして、僕の手を振り払おうとするルナ。

 

 

 

 

 

 

 

 

そっか。

君は、ずっと一人だったのか。

なら、僕が君の隣にいよう。

 

 

 

 

 

 

君の言う「評議会」が本当に存在するかどうかは分からないけど。君がその孤独な戦いを終えるその日まで。

 

 

僕のハーレム計画はどうやら、僕が思っていたのとは全く違う方向に進んでいきそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、まあ。

それも悪くないかな、なんて。

 

 

僕は照れ隠しに、カウンターのマスターに大声で叫んだ。

 

 

「マスター!エール、おかわり!あと、この子に一番高いジュース持ってきてやってくれ!」

 

 

僕の胃痛と、そして僕の抱える秘密、また一つ重くなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ユウキ、見たか。今すれ違ったパン屋の店主の目を」

 

 

「え?いや、別に普通だったけど…」

 

 

「甘いな、同志ユウキ。彼の目は明らかに泳いでいた。そして、指先には微量の小麦粉が付着していた。あれは昨晩、秘密の地下工場で評議会に納品する『洗脳パン』を製造していた動かぬ証拠だ」

 

 

「ただパンをこねてただけだと思うよ…」

 

 

リンドブルムの中央通り。

 

 

僕とルナは、次のクエストに必要なポーションの材料を買いに来ていた。

 

 

もちろん、僕の隣でルナはすれ違う人々、店の看板、道端の石ころに至るまでその全てに壮大な陰謀を見出し、僕に解説してくれている。もはや僕にとっての日常だ。

 

 

(ああ、胃が痛い…)

 

 

僕は無意識に、腹を押さえる。最近、ギルドの薬屋で胃薬(に似た薬)をまとめ買いした。薬屋の主人に、「あんたも苦労してるんだねぇ」と同情的な目で見られたのが地味に傷ついた。

 

 

そんないつも通りの平和な(?)午後だった。

 

 

 

 

 

 

 

その静寂を破る怒声が響き渡ったのは。

 

 

「おい、待てゴルァ!"セレス"!」

 

 

「ふざけんじゃねぇぞ、てめぇ!今度こそ、逃がさねぇからな!」

 

 

下品で、威圧的な男たちの声。

僕とルナが声のした方角――広場へと続く路地裏――に視線を向けると、信じられない光景が目に飛び込んできた。

 

 

三人の、いかにも柄の悪いチンピラ風の男たち。その男たちに追いかけ回されている一人の女性。

 

 

そして、その女性の姿に僕は文字通り息を呑んだ。

 

 

陽の光を浴びてキラキラと輝く、プラチナブロンドの髪。

彫刻家が精魂込めて作り上げたかのような、完璧な顔立ち。

追い詰められているはずなのに、どこか余裕すら感じさせる蠱惑的な微笑み。

身体のラインがくっきりと浮かび上がる、上質な、しかし、所々がほつれたドレス。

 

 

 

 

 

 

 

絶世の美女。

 

 

その言葉がこれほど似合う人間を、僕は前世でも今世でも見たことがなかった。

 

 

(て、天使…?いや、女神様…!?)

 

 

僕の心臓が、ドクン、ドクン、と、警鐘のように鳴り響く。

 

 

これだ!これこそ僕が夢にまで見た、異世界ファンタジーの王道展開!悪漢に絡まれているか弱くも美しいヒロイン!

 

 

そこに、颯爽と現れる主人公(僕)!

 

 

そして、彼女を助けたことで恋が芽生え、僕のハーレム計画は新たなステージへと進むのだ!

 

 

 

「ユウキ、あれは…!」

 

 

隣で、ルナが真剣な声で呟く。

 

 

(そうだろ、ルナ!僕たちで彼女を助けるんだ!)

 

 

僕が同意を求めようとルナの方を向くと、彼女は僕の予想とは全く違うことを言った。

 

 

「…評議会直属の、特殊工作員(アサシン)…コードネーム“金色の雌狐(ゴールデン・フォックス)”!そして、彼女を追っているのは、評議会の裏切り者を処刑する為に派遣された者たちか…!」

 

 

「なんでそうなるんだよ!」

 

 

思わず渾身のツッコミを入れてしまう。

 

 

どう見てもチンピラに追われる可憐な美女、という構図だろうが!

 

 

「甘いな、ユウキ!あの女の動きを見ろ!追い詰められているように見せかけて、巧みに人通りの少ない路地へと男たちを誘導している!あれは獲物を狩り場へと誘い込む暗殺者の動きだ!」

 

 

「いや、普通に逃げ惑ってるだけに見えるけど…」

 

 

僕とルナが、いつも通りの不毛な議論を交わしている間にも、状況は刻一刻と悪化していた。

 

 

ついに、美女は袋小路へと追い詰められてしまった。三人の男たちが下卑た笑みを浮かべながら、じりじりと彼女との距離を詰めていく。

 

 

「へへへ…もう逃げ場はねぇぜ、セレス」

 

 

「大人しく借りた金を返すか、あるいは身体で払ってもらうか…選ばせてやるよぉ」

 

 

「ひぃっ…!や、やめてください…!」

 

 

美女はか細い声で悲鳴を上げる。その瞳には恐怖の色が浮かび、涙で潤んでいる。その姿は庇護欲をこれでもかと掻き立てる、完璧な「ヒロイン」の姿だった。

 

 

もう、我慢の限界だった。

 

 

「ルナ!問答無用だ!助けるぞ!」

 

 

「待て、ユウキ!罠だ!あれは我々のような正義感の強い者を誘き出すための、巧妙な…」

 

 

ルナの制止を僕は振り切った。

 

 

だって、そうだろう!?

 

 

目の前であんなに美しい人が困っているんだ。ここで助けなくて何が主人公だ!

 

 

「やめろぉぉぉっ!」

 

 

僕は自分でも驚くような大きな声を張り上げながら、男たちと彼女の間へと飛び出した。

 

 

そして両手を広げ、彼女を背中に庇うように立ちはだかる。そう。僕の十八番のポジションだ。

 

 

「な、なんだ、てめぇは!?」

 

 

突然の乱入者に男たちがギョッとして足を止める。

 

 

「彼女に乱暴するのは僕が許さない!それでもというなら、この僕が相手になる!」

 

 

僕はビシッと男たちを指差して啖呵を切った。足はガクガクに震えている。

 

 

でも、僕の背後には守るべき絶世の美女がいる。

 

 

今、僕は紛れもなく物語の「主人公」だった。

 

 

「あぁん?どこぞのガキか知らねぇが、英雄気取りかよ」

 

 

「痛い目に遭わねぇうちに、とっとと消えな」

 

 

男たちは僕をせせら笑う。

 

 

だが、僕はもう以前の僕ではない。僕には仲間を守るための力がある!

 

 

「行くぞ!」

 

 

男の一人が僕に向かって殴りかかってきた。僕は目を瞑らない。心の中で強く念じる。

 

 

(守る!僕がこの人を絶対に守るんだ!)

 

 

僕の願いに応え、【絶対的庇護欲】が僕と背後の彼女を包み込むように展開された。

 

 

ドンッ!

 

 

鈍い音と共に、男の拳が見えない壁に阻まれる。

 

 

「ぐわっ!?な、なんだこりゃあ!?」

 

 

男は自分の拳を見つめ、驚愕の声を上げた。

 

 

「へへん、どうだ!僕の力はこんなものじゃないぞ!」

 

 

僕は得意げに胸を張る。

 

 

さあ、見るがいい!僕の勇姿を!そして、僕に惚れるがいい!美しきお嬢さん!

 

 

僕はチラリと、背後の彼女に視線を送った。きっと、僕の勇気に瞳を輝かせているに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし。

 

 

僕の目に映ったのは予想とは全く違う光景だった。彼女は僕の背後で震えてなどいなかった。

 

 

それどころか、その美しい顔に浮かべていたのは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恍惚とした、ギャンブラーの笑み。

 

 

そして、僕の耳に彼女の狂気に満ちた小さな呟きが届いた。

 

 

……ククク…来た来た来たァ…!土壇場でのこの引き…!最低最悪の状況(バッドラック)からの一発逆転の奇跡の札(ジョーカー)…!圧倒的僥倖…っ!

 

 

「……え?」

 

僕が呆然としていると、彼女は僕の肩にそっと手を置いた。

 

 

そして天使のような、しかし、どこか悪魔的な響きを帯びた声で僕の耳元に囁いた。

 

 

「ねぇ、キミ。面白い力持ってるじゃない。その『盾』…いくらで私に貸してくれる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え?貸す?いくらで?

 

 

僕は完全に思考を停止させていた。この状況で出てくる言葉が、それ?

 

 

僕があまりの価値観の違いに、ショート寸前のロボットのようにカタカタと震えているその間だった。

 

 

「――邪魔だ」

 

 

凛とした、しかし不機嫌さを隠そうともしない声が響いた。

 

 

声の主は僕の隣にいつの間にか立っていたルナだった。彼女は僕とセレスを一瞥すると、心底どうでもよさそうにチンピラたちに向き直った。

 

 

「貴様ら、評議会の末端構成員風情が我々の貴重な時間をこれ以上無駄にさせるな。五秒以内にここから消えろ。さもなくば塵と化す覚悟をしろ」

 

 

「あぁん?なんだこのチビは!」

 

 

「二人まとめて痛い目に遭わせてや…」

 

 

男たちが悪態をつき終わる前に、ルナは静かに杖を掲げた。

 

 

「――警告は、したぞ」

 

 

次の瞬間、男たちの足元の影がまるで生き物のように彼らの足首に絡みついた。

 

 

「なっ!?なんだ、こりゃあ!?」

 

 

「足が、動かねぇ!」

 

 

「束縛の影(シャドウ・バインド)」

 

 

僕たちの初クエストでも使った拘束魔法だ。

 

 

しかし、その威力は以前とは比べ物にならないほど強力になっている。男たちは屈強な身体を必死にもがかせているが、影の拘束はびくともしない。

 

 

「ひぃっ…!ま、魔法使いかよ!」

 

 

「わ、悪かった!もうしねぇから許してくれ!」

 

 

男たちは先ほどまでの威勢が嘘のように、情けない悲鳴を上げ始めた。ルナはそんな彼らに冷たい視線を向けたまま、静かに告げる。

 

 

「消えろ」

 

 

その一言で影の拘束がふっと解ける。

 

 

男たちはもつれるようにして互いに折り重なって、転ぶと這うようにして一目散にその場から逃げ出していった。

 

 

その速さはまさに脱兎の如し、だった。

 

 

「…ふん。時間の無駄だったな」

 

 

ルナは杖を降ろすと何事もなかったかのように僕の方を振り返った。僕はその一連の流れをただ呆然と見つめていた。

 

 

(い、いつの間に…)

 

 

僕が一人の美女に心を奪われ、そして絶望しているほんの数十秒の間に、ルナはたった一人で状況を完全に解決してしまっていた。

 

 

僕、主人公として何もしてない…。

 

 

僕が自分の不甲斐なさに打ちひしがれていると、背後から鈴を転がすような美しい声がかけられた。

 

 

「まあ…!助けていただいてありがとうございます、お二人とも」

 

 

振り返ると、そこにいたのは先ほどまでの狂気を帯びたギャンブラーの顔ではなく、再びか弱く美しい「お姫様」――セレスだった。

 

 

「私、セレスと申します。あなた方のような勇敢な方がいらっしゃらなければ、今頃どうなっていたことか…。本当に感謝してもしきれません」

 

 

彼女は深々と、優雅にお辞儀をした。その仕草の一つ一つが洗練されていて、育ちの良さを感じさせる。

 

 

「あ、いや、僕は何も…」

 

 

「ふん。礼を言うなら私にだけ言え。こいつはただ突っ立っていただけだ」

 

 

ルナがぶっきらぼうに言う。その通りなので何も言い返せない。

 

 

「いいえ、そんなことはありませんわ」

 

 

セレスは僕に向かってにっこりと花が綻ぶような笑みを向けた。

 

 

「あなたが一番最初に私を守ろうと飛び出してきてくださいました。その勇気、とても嬉しかったですわ」

 

 

「うっ…!」

 

 

その笑顔に、僕の心臓が再び大きく跳ねる。

 

 

ダメだダメだユウキ!さっきの狂気に満ちた目を思い出すんだ!

 

 

しかし、僕の理性は彼女の圧倒的な美貌と、完璧なヒロインムーブの前ではあまりにも無力だった。僕の顔がだらしなくにやけていくのが自分でも分かる。

 

 

「それに、あなたのあの不思議な『盾』の力…本当に素晴らしかったですわ」

 

 

セレスはうっとりとした表情で僕を見つめる。

 

 

「もしよろしければ、あなた方のお名前とその力のことをもう少し詳しくお聞かせ願えませんこと?」

 

 

彼女の言葉に、僕の隣でルナの眉がピクリと動いた。

 

 

「…貴様、何者だ。なぜユウキの能力にそれほど執着する?やはり評議会直属の特殊工作員……ユウキの力を解析するために送り込んだハニートラップのつもりか…?」

 

 

ルナが再び杖を握りしめ、警戒態勢に入る。

 

 

まずい。このままだとルナがここで戦闘を始めてしまう…!そうなったら、絶対に面倒なことになる!

 

 

「ま、待ってルナ!彼女はただお礼がしたいだけだって!」

 

 

僕は慌てて二人の間に割って入った。

 

 

「そうよ、おチビさん。そんなに殺気立たないでちょうだいな」

 

 

セレスは優雅な笑みを崩さないまま、ルナを軽く挑発する。

 

 

「私はただ、命の恩人であるこの素敵な『騎士様』ともう少しお話がしたいだけですわ」

 

 

騎士様、という言葉に僕の頬がカッと熱くなる。

 

 

(き、騎士様…!)

 

 

「…ユウキ」

 

 

ルナが僕の服の袖をくいっと引っ張った。

 

 

「こいつは危険だ。関わるな。私の『直感』がそう告げている」

 

 

その直感は、十中八九、当たっている。僕の理性もそう叫んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

だが。

だがしかし。

 

 

目の前には絶世の美女。彼女は僕のことを「騎士様」と呼び、助けを求めるような潤んだ瞳で僕を見つめている。これは僕がずっと、ずっと、夢見てきたシチュエーションそのものではないか!

 

 

彼女の本性がたとえどれほどヤバいものだったとしても。このチャンスを逃すわけにはいかない!

 

 

「だ、大丈夫だよルナ!悪い人じゃなさそうだし!」

 

 

僕は理性を欲望の彼方へと投げ捨てた。

 

 

そして、セレスに向かって最高の笑顔(のつもり)を向けた。

 

 

「僕の名前はユウキ!こっちはルナ!もしお困りなら僕たちが力になるよ!」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、セレスの唇の端がほんの僅かに吊り上がったのを僕は見逃さなかった。

 

 

それは、カモを見つけた詐欺師の笑み。あるいは、最高の獲物を見つけたギャンブラーの笑み。

 

 

「まあ、嬉しい!なんてお優しい方なのでしょう!」

 

 

こうして、僕は自らの欲望に忠実に従った結果、最も厄介で、最も危険で、そして、最も美しい「地雷」を自らパーティーへと招き入れてしまうのだった。

 

 

僕の胃痛が新たなステージへと突入した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…で、なぜあんな連中に追われていたんだ?」

 

 

リンドブルムの石畳を三人で歩く。

 

 

僕の右腕には絶世の美女・セレスがこれでもかというほどぴったりとその豊満な身体を密着させている。柔らかい感触と甘い香りに、僕の理性はもはや風前の灯火だ。

 

 

そして、僕の左側では不機嫌さを隠そうともしないルナが僕の服の裾をぎゅっと握りしめながら抗議するようにむすっとした顔で歩いている。

 

 

 

 

 

 

なんだ、この状況。

両手に花、というやつか?

いや、違う。両手に地雷だ。

 

 

 

 

 

 

僕が幸せと恐怖と胃痛が入り混じった複雑な感情に身をよじっていると、セレスが悲しげな表情で、ぽつり、ぽつりと、彼女の身の上を語り始めた。

 

 

「私…実はとある貴族の家の生まれなのです」

 

 

「え、やっぱり!?」

 

 

僕は思わず声を上げる。

 

 

その優雅な物腰、洗練された言葉遣い。どう見てもただの一般人ではなかった。

 

 

「はい。ですが、私の父はとても人の良いお人好しな性格でして…。悪い友人の事業の保証人になってしまったのです」

 

 

セレスはそこで一度言葉を切り、俯いた。その長い睫毛が悲しげに影を落とす。

 

 

「…その事業は失敗しました。友人は夜逃げをし、全ての借金が父の元に…。私の一家は爵位も屋敷も、財産の全てを失い、平民に身を落とすことになってしまったのです」

 

 

なんて悲しい物語なんだ…!僕はすっかり彼女の話に引き込まれていた。

 

 

まるで悲劇の物語のお姫様じゃないか。

 

 

「先ほどの男たちは、父が借金をした悪徳商会の者たちです。彼らは私を借金のカタとして無理やり連れて行こうとしていたのですわ。きっと、どこかの悪い貴族に売り飛ばすつもりだったのでしょう…」

 

 

セレスの瞳から一筋の涙がはらりと零れ落ちた。

 

 

その姿はあまりにも儚く、美しかった。

 

 

「そ、そんな!ひどい…!」

 

 

僕は完全に義憤に駆られていた。なんて許しがたい奴らなんだ!

 

 

「…ふん」

 

 

しかし、僕の隣でルナが冷たく鼻を鳴らした。

 

 

「話が出来すぎている。まるで三流の脚本家が書いた安っぽい悲劇だな」

 

 

「ルナ!なんてことを言うんだ!セレスさんが可哀想だろ!」

 

 

「事実を言ったまでだ。それにユウキ、お前は気づいていないのか?この女が話している間一度も瞬きをしていないことに。あれは嘘をついている人間が相手に嘘を見破られないようにするための、典型的な行動パターンだ」

 

 

「そ、そんなわけ…」

 

 

僕がセレスの方を見ると、彼女は涙を拭いながらにっこりと僕に微笑みかけた。

 

 

「いいのです、ユウキ様。信じていただけないのも無理はありませんわ。こんなおとぎ話のような不幸な話ですもの」

 

 

その健気な姿に、僕の心は完全に彼女へと傾いていた。

 

 

「信じるよ!僕は、君を信じる!」

 

 

「まあ…!ありがとうございます、ユウキ様…!」

 

 

僕の言葉に、セレスは嬉しそうに僕の腕にさらにぎゅっと、身体を寄せた。

 

 

その感触に、僕の理性がまた数ポイント削られていく。

 

 

「それにしても、ユウキ様とルナ様は冒険者でいらっしゃるのですね」

 

 

「う、うん。まあ、まだFランクだけど…」

 

 

「まあ、素敵!私もこれからは一人で生きていかなければなりません。もし、もし、よろしければ…」

 

 

セレスはそこで一度言葉を切ると、上目遣いに僕を見つめた。その瞳は助けを求める子犬のように潤んでいる。

 

 

「こんな何の力もない私ですが…あなた方のパーティーのお荷物係としてでも構いません。どうか、私を仲間に入れてはいただけないでしょうか…?」

 

 

キタァァァァァッ!ついに、来た!ハーレムパーティー結成の瞬間が!

 

 

「も、もちろんさ!喜んで!」

 

 

僕は食い気味に即答した。断る理由などどこにもない。

 

 

「まあ、本当ですか!?嬉しい…!」

 

 

セレスは満面の笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――断る」

 

 

しかし、その天国のような雰囲気を地獄の底へと叩き落とす冷たい声が響いた。

 

 

声の主はもちろんルナだ。

 

 

彼女は僕の前に立ちはだかるようにして、セレスを鋭く睨みつけていた。

 

 

「貴様のような素性の知れない胡散臭い女を我々のパーティーに入れるわけにはいかない。大体、貴様は何の役にも立たない、ただの足手まといだろうが」

 

 

「まあ、ひどい…」

 

 

セレスはショックを受けたように口元を押さえる。

 

 

「ルナ!言い過ぎだ!」

 

 

「事実だ。我々の戦いはおままごとではない。評議会の陰謀と戦う熾烈な情報戦だ。貴様のような一般人がついてこられる世界ではない」

 

 

「……そう、ですわね」

 

 

セレスは俯くと、悲しげに呟いた。

 

 

「確かに、私にはルナ様のような強力な魔法も、ユウキ様のような不思議な力もありません。私はただの、無力なか弱い女ですもの…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし。

 

 

彼女はそこでふっと顔を上げた。その表情は先ほどまでの悲劇のヒロインの顔ではなかった。

 

 

それは、獲物を見つけた勝負師の顔。

 

 

「ですが、私にも一つだけお役に立てることがありますわ」

 

 

セレスはそう言うと、自分のドレスの胸元から一枚の折り畳まれた古い羊皮紙を取り出した。

 

 

「これは私の家に代々伝わる、『いにしえの宝の地図』ですの」

 

 

「宝の、地図…?」

 

 

僕とルナが同時に声を上げる。

 

 

「ええ。地図が示す場所には、古代の王が遺した莫大な財宝が眠っていると言われています。ですが、その場所は危険な魔物が巣食う古代の遺跡の中…。私一人では到底辿り着くことはできません」

 

 

セレスはその地図を僕たちの目の前でひらりと広げて見せた。

 

そこには、僕たちが見たこともないような複雑な地形と謎の記号がびっしりと描き込まれていた。

 

 

「もし私をパーティーに入れてくださるなら…この地図をあなた方に差し上げますわ。手に入れた財宝は三等分で構いません」

 

 

彼女は悪魔のような甘い笑みを浮かべた。

 

 

「どうかしら?この話、乗りませんこと?」

 

 

 

 

 

 

 

宝の地図。古代の遺跡。莫大な財宝。

 

 

 

 

 

 

 

それは、冒険者にとって抗うことのできない甘美な響きを持つ魔法の言葉だった。

 

 

僕の喉がごくり、と鳴る。

 

 

そして、僕の隣でこれまで頑なにセレスを拒絶していたルナの目がギラリ、と怪しい光を放ったのを僕は見逃さなかった。

 

 

「…その遺跡、評議会の秘密基地である可能性は?」

 

 

「……ええ、もちろんあるかもしれませんわ。古代の王も実は評議会の一員だった…という説もありますし」

 

 

セレスはルナの興味を引く完璧な一言を付け加える。

 

 

「…よかろう」

 

 

ルナは短い沈黙の後、重々しく頷いた。

 

 

「その話、乗った。貴様の入隊を仮承認する。ただし、少しでも怪しい動きを見せたら即刻、塵と化すと思え」

 

 

宝の地図、という名の「共通の目的」によってセレスの入隊を渋々(しかし、目は輝いていた)認めたルナ。

 

 

僕は正直、この先どうなってしまうのかと少しだけ不安に思っていた。

 

 

ルナは少し(少しどころではない)人見知りなところがある。

 

 

セレスさんも、貴族のお嬢様だったというし気が強いかもしれない。

 

 

この二人が同じパーティーでうまくやっていけるだろうか…。

 

 

しかし、その僕の心配は嬉しい誤算に終わることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――つまり、評議会は古代遺跡に眠る『遺物(アーティファクト)』の力を利用し、時空を歪め、この世界を彼らの支配しやすい歴史へと改変しようとしている、というわけだ。今回の宝探しはそれを阻止するための極めて重要な作戦となる」

 

 

 

ギルドの酒場。

 

 

僕たちのテーブルでルナがいつものように熱弁を振るっている。

 

 

「まあ、そうなのですね!なんて恐ろしい計画なのでしょう!」

 

 

その言葉に驚きと感嘆の声を上げているのは、セレスさんだ。彼女は頬に手を当て、心底感心したようにルナを見つめている。

 

 

「私、そこまで深くは考えておりませんでしたわ。ただ、財宝が手に入れば父の借金を返せるかもしれない…と、浅はかなことばかり…。ルナ様は本当に物事の本質を見抜く天才でいらっしゃるのですね!」

 

 

「ふ、ふん。当然だ。私にかかればこの程度の推理、造作もない」

 

 

セレスさんに真正面から褒められたルナはまんざらでもない様子で得意げに胸を張っている。いつもよりも心なしか機嫌が良さそうだ。

 

 

良かった。二人はうまくやっていけそうだ。

 

 

「それにしても、その『蜥蜴人評議会』というのは本当に許せませんわ。人の世を裏から操るなんて…。私もこれからはルナ様のお力になれるよう尽力いたしますわ」

 

 

「うむ。貴様もようやく事の重大さを理解したようだな。感心、感心」

 

 

なんだか、僕が初めてルナと会った時みたいだ。セレスさんはすごく聞き上手なんだな。ルナの話を真剣に聞いて、ちゃんと理解しようとしてくれている。

 

 

ルナもそれが嬉しいのか、いつもより楽しそうに見える。

 

 

「ですが、評議会もさるもの。きっと遺跡には数多の罠や強力な魔物を配置していることでしょう。私のような非力な女では足手まとにになってしまうかもしれませんわ…」

 

 

セレスさんはそこで不安げに僕の方に視線を向けた。

 

 

「でも、ユウキ様がいらっしゃれば安心ですわね」

 

 

「え、僕?」

 

 

「ええ。あなた様のどんな攻撃も防いでしまう無敵の『盾』があれば、どんな危険な場所でも進んでいけますもの。ユウキ様は私たちか弱い女の子を守ってくださる頼もしい『騎士様』ですわ」

 

 

セレスさんは僕にしか見えない角度で片目をぱちり、とウインクしてみせた。

 

 

「うぐっ…!」

 

 

その破壊力に僕の心臓が鷲掴みにされる。

 

 

(き、騎士様…!しかも、か弱い女の子……複数形!)

 

 

セレスさんは少し距離感が近いところがあるけど、きっと貴族だったからこういうコミュニケーションに慣れているんだろうな。悪気はないはずだ。うん。

 

 

「ふん。まあ、ユウキの【絶対的庇護欲】は対評議会用の最終防衛ラインだからな。彼がいるのといないのとでは作戦の成功率が天と地ほども変わってくる」

 

 

ルナも僕の能力を高く評価してくれている。僕が彼女の「同志」として、隣に立つことを認めてくれている証拠だ。それが素直に嬉しかった。

 

 

「ええ、本当に。ユウキ様は私たちの『希望の光』ですわ」

 

 

「うむ。まさに我らが『最後の希望』だな」

 

 

セレスさんとルナが、僕を交互に褒め称える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだ……これ。なんだかすごくむず痒い。

でも悪い気は全くしない。むしろ、最高に気分がいい。

 

 

これが、僕の夢見たハーレムパーティー…!可愛い女の子たちに頼りにされて、褒められて…。

僕はすっかり有頂天になっていた。

 

 

 

目の前のエールをぐいっと、一気に飲み干す。

 

 

「ははは!まあ、僕に任せておいてよ!どんな危険な遺跡だろうと、僕が二人を絶対に守って見せるからさ!」

 

 

僕はドン、と自分の胸を叩いて見栄を切った。

 

 

「まあ、頼もしい!」

 

 

「うむ。それでこそ私の認めた同志だ」

 

 

セレスさんは嬉しそうににっこりと微笑み、ルナも満足げに小さく頷いた。

 

 

ああ、なんていいパーティーなんだ。

 

 

一人はちょっと変わってるけど、僕のことを心から信頼してくれる天才魔道士。

 

 

もう一人は少し怪しいところもあるけど、僕のことを「騎士様」と慕ってくれる絶世の美女。

 

 

僕はこれからこの二人を連れて行かなければならない。危険な古代の遺跡へと。

 

 

ゴクリ、と喉が鳴る。

 

 

それはエールを飲んだからではない。これから始まる本当の「冒険」に武者震いをしたからだ。

 

 

僕の胃は相変わらず少しだけキリキリと痛む。

 

 

でも、それは不安からくる痛みじゃない。この最高の仲間たちと共に冒険に出られるという、期待と、興奮からくる心地よい痛みだった。




お読みいただきありがとうございました!

新しいヒロイン候補”セレナ”が現れましたね!

いやーとてもいい女性ですよねー……え?何だか怪しいって…?

……さて次回はどのような展開になるのでしょうか!
是非お楽しみに!
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