にわか知識で宇宙世紀に転生したチートオリ主の末路   作:世界一位

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第一章
第一話 チートオリ主、ルナツーに立つ


(よりにもよって、宇宙世紀ってマジ……?)

 

 徴用された民間人と、急造の士官たちが詰め込まれた輸送船。その艦内で俺はため息をついていた。

 

 ガタガタと、船体全体が震えている。 慣性航行から減速シークエンスに入った衝撃だ。

 

「……おい、見ろよ。あれが、ルナツーか」

 

 誰かの震える声が、重く沈んでいた船内の空気を切り裂いた。 俺――レイス・ハミルトン少尉は、重い瞼をゆっくりと持ち上げた。 輸送船の強化ガラスで作られた、小さな覗き窓。その向こう側、漆黒の闇のような宇宙空間に、巨大な岩塊がその姿を現していた。

 

 地球連邦軍の宇宙要塞、ルナツー。 かつての小惑星を改造して造られたその要塞は、無数の照明を散りばめ、周囲には入港を待つサラミス級巡洋艦やマゼラン級戦艦が、まるで巨大な魚の群れのように整然と並んでいる。

 

「すげえ……本当に、あそこが俺たちの戦場なんだな」

 

「連邦の力は健在だ。あんな巨大な要塞があれば、ジオンなんて一捻りだよ!」

 

 期待と、現実逃避に近い高揚感が、狭い船内に伝播していく。少年兵たちが窓に張り付き、要塞の威容に拳を握りしめている。 だが、俺はその光景をただの風景として聞き流していた。

 

(……最悪の転生先だ、とつくづく思う)

 

 俺は、この宇宙世紀の住人じゃない。かつて別の世界で命を落とし、気づけばこの戦乱の時代の赤ん坊として生まれていた。

 

 前世の記憶は断片的で、覚えているのはこの世界がロボットアニメの金字塔にもなった「機動戦士ガンダム」の世界だってこと。「一年戦争」とやらが起こること。そして、最終的には主人公のアムロたちのいる「地球連邦軍が勝つ」ということ。 だが、その過程でどれほどの人間が死ぬかは全くわからない。

 

 というか一年戦争が始まる前に既に戦争起きてたし。一週間戦争?なにそれ知らんて。こちとら初代ガンダム未履修やぞ。

 

 せいぜいわかっているのは、一年戦争で連邦が勝つまで生き残れば、続編のZガンダムの時期まで大規模な戦争はしばらくないということだけだ。……この知識もだいぶ怪しいけど。

 

 幸い、この過酷な世界で生き残るために、神様か何かが「転生特典」をくれたらしい。

 

 一つは、どんな過酷なGにも耐え、指先一つまで完全に意図通りに制御できる「フィジカルギフテッド」としての肉体。

 

 もう一つは、視界に入る全ての情報を数式化し、計算処理できる「演算能力」。

 

 俺はこの力を、ただ普通に生き延びるためだけに使ってきた。

 

 そんな時、各サイドのコロニーが壊滅し、人類の半数が死亡したという悪夢のようなニュースを耳にして、俺はこの世界に「安全圏などない」ことを悟った。傍観者を決め込んでいれば、いずれどこかのコロニーと一緒に滅ぼされる。

 

 幸い、自分の住むコロニーは連邦を支持するサイドだったのもあり、コロニー内にある連邦軍基地の近くではいつでも仕官募集の受付がされていた。俺は、自衛の手段と立場を確保しようと連邦軍の士官募集に駆け込んだ。

 

 だが、さっそく計算外だったのは、僅かな前世の知識でジオンより国力で遥かに上回っていると考えていた連邦軍も、想像以上に深刻な人手不足だったことだ。

 

 そんな連邦軍にとって、チート能力を持った俺はまさしく『金の卵』だったらしい。士官学校を最優秀の成績であっさり卒業すると、そのまま少尉任官。

 

 さらに、地元のコロニーで仕事のためにと取得していたコロニー外壁の修復用重機の免許が見込まれ、パイロットの「適性あり」と判断された俺は、そのまま新設されたばかりの『連邦宇宙軍MSパイロット科』へと放り込まれたのだ。

 

(……生きて戦争をやり過ごすためとはいえ、生存戦略としては、初手から暗雲が立ち込めているな)

 

 要塞のドックへと滑り込む輸送船の衝撃を受けながら、俺は周囲の熱狂を冷めた視線で眺めていた。要塞の威容に感動する余裕なんてない。

 

 

 

 

 ハッチが開いた瞬間、ルナツー内部の喧騒が濁流のように流れ込んできた。

 

「おい! 104小隊の機体はどこだ! 整備班は何をしてる!」

 

「マニュアルが足りない! 第4ブロックに届けられたはずの電子マニュアルが届いてないんだぞ!」

 

 ハンガーに降り立つなり耳に飛び込んできたのは、怒号と悲鳴に似た叫びだった。 通路は、損傷したサラミス級から運び出された負傷者の担架と、新しく配備された物資のコンテナで埋め尽くされている。

 

 俺たち104小隊が案内されたのは、ハンガーの端にある、仮設のような整備区画だった。 そこには、刷りたてのインクの匂いが残る、驚くほど薄っぺらなマニュアルを片手に、血走った眼の新兵たちが詰め寄っていた。

 

「中尉! なんだこのマニュアルは! 『敵機の機動に合わせて予測射撃を行え』って、その予測アルゴリズムのパラメータ設定が一行も書いてないぞ!」

 

「こっちの機体は、初期起動すらしない!」

 

 対する整備班も、触ったこともない人型兵器を前に余裕がない。スパナを投げ捨て、班長らしき男が怒鳴り返す。

 

「うるせえ! マニュアルがなきゃ自分で考えろ! こっちはネジ一本締めるのも初めてなんだよ! さっきまでトラクターの修理をしてた奴らに何を期待してやがる!」

 

 その喧騒の真ん中で、現場と上層部の板挟みになっている上官の将校が顔を覆っていた。

 

「……いいか、貴様ら。静かにしろ。連邦はMSの運用に関してはジオンより圧倒的に遅れてるんだ。あいつらはもう数年も前からザクを飛ばしてる。こっちは昨日今日届いたばかりの『新兵器』なんだよ。文句があろうが、今あるもので泥臭くやるしかないんだ」

 

 俺は、その不毛なやり取りを脳内の隅に追いやり、自分に宛がわれたRGM-79ジムの足元に立った。

 

(……うわ、いかにもやられメカって感じ)

 

 見上げるジムは、急造品ゆえの粗い溶接跡、剥き出しのケーブル、そして特徴的な凸顔。俺はチート能力で機体をチェックするために脚部の装甲にそっと指先を触れさせた。

 

(……ベアリングの精度が甘いな。スラスターの点火時に、電子信号の伝達ラグがあるっぽい。ジャンプの時に左へ流れる癖が出るはずだ。……まあ、なんとかなるか。この身体の反応速度なら、逆算してレバーを叩ける)

 

「レイス少尉……俺たち、本当にこれで戦えるんですかね?」

 

 声をかけてきたのは、部下のトビー伍長だった。彼は一ヶ月前まで、連邦サイドのコロニーにある工業高専で学んでいたという、あどけなさの残る少年だ。彼の手にあるマニュアルは、ページが抜け落ち、表紙は脂で汚れている。

 

「……多分な」

 

「でも、マニュアル通りに動かしても、シミュレーターじゃ一度もザクに勝てなかったんです。整備の人も、この機体は欠陥品だって……」

 

「確かに……、どう見ても間に合わせの機体って感じだもんなぁ」

 

 俺は穏やかに笑い、トビーの肩を軽く叩いた。

 

「俺たちが機体に慣れていくしか無いだろう。……なんとかなるさ。少なくとも、もうしばらくすればもっとマシな機体が届くだろうし」

 

 俺はコクピットへ続くラダーを登り始めた。周囲では絶望と混乱が渦巻いているが、俺にとっては、この未完成な機体でも「本物のモビルスーツに乗れる」って楽しみに似た感覚もあった。

 

 

 

 

 数日後の訓練宙域。 ルナツーの周囲、デブリの浮かぶ真空の中で、俺たちのジムは初めてその産声を上げた。 だが、その産声は悲鳴に近かった。

 

「うわあああ! 止まらない! 止まってくれ!」

 

「姿勢制御バーニアが暴走した! クソッ、マニュアルの解除コードが利かない!」

 

 通信回線は、新兵たちのパニックで埋め尽くされていた。 先行量産型ジムの姿勢制御システムは、あまりにもお粗末だった。一度姿勢を崩せば、自動補正が逆効果を生み、機体はコマのように回転を始める。 教官の乗っているサラミス級から、焦燥に満ちた命令が飛ぶ。

 

「各機、落ち着け! スロットルをニュートラルに戻せ! 暴走した機体は強制パージして緊急脱出を……」

 

 その時、混乱する戦域の端で、一機だけが不気味なほど滑らかに移動を開始した。 俺の駆る、104小隊3号機だ。チート様々である。

 

(なるほど、機体姿勢が15度を超えると、ジャイロの補正が過剰にかかって逆にバランスを損なうのか。それにフットペダルの踏み込みに対して、スラスターの噴射量に不備がある……。なら、こうだ)

 

 俺は演算能力で、機体の不備をパラメータとして再構築した。 自動補正プログラムをあえて無視し、手動入力で自動車操縦で言うところのカウンターステアを当てる。 ラグがあるなら、ラグの分だけ早くレバーを叩く。 ジャイロが左へ流れるなら、右のバーニアをコンマ数秒、断続的に噴射して相殺する。

 

 俺のジムは、宇宙空間を滑るのではなく、目に見えない階段を正確に駆け上がるようにして、障害物を回避していった。

 

(……お、噛み合ったな)

 

 フィジカルギフテッドの操縦精度が、機械の粗を埋めていく。慣性移動中にバーニアを一瞬だけ逆噴射し、あえて機体を不自然な角度に傾ける。そこからラグを利用して急制動をかけると、機体は驚くほど鋭いピボットターンを見せた。

 

 ガンダムのような超高性能機ではない。だが、欠陥を計算に組み込めば、前期配備された先行量産型ジムでもこれだけの機動ができる。

 

 俺のジムの様子を見て、通信回線が、一瞬だけ静まり返った。

 

「……3号機。レイス少尉、今の機動……どうやった?」

 

 教官の声が、震えている。

 

「いえ、ただの偶然ですよ。運良く機体の癖が噛み合っただけです」

 

 俺は事務的に、それ以上は説明するコストを惜しんで答え、次の訓練目標に向けて機体を加速させた。チート能力ですなんて説明のしようがないからね。

 

 

 

 

 訓練が終わった夜。ハンガーの片隅にある共有端末の前に、俺は立っていた。俺の演算能力をフル回転させて作成したジム用の操作ログ。それを無造作にサーバーへアップロードした。

 

「……レイス少尉。これ、何ですか?」

 

 後ろから、カイル曹長が尋ねてきた。彼は部隊で最年長のベテランだが、それでも新兵器モビルスーツの扱いには手を焼いていた。

 

「俺の今日の操作データです。……マニュアルは役に立ちませんでしたが、この数値を設定に反映させれば、機体ジャイロの過補正をある程度殺せます。カイルさんの機体も、これで少しは素直に動くはずです」

 

 カイルは怪訝な顔で端末を覗き込み、表示された数値の羅列に目を見開いた。

 

「……こんな細かい噴射タイミング、人間にできるのか?」

 

 素に戻ってるやん。

 

「コツを掴めば簡単ですよ。フットペダルをリズムよく叩くんです。あとは搭載されてる教育型コンピューターが補助してくれるはずです。隣の機体に自爆されたら寝覚めが悪いですし。使ってみてください」

 

 俺は、カイルの感謝の言葉を待たずにさっさと自分の寝棚へ向かった。

 

(機体はボロボロ、組織はガタガタ、モビルスーツのマニュアルはゴミ……。連邦軍ってほんとに勝ったんだよね……?)

 

 俺は言いようのない不安を感じながらも寝床に入り、目を閉じる。

 

 宇宙世紀0079、9月。 連邦軍がようやく「人型の盾」を手に入れたばかりの混乱期。

 

 俺の、一年戦争が幕を開けた。




※補足
アムロ・レイが初めてガンダムに乗ってザクを撃破したのは、U.C.0079年9月18日です。
08小隊のお話が10月頃なので、この小説はその間の時期から始まってるお話です。
独自解釈でこの時期には既にモビルスーツの量産が始まっていて、ジムの慣熟訓練が始まっている設定にしています。

今ルナツーに配備されているジムは先行量産型の中で更に緊急手当的に突貫で作られた前期タイプで、通称棺桶です。
連邦もまだMSついてのノウハウがよく分かってないから仕方ないよね!


※補遺
一年戦争でジオン軍に入隊するオリ主作品はすごいあるのに、連邦軍に入る作品が意外と少ないので逆張りでこんな作品に。
あとやっぱりガンダムに乗せたいじゃないですか笑

でも書いてて気づきました。連邦サイドでホワイトベースのクルーじゃないポジションでスタートだと原作キャラが一切登場しねぇ!
ルナツーにいるの原作キャラとかワッケイン司令ぐらいしかいないし…

需要があれば続きます(・ω・)ノ
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