にわか知識で宇宙世紀に転生したチートオリ主の末路   作:世界一位

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第三話 猟犬部隊

 戦闘終了後、俺は疲労困憊の体で自室に戻った。

 

 ジムという機体は、カタログスペックこそザクを上回っているが、実態は未完成という言葉すら生ぬるい代物だ。特にルナツーに配備されている先行量産型は、ジムにガンダムの数値をそのまま詰め込んだせいで、挙動の端々に不自然なラグと暴走の火種を抱えている。

 

 翌朝、重い瞼を擦りながら食堂へ向かうと、そこには張り詰めた、それでいてどこか熱を帯びた空気が漂っていた。

 

「……聞いたか。昨日の第104小隊、あのジムでザクを落としたらしいぞ」

 

「開発途中のテスト用部隊だろ? まともに歩かせるのも一苦労な代物で、よくやるよ」

 

 周囲の囁きは、純粋な称賛というよりは、得体の知れないものへの戦慄に近かった。トレイを手に取り、合成デンプンの塊を口に運んでいると、トビーが血相を変えて俺の隣の席に滑り込んできた。

 

「レイス少尉……昨日の俺たちの戦闘データ、技術班が徹夜で解析したみたいですよ。それがシステムの自動更新で、今朝方、基地の全機に反映されたって……。テストした連中が驚いてますよ。『ようやくまともに動かせるようになった』って」

 

 トビーの端末には、整備掲示板の書き込みが並んでいた。『昨日の第104小隊のログをマスターデータに採用』 『今朝のロールアウト機から順次適用開始』

 

 少し興奮している様子のトビーを、俺は内心冷ややかな目線で見ていた。

 

 俺がやったのは、教育型コンピューターに「ジムのスペックで動かせる限界」を学習させただけだ。ハードウェアが悲鳴を上げる直前の挙動を繰り返し、システムに「これがこの機体の限界だ」と正しく認識させた。結果、コンピューター側が勝手に、無理な入力をカットし、挙動のラグを予測値として埋めたに過ぎない。

 

 だが、死に物狂いで欠陥機を動かしてきた連中にとって、それは福音にも等しかったのだろう。

 

 

 

 

 その日の午後、ルナツー周辺宙域で発生した小規模な接触戦が、レイスのデータによって安定したはずのジムの限界を白日の下にさらすことになった。

 

 哨戒にあたっていた第107小隊のジム二機が、デブリ帯に潜んでいたジオンの偵察部隊――ザク二機と遭遇した。

 

 レイスのログを学習した教育型コンピューターにより、彼らのジムは以前とは見違えるほど安定した挙動を見せた。姿勢制御ミスによる自爆的なデブリへの衝突は防がれ、ザクのマシンガンに対しても、機体側が「回避可能」と判断した最短の軌道で応じてみせた。

 

「……動く! これならいけるぞ!」

 

 107小隊のパイロットは高揚し、ビーム・スプレーガンを構えて肉薄する。だが、その直後だった。

 

 ザクはジムの最適化された「単調な軌道」をあざ笑うかのように、バーニアの最大噴射で強引に軸をずらし、格闘戦を挑んできた。

 

「なっ……速すぎる! 照準が間に合わない!」

 

 教育型コンピューターが算出した最適解は、あくまで「機体に負担をかけない範囲」での効率的な動きでしかない。それ以上の、ハードを焼き切るような極限の機動は、依然として人間にしか制御できない領域にある。

 

 対するジオンのパイロットは、実戦経験に基づき、機体の悲鳴を無視してザクを限界挙動まで動かしてくる。結局、ジムは被弾を重ね、要塞砲の射程圏内まで命からがら逃げ帰るのが精一杯だった。

 

「……最適化されたおかげで、機体の姿勢を崩さずに逃げ切れた。だが、それだけだ。あれじゃ、ザクには絶対に勝てない」

 

 ハンガーに帰還した彼らの言葉は、基地内に冷や水を浴びせた。

 

 システムがいくら優秀になったところで、ジオンの熟練兵との差は依然埋まってはいない。昨日ジムでザクを仕留めてみせたレイス・ハミルトンという男の操縦センスだけが、今のルナツーにとって唯一のモビルスーツ戦力として浮き彫りになった。

 

 

 

 

 館内放送が、静かに思索に耽っていた俺を呼び出した。

 

『レイス・ハミルトン少尉。至急、要塞司令部第3会見室へ出頭せよ』

 

 要塞の最深部、空調の効いた冷たい廊下を進む。重厚な扉が開くと、そこにはルナツーの最高責任者、ワッケイン司令。そして、モニターに表示されたデータを食い入るように見つめる一人の女性士官がいた。

 

「レイス・ハミルトン少尉です。出頭いたしました」

 

 俺が敬礼を捧げると、モニター前の士官がこちらを振り返った。眼鏡の奥にある知的な瞳が、俺を値踏みするように細められる。

 

「座ってくれ、少尉」

 

 ワッケインが促す。その隣で、女性士官が口を開いた。

 

「初めまして、レイス少尉。ルナツー技術開発部所属、リーナ・エルウィン中尉です。あなたの学習データ、精査させてもらったわ」

 

「よろしくお願いします。……お呼び立ての理由は、昨日のログの件でしょうか」

 

「単刀直入で助かるわ」

 

 リーナ中尉はタブレットを操作し、俺の操縦ログと、先ほどの107小隊の失敗データを並べて表示した。

 

「あなたのデータは、この基地のエンジニア全員を驚かせた。私たちも機体の負荷は把握していたけれど、それを解消するためのパラメータ設定には、膨大な実戦テストが必要だと思っていた。……でも、あなたはたった一度の慣熟訓練と実戦で、ジムの限界点を見極め、最適解をコンピューターに学習させたわ」

 

 彼女は一歩歩み寄り、俺の顔を覗き込むようにした。

 

「……信じられない。このジムを、これほど短時間で掌握できたパイロットは、今のルナツーにはあなたしかいないわ。一体どんな感覚をしていれば、この鉄の塊を御せるっていうのよ」

 

「……いえ。自分なりにあの機体を制御しようと、必死だった結果です。自分にできることを精一杯やったに過ぎません」

 

 俺は表情を変えず、淡々と答えた。リーナは納得していないような顔をしたが、ワッケインが割って入った。

 

「レイス少尉。君のジムの学習データによって機体の事故率は劇的に下がったが、実戦において依然としてザクが脅威であることに変わりはない。……我々に、四の五の言っている余裕はないのだ」

 

 ワッケインは机上の端末を操作し、新しい部隊編成表を表示させた。

 

「開発・訓練用だった第104小隊は本日付で解体する。レイス少尉、君を指揮官とした独立機動小隊を新たに編成する。コールサインは……『ブラッドハウンド』だ」

 

 ブラッドハウンド。獲物を追い詰める猟犬か。

 

「同時に君を技術開発部のアドバイザーに任命し、リーナ中尉と協力して全ジムの調整権限を持たせる。君を核としたこの部隊を、ルナツー防衛の要とする。……我々には、あの一戦を再現できる実戦部隊が早急に必要なのだ」

 

「了解しました、司令。……最善を尽くします」

 

 リーナ中尉がわずかに微笑んだ。

 

「よろしく、レイス()()。あなたのセンスを頼りに、このジムを本物の『兵器』に進化させましょう。……期待しているわ」

 

 

 

 司令室を後にした俺は、一人、要塞の長い廊下を歩く。

 

 最前線の消耗品から、基地の防衛網を再構築するための中枢を担う実戦部隊の長へ。チート能力のお陰だとはいえ、ただ生き残るために必死に機体を動かした結果、俺の肩にはルナツーの防衛という、到底背負いきれないほどの重圧が伸し掛かっていた。

 

 廊下の窓から、漆黒の宇宙を見る。

 

 アドバイザー兼小隊長という肩書きは、権限と同時に、失敗の許されない責務を意味している。次にジオンが本気で攻めてくれば、この未完成のジムの群れを率いて、また俺が先頭に立たなければならないのだ。

 

(……生き残るためにやったことだけど、一番死に近い場所にどんどん自分を追い込んでいる気がする。というか、アムロとガンダムどこよ?)

 

 じわりと滲む嫌な汗を拭い、俺は自分の機体が待つハンガーへと足を向けた。戦争という巨大な歯車が、俺という一個人を飲み込みながら、加速して回り始めていた。





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