にわか知識で宇宙世紀に転生したチートオリ主の末路   作:世界一位

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第九話 ルナツーの蒼い残光

 かつて「赤い彗星」シャア・アズナブルの座乗艦として、連邦軍から恐れられた旗艦型ムサイ級巡洋艦「ファルメル」。

 

 だが、地球でのガルマ・ザビ戦死という大失態によりシャアが軍を罷免されると、この名艦はドズル・ザビ中将によって新たな主、コンスコン少将へと引き渡された。

 

 コンスコンにとって、この名艦を旗艦とした一個大隊規模の遊撃戦隊を任されたことは、自らの実力を誇示するための華々しい舞台となるはずだった。

 

「……各機、現状を維持せよ。焦って突出する必要はない。連邦のサラミスどもに、我らがリック・ドムの威力をじっくりと叩き込んでやるのだ」

 

 ファルメルの指揮官席で、コンスコン少将は葉巻を燻らせながら、勝利を確信した笑みを浮かべていた。

 

 彼の眼下では、重巡洋艦チベを中心に、ドレン大尉率いるキャメル艦隊を含む巡洋艦数隻、さらに後方支援のパプア級補給艦を伴う計八隻の艦隊が、三次元的な半円陣を形成。連邦主力艦隊を確実に追い詰め、最新鋭機リック・ドムの主力を前方へと集中させていた。

 

 艦隊後方の守備は、数機のリック・ドムを含む直衛隊に任されていた。新型数機がいれば、連邦の旧式機が数で押してこようと、その圧倒的な機動力で弾き返せるとコンスコンは確信していたのだ。

 

 だが、その全意識が「前方」へと向けられた瞬間、計算外の事態が起こる。

 

「――後方より高熱源体接近! 距離三〇〇〇、二〇〇〇……速い! 近すぎます!!」

 

「な、なんだと!? 索敵は何をしていた!」

 

 コンスコンが身を乗り出し、背後のメインスクリーンに視線を向けた瞬間、光がブリッジを白く染めた。

 

 最後尾を航行していたムサイ「トクメル」の艦橋が、一筋のビームによって跡形もなく消滅したのだ。爆風に煽られた巨体が、制御を失って暗黒の宇宙へと漂い始める。

 

「トクメル撃沈! 艦橋消失!」

 

「えぇい! 直衛のMSは何をしている! リック・ドムは!」

 

 激昂したコンスコンが拳で指揮官席を叩く。だが、彼が期待した最新鋭機の反撃は、コンソールに映し出される無慈悲な光点によって打ち消された。モニターの中で、直衛のリック・ドムが回避行動に入るよりも早く、ジムのビームがその分厚い装甲を貫き、核融合炉を誘爆させていた。

 

「だ、駄目です! 随伴の『スワメル』も大破! 敵MS、さらに加速……速すぎる! 止まりません!」

 

 オペレーターの指先が、激しく警報を鳴らすパネルの上で震えていた。画面には、ジオンの巡洋艦を飛び石のように利用し、猛烈な速度で艦隊を切り裂いてくる「蒼い光」の航跡が刻まれている。それはもはや、ドムの推進力をもってしても追いつけない戦闘速度に到達していた。

 

「馬鹿な……! 前衛のMS隊を呼び戻せ!」

 

 コンスコンの額に冷や汗がにじむ。自ら前方へ解き放った最強のリック・ドム隊は、今や遥か彼方、皮肉にも勝利を目前にしていた連邦主力艦隊の目前にいた。叫ぶ指揮官を前に、オペレーターは絶望に顔を歪め、首を振った。

 

「駄目です! 間に合いません!」

 

 その言葉を裏付けるように、旗艦ファルメルの船体を、今まで経験したことのない巨大な振動が襲った。

 

 

 

 

 

 

(……数時間前、サラミス級ガダルカナル艦内にて)

 

「――本気ですか隊長!?」

 

 トビーが困惑したような声を上げた。俺が提示したのは、敵主力と思われる敵艦隊に対し、わずか四機のジムで真後ろから最短距離で突き抜けるという強襲案だったからだ。

 

「敵の目的は、連邦の主力艦隊じゃない。その背後にいる輸送艦隊を撃破し、連邦の宇宙での反撃の芽を断つことだ。奴らにとって、主力艦隊との交戦は輸送艦隊に逃げられる時間のロスでしかない」

 

 俺は何も映っていないホログラムに、想定される敵の進路を描き出した。

 

「なんとしても主力艦隊を突破するために、多くの戦力を正面に集中させて食い破ろうとするだろう。後方に回される戦力はその分、最小限になるはずだ。その手薄になった背後から、俺たちが中枢まで一気に突き抜ける」

 

 俺達の攻撃で混乱している敵が指揮能力を取り戻し、主力艦隊へ回している戦力を自陣に戻して艦隊を立て直す――それまでの時間が俺たちの生命線だ。

 

「隊形は単縦陣で行く。俺が前衛に立ち、進路上の邪魔な敵は必ず撃破してみせる。サンダースとトビーは、俺が抉じ開けた隙間を広げるように左右にいる敵を牽制しろ。当てる必要はない、敵を近づけさせないようにするだけでいい。リィンは最後尾から俺たちの死角をカバーしろ」

 

 俺の演算能力が正しければ、ジムの推力なら敵に追撃される前に振り切れる。

 

「しかし隊長、背後の敵はどうします? 追ってくる敵に後ろから蜂の巣にされますよ」

 

 サンダースの懸念に、俺は迷わず答えた。

 

「射線の問題だ。敵艦を基点に、ブリッジを破壊しながら移動することで、敵艦そのものを盾にして射線を防ぐ。これなら、味方が邪魔で俺たちを撃てない状況を維持し続けられる」

 

「……なるほど、敵艦を遮蔽物にするってわけですか。無茶苦茶ですが、隊長らしいです。いや、やるしかないですね」

 

 トビーは呆れたように肩をすくめながらも、不敵な笑みを浮かべていた。一方で、リィンは冷静にモニターの図解を凝視し、作戦内容を脳内でシミュレートしているようだった。

 

「……了解しました。皆さんの背後は、必ず守り抜きます」

 

 俺と視線が合ったリィンの返答に、迷いや気負いは感じられなかった。これまで何度も同じ死線を潜り抜けてきたことで、彼女は俺の無茶な指示でも自分なりに噛み砕けるようになっている。

 

 彼女の瞳に宿るのは、俺の判断を信じ、自らの職務を淡々と遂行しようとする強い集中力だけだ。今の彼女なら、最後尾を任せても問題ないと確信できた。

 

 

 

(……再び現在、戦場)

 

「――一機撃破、さらに巡洋艦一隻大破! 敵陣形、最後尾から崩れます!」

 

 俺の放った二射が、最後尾のムサイ「トクメル」を沈めた。爆ぜる巨体を飛び越し、俺はさらにスロットルを押し込む。

 

 ノイズに塗れたセンサーの代わりに、俺は脳内で敵艦の配置を逆算し、最短ルートを構築していた。次なる標的は艦隊中央に鎮座する重巡洋艦チベ。

 

 だが、その直撃コースを塞ぐように、二機の重装甲機――新型のMS(リック・ドム)と思わしき機体がバズーカの砲門をこちらへ向けた。俺は減速せず、最短距離で「弾道の間」へと突っ込んだ。

 

 一機。すれ違いざまにビームサーベルを振り抜き、MSの胸部装甲を断ち切る。

 

 だが、もう一機が俺の機動を先読みし、バズーカの照準を固定した――その時だ。

 

「隊長!」

 

 横から割り込んだサンダースのジムが、一射でMSのモノアイを撃ち抜いて視界を奪う。怯んだ隙を逃さず、トビーの機体がその胴体にトドメの閃光を叩き込んだ。

 

「よくやった! そのまま敵艦の側面を叩け!」

 

 味方の完璧な援護を受け、俺は速度を一切殺すことなく爆炎を切り裂く。

 

 目の前には、巨大な重巡洋艦の船体。そしてその先で、逃走経路を塞ぐように展開する敵の残存艦艇群が、俺のライフルの照準に収まった。

 

 最後尾。リィンの機体が、俺たちの背後で蠢く光点を的確に牽制しているのがレーダー越しに伝わってくる。

 

「……いくぞ。このままに中枢を叩き潰し、指揮系統を完全に破壊する!」

 

 

 

 

 

 

「――ええい、 砲座は左舷後方、全門斉射だ! 撃ち続けろ、奴らをこれ以上進ませるな!」

 

 コンスコン少将が旗艦「ファルメル」で醜態をさらしている頃、その前方に位置する巡洋艦「キャメル」のブリッジでは、ドレン大尉が鋭い声を飛ばしていた。かつて赤い彗星の副官として宇宙を駆けた男は、メインモニターに映し出された四機の「連邦の新型」が撒き散らす、鋭い噴射光の軌跡に戦慄を覚えていた。

 

「大尉、最後尾の『トクメル』轟沈! 敵機、なおも加速……本艦へ接触します!!」

 

「……止められんというのか。動きに迷いがなさすぎる!」

 

 ドレンはモニターを凝視したまま、冷や汗が背筋を伝うのを感じた。敵は性能以上の速度を出しているのではない。味方の艦艇を減速の要因にせず、むしろ加速の「踏み台」にしている。特に先頭の一機は、爆発の衝撃波すら推進力に変え、針の穴を通すような最短機動を維持し続けているのだ。

 

(……シャア少佐以外に、こんな真似ができる者が連邦にいるというのか……!?)

 

 この強襲により中枢がパニックに陥り、迎撃の矛先が内側へ向いたことで、前方への圧力が目に見えて減衰していく。

 

『――全艦、突撃! 敵の圧力が弱まったぞ、陣形を食い破れ!!』

 

 それまで足止めされていた連邦主力艦隊が、この好機に一斉に反転攻勢に転じた。ジオンの各艦は、自軍の艦艇を盾にするように肉薄してくる四機の機動に翻弄され、前方への火力を維持できなくなっていた。

 

『今だ、押し戻せ! 敵の勢いが削がれたぞ、全機前進!!』

 

 連邦軍の指揮官たちの咆哮が響く。第104独立機動小隊が敵の喉元へ突き立てた刃が、ルナツー近海の潮目を完全に変えたのだ。

 

 ドレンは即座に艦隊の砲撃管制を自らの手元へと引き寄せた。この混乱の中、彼だけが冷静に敵機の到達地点を予測していた。

 

「第1、第2リック・ドム隊、迎撃に出ろ! 本艦は面舵一杯、弾幕で奴らの進路を右へ追い込め! 奴をここで通せば――」

 

 ドレンが警告を言い切るより早く、曲芸のような動きで弾幕の網をすり抜けた「影」が、迎撃に出たリック・ドムと交差した。

 

 衝突を確信した次の瞬間、リック・ドムの巨体が一刀のもとに両断され、爆炎を噴き上げる。その爆風さえも加速に変えた蒼白い尾を引く光跡が、最短距離でキャメルの艦橋へと肉薄した。

 

「――退避! 退避ぃぃ!――」

 

 オペレーターの絶叫が響く中、ドレンが見たのは艦橋の窓の先に広がる銃身の暗い穴だった。

 

 至近距離から放たれたビームが一閃。巡洋艦のブリッジを正面から貫き、名将ドレンの思考ごとすべてを蒸発させた。

 

 

 

 

 

 

 中枢を担うドレンを失ったことで、ジオン艦隊の統制は完全に崩壊した。

 

 複数のモニターが爆炎とノイズに塗りつぶされる中、俺はさらに奥底、混乱の極みに達した旗艦型のムサイへ照準を固定した。

 

「サンダース、トビー、援護しろ!」

 

「「了解!」」

 

 二機が護衛艦の砲塔を叩き潰す火線が、正面モニターを横切っていく。その先に開かれた最短の航路へ、俺は一切の迷いなくスロットルを押し込んだ。

 

 限界加速。

 

 光学カメラが捉えた旗艦ブリッジにレティクルが重なった瞬間、人差し指に力を込める。

 

 限界まで出力を高めたビームが、叫ぶ暇すら与えず、コンスコン艦隊の頂点を宇宙の闇へと飲み込んだ。

 

「――任務完了だ。全機、このまま敵陣を突破、指定ポイントで離脱する。止まるな!」

 

 加速を維持し、艦隊の裏側へ抜けようとしたその時、警報が鳴り響いた。右後方のモニターに、猛烈な速度で接近する熱源反応が映し出される。

 

 全帯域にノイズ混じりの絶叫が混じる。何者かが接触回線に近い指向性通信、あるいは強引な広域放送を叩きつけてきているのだ。

 

『……逃が………貴様ら……絶対に……!』

 

 言葉の断片から、剥き出しの殺意が伝わってくる。モニターが捉えたのは、かつて暗礁宙域で見かけた、あの禍々しい動きを見せる指揮官機のザクだった。あの時仕留め損ねた執念が、離脱を始めたリィンたちの背後を完璧に捉えていた。

 

「チッ、しつこい奴が残っていたか……!」

 

 このままでは仲間たちが背後をさらすことになる。俺は反射的にペダルを蹴り込み、機体を反転させた。

 

「リィン、サンダース達を連れて先に行け! 俺がこいつを引き受ける!」

 

「隊長!? しかし!」

 

「行け! 敵の再集結が始まる前にここを抜けるんだ。命令だ! 議論してる時間はない!」

 

 俺は加速する三機の背中を庇うようにして、迫りくる死神の正面に躍り出た。

 

 

 

 光学カメラが捉えた敵機は、文字通り復讐の鬼と化していた。赤熱したヒート・ホークを振りかぶり、最短距離で肉薄してくる。だが、俺の目に映ったそれは、既に演算済みの対象でしかなかった。

 

「……悪いが、お前の執念に付き合ってやるほど暇じゃないんだ」

 

 俺は最小限の慣性機動で最初の横薙ぎをかわすが、敵機は推進剤を爆発的に噴射し、慣性を強引に殺して反転してきた。二撃目、袈裟斬りに振り下ろされた刃が、ジムのショルダーアーマーを掠めて火花を散らす。

 

「チッ、やるな!」

 

 俺はスラスターを右へ一気に吹かし、敵の懐へ飛び込みながらビームサーベルを抜いた。だが、敵もさるもの。失った右腕の代わりに脚部の姿勢制御バーニアを駆使し、紙一重で俺の刺突を回避する。

 

 三度目の交差。敵機はヒート・ホークを投擲するフェイントから、残された左腕で俺の機体を掴み取ろうと迫る。死なばもろともの組み付き――自爆狙いか。

 

「――おっと」

 

 俺は左腕のシールドを敵の胸部へ斜めに叩きつけ、その接触面を支点にした。激突の衝撃を逃がしながら、右足のスラスターだけを最大出力で噴射する。

 

 ザクを軸に円を描くようにして、俺の機体は一瞬で敵の死角――その背後へと回り込んだ。

 

 慣性で前方へ流れていくザクが、慌てて姿勢を立て直そうとバーニアを吹かす。だが、その無防備な背中はすでに俺のライフルが捉えていた。

 

 剥き出しになったバックパックの基部、熱核反応炉の直上へ、銃口を向ける。

 

「はい、お疲れ」

 

 一閃。

 

 至近距離から放たれた熱線がザクの胸部を貫通し、得体の知れぬ執念を爆炎ごと消し飛ばした。

 

 俺は爆発の余韻を背に受けながら、再びスラスターを最大出力で点火。先行する三機の光跡を追って、闇の中へと加速した。

 

 

 

 

 

 

 ――戦いは終わった。暗黒の宇宙には、残骸となった無数の鉄屑と爆炎の名残だけが漂っている。ブラッドハウンド隊の機体は、ゆっくりと合流し、母艦へと帰還の途についていた。

 

 このルナツー近海での戦いの勝利によって、コンスコン艦隊という有力な遊撃戦力を排除した連邦軍は、航路を確立した輸送艦隊が次々とルナツーへ入港を果たしたことで、ついに宇宙での大規模反攻に必要な物資と戦力を整えることに成功したのである。

 

 

 後日、戦史編纂官を驚愕させたのは、彼らが残した公式記録であった。

 

【戦果:巡洋艦級 4隻、MS 12機】

 

(※コンスコン艦隊の壊滅に寄与した主力艦隊の戦果を除く、第104独立機動小隊のみの記録)

 

 

 MS小隊がわずか一回の出撃で一個艦隊を機能不全に追い込み、これほどのスコアを叩き出した記録は、当時の連邦軍にはまだ前例がなかった。あまりに常軌を逸したその数字は、当初「戦意高揚のためのプロパガンダ」ではないかと疑われたほどであった。

 

 しかし、ジオンの生存者たちの証言がその正当性を裏付けた。彼らは一様に、恐怖に声を震わせながらこう語った。暗黒の宇宙を断ち切り、自分たちの戦艦を一瞬で灰に変えた、あの蒼白く輝く噴射光の群れについて。

 

 いつしか、戦場の闇を裂くその四つの光跡は、ジオンの将兵の間で畏怖を込めてこう呼ばれるようになる。

 

 

 ――『ルナツーの蒼い残光』。

 

 

 地球でのオデッサ作戦を間近に控え、戦局が劇的に動き出そうとするその前夜。一人の若き士官と、彼を信じる三人の部下たちが成し遂げた伝説の幕が、今、上がったばかりであった。

 

 

 

 




(・ω・)<あのモビルスーツは、これまでの敵とは「格」が違う!(一撃で撃墜しながら)

※補遺
ちょっと本職の作業で次回の更新が遅れそうなので、匿名投稿解除しました。
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