順次、修正予定です。
ムフフな山小屋シーンから始まる、第12話をどうぞ!
1.最強の
合宿最終日前夜。
奥多摩の山々は、予報にない記録的なゲリラ豪雨に見舞われていた。
滝のような雨が視界を奪い、木々が悲鳴を上げる中、宿舎のロビーには重苦しい空気が漂っていた。
「一輝君とステラさんが戻ってこない……!?」
東堂刀華が青ざめた顔で立ち上がる。
夕方の自主トレに出た二人が、この嵐で帰れなくなっているのだ。
「私が探しに行きます! 二次災害の危険はありますが、見捨てるわけには……」
「──お待ちください、会長殿」
出撃しようとする刀華の肩を、黒鉄剣心が静かに制止した。
彼は片手にコーヒーカップを持ち、窓の外の闇を平然と見つめている。
「剣心君!? 呑気にお茶を飲んでいる場合じゃありません!」
「いえ。……私の《
剣心は嘘をついた。
正確には、第一位相《八咫烏》で数キロ先の山小屋に避難している二人を感知していた。
そして、そこにある「空気」が、他者が介入すべきでないほど張り詰めていることも。
(……濡れた服を乾かすために肌を合わせ、互いの傷を晒し、魂を確認し合う……か)
剣心の脳内モニターには、山小屋の熱源反応が赤く明滅している。
これ以上詳細を覗くのは
「二人は山小屋に避難しています。命に別状はありません。……むしろ、今迎えに行けば、一生恨まれるような『重要な儀式』の最中かと」
「儀式……? 魔術的な何かですか?」
「ええ、まあ。……愛という名の、極めて複雑で原始的な魔術です」
剣心はニヤリと笑い、出口の前に立ち塞がった。
「ここは私に免じて、朝まで待ちませんか。……もし土砂崩れなどが起きれば、私の《八鏡》と《八咫鏡》で山ごと守りますので」
Sランクの怪物が、玄関で仁王立ちする。
それは、世界で最も贅沢で、強固な「
2.朝霧の帰還と、継承された一歩
翌朝。
嵐は嘘のように去り、眩しい朝日が差し込んでいた。
宿舎の前に、少し気まずそうで、しかしどこか吹っ切れた顔をした一輝とステラが戻ってきた。
「……心配かけて、すいませんでした」
「わ、私たち、その……雨宿りしてただけで、別にやましいことは何も……!」
顔を真っ赤にして弁解するステラと、照れくさそうに頬をかく一輝。
だが、その魔力の質が変わっていた。
迷いが消え、二つの魂がより強固に結びついている。
「ふふ、野暮なことは聞きませんよ」
剣心は腕を組み、二人を出迎えた。
「ですが一輝殿。……どうやら『愛』だけでなく、もっと危険なものも持ち帰ったようですね」
「……分かるかい、剣心君」
一輝の目が、剣士のそれに戻る。
「少しだけ、手合わせ願えますか。……確かめたいんです。あの人から盗んだ『一歩』を」
3.白銀の
宿舎裏の広場。
合宿最後の総仕上げとして、一輝と剣心の模擬戦が行われることになった。
「行くよ……ッ!」
一輝が踏み込む。
《一刀修羅》は使わない。基礎スペックのみの突進。
剣心の《八鏡》は、当然その動きを予測していた。
(右足の踏み込み。筋肉の収縮率。……来るのは正中線への突き)
剣心は最小限の動きで《天照》を合わせ、迎撃しようとする。
これまでのデータ通りなら、これで防げるはずだ。
だが。
フッ……
一輝の足運びが、不自然に変化した。
リズムが狂う。
剣心の「予測」と、実際の「動き」の間に、コンマ数秒のズレが生じる。
(──ッ!?)
一輝の姿が、剣心の認識から「消えた」。
視覚には映っている。音も聞こえる。
なのに、脳が彼を「脅威」として認識しない。
剣心が剣を振るおうとした瞬間には、すでに一輝は剣心の懐に入り込み、寸止めの一撃を放っていた。
「……ッ!?」
剣心は反射的に《八咫鏡》を展開しそうになり、ギリギリで踏みとどまった。
一輝の剣が、剣心の喉元でピタリと止まる。
「……これが、彼女の……」
剣心は冷や汗を拭う。
速くなったわけではない。強くなったわけでもない。
ただ、一輝の
まるで、あの森で出会った「彼女」のように。
「……まだ、全然だね」
一輝は苦笑しながら構えを解いた。
「イメージはあっても、身体がついてこない。……あの人の『歩法』は、人間の反射神経の死角を突く。それを再現するには、僕の筋力制御じゃまだ荒すぎるんだ」
「……あの人から、盗んだのですね」
剣心は複雑な思いで一輝を見る。
《比翼》のエーデルワイス。
彼女の剣技を、一輝は一度戦っただけで身体に焼き付け、自分のものにしようとしている。
それは未完成であり、まだ実戦で使えるレベルではない。
だが、その「可能性の種」を持っているというだけで、剣心の胸は焼けるように熱くなった。
「……嫉妬しますね」
「え?」
「いえ。……素晴らしいです、一輝殿。その技があれば、七星剣武祭でも十分に戦える」
剣心は複雑な感情を飲み込み、ライバルを称賛した。
だが、同時に火がついた。
貴方が彼女の「技」を継ぐなら、私は彼女の「格」に並んでみせる、と。
「その技が完成するまで、私が何度でも相手になりましょう。……その代わり、私にも『彼女』のことを詳しく教えてもらいますよ?」
「え、あ、うん。いいけど……剣心君、目が怖いよ?」
4.浪速の星、襲来
合宿を終え、破軍学園への帰路についた一行。
東京駅の新幹線ホームに到着した時だった。
「おーい! お疲れさんやな、破軍の連中はん!」
人混みをかき分け、ド派手な柄シャツにサングラス、そしてジャージという奇抜な格好の大柄な男が近づいてきた。
その声のデカさに、周囲の乗客が驚いて道を空ける。
屈託のない笑顔。だが、その全身から放たれる覇気は、周囲の空気をビリビリと震わせている。
「……諸星、さん?」
一輝が驚きの声を上げる。
昨年の七星剣王。海竜学園三年、諸星雄大。
気さくな笑顔。だが、その背後には歴戦の猛者だけが持つ、分厚いオーラが揺らめいている。
「いやぁ、今年の破軍は面白い面子が揃ったっちゅう噂を聞いてな。居ても立ってもいられへんくて、偵察に来てもうたんや」
諸星は豪快に笑い、刀華に「よぉ東堂、相変わらず堅苦しい顔しとんなぁ!」と絡み、一輝の肩をバシバシ叩く。
そして──剣心の前で、ピタリと足を止めた。
サングラスをずらし、鋭い瞳が剣心を射抜く。
「……へぇ。
「……はじめまして、七星剣王。黒鉄剣心です」
剣心は慇懃に一礼する。
だが、諸星は笑わない。
野生の猛獣が、縄張りに侵入した別の捕食者を見るような目つき。
「丁寧やなぁ。……せやけど、隠さんでええで? 自分の身体から溢れとる『理不尽』な魔力……隠しきれとらんで」
諸星は顔を近づけ、小声で囁く。
「ええもんもっとるわ。……一輝やステラちゃんも脅威やけど、自分は『別格』やな。……まるで、人間やめて神様にでも喧嘩売っとるような顔しとる」
剣心は眉をひそめる。
一目見ただけで、剣心の中にある「天照」の本質──あるいはエーデルワイスへの執着──を見抜いたのか。
「……買いかぶりですよ」
諸星はニヤリと笑い、剣心の肩を、骨が軋むほどの力で鷲掴みにした。
「謙遜はいらん。……本戦で会えるんを楽しみにしとるわ。悪いけど、俺の
一瞬、駅の構内に虎の咆哮が響いた気がした。
幻聴ではない。諸星の圧倒的な「我」が生み出した、魂の
「ほなな! みんな、怪我せんようにな!」
言うだけ言って、諸星は嵐のように去っていった。
残された破軍のメンバーは、しばらくその余韻に圧倒されていた。
「……すごい人だね」
「ええ。……間違いなく、最強の一角です」
剣心は肩の埃を払う。
一輝、ステラ、東堂刀華。
そして、絶対王者・諸星雄大。
さらには、まだ見ぬ「暁学園」の刺客たち。
「面白くなってきましたね」
剣心は《八鏡》の未来予測を閉じた。
この先に待つ未来は、計算など及ばない。
だからこそ、血が滾る。
(待っていろ、世界。……そして、いつか必ず貴女のもとへ)
剣心は空を見上げる。
夏が終わり、熱い秋──七星剣武祭の幕開けが迫っていた。
(続く)
次回 開幕、七星剣武祭
ついに始まる夢の舞台。
Sランクの力、全開! 剣心、初の「公式戦秒殺ショー」が開演する!