世界の真理を解き明かした天才──に、憑依した地球人   作:刹那木ヤクモ

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天才、《アスト・グラトナレジ》に贈る後書き

 

「──は」

 

白い天井が目に入る。どれほど意識を失っていたのか定かではないが、それよりまずやるべき事がある。血が飛び散り、派手な意匠も朱に染まったコートや、用をなさなくなった紙束。それを尻目に地獄の門を開く。

 

『管理者ナンバー1、《アスト・グラトナレジ》を確認しました。ようこそ、ようこそ。《星堕ちる夜に明ける夢》は、あなたを──』

 

遮るように、言の葉を紡ぐ。

 

「《そして私は、神殺しを証明する》」

 

数秒の静寂の後、機械音声が再び鳴り響く。

 

『──《天才》アスト・グラトナレジの殉死を確認しましたアスト・グラトナレジの肉体含めた全権を《解明者》に移行し、《星墜とし》の開始を通達します。繰り返します。《星落ちる夜に明ける夢》はこれより、星墜としを開始します──』

 

先ほど、全身から血を噴き出すほど流された情報の波によってこの世界、そして私の使命については理解した。そのためのアクション。そして、ここにもう用はない。繰り返し続ける声をそのままに退室する。

 

「で、だ。次にやることは──」

 

腕を振ることで目の前の空間に半透明の板──《運命の窓》を展開する。この世界のすべての人間に与えられる、究極の自己分析システムとでも言ったところか。自身の状態に加え、《魔術理論》の表示や《運命補助》の選択など。ざっくり、自分のスキルや技を確認、使えるようにするステータス画面のようなものである。自身の身体も三人称視点で見ることができる。もちろん、燃えるような赤色の瞳も。鏡もないので分からなかったが、思ったよりは顔立ちが整っている。やっぱ面の良さと頭の良さは比例するのか⋯⋯。

 

閑話休題。運命の窓を操作し、魔術理論から《星墜(せいつい)理論》のページを開く。そこには《閲覧》という文字があり、そこに指で軽く触れる──と言っても直接的な手触りはない──

 

「ぐっ⋯⋯」

 

と、先の超常体験にも似た、情報の海が押し寄せてくる。あれほどの負荷はかからず、されどダメージを残しながら脳に入っていく。

 

『これは要約に過ぎません』

 

『アスト・グラトナレジ、《いずれ、星を墜とす天才》。彼の知的好奇心はありとあらゆる方向へ向かい、そしてそれらはひとつに集約していきました。神殺し。不条理にも運命という枷を人間に与え、それに刃向かうものの《魂》を崩壊させてきた、創造主にして心なき怪物、《創造神■■■■■》。それを討ち倒し、人々に自由をもたらすという、その一つの方向へ』

 

『命あるものは、すべて死を迎える。その当然にして必然の理論をもとに、天才は数々の試練を超えました。数々の布石を打ち、またときに失敗し、幾度もの苦難を味わいました。けれど彼は、折れることなく、神殺しの巡礼を続けました』

 

『しかし、年老いることも忘れた彼は、投獄されました。誰に? それは、解放しようとしていた人々に。神殺しなど不可能、反感を買えばみな死ぬ。彼にとっては当たり前の価値観は、他の人間にとっては異常性のそのものだったのです。そうして彼は辺境の都市《アロンダイト》で永遠に閉じ込められたのです』

 

天才、アスト・グラトナレジはかくして今に至る。次いで、《継承》に触れる。

 

『《与命与墜(よめいよつい)》彼の星墜としの理論はこれにありました。命を与えれば、命ごと存在を墜とせる。そうして生命の創造と破壊に全霊を注いだ彼は、断片的にかの神の成した業の再現に至りました。《神と人は同源にして、同質》、彼の探求はその証明の一歩となりました』

 

『彼は、神殺しの組織、《星堕ちる夜に明ける夢》を創設しました。彼自身を管理者1号とし、構成員は各地の《聖剣》の担い手。しかし自分たちだけでは神殺しには届かない。より強く、より不確定で、より鋭利な人物を探す──そうして、異世界からの《解明者》が訪れるのを待ちました』

 

エピローグは、これで終わり。次は、私の番。

 

「宣誓する。

 

()()した。天才の原初、天才の旅路、天才の結末を。

 

()()した。天才の理論、天才の技能、天才の重責を。

 

()()しなければならない。天才が届かなかった、待ち望んだ日まで。

 

そして、その契約が()()のもとに結ばれた。

 

ならば応えよう。かつて《人類の裏切り者》だった男は、そのために生きると! 」

 

これは──神殺しの証明。エピローグを迎えた世界を足掻いた者たちへの、ささやかな後書きである。

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