柘榴の火   作:yuruyuru

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新しいキーボードを得てテンションが高い作者(書いているものには何も関係が無いです)


第10話

 こつり。真夜中の静かな学園で図書館島から教員寮に繋がる石畳を歩く秋人の足下が鳴る。

 

 今夜も今夜で図書館島で遅くまで魔法陣の研究をしていた秋人は帰路を歩いていた。誰も居ない静かな学園はいつも通りだが、いつもと違うのは耳を刺すような静寂が深く在ること。

 

 普段なら聞こえる音すら無い。まるで遮られているような。

 

 違和感の原因に気づく前に秋人の背後に人影が影から手を伸ばした。

 

 その手が伸びる前に秋人の姿は夜に溶ける。手を伸ばした人影は飛び退き元居た場所から離れ、背中側で秋人とぶつかった。

 

「何かと思えば学生か?」

 

 人影が後ろへ振り抜いた拳は空を切り、軽く後ろへ飛んで避けた秋人は手元に淡い光を浮かべた。

 

 浮かび上がる中等部の女子学生服。

 

「人払いまで敷いて何の用かな」

 

 普段学生に語りかける声色を使うが返事はなく敵意を持った拳と足が振りかぶられる。

 

 緑の髪に中等部にしては出来上がっている身体。気による強化も魔力による強化も無いがそれ以上に動く戦闘能力。人形、にしては人に近い。

 

 学生に手を上げる気にならず中空に逃げて屋根の上に足を付けるも木や建物を伝って女子学生が追いかけてくる。

 

 何故執拗に狙われているのか、魔法先生であることはともかくそれ以上にバレているのか。

 

 学園の中空を駆けつつ背後を振り返れば最短距離を詰めてくる学生。

 

 人払いの結界に果てが見えない。女子学生を中心に敷かれているのか、綿密に計画されていたのか。

 

 学生寮まで行くことはできない。人払いを敷かれていたとしても眠っている学生たちにまで効くのか、効いたとして勉学に励む真面目な学生を起こしたくない。

 

 追ってくる学生の足を捉えるか。下手したら屋根から落ちる、加減を間違えれば足を痛める。

 

 舌打ちが漏れる。

 

 完全な人形なら厄介だが、本物の学生として「過ごしている」なら通用するかもしれない手がある。

 

 高等部校舎前の広間でスピードを上げて少しだけ距離を空けて地面に降りる。すぐに追いかけてくる学生へ向けて片手を向ける。何をする気もない。ただ敵意を。

 

〈止まれ〉

 

 僅かな灯りの中、秋人の柘榴色の瞳が燃えるように揺れて淡く光る。

 

 追いかけて来ていた女学生は足を止め、怯えるように足を引く。

 

「はあ、まったく何なんだ。中等部と関わりは無いってのに。アイツ呼び出すか」

 

 視線を追って来た学生に向けたまま携帯を取り出し秋人は友へ電話をかける。一度短な呼び出しののちに繋がらない音声が流れたがすぐにもう一度掛け直す。

 

『……何時だと思ってるんだい?』

 

「中等部学生に人払いを敷かれて襲われた。高等部校舎前に人払いが敷かれたまま居るから――あ」

 

 電話をしている間に学生は地面を蹴って夜闇の中へと消えていった。

 

「ちっ、逃げられた。流石に純粋な生物じゃないと効きが悪いな」

 

『外見とか覚えてる?』

 

「緑の長髪、中等部にしては身長が高くてこっちの動きについてくる程度に動けるが……思えば魔法は最初の転移以外使ってこなかったな」

 

『そうか、とりあえずそちらに行こう』

 

「一番近くの喫煙所に合流しよう。っとに、何なんだ」

 

 舌を打つ秋人の周りに敷かれていた人払いの結界は解かれていた。

 

 苛立つままに大股で喫煙所に向かう。

 

 襲われた瞬間、確実に感知できる外から転移の魔法で背後を取られた。それだけ高度な魔法を使える割に攻撃方法は腕や足を使った近接行動だけだった。魔法使いとは思えない、魔法剣士でも無いだろう。

 

 何の目的で、何故自分が襲われるのか。

 

 先に喫煙所に着いた秋人は高畑を待つことなく煙草に火を点けた。

 

「こんばんは……」

 

「おい、不機嫌になりたいのは俺だ」

 

「夜中に電話で起こされた僕もそれなりだよ」

 

「今度お前が寝ているところに転移で向かって攻撃仕掛けてやるから覚えとけよ」

 

「とりあえず一本もらえるかい」

 

 不愛想に差し出された煙草を箱ごと受け取り一本を取り出して火を点ける。ふたり分の紫煙が昇り、換気扇へと吸われる。

 

「俺を襲った学生に覚えがあるのか?」

 

「まあね、どちらかというとその後ろに居そうな学生を知ってるから僕から聞いてみるよ」

 

「……事情を知っているのか学園長が話したのか知らないがいい加減にしろと、言っておいてくれ。襲われてるのに無傷で帰すのも大変なんだ」

 

「とりあえず事情を聞かせて欲しい。そしたらもう寝よう。明日が休みでも眠いのは眠いんだ」

 

「俺が眠くないとでも? 襲われて目が覚めただけだ」

 

 図書館島でいつもの研究から戻った後から喫煙所に至るまでを説明するといつもより目の開いていない高畑は「また明日」と喫煙所を後にした。

 

 二本目の煙草に火を点けて秋人は高等部校舎の方向を見た。

 

 受験の時期になろうとも夜更かしはさせない校則があり高等部の明かりは教務室を含めすべて落ちている。

 

 正体がバレればこういう厄介が増えることは分かっていた。

 

「本当に人は厄介だな」

 

 ただそれでも親しい者を裏切る選択肢は浮かばなかった。

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