「貴様が悪い」
開口一番の言葉に秋人は思わず小さな犯人の隣に立つ高畑を見た。
昨日、夜中に秋人を襲撃した犯人が分かったと休みに呼び出された秋人。空き教室で待っていたのは高畑と長い金髪の少女。中等部の「特殊な」学生、エヴァンジェリン。彼女が襲撃を計画し実行したから話を聞こうと言われ来た場所で最初に聞いた言葉が先ほどの言葉。
睨んで放たれた言葉であり対象が間違っていることは有り得ないだろう。
だが襲われた被害者は秋人であり目の前の少女を秋人は学園で見たことがない。
助けを求める視線で見られる高畑もまた困惑したように秋人を見返す。
「ちなみに秋人くんはエヴァくんのことは知ってる?」
「知ってる。見かけることもないように動いては居たけどな」
「何故貴様のような存在が、いつから」
「この身体が中等部のころから学園に居た。……俺のような存在ってことは学園長が事情を話したひとりか。よりにもよって」
「貴様が――」
「ふたりともいい加減にしてくれないか。エヴァくんは何故秋人くんを襲わせたのかを話して、秋人くんは煽るようなことを言わない」
「……悪かった。予想外の事で八つ当たりした」
素直に謝る秋人を睨む力は弱まるどころがより強い敵意を持って向けられる。高畑に言われても収まらない。
「俺に非があるなら謝る」
秋人の態度にエヴァンジェリンは片手を振りかぶるもその手に集まる魔力は小さく弱い。
魔法を知り扱える、魔法世界においても稀有な存在。その一点において秋人と似た存在だ。
「お前に何をした覚えも無いんだが、何でこんな恨まれるんだ」
「何かしたんじゃないかい?」
「してないって言ってるだろ」
「何故、人と異なる存在でありながら人に混ざる」
片手に弱い魔力を込めたまま投げられた問いに秋人は笑い返す。
「人を尊敬してるから」
当たり前に告げられた言葉にエヴァンジェリンの片手に溜まっていた魔力は霧散する。
「俺は元々人を下に見ることも上に見ることもしてない」
「『王』でありながらか?」
嘲り視線を逸らされても秋人の表情は変わらない。
「勝手に付けられた呼称や肩書きは俺に関係ない。利用はしても生き方や考え方を俺以外に委ねるつもりはない」
「貴様がそんなことを口にするのか……!」
「……なあタカミチ。多分これ恨まれてるのホントに俺関係ないやつだぞ」
噛み付かんばかりに威嚇する少女と相対する飄々とした態度。
相性が悪いのか出会う前から壁が大きすぎるのか。どちらにしてもこの状態のまま放置をすると同じことが起こる。
「俺を恨むなら勝手にして良いが、学生を俺に仕向けることと他の学生を巻き込みかねないことだけ止めてくれ」
「そういえば、茶々丸くんを無傷で退けたと言っていたけどどうやったんだい?」
「あー。半分機械みたいかと思ってな。何をしても敵わないと『理解』出来る上で、自意識があるなら『死にたくない』と思うように強い敵意と魔力を向けた。あれで逃げられたのは正直驚いたが恐怖は残してしまっただろうな」
「ふん、茶々丸に勝てずそうしただけだろう」
「そうだな。学生に手を上げることはできない立場だから間違いない」
嘲りから再び威嚇の姿勢に戻る。
間違いなく相性は悪いが今回非があるのはエヴァンジェリンだ。真っ向から話を聞くでもなく夜に不意をついて秋人を襲ったのは事実。
事実の中にひとつ不可解は残る。
「エヴァくんは今の状態で転移魔法なんて使えないはずだけど」
「学園長が許可を出したんだろ」
高畑の疑問に答えたのは秋人だった。
「あの人は俺の実力を知りたがってる。俺のことをエヴァンジェリンに話し不意打ちの許可を出したのは学園長だ」
「襲わせるようなことする?」
「そこまでさせるつもりはなかったかもしれないが……。いや、ここから先は憶測だ。話したくねえ」
犯人が分かって釘を刺せたならもう良い。背を向けた秋人にエヴァンジェリンが飛びかかる。止めようとした高畑の手はわずかに届かない。
その小さな手が体に届く前に彼の体は影となり地面を滑りエヴァンジェリンの背後で再び人の姿を取ると首根を掴み、勢いを削いでからゆっくりと地面へ降ろす。
「俺は人の姿を取り本来より弱い力しか持たないと言った」
即座に距離を取り秋人を睨み上げるエヴァンジェリンに映る柘榴色の瞳。
「そして、お前たちの言う『英雄』も『人』だった認識だ」
退け、と短く言葉を発した秋人の冷たい視線と変わりそうにない歩む先にエヴァンジェリンは道を譲る。
「お前に、何が分かる……!」
憎しみを込めて発された少女の言葉は振り返ることなく歩む人に届かなかった。