柘榴の火   作:yuruyuru

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第14話

 差し込む朝日の鋭さに高畑は重い体を持ち上げた。軽く白い掛布が肌を滑り落ちる。僅かに揺れるカーテン越しに温かい陽射しが揺れる。

 

 昨夜、夜間警備を終えた後のことを思い出し辺りを見回した。個人の色があまり感じられないシンプルな部屋。目覚めた高畑の他には誰も居ない。眠っていた真白なベッドの下から何かがするりと頭を覗かせた。警戒を他所に長い体をくねらせ淡い光を放つそれは咥えていた紙をベッドの端に置くとベッドから降りて部屋に唯一の椅子へ体を絡めて引いた。

 

 魔法で作られた蛇は、かつて共に魔法世界へ行った時に秋人が手慰みに作っていた魔法によく似ている。

 

 蛇が届けた紙を開くと文字がつづられている。

 

 ――

 俺は仕事に行く。飯は食いたければ食え。

 自分の部屋に戻りたいならその場に居る蛇へ伝えれば片道だけの転移魔法で送ろう。

 

 お前が破った服は近々弁償しろ。

 ――

 

 蛇が引いた椅子の先にあるのはどこにしまっていたのか、焼いた食パンに目玉焼き、小皿にサラダと空のコップが用意されている。

 

 どこか呆けた頭のまま用意された朝食を食べ、蛇に声をかけた高畑は「何事も無かった」ように学園の日常へ戻された。

 

 

 その日の夜。仕事を終えた高畑は教員寮の一部屋に明かりが灯り、周りに誰も居ないことを確認してインターホンを押した。

 

 部屋の中から慌てて駆け寄る音が聞こえ、人の確認もなく扉が開く。

 

 見慣れた柘榴色が高畑を捕らえ低く「帰れ」とだけ伝えて扉が閉まる。わずかに残された隙間へ反射的に足をねじ込めば鈍い音で扉が止まる。

 

「話くらいさせてくれないかな」

 

「今日はするつもりがない。足を退けろ」

 

「今日話さないと君は無かったことにするし人目もあるから入らせてもらうよ」

 

 お邪魔します。優しく礼儀を感じさせる声で半端に開いたままの扉を押し切った高畑はその先に居た秋人も一歩退かせて後ろ手に扉を閉めた。

 

 盛大な舌打ちと共に距離を取った秋人は目を細めて敵意を露わにする。

 

 普段緩めている胸元は一番上までボタンが留められ覗く首には湿布が貼られている。心配を胸に手を伸ばせば彼は強く手を払い落とす。

 

「弁償に来たなら金を置いて帰れ」

 

「つれないな。昨日のようなことはしないと誓うから、話をさせて欲しい」

 

 伸ばされた手の分改めて距離を取る。柘榴の瞳に宿っているのは忌避だけではなさそうだ。高畑は軽く両手を上げて無抵抗を示すが睨む視線は変わらない。

 

「まず謝らせて欲しい。あんなことをするためにここへ来るつもりはなかったんだ」

 

「……学生から何度も襲われる俺より苛立ってたな」

 

「それは――ごめん」

 

「……はあ。とりあえず座れ」

 

 椅子はひとつしかない。秋人へ座るように促すが秋人はひとつしかない椅子の向かい側へ手を向けた。キッチンの方向から淡い光を纏った蛇が這い出ると指示された場所で形を変え椅子となった。淡く光る椅子へ勢いよく腰かけてから秋人は湿布で隠れた首元を押さえた。

 

「座れと言っただろ、話す気がねえなら帰れ」

 

「今朝は色々ありがとう、朝食美味しかったよ」

 

「誰かさんが苛立ちに任せたやらかしの後片付けもしなかったからな」

 

「僕が苛立った理由、君は理解しているかい?」

 

「……」

 

「覚えがあるようでちょっと安心したよ」

 

 これまでにないほど眉間に深く皺を寄せた姿に高畑は柔らかく笑って見せる。

 

 昨夜何があったか互いによく知っているはずだが目の前に見える「余裕」に苛立ちが募る。ひとつのため息で苛立ちを逃がす。

 

「覚えがあることと、理解できるかは別だ」

 

「構わないよ。意識してくれるだけ、僕にとっては進歩だから」

 

 椅子から立ち上がり手を伸ばせば変わらず、音を立てるほどの勢いで叩き落とされる。

 

「服は次の休みに買いに行こう」

 

「お前な――」

 

「送迎もするし他に入用な物があれば合わせて買いに行こう。もちろん僕が買うよ」

 

「……金持ちめ」

 

 否定しようとした言葉が諦めと肯定に代わり、高畑は「じゃあまたお休みにね」と柔らかく声をかけて部屋を後にした。

 

 高畑が出て行った後に鍵を閉め、秋人は扉にもたれかかり深くため息を吐いた。

 

 体のあちこちから滲み出すような痛みが熱を生む。

 

 今朝起き上がり傷の手当てを終えた時には秋人の身体は内側からの熱に苛まれていた。仕事による疲労で熱は喉で感じられるほどに広がった。

 

 椅子に姿を変えていた蛇が扉の冷たさに感じ入る秋人の視界の先、玄関先の地面からとぐろを巻き柘榴の色を見上げる。

 

「……消えてろ」

 

 冷ややかな声を向けられ、蛇は地面に溶けだすように消える。

 

 何とか振り返った秋人は扉を背にずるずると体を落とすと熱を持った自分の身体を抱え込み目を閉じた。




個人的な好みでそう簡単に良い結果を寄越してやれなくてごめんね……。
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