柘榴の火   作:yuruyuru

17 / 17
第17話

 脇腹を押さえて蹲る高畑は目に涙を溜めながら視線を上げる。

 

 つい先ほどまで決死の魔法を際限なく打ち込んだ秋人は息を切らすことなく煙草を咥えて戦闘の痕跡掃除に勤しんでいる。焦げた地面と破壊された机と椅子の掃除だ。机と椅子は学園の備品ではなく秋人が持ち込んだものらしく「服のついでに買ってくれ」と先ほど勝敗を決した後に言われた。返事をするほど余裕がなく勝手に許可をしたことにされている。

 

 ようやく痛みが引いて視線を上げると正面に秋人が胡坐をかいて座っていた。

 

「俺がお前に勝てることは学園に黙っておいてくれると嬉しいな」

 

「言わないし言えないよ……」

 

「はは。久しぶりに少し本気を出せて気が晴れた。気になってた俺の力を見た感想は?」

 

 立ち上がり差し出された腕を掴めば強い力で引き上げられ痛みの引いた脇腹が再び痛んだ。対する秋人は楽しそうに笑う。

 

「思った以上だった……。夜間警備は随分加減していたんだね」

 

 秋人の手元から杖が消え、足下に光の蛇が出現すると蛇は再び部屋の入口を見張りに戻っていった。秋人が両手を振れば障壁で殺しきれなかった衝撃に散った本たちが棚へ戻っていく。

 

 全力で戦っても息すら乱さず広大な部屋に魔法をかけるほどの余力がある。魔力切れは狙わないように事前に言われていたがこれほど。

 

 準備をして戦ったとしても勝てる人間は稀ではないか。

 

「一般の魔法使いより強い程度に見せられていただろ? 観察にずいぶん時間かけたんだ」

 

 椅子が無くなったから休憩出来ない、と舌打ちをする秋人は煙草を投げ捨てた。煙草は空へ上がった瞬間、空間に溶け消える。

 

「お前が知りたいと言った俺は誰かひとりに良いようにされるのが嫌いなんだ」

 

 いつかの惨状を指していることは思い出さずとも頭に浮かぶ。

 

「……ごめん」

 

「これでおあいこだ。弁償はさせるがな。さてタカミチ」

 

 同じ場所同じ視線の高さで秋人は笑う。

 

「『俺』のことを恐ろしいと思うか?」

 

 高畑の覚えていない過去と、熱に浮かされた秋人を看病した記憶。同じ問いを向けられた。

 

 今を含めた全てに高畑は笑い返す。

 

「『君』を恐ろしいと思ったことはないよ」

 

――

 

 図書館島での激闘から二日。秋人は高畑が運転する車の助手席から外を眺めていた。ふたり一緒に行動していることを見られるとまた面倒になりかねない。だから少し遠くまで運転しろ。ふたりともが休日の時が来て迎えに来た高畑へ彼はそう言い放った。ただの友人でも買い物ぐらい行くだろうと言い返すも「お互いの立場と厄介を考えろ」とだけ返された。

 

 秋人はずっと過ぎ行く景色を眺めている。普段の少しよれた白シャツにテーラードジャケット。だらけている姿勢を見ると気を張っていないことは分かる。

 

「そういえば君は仕事以外であまり外へ出ないね」

 

 声をかければ視線が一瞬寄せられるがすぐに外の景色に戻る。

 

「学園の敷地内で大抵の物が揃う。発散するほどストレスがたまることもないからな」

 

「直近は随分苛立ってたよ」

 

「……」

 

「運転中にちょっかいはかけないでね」

 

 盛大な舌打ちが風に消える。

 

 買い物は既に終え、家具は学園への郵送手配を行い仕事用の白シャツは助手席で景色を見る秋人の足下にある。一着で良いと言い張る秋人を押し切り買い物袋には二枚のシャツが入っている。

 

 何を見ているのか。問えば返事はある。ただの人間観察だ、と。打って返るだけではない何かを求めそうになる。彼は違うのだろうか。

 

 信号待ちになり高畑は自分の考えを青天へ飛ばした。

 

 あんなことがあって今彼は「隣」に「友」として居るだけで充分だ。

 

「お前は俺と『恋仲』になりたいのか?」

 

 考えを飛ばした矢先の問いに動きが止まる。恐る恐る隣を見れば悪戯っぽく笑った秋人が信号を指差した。青。先を促す言葉に学園へ戻る道を再び走らせる。

 

「いい歳だってのにこんな言葉で狼狽えるなよ」

 

「急に言われて狼狽えない人が居るなら教えて欲しいくらいだよ」

 

「俺かな。ふざけるのはさておきどうなんだ」

 

 再びの信号待ちで思案する。

 

 恋愛感情は覚えがないほどに縁が無い。幼い頃ならばあっただろうか。思い返すも出てくる映像は戦争か学園か。そういった想いを寄せられることに疎いわけではない。かつての威光だけで想いを抱かれることもあるほどだ。

 

 高畑が隣を伺えば相変わらず秋人は外を眺めている。

 

 先の質問にどれほどの心を込めているか推しはかることも、高畑には出来ない。

 

 信号が青に変わりゆっくりと前進する。

 

「僕は『君』を知りたかった」

 

 過去形の語りへ秋人は耳を向ける。

 

「多少なり君を知った今は『対等』になりたいね。まずは『強さ』で」

 

 ふ、と助手席から笑い声が漏れ聞こえる。

 

「ははは! あれだけやってやったのに強さで対等なんて言うのか」

 

「負けっぱなしも悔しいじゃないか」

 

「ふ、あはははは! いいよ、不意打ち以外ならいつでも挑戦を受けよう」

 

 対等になれるのが楽しみだ。晴天に視線を上げた秋人はただ楽し気に笑った。




一旦これでステータスは完結にします。
この後はご想像にお任せしつつ、何か書けたらUPします。この二人の物語を書きたい欲は収まってないので。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。