柘榴の火   作:yuruyuru

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会話ばっかり


第4話

 昨夜高畑の部屋で話した内容を聞かされた学園長、近衛は「ふうむ」と身近な言葉で事態を呑み込み自らのヒゲを撫でる。

 

「秋人くんに幾つか質問をさせてもらっても良いかのう?」

 

「どうぞ? 答えられない物もあるだろうが」

 

 学園長にさえ不遜な物言いを止めない秋人を隣から高畑が小突くも「ここで吐くぞ」というとんでもない返事がされるばかり。仲良さげな二人を見て近衛は楽し気に笑う。

 

 本当に魔族の王ならば敬意を払うべきはこちらじゃろう。近衛の言葉に「ほらあ、敬意払えタカミチ」なんて言葉といやらしい笑みすら返ってくる始末。深くため息を吐いて高畑はもう好きにしたらいいと姿勢を直した。

 

「まず、魔族の王であることは証明できるものか」

 

「無理だ。今の俺はあくまで『人』の出来ることしか出来ない。この前の八咫の鏡、あれの本物なら見破れるかもな」

 

「ふむ、なるほどの。では次に、この麻帆良学園の魔法に関わる者や一般の者たちに害意はあるか」

 

「俺自身が襲われない限り無い」

 

「では最後じゃ。今、ここから逃げる策をどれだけ考えておる?」

 

 最後の問いに初めて秋人の言葉が止まる。

 

 今は敵意の無い近衛や魔法使いたちが敵対したらの話か、それとも単に人間に飽きたらという仮定の話か。どれだけ。曖昧な言葉だ。いくつとも、その内容も、程度も、どれも要否が分からない。全て応えることが誠実であり信を得られる手だろう。だが、その中には友に聞かせたくない策もある。

 

 答えられぬか。朗らかな雰囲気のまま寄せられた言葉は柔らかいが、温度は無い。威圧に怯むような性格はしていないが、何が「正解」か分からない。

 

 ただ話すだけならば何の害も無いはずだが、続きの言葉を紡げない。

 

 秋人は近衛へ向けていた視線を隣へ寄せた。

 

「隣、退室させてくれ。一対一なら全て話そう」

 

「うむ、良いじゃろう」

 

 有無を言わさない言葉に高畑は一度秋人に目を寄せるがすぐに近衛へ向き直り軽く会釈をすると学園長室の外へ出た。

 

「高畑くんには聞かせられぬことかの」

 

「あれは俺の友だ。非情な奴だと思われたくない。魔力の繋がりを通じて魔法世界に置いてある本体を使えば学園も人も全て壊してこの身体の回収程度は出来る。だがそれは、俺が人を捨てる道でもある」

 

「『人』であることが、重要なのじゃな」

 

「そのために幼い死者の体を借りてまで人として生きてるんだ」

 

「死者の体を用いる術は傀儡にあたらぬか」

 

「操っているわけじゃない。『秋人』としてこの子供が生きた記憶と意志が残っていた死体に俺が生き返れる余地を作り俺の自我を入れこんだ。説明が難しいが、この身体は死ぬ前まで『秋人』という子供の物だが、死んだ後は確たる意思を持った俺が記憶を継いで……生きていると言い切りたいところだ」

 

 ふむ。自前のヒゲを撫で真剣に話を聞いていた近衛は座ったまま小さく微笑んだ。

 

「魔族の王である真偽はさておき、其方が『人』を重んじておることは理解した。そのうえで、ここからは『交渉』じゃ」

 

 

 その頃、部屋の外に追い出された高畑は学園長室前の窓から外を眺めていた。

 

 秋人ほどではないにしろ若干頭の締め付け感は残っている。

 

 思考を妨げるほどではない頭痛に苛立ちが溜まる。無意識に片手が煙草を入れたポケットへと伸びるが、どうせ吸いに行くなら用事を終えた彼と共に。

 

 今、学園長室で何が話されているのか、高畑には知る術がない。

 

 ――ここから逃げる策をどれだけ考えておる?

 

 頭が良く普段から用意周到な彼は一体どれだけの策を口にするだろうかと思った目の前で高畑は外に出された。自分には聞かせられず学園長に聞かせられる話があるのだろう。

 

 彼は魔族の王だから?

 

 窓から外を見る彼の背後で扉が開いた音にも気づかない。

 

 部屋から出てきた秋人と、外を眺める高畑の重いため息が重なった。

 

「あ? なんだここで待ってたのか」

 

 後ろ手に扉を閉めた秋人はどこか疲弊した表情を浮かべ、軽く片手を振った。

 

「学園長とのお話が終わったなら煙草でもどうかと思ってね」

 

「あー良いな、行こう。俺は切らしてるから一本くれ」

 

「仕方ないな」

 

 喫煙所に向かう道中、二日酔いは大丈夫なのかと問えば「学園長に気圧されて酒が抜けた」と返ってくる。何を話していたかは聞かず吐かずに済みそうで何よりだと笑えば隣から強い平手が高畑の背中を打った。

 

 灰皿を正面に隣り合って座る。疲弊の色を隠さない秋人にライターを手渡せば僅かに触れた暖かな体温が指先に残る。

 

「とりあえず俺はただの魔法を使える教師として居ろとさ。俺たちに鏡を向けた教師は学園長が説得するらしい」

 

「それは、良かったね。条件を出されたのかい?」

 

「……『変わらず夜間警備の参加』は別にどうでもいいんだがな」

 

 ため息とともに吐き出された紫煙が換気口に吸い込まれていく。

 

「俺の魔力制御をお前に渡す方法を考えて一週間以内にそれを実行しろとさ」

 

「……僕? それにそんな方法」

 

「方法は、時間が取れれば俺が何とか出来る。どこまで制御させるか……、全て止められるとこの身体が死にかねない。お前がそれをするかどうかはさておき、な。灰が落ちるぞ?」

 

 長くなった煙草の灰を落とす。

 

「色々、追いつかないんだけど」

 

「次の休日までに追いついてくれ。俺はそれまでに――」

 

「次の君の休日、僕はこっちに居ないんだ」

 

「……『必要なら休日の申請をしろ』ってのはそういうことか。んー、あっちはバレる可能性があるんだよなあ。結局もう一度は話さないとなあ」

 

 短くなった煙草を水の中へと捨て、術式のような何かを呟きながら喫煙室を出ていく秋人の手を思わず高畑は強く掴んだ。

 

「いい加減、僕も蚊帳の中に入れてくれないかな」

 

 捉われた手と高畑をしばらく眺め、秋人は薄く笑った。

 

 途端、ぱちりと静電気のような痛みが高畑の腕に走り反射的に手を放す。直後話された手を掴まれ強く引かれる。バランスを崩して踏み出した足が背の高い灰皿に当たり灰皿が斜めに崩れるが、灰皿は不自然に中空で傾きを止めると不思議な力で元の場所へと戻っていく。

 

 危ないだろ?

 

 倒れかかった高畑の体は暖かな腕に支えられている。

 

「俺はお前と変わらず友で居たいから蚊帳の外に置いてるんだ。分かってくれないか?」

 

「分かりたくないね」

 

 耳元で聞こえた声に反意を込めた言葉を返し、片手を捕らわれたまま姿勢を直した。

 

「僕は君と友のつもりだ。けど一方的に守られて、何も知らないままでいるのは性に合わないし、結構苛立つものだよ」

 

 力を込めても捕らわれた腕は離れないが、高畑の言葉は秋人の笑みを崩す程度の強さを持っていた。

 

 人の言うこと程度。心のうちに湧いた人ならざる考えを打ち消すために一度ゆっくりと瞬きをするように目を閉じた。

 

「人は、本当に頑固で厄介だな」

 

「そういう君も同じだよ」

 

「……そうなのかもしれないな」

 

 ぱ、と手を離した秋人は首を傾げた。

 

「学園を壊すことすらできる力を持ったやつと、本当にこのまま仲良くしたいのか?」

 

「そんな怖い存在は知らないけど。目の前に居る君とはこれからも一緒に煙草を吸ったり飲みに行ったりはしたいかな」

 

「は、上手な言い回しだな。図書館島で俺が借りてる部屋、分かるか?」

 

「ああ、一度連れて行ってもらったね。覚えてるよ」

 

「お前がアチラへ行く日に合わせての休日と手配は俺が申請しておくが、制御機構を作れるまで、業後は図書館島にこもる。暇なときは来てくれないか」

 

「それは、夜中でも?」

 

「お前の体に無理ない程度に。俺は問題ないからな」

 

 じゃあ図書館島で。去り際に強く叩かれ、立ち去ろうとする秋人へ文句を投げればすぐにからからと楽し気な笑い声だけが返った。

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