図書館島のワンフロアに半球状に広がる魔法陣がゆっくりと回る。大規模な魔法を扱うことの無い高畑にとってもこれが緻密に造られていることは理解できる。高畑の隣に並び立つ秋人が片手を振ると大外を囲む魔法陣が百八十度回転し反対側を二人の前に晒す。
小さな声で何かを呟いた秋人は魔法陣の一部に触れる。触れられた魔法陣は内側に小さな円状の魔法陣を追加しゆっくりと回り出す。
「まさかとは思ったけど、魔法を今、作ってるのかい?」
高畑の問いに秋人は一瞬視線を隣へ向けるがすぐに魔法陣へ向き直り、魔法陣へ右手を差し向け指先を上空へと向けた。半球だった魔法陣の塊は小さく球状にまとまると高い天井へ照明のように上がっていった。
「これも内緒な。俺たちは人より魔力や魔法が身近なんだ」
「魔法に関してはそれなりに高度な物と関わってきたつもりだったけど知識不足を思い知るね」
「はは、中でも俺は色々逸脱してるだけさ。お前の知識も強さも、人の中でもそうでない種の中でも指折りだよ。それも天性ではなく努力で成った物だろ。卑下せず誇ればいい」
「うーん、君に言われるとちょっと自信が無くなる」
「詠唱が出来ないからか?」
楽し気な声のまま告げられた真実に高畑の動きが止まり、秋人は先ほどまで魔法陣を広げていた場所へ数歩踏み出し振り返った。
「声を上げれば良いじゃないか、『詠唱を使える多くの魔法使いより強い』ことに文句があるのか、と」
「今はもう僕に正面からそれを言う人は中々居ないよ」
「でもお前が、気にしてる。誰かの言葉を気にしていないというなら何を気にしてる?」
天井を見上げれば精緻で巨大な魔法陣がある。目を閉じれば夜間警備の折に彼が放った強大な魔法を思い出せる。
「君が悪いわけじゃない。……ただ、君を見ていると、どうして自分は出来ないのかと思わされる」
同じように強い詠唱魔法を使えれば。
昔も今も憧れていた「誰かの隣」に建てたのだろうと思わざるを得ない。
後ろではなく隣を歩けば見えた景色も違い、救えたものも多いのかもしれない。
「君には分からないし、君に言われたくない言葉だよ」
漏れ出た言葉を慌てて否定しようと視線を上げると秋人は「そうか」と短い言葉を放ち頷いた。
「それがお前にとってお前の『欠点』か『不足』なのか?」
「今日は随分人の傷をえぐりに来るね。そうだよ、僕にとって一生付き纏う欠点だ」
「俺がその欠点を埋める手段になってやろうか?」
「それは、どういう意味だい?」
「お前は魔法使いにとっての高みに居るにも関わらずその妙な欠点のせいで見えるはずの景色を無視してるように思える。それはあまりにもったいない。お前がその強さを自覚するまでなら、俺が手伝える」
秋人の手元で天井に上げた物とは異なる魔法陣が浮かび、手を握れば消える。
「魔力制御機構を作るにあたってお前の行動を一部制限することになるから、その対価とでも思えばいい。俺では力不足かな?」
数歩先の世界から差し出された暖かな手を、高畑は確かに握った。