「という、わけで……っ」
麻帆良学園、学園長室。高畑に体を支えられてようやく立っている秋人は何とか顔に笑みを作る。高畑に小さな声で謝られる秋人と向かいで座ったままの学園長近衛は状況を飲み込めず首を傾げる。
「俺に、この程度の制御は、かけられるが……コイツの、制御が、下手すぎて、動けない……!」
「だからもう少し調整しようって話したのに」
「これが、限界だ。もう、指輪、外せ!」
間近で怒鳴られ高畑は付けていたシルバーの指輪を外す。
ようやく自分の足だけで立った秋人は長く息を吐き出し、改めて真っすぐに学園長へと向き直る。
魔法世界から麻帆良学園へと戻って一日を待たず秋人は自身の魔力制御を他人、高畑へと渡す手段を指輪に込めた。しかし自室での試運転を何度やっても異常なほど魔力を絞られ立つのもままならないほど。
もともと死者の身体へ魔力で干渉を行うことで生かしているため全ての魔力を制御すると体の動きが止まる。それを避けて制御機構を作ったはずが、全く機能せず高畑が指輪へ魔力を込めると秋人の身体は動かなくなるどころか酷い貧血を起こしたかのようにふらつき、真っすぐ立つことも出来なくなる。
流石にこれは制御を強くし過ぎたと弱めようとしても弱めれば全く機能しなくなる。
というのが今見せた現状の制御機構。元々行動をも抑えられるならそれが良いということだったのだから、問題は無いはず。
秋人の説明を受けてようやく近衛は呆れ笑った。
「そこまでせよとは言ったつもりないんじゃがの」
「俺もここまでするつもりはなかった」
「ともあれご苦労じゃった。条件は達せられておる。これからも魔法先生としてよろしくの、ああそうじゃ。八咫の鏡を模した魔法道具の代金は給料から引いたからの」
「……まあそれで事態が収まるならいい」
「寄付は学園からしておこう」
「……よろしくお願いする」
寄付? 高畑の疑問は二人から答えを得ることは出来ず、秋人は軽く頭を下げると学園長室を後にする。
学園長室を後にしたふたりはどちらからでもなく足を喫煙所へ向ける。相変わらず誰の姿も無い喫煙所で煙草に火を点ける。
「『寄付』は、秋人……俺が幼い頃を過ごしていた孤児院へ送るものだ。特に金を使う理由も無いから酒や飯に使う分以外の給金を送ってた」
「良い意味で言うけど、律儀だね」
「そう思うか? 金で許しを得ようとしてるだけなんだがな」
「良いことだよ」
「……そうか」
「君自身が、何かしたいことはないのかい? 秋人くんという子供が望んだこともだけど」
灰が落ち火が消える。
「記憶に残ってた子供の夢は『先生になること』」
秋人は普段教壇に立つ時と変わらない、少しよれたシャツとスラックスを身につけている。
「俺の望みは魔法使いを含めた『人』の中で生きること。叶うならこのままで居たい」
「ひとつ、ずっと疑問なんだけど。強く立場もある君が、同族と相対してる人に興味を持ったのは何故?」
「……それは、ヒミツだ」
どこまでも「人」らしく。軽く片手を振って喫煙所を出ていった。