真恋姫的一刀転生譚 魏伝   作:minmin

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洛陽政変終了です。
ちなみにいうと、この間詠ちゃんが私って言ってたのはわざとです。
でれると一刀の前でもボクっていいます。


洛陽炎上、董卓暗殺さる

 北郷一刀は思考する。

 たとえ灯りひとつない牢の中であろうと、手足に枷が付いていようと、思考を止めることはない。

 生きてさえいれば、頭がまわりさえすれば、策を練ることはできる。

 

 一瞬たりとも気を抜かないで考え続けなさい。

 あんたみたいな凡人は、それぐらいしないと世の中うまく渡っていけないわよ。

 

 彼女の言葉は、一言一句違わず覚えている。

 顔を少し赤く染めて、そっぽを向いたまま掛けられた言葉だった。

 実際、こうして牢に入れられているのだから、彼女の心配は当たっているのかもしれない。

 もっとも、此処に入っているのは一刀の策の一環であるのだが。

 

 扉が開く音とともに、暗闇に僅かな光が差す。

 続いて足音。音の大きさ、間隔、反響具合から推測して、おそらく成人男性二人。

 歩くたびに、金属同士がぶつかり合う音もする。軽く裾が擦れる音も。

 どうやら一人は文官、もう一人はその護衛の兵といったところか。

 灯りが近づく。予想通り、一般兵が蝋燭を持って先導している。

 その後ろから現れたのは―王允だった。

 

「無様なものだな、荀攸よ。

 せっかく目を掛けてやったというのに、李儒様を排除しようなどと考えおって。

 呂布や張遼のように、おとなしく従っていればよかったものを」

 

 一刀は黙して答えない。目を閉じたまま微動だにしない。

 それを見て、王允はふんと鼻を鳴らした。

 

「可愛げのないやつめ。

 ……まあいい。今日聞きたいことは1つだ。カクはどこにいる?」

 

 一刀は答えない。だが、今度は片方の眉が僅かに動いた。

 

「……ここからは機密だ。お前は持ち場に戻れ」

 

「はっ」

 

 蝋燭を受け皿ごと床に置いて、護衛の兵は去っていった。

 王允のはるか後方で、ゆっくりと扉がしまる。

 そして静寂が訪れた。

 二人とも、一言も発さない。息がつまるような緊張が続く。

 

 そして――先に静寂を破ったのは王允のほうだった。

 

「どうでしたかな、私の演技は。中々楽しめたでしょう?」

 

 くっくっく、と堪えきれない笑いが漏れる。

 これ以上ないほど楽しそうに笑い、にやにやとした目つきでこちらをみる。

 知らない者が見れば、ただの悪戯好きの老人である。

 誰も彼を司徒とは思わないだろう。

 

「中々面白い見世物でしたよ。

 こんな所に囚われていなければ、もっと楽しめたのですが」

 

 一刀もおどけながら枷をつけられた手を軽く掲げてみせる。

 

「それは重畳。司徒の位を降りた後は、旅芸人にでもなりましょうかな。

 なんでも、先の黄巾の乱の首謀者も元は旅芸人であるという噂ですぞ」

 

 王允は陽気に喋りながら手際よく一刀の枷を外してゆく。

「吟遊詩人もいいかもしれませんな。

 華雄将軍の人柄を語り継ぐというのも、悪くない」

 

「そう、ですね。

 彼女の死を、無駄にするわけにはいきません」

 

 王允の屋敷で集まった翌朝、一刀は王允に捕らわれて牢に入った。

 同時にカクは王允が事前に用意した別の屋敷に身を隠す。

 その直後、華雄が汜水関で戦死したという伝令がきた。

 華雄を討ちとった敵将は関羽。

 関羽の挑発が董卓への侮辱に及んだところで華雄が出撃し、一騎打ちとなったらしい。

 その知らせを聞いたとき、一刀は思わず呻いた。

 

 まるで、三国志演義になぞらえたようだ。

 

 勿論、細部は色々と異なっているだろう。

 主な人物が全て女性となっているこの世界では、史実も演義もあまり信用しすぎてはならない。

 だが、どうしても考えてしまうのだ。

 見えない何かに強制されたのではないか、修正されたのではないか、と。

 

「さて、全て外れましたぞ。体調は如何ですかな?」

 

「問題ありません。行きましょう、王允殿」

 

 これから赴くのは、運命との、世界との戦いだ。

 修正力が働いていないというのなら、それでよし。

 働いているというのなら、呂布や張遼の親しい友人である侍女を人質にとっている男、董卓を誅殺する。

 それを、この世界の人々の真実にする。

 その結果は、どうなるのか。

 この試みがうまくいけば、彼女の命も救えるかもしれない。

 

「外に出る前に武器を渡しておきましょう。これをどうぞ」

 

 そういって王允が自分の腰に下げていた剣をこちらに渡す。

 鞘に収まったままでも、かなりの業物であることが見て取れる。

 柄には北斗七星の装飾。

 

「七星宝刀、ですか」

 

「よくご存じで。もっとも、貴方は何でもよく知っていますがな」

 

 思わず苦笑いする。

 このタイミングでこの剣が自分に廻ってくるとは。

 

 心せよ、北郷一刀。ここが1つの分水嶺だ。

 

 深呼吸を一度。全身に血を巡らせ、一刀は歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月を見上げる。

 昔から、月を見ると何故か心が落ち着いた。

 自分の真名と同じ名前の星。

 荀攸によると、月は自らが輝いているのではなく、日輪の光を鏡のように反射しているだけなのだという。

 それは、自分の在り方にそっくりだ。

 天下に対して何をするわけでもなく、ただ仲間の皆に与えられるはずの評価を奪って生きている。

 天を知りて天にあまえ、乱世に戦わずにして乱世にのり、ただ人を顧みて人心を抱え込んだ。

 その結果がこれだ。自分は陛下共々李儒に人質に取られ、皆にまで悪評が及んでいる。

 反董卓連合なるものに攻め込まれ、華雄は戦死したという。

 それらの事実の重さが、自ら命を絶つことさえも許さない。

 本当に、どうしてこんなことになってしまったのだろうか。

 

「すまぬな、董卓よ。

 朕が不甲斐ないばかりに、そなたには辛い思いをさせておる」

 

「陛下……。いえ、そのようなことは」

 

 振り返ると、皇帝、劉協が立っていた。

 いつからそこにいたのだろうか。

 劉協は人の心の動きを感じ取る能力に長けている。言葉は発していなかったが、横顔から思いをいくらか読み取ったのだろう。

 平和な世であれば名君として歴史に名を残したであろう皇帝も、今は李儒の籠の鳥でしかない。

 

「今になって、荀攸の言葉が身に染みておる。

 

 『力なき正義に意味はない。

  そればかりか、ときに災いとなることがある』

 

 朕が兄上の死について、独自に調べようなどとしなければ、そなたが捕らわれることなどなかったろうに」

 

「でも、貂蝉さんが付いてくれていますから。

 今も、どこからか見守ってくれているはずです。

 洛陽に向けて軍が攻め込んできているそうですから、此処にいる方が安全かもしれませんよ」

 

「確かに、敵兵が来てもあの姿を見ればそれだけで逃げ出すやもしれんな。

 ……あやつが李儒をしとめられれば良いのだがな」

 

 劉協の声は苦々し気だ。解ってはいても、言わずにはいられないのだろう。

 

「それは……仕方ありません。

 李儒に手出しはできない、ってはっきり言われちゃいましたから。

 

 『左慈や于吉に唆されたっていっても、李儒はこの外史の人間だからねん。

  私が手出しするわけにはいかないのよん』って。

 

 意味はよくわかりませんでした。

 左慈や于吉っていう人達についても、心配ないって言うだけで……」

 

「もどかしいものだな。自分の無力さが恨めしい。

 ただ時が過ぎ行くのを待つばかり、か」

 

 それは自分も同様だ。2人して顔を伏せる。

 その時、外へ通じる唯一の扉が開いた。

 弾かれるようにそちらを見やる。劉協も同じく振り返っている。

 部屋に入って来たのは、李儒だった。

 少し様子がおかしい。気づいたのは、一呼吸してからだ。

 部屋の入り口に立ったまま動かない。いや、少し震えているのか。

 表情に温度がない。そう気づいたところで。

 こちらへ向けて、棒のように倒れた。

 よく見ると、背中に大きく斜めの傷がある。

 

「お久しぶりです董卓殿。陛下もご一緒でしたか。

 お二人とも、ご無事なようで何よりです」

 

 声とともに李儒の後ろから入ってきたのは、荀攸だった。

 安堵で身体の力が抜け、床に座り込んでしまった。

 

「荀攸か。暫くぶりじゃの。

 今の状況はどうなっておる?」

 

 劉協はさすがに立ち直りが早い。

 李儒に捕らわれている間も、常に皇帝としての気概を持ち続けていた。

 

「李儒は見ての通りです。

 陛下のおわす場所を血で汚してしまいましたが、非常時故ご容赦下さい。

 外では王允殿が、以前から潜り込ませていたこちら側の兵を指揮しています」

 

「これからどう動く?」

 

「この騒ぎに乗じて脱出します

 隠れ家にて文和殿―カクと合流。

 しかる後に、洛陽近くにて待機している呂布将軍の部隊とともに虎牢関へと」

 

 劉協はすぐにうなずいた。

 

「わかった。全てそなたに任せる。先導してくれ」

 

「御意!」

 

 荀攸が扉へと戻る。外の様子を確認し、自分の傍らに跪いた。

 

「立てますか?董卓殿」

 

 そう言いながら手を差し出してくる。

 

「どうにか。ありがとうございます」

 

 荀攸の手を取る。

 離れないように、しっかりと握る。

 とても、温かな手だった。

 

 荀攸の案内で外へと向かう。

 壁や調度品に、所々何かで斬られたような跡があった。

 その跡を辿りながら進むと、大きな廊下へ出た。

 剣戟の音が聞こえてくる。かなり激しい。

 

「王允殿!李儒は討ち取りました!

 陛下、董卓殿、共にご無事です!」

 

 荀攸の発した大声に、敵の動きが鈍る。

 その隙をついて、こちら側が優勢にたった。

 3人で王允へと近寄る。

 

「それは何より。皆様、お怪我もないようで」

 

「ええ。急いで脱出しましょう。

 王允殿もこちらへ」

 

 荀攸の言葉に、王允は首を振った。

 

「私は此処に残りますよ。

 火をかけ、李儒の一派の残党を始末します」

 

「それは……」

 

 荀攸が言葉に詰まる。

 王允は、此処で死ぬ気なのだ。

 

「そんなの、だめです……。

 これ以上、私のせいで誰にも死んでほしくないんです……」

 

 自然と漏れた言葉に、王允は困ったように笑った。

 

「私は悪人に徹さなければ、嘗て部下であった荀攸殿の大義が薄れるのですよ。

 それに、先帝陛下はまだ幼い。

 誰かが御手を引かねば、今頃は道に迷うておられるでしょうからな」

 

「王允殿。貴方は、最初から……」

 

 王允はそれには答えなかった。

 

「さあ、早くお逃げなさい。

 火に巻き込まれてしまいますぞ」

 

 すると、今まで黙していた劉協が口を開いた。

 

「王允よ。

 漢帝国の皇帝として。そして先帝陛下の弟として。

 その忠義に感謝する。

 そなたの三族は、手厚く遇そう」

 

「恐れ多いお言葉です、陛下。

 荀攸殿。皆様を、よろしくお頼みします」

 

「託されました」

 

 別々の方向へと走り出す。

 それが、王允を見た最後になった。

 

 外へ出ると、背後で火の手が上がっていた。

 直に、宮殿中へと回るだろう。

 全てが灰に還る。

 忠臣、王允とともに。

 

 

 

 

 

 荀攸が案内したのは、郊外の小さな屋敷だった。

 聞くと、王允が別荘として使っていたらしい。

 誰にも邪魔をされず、静かに茶を飲むためだけの場所。

 何もかもが質素だが、通された茶室だけは立派だった。

 その茶室の奥に、ずっと会いたかった人がいる。

 その顔を見た瞬間、涙が出た。

 必死に堰き止めていた思いが、堪え切れずに涙とともに零れていく。

 

「私のせいで……。

 私なんかのせいで、皆が、華雄さんが、王允さんが……」

 

 止まらない。止められない。

 陛下の御前で、相国がこんな姿を見せちゃいけないのに。

 そんな自分を、親友は優しく抱きしめてくれた。

 

「それは違うわよ、月。

 月のために。月だからこそ、皆命を懸けたの。

 華雄も、王允殿も。

 勿論、兵の皆もね。

 だから、自分を下卑するようなことは言っちゃだめよ」

 

「詠ちゃん……。詠ちゃん。詠ちゃん!」

 

 ただ泣くことしかできない自分を、詠はずっと抱きしめ続けてくれた。

 

 

 翌日、事は洛陽中に知れ渡った。

 先帝陛下を毒殺し、献帝とその侍女を人質にとり、呂布や張遼を脅して従わせていた暴虐非道の男、董卓暗殺される。

 討ち取った者は、嘗ての上司、王允に投獄されるも、決して己を曲げなかった気骨の士。

 荀攸、字を北郷という。

 

 




いかがでしたでしょうか?
この外史には無印のあれな人達は直接出てきません。
直接干渉できない理由も、一刀君が子どもになってこの世界にきた理由と関係があるので。
3点リーダーとかはそのうち一括修正予定。
感想お待ちしております。
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